同盟上院議事録~あるいは自由惑星同盟構成国民達の戦争~   作:兵部省の小役人

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「我々は法律を制定するという契約を支持者との間に締結することがままある、それゆえに政治と戦争は非常に近い、国家内国家間の武力を伴わない闘争であり、外交における妥協は時に彼我の勢力を強化し、弱体化させる。議会政治家はけして万民から愛されない。だからこそ敵と妥協し、歯を食いしばって握手をし続ける。前線指揮官とは全く異なる意味において戦争の在り方を示した職業である」(タムラ・ヒデ下院議員、政界引退時のインタビューより)


第25話羽を整える

 

 

「リッツ政調会長、よろしいでしょうか」

 エオウィン・イシリアン事務局長とイムラヒル・アムロス同盟弁務官、バリー・バタバー同盟弁務官がリッツ政調会長と対面している

 

 リッツと対面するエオウィンの側に立つのはいずれもパランティア連合国出身の同盟弁務官だ。どちらも熟練の政治家でありエオウィンを凌ぐキャリアを誇っている。

 だがアムロス同盟弁務官は前任者の急死で繰り上がり当選し、選挙の洗礼は受けておらず、支持基盤固めに腐心している。そもそも彼はパランティア地上軍将官の出身である。武勲も人望もあるが構成邦財界の首席であるパランティア連合政界では非主流派だ。(パランティア宇宙軍はケレブラント出身者が大半を占めている)

 バタバー同盟弁務官は議員秘書を長く務め、パランティア・サービス産業協会組織候補として政治家のキャリアを積み上げてきた選挙戦術の達人。労組からの支持も取り付けパランティア議会にも大きな影響力を持つ「地元のドン」だが1年前に入院してから今期限り同盟弁務官からの引退を明言、パランティア政界への復帰が噂されている。

 だがパランティア連合国は交戦星域の盟主である。【縦深】役員にエオウィンが推されたのは彼女がパランティアの企業グループが運営する産業労働研究所で労働経済学と交通経済学に基づいた政策提言を行ってきた実績、要するに事務処理能力と学識、そして行政顧問としての経験を執政ら主流派(パランティア財界)が評価したからだ。

 

「取りまとめの内容だね」

 

「交戦星域首脳会議の危機管理委員会とティアマト・アスターテ復興特別委員会を主導にパランティア連合産労総合研究所ほか、HUORNなどの研究をもとに作られた素案を元に、法案として取りまとめました」

 

「これまでイゼルローン攻略作戦のたびにたたき台を作ってきたが・・‥永遠の【法案の案】として停滞してきやしたからね」

 バタバー弁務官は遠い目をする。彼、否、パランティア連合国は構成邦の中でも上位に入る富裕地域だが構成邦軍の維持や交戦星域への攻撃は彼らの経済圏であり友人たちへの攻撃であった。

「・・‥だが今は違う!今こそ交戦星域から脱却し!この最悪の戦災から復興し!民軍の人的資源を回復させ!サジタリウス腕の国力を回復させる!!この法案を成立させねばならん!!」

 アムロス弁務官は軍部出身らしく勝利を徹底的に活用し、自身の利益を得ることに熱心であった。

 

「戦災復興基本法、星間流通復興法、国家安全保障・調達再編法この3法案か」

 

「はい、原案の詳細はこちらに」

 差し出されたちょっとした専門書のように数百枚の紙が綴じられた3冊のファイル(リパブリックジム製)を見てリッツは眉を上げた。

 

「随分な量だね、もう少しコンパクトに‥‥あぁ電子データでも要領を抑えて欲しいな」

 

 エオウィンはクスクスと笑いながら6枚ほどの紙を綴じたレジュメを3部差し出す。

 

「まずは戦災復興基本法です。これは多少の譲歩はあるにせよ、我々と支持者たちの絶対的な誓約、なにをもってしても通さねばならないでしょう」

 

「ポイントは?」

 

「復興事業の理念を明文化して憲章と結びつけ、義務化します」

 

「『義務化』か踏み込んだね」

 リッツは頷く。ハンソン首相は喝采を挙げるだろう。タロット議長もグラス総裁もだ!本土復帰に対して遅延すれば行政訴訟を行えば最高評議会も手を焼くだろう。

 そう、この混乱した情勢でこの法案を同盟議会両院に提出することは【国の方針を定める】意味では非常に強力だ。

 

「法の条文に『専制者の侵略による未曽有の戦災による被害が甚大であり、かつ、その被災地域が広範にわたり、多数の被災者がその生活基盤を奪われ、被災地域内外での避難生活を余儀なくされていること』を明文化します。そして『単なる復興にとどまらず、持続可能で活力ある構成邦の再生、国民が安心して豊かな生活を営むことができる経済社会の実現に向け、抜本的な対策及び一人一人の人間が災害を乗り越えて豊かな人生を送ることができるようにすることを旨として行われる復興のための施策を、同盟政府と構成邦政府・地方公共団体との適切な役割分担及び相互の連携協力により推進する義務がある』と盛り込みます」

 エオウィンの語り口もわずかに早い、彼女も興奮を押し殺しているのだろう。これは地域主義というよりも一種の【交戦星域】の文化的価値観ともいえるかもしれない。

 【交戦星域】の大半の住民が対帝国に一点で抱くそれと同根だ。

「我々の中で批判を考えるのは難しい、外から意見を入れるべきだろう。【確実に通す】必要がある」

 二つ目のレジュメを手に取り、タイトルを読み上げる。

「次は星間流通復興法か。リヴォフ老が喜びそうだね」

 

「この法案は、星間流通産業振興および、労働者の処遇改善を目的としています。星間流通は多層的に複数の企業が関わっている。そのすべての従事者に適切な賃金の行き渡りによる人材育成の強化、そして人手不足が課題となっている民間流通産業を復興させるため、契約における受発注者の責任を明記し、価格と賃金の安定を制度的に支援するのです」

 

「企業を指導する機関として星間流通基盤支援機構を設立し、構成邦政府による流通政策を支援し、また、退役軍人を積極的に受け入れ、人員の教育と派遣を行う。また、雇用を創出するため各構成邦における宇宙港・造船業・教育機関への補助する星間流通新興基金を創設し地域経済の発展を直接的に支援する予定です。もちろん詳細な運用は情報交通委員会の政令に委ねることになります」

 

「過剰な賃金への介入は自由党に反発されかねないな。運輸は有事の統制こそあるが基本は民間企業で公共機関ではないからね」

 

「はい、ですが労働組合を基盤とする労農党主流派と国民共和党の大半は支持するでしょう。大衆迎合の反戦市民連合も」

 エオウィンの眼に皮肉の色が浮かんだ。

「ですが、価格転嫁が進めば反戦市民連合や国民共和党は掌を返して失政扱いしかねません。同盟全体の経済成長を維持し、インフレーションを制御する必要があります」

 リッツは肩をすくめる。この点の見識では専門研究員であったエオウィンらを信じるしかない。

 

「最後は国家安全保障・調達再編法か…」

 

「この法案のポイントは2点です。同盟軍の指揮系統を最高議長・国防委員長・最高評議会国家安全保障小委員会・統合作戦本部長の位置づけの明確化と同盟軍と構成邦軍・情報機関の関係深化による予算と機能の効率化です」

 エオウィンに代わり、アムロスが説明する。

 

 リッツ政調会長は無言で先を促す

 

「統合作戦本部長は最高議長・国防委員長・国家安全保障小委員会に対する、軍事問題に関する主要な助言者と位置づけることで、全般的な戦略立案に関する統合作戦本部長を明確に軍令の長とします。【統合作戦本部長は、各軍司令長官、およびあらゆる軍部隊に対して作戦指揮を行うことは出来ない】ことになり、最高司令官代理は国防委員長に委譲することになります」

 

「一方で地上軍と宇宙軍を統合した【方面軍】が創設されます。イゼルローン方面とフェザーン方面、中央の三方面を想定しています。方面軍司令官は、同盟政府および構成邦の情報コミュニティなどへ、支援を要請することができます」

 

「対フェザーン戦の想定かね」

 リッツの想定ではフェザーン越しににらみ合う両軍の姿があった。だがしかし、あまりに多くの権益がある・・‥しばらくは腹の探り合いがメインになるだろう。どちらかの国がよほど弱体化するその時までは。

 

「イゼルローン回廊側でも情報戦は想定されます・・‥いずれにせよ、これは次の政権を狙うのであれば賛同しやすくなるという飴であり、先般の騒動の再発防止でもあります」

 エオウィンは手を振って説明を続ける。

「法案としては最重要です。構成邦の承認および国防委員会への報告義務を必要とするが、構成邦軍との共同調達制度を別途定めます。これにより、地上軍、宇宙軍、構成邦軍の方面における恒常的な訓練や円滑な共同調達などを行い、軍需産業における発注の安定化もできます」

 

「なるほどね、予算の合算による発注計画を長期化し、経営を安定させるわけだ。規格の簡略化も進められる」

 

 リッツはペンをクルクルと回し、ため息を吐く。彼の専門分野とエオウィンの専門分野、すなわち労働力の育成から見てもそう悪くはない。

「下院を通せるかだね」

 

「でしょうなぁ」

 バタバー弁務官はピシャリと額を叩く。

「一つの法案なら間違いなく通せるでしょうがこの3本はセットですわ、ビール、餃子、タレみたいなものですわいの」

 

「バタバーの親爺さんの哲学はともかく」とアムロスは水に口をつけた。

「必要だが食い合わせが悪い。国防予算と軍の効率化には国家安全保障および調達再編法が必須だ。これがなくては星間流通復興法の機能が落ちる。星間流通復興法がなくては戦災復興基本法の機能が落ちる」

 

 エオウィンもゆっくりと頷く。

「戦災復興基本法がなくてはイゼルローン方面の後方支援能力が落ちます。また一方で戦災復興基本法は国家安全保障および調達再編法による投資にも頼るべきところは大きい。さらに言えば……」

 

「この三法を持って現政権の方向性を明確化することになります。即ち傷を癒やし、経済と国防の双方を回復させる……全ての法案を通さなければなりません」

 

 リッツはレジュメを手に取った。

「良い仕事をしてくれた。あとは下院との連携戦略だな。執行部で相談しよう」

 リッツはのんびりとした口調で執行部の面々を眺める。

「どうするかね、良い仕事をされただけに困るね」

 

「下院に提出する際に共同提出する議員の選出は必要です」

 上院の同盟弁務官は地域的な繋がりが強い。その為、下院の党派のどこにアクセスするかで同盟弁務官の院内会派や下院の政党の支持も変わってくる。

 

「法案は3つ、相互に関係している以上、幅広い共同提出議員を選出できます。選択肢はある程度限定されています。与党三党は必須です。国民共和党、自由党、労農連帯党……」

 エオウィンが挙げる3党は連立政権。ならばどれか1党を味方につければ法案が通る――のならば、何とも楽であるが。

 執行部の面々はうめき声をあげる。

「国民共和党でも地方党人派と中央派のどちらに声をかけるかで翼の広げ先が変わる」

 アリシア弁務官が端末を操作すると複雑怪奇な相関図が動き回る。地方党人派はサンフォードを担ぎ、上院との強いコネクションを持つ国民共和党の構成邦政党連合の色を残すベテラン議員集団だ。中央派はトリューニヒトなど人気はあるが国政しか知らないものが多く、浮動票に頼りがちだがそれだけに世論へのアンテナは強い。

「自由党は民権派のタカ派共に声をかければ良いが、レベロがなんというかだな」

 エオウィンは薄く微笑みながら頷く。彼女はトリューニヒト派にも近いが自由党とのつながりも強い経済学徒である。

 

「労農連帯党は流通復興法がネックだな」

 リヴォフがポリポリと頭を掻く。労農連帯党はホワン・ルイの手腕で外からは一枚板に見えるがそうではない。大企業労組を中心とする労組派・公務員系労組や退役軍人らを中心とする中間派・地方の中小企業の経営者と労働者を中心とする地方派に分かれている。

「はい、問題は彼らの支持層のアクティブな層が大企業労働組合であることです」

 流通復興法で揉める可能性は常にある。ましてや政権の【次】を見据える時期だ。自由党や国民共和党との決裂に至る可能性すら0ではない。

「リヴォフ世話役なら中間派にも話を通せるでしょう?彼らは行政系の組合や退役軍人団体も多いはずだ」

 

「我々にとって一番話が通しやすいのは地方派だが‥‥‥国民共和党や主権者自治連合と票を食い合っている、場合によっては支持団体が相乗りしているからな。党執行部にも反抗的だ」

 執行部の重鎮たちの意見が途切れたのを見てエオウィンは如才なく話を進める。

 

「問題は野党です。反戦市民連合と人民防衛運動は‥‥下手に相手をする必要はないと思います。問題は――」

 

「あーちょっと待ちなさい、エオウィン。地盤を固めてからですがアチラさんとも話をせんと面倒なことにるぜ」

 イロンシがずいっと前に出る。

 

「理由は?」

 

「メディアはマスメディアだけではない、連中は個人発信やイデオロギー色の強いメディアを使っている。無党派層の世論を揺さぶるには十分だ,身内が団結してればな」

 

「‥‥‥切り崩して争わせる?」

 

「そ、連中は団結させないことが吉、そういうことさね」

 

 イロンシは軍人、それも構成邦有数の軍と政府が一体化した構成邦である。良くも悪くも軍部・退役軍人のネットワークは広い。

 

 5人の間に沈黙の帳が降りた。だがそれは無意味な沈黙ではなかった。

 十数秒後、リッツは口を開いた。

「まずは与党との連携を考えよう。誰とこの”たたき台”をいじり、法案として上院と下院に提出するのかを…その後に野党と話をしよう」

 

 

 

 




アンケートは来週日曜までの結果をですね、国民、国民の声にですね、耳を傾け、真摯に今後の方針への参考とします(議会語)

与党連携を主導するのは‥‥

  • 共和党地方党人派だ!古き良き同盟を!
  • 共和党中央派だ!ヨブへ連絡を取れ!
  • 自由党正統派の助けが必要だ!
  • リベラルホークが必要だ!自由民権派を!
  • 労働者を味方につけろ!労農組合派だ!
  • 労農中間派を!行政と軍を味方にする!
  • 労農地方派を結集させ世論を揺さぶれ!
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