同盟上院議事録~あるいは自由惑星同盟構成国民達の戦争~ 作:兵部省の小役人
宇宙歴796年6月1日1日ハイネセンポリス標準時間18:25
ホテル「ノイエ・ビッグバレー 」内 黒煉瓦亭
国民共和党の党四役と総裁、そしてNRPの最高評議員たちが会食をしている。
話題は当然、【民主主義の縦深】の提出法案についてである。
「私たちは何もおかしなことを言っていないだろう?超党派で進めるべき法案であれば第一与党は有益な方針を示すべし。それだけだよ」
サンフォード最高議長はゆっくりと笑みを浮かべていた。彼が目を通していたのは法案だ。立法府、それも自分の党派ではない。厄介な上院で提出されるであろう法案のたたき台だ。
資料にいくつもの線を引き、細かな文字を書き込む。これは電子上の痕跡がのこらないようにするためである。最高議長の端末で送ったものは公文書として記録されてしまう。それにはまだ早い。
サンフォードはそれをゆったりとした手つきで隣の席の男に渡す。
「やあ、トリューニヒト”君”、君はどう思う?これを選挙直前の舞台を”創れる”のではないかな?」
「統合作戦本部の位置づけに関する法制度は当然ながら国防委員会の調整が不可欠です。私は一定の責任感を感じますね」
「その通り。だからこそ今ここで指針を示せば状況が変わるのではないかな?とりわけ連立政党を束ねて主導するのであれば、勿論のことだがそうであるなら党内で”争点とするべきではない”だろうがね」
「ならば早く動く必要があるね、各党の予備選挙も大変なことになるが、我々は楽をできるかもしれない。少しずつ動いている情報を小出しにして最後にぶつける」
バンボック・グラントフィールドNRP全国委員長が笑みを浮かべた。党務を仕切る彼も地方党人派だ。
デキャンタを手酌で飲んでいるが誰も気にしていない(飲むときには飲むというのが彼の哲学であった)。
「連立する自由党、労農党や上院の取りまとめは厄介だがそれは…総裁閣下に考えがありそうだね」
「勤勉な【縦深】の諸君に任せるつもりだよ。そして我々は寛大な伯父として【よりそう】のさ」
「下院・最高議長総選挙前に、上院にスポットライトを?」
ウィンザー議員が眉を顰め、尋ねる。
彼女は経済開発委員会の副委員長であり、汚職疑惑により辞任間近であるカナマル情報交通委員長の後釜になると目されている人気のある保守系女性政治家だ。
当然だろう、最高評議会のメンバーに加わって早々に指導力を見せずに【縦深】の陰に隠れてわずか半年の任期満了では、ただの議長の盾でしかない。
「もちろんわれらの総裁にはお考えがあるはずだ」
トリューニヒトが微笑んでいると声だけでわからせる彼一流の発声法で言葉を発する。
「常識を積み重ねると・・・・・・」
それに比べるとサンフォードの声は魅力に欠けているが、それでも以前より張りがあるように感じる。最高議長選を控えるからこそか。
「我々はこれから緊急補正予算を編成する必要がある、新しい方針を示すためにね。ならば【民主主義の縦深】の法案の制度運用におけるもっとも重要な初球を投げるのは私たちだよ、君。であるからには調査委員会を私が設置しても問題ないのではないかね」
それは道理だが―とトリューニヒト議員はゆっくりと声を発した。
「つまりNRPは、【縦深】の提出する3法案の共同提出を進め、経済再建を優先し、軍の回復と改革を進めるということでよろしいでしょうか」
「私はその方針で政務調査会と全国組織委員会に動議するつもりだよ、これで我が党の予備選は変化するのではないかな?」
トリューニヒトは事前にこの話を持ち掛けられ、承認していた。バンボックもそうだ。
サンフォード、農業大国シロン出身の政治家はゆっくりと目を閉じた。
――ああそうだとも、今の俺は”それができる”のだ。畜生、最高議長なぞやりたくなかったのに任期の終わりにこんなことになるなんて。困ったものだ、一国を引っ掻き回す快楽をこんな間際に知ってしまっては2期目をいよいよ手を伸ばさねばならなくなった。なにしろ同盟再建をもたらした大政治家の座を得られるかもしれない。そして俺が同盟の未来設計の指揮をとれる。議会屋が権力にしがみつく時には常に動機を持っている、と書いたのは誰だったか。
――そうだ、俺だって血を流さずに中興の祖の座を得らえる機会があるのなら錆びついた名誉欲への炉に火を投じて何が悪い。俺は軍国主義者ではなく農政屋なのだから!畜生、民主制の政治家など名誉を得るために袋叩きにされる莫迦でなくてはやれるものか!
・
・
・
宇宙歴796年6月3日ハイネセンポリス標準時間19:20
ホテル「キャピタル・エクスプレス」内 チンタオ・ゲルマン料理ホシガオカ
「つまるところ、だ」
パチェノは葉巻をふかす。とうに廃れたはずのこの悪習を守るのは、宇宙船に乗る習慣をほとんどもたない”地方人”(カントリーフォーク)の特性だ。そして自由惑星同盟においてそれは生活習慣というよりも政治的立場の表明に近い。
当然だが全国政党代表幹事であるパチェノは当然のように宇宙船を使いサジタリウス腕の星々を駆け回っている。であればなぜ彼は葉巻を咥えるのか?それは彼こそが中間星域の地方人を中心とした政党。主権者自治連合(Sovereign Autonomy Union)の代表幹事であり、”地方人”でなければならないからだ。
『ペラスコ・パチェノの葉巻』は文字通りのトレードマークであり政治的立場の表明そのものである。
「潮目が変わった以上、我々は手を組む余地がある。そうだな」
相対するのはリヴォフ世話役、交戦星域の代弁者達の№2だ。
「あぁ【縦深】はSAUと手を組む用意がある」
「なにをする」
「法案を提出する、3種な」
レジュメをめくりながらパチェノは紫煙を吐き出す。
「戦災復興基本法、星間流通復興法、国家安全保障・調達再編法か」
「ふん、なるほど?復興の対象には軍も入れているわけだ、そして星間流通復興法でサジタリウス全体の経済を押し上げながら予備役になりうる人材を確保すると、常識論を積み重ねている、妥当だな」
レジュメを秘書に押しやるとパチェノは本題だ、とリヴォフをにらみつけた。
「それで【何票だ】?博打にしても勝ち馬にしか乗るつもりはない」
「まだ読めてはいないがな。われらが最高議長閣下と国防委員会が全面的な支援を約束している」
パチェノは鋭い視線を向ける。
「ブラフか?」
「国防委員会の懐に手を突っ込み。さらにSAUの協力を求めるのにそんな余裕を見せるブラフをかますほどオンチに見えるかね?」
パチェノは背もたれに身を預ける。
「いいだろうさ、ならばビジネスの話だ。まずお前さんたちの復興基本法は賛成するが但し書きが必要だ」
リヴォフが厳粛な顔で唱える。
「”上院議員とSAUの取引は常に妥協はしても決裂はしない”」
パチェノはにやりと笑って俚諺の続きを唱えた。
「”ただし、あくまで原則的に”今回もそうであると思うがな。我々が求めるのは星間流通復興法と国家安全保障・調達再編法についてだ」あ
「続けてくれ」
「構成邦の流通産業団体などに星間流通基盤支援機構の事務局を担い、地域産業への支援を中心にしてほしい。それと運営理事に各構成邦の代表を・・・・といいたいが」
「産業団体はともかく理事は求めすぎだろう。理事会にいちいち100人以上の理事を呼べと?定期的に実務者会議を行う形で規則に盛り込めばいいい」
「復興は箱物だけではない、そちらにとっても悪い話ではないだろう?」
「国家安全保障・調達再編法では広域のインテリジェンスコミュニティを構成するとのことだな。同盟軍の予算でコミュニティを運営し、構成邦情報機関へ助成を増やしてもらいたい」
「持ち帰って検討するとしよう」
〉主権者自治連合は
星間流通復興法と国家安全保障・調達再編法において修正を受け入れるなら取引に応じる!!
戦災復興基本法に対し…賛成を約束した!
星間流通復興法に修正を受け入れるならば…共同提出に参画を約束した!
星間流通基盤支援機構において
・星間流通基盤支援機構は構成邦産業団体が地域事務局を担う
国家安全保障・調達再編法に修正を受け入れるならば…共同提出に参画を約束した!
!
・同盟軍が予算を負担し、インテリジェンスコミュニティーを活性化させる