同盟上院議事録~あるいは自由惑星同盟構成国民達の戦争~   作:兵部省の小役人

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「法律が信用されているのは、それが公正であるからではなく、その成立過程における民主的なプロセスがあるからである。これが、すなわち法律の権威の最重要となる基礎であり、それゆえに選挙に対する国民の信頼を損なってはならないのである」
672年選挙法改正を提出した自由党副代表のチャールズ・ハヴィック氏(コルネリアス1世の親征によるバーラト首都圏への人口集中に対応したもの、これにより下院と上院の役割分担が明確になった)



第27話羽ばたき始める

宇宙歴796年6月3日ハイネセンポリス標準時間08:30

人民防衛運動本部内 役員応接室

 

 机の対面に座すのは、刈り揃えて丁寧に整えられた口髭に堂々たる体躯。宇宙軍陸戦隊で中佐まで上り詰め、重傷を負い退役した勇士。人民防衛運動のモーリス・ラロック代表である。

「どうして千載一遇のチャンスにこんな法案に賛成する必要があるんだ?」

 退役軍人達の地位向上や国防委員会当局の防戦を鼓舞するプロパガンダへの便乗、警察の擁護活動などを通して運動への協力者を増やしている。

 

「法案の趣旨は否定せんがね、早すぎるよ」

 

「ではそちらが望むタイミングはいつだい」

 穏やかな笑みを浮かべているのはリヴォフ世話役だ。隣にいるのはイロンシ同盟弁務官、この極右政党が受け入れやすいであろう退役軍人組が訪問することになった。

 そもそもイゼルローン要塞が帝国の侵略と略奪に活用される難攻不落の橋頭堡であったころは、盟友でなくとも同じ方向を向く政党であった。

 

「最低でも敵の艦隊戦力を撃滅してからだ」

 ラロックは当然だろう?と答える。

 

「これらの法案はそのための準備だよ」

 

「いくら退役中将閣下とはいえ!適当なことを言わないでいただきたい!!」

 ハインリヒ・フォン・タッデン副代表はいきり立った。上品ぶっているが、この男は合金製造企業を経営する亡命者の家系であり、憂国騎士団への大口出資者でもある。組織の幹部を経てのし上がった連中だ。

 

「貴殿らの法案は地域主義より出てくるものだ!我々の聖戦に協力している間は良かったが!戦火が遠のけば帝国打倒のために血を流した者たちへの奉仕を忘れるとは!」

 

「随分と好き勝手いいますなぁ!」

 イロンシ弁務官も鼻を鳴らして応戦する。

「こちらを地域主義と批判する声をあげるのならせめて兵営にいた経験を持っていていただきたいものですな!サプライチェーンの構成に敬意を払うとしても!現地で暮らす者を侮蔑するのであれば相応の経験があってしかるべきです!」

 

 タッデンが顔を赤らめるとラロックはゆっくりと片手をあげて黙らせる。

「国防法案はいい。諜報の強化は良いことだ。方面軍も将官の規模が増えて動員の許容量が増える。星間流通復興法も宇宙軍の予備役増加につなげられる、これもいいさ。だがなぁ、君らが出すことは否定せんがね復興に賛成することが我々の利益につながるとは思わんよ!予算を何年拘束するつもりだね!軍のために産業を振興し経済を再建する必要があることは理解する。君たちの彼岸も理解する。しかしだねぇ、帝国が次に何をするか調査したうえで対処するためのフリーハンドとして艦隊の再建を最優先にしなければならんだろう」

 

「そうでもないさ。交戦星域の経済復興と人的資源の増加はイゼルローン要塞の維持の負担を軽減できる。さらに言えば星間運輸業の再建は宇宙軍の予備役確保に大きな意味があるのは承知の上だろう?」

 

「今われわれが求めているのはな、応報だ!それは何よりも優先される!同盟を侵略し!殺したクズども打ち倒し!カイザーを処刑する!それは戦場で死んだ者たちの喪失で血を流し続ける全ての遺された者たちに対する絶対的な誓約だ」

 フォン・タッデン副代表は腕を振り上げた。 

「我々は帝国を打倒するために戦うものが集う政党だ!言いたくはないがね!地域主義のために帝国からだまし討ちを受けるまでまごまごする法案を通させるつもりはない!!」

 

 

「つまり国家安全保障・調達再編法は支持できる、と。うん、実に素晴らしい!なら話ができるじゃないか」

 リヴォフは平然と背凭れを軋ませながらニヤリと笑った。

 ――要するに支持者をまとめきれないということだ。

 

「復興基本法はなぜ承認できないのかね?」

 

「長期間にわたり予算を拘束するからだ!軍の再建に必要な予算を食いつぶし!国防予算を削減することになるのはわかるだろう!」

 

 リヴォフは穏やかな顔つきのままラロックに視線を向けた。

「そうなのかね?ラロック代表」

 

「”だいたい”あっている。だが我々の運動に参加する人間の中には故郷を追われたからこそ、という者もいる」

 ラロックは根っからのポピュリストだ。奇妙な話であるが極右団体に迎合してきたフォン・タッデンの方が教条的に振る舞い、退役軍人として確固たる支持基盤を持つラロックの方が、より幅広い支持連合の構築に活躍してきた。

 

「君の党は常に団結している、指令が下る限りは」

 

「だからこそ、同盟全土に候補者を擁立できるほどに広がった。俺はその地位を失いたくない、故に商談の余地がある…ってところか?いいぜ、愛国心と愛郷心のバランスまで命令する時期は今ではない、確かにそうだろう」

 

「そちらの飲める条件は?」

 

「そうだな、まず復興用の低利子国債で同盟軍の施設を建設したい」

 

「それは一向に構わんよ」

 

 だろうな、とラロックは椅子に座りなおす。

「お次は星間流通復興法だ、こいつはまだまだ、いじれるはずだ。まずは、戦時における支援機構を通した統制の実施を政令で行えるようにすること、もう一つは職業訓練課程に宇宙軍軍人を教官として受け入れ、最低限の軍事教育を義務家庭に組み込むこと。職業訓練を受けたものは宇宙軍予備役兵士として登録させる」

 

「‥‥‥検討には値するな」

 フォン・タッデンが笑みを浮かべる。

「それに、自立支援を必要とする全児童に対し、本法で定める星間流通に関する職業訓練を義務化し、無償で実施する、を付け加えようじゃないか。これは我々から提案したとすれば支持の広がりも期待できるのではないか?」

 

 リヴォフは静かに目を細めた。

「それは――」

 

「当然、予備兵としての軍事訓練もだよ。あぁもちろん基準に達しないものもいるだろうけどね」

 弁務官たちは慎重に視線を交わし、持ち帰って検討する旨を返答した。

同日ハイネセンポリス標準時間09:15

反戦市民本部内 事務総長室

 

 ティアマトの同盟弁務官のサンムマラート・アシリアは、エオウィン・イシリアン同盟弁務官を伴い、反戦市民連合本部を訪れていた。

 アシリアは女性兵士のために活動した弁護士であり、同じ女性の同盟弁務官を連れることで相手との会談をわずかでも緊張を緩めようとする人選である。

 机の対面に座すのは反戦市民連合のクラムチャンド事務局長である。オリーブ色の肌に頭をそり上げて丸眼鏡と一見、大昔の聖職者のような風貌である。いや、ある意味ではそれに近い、元社会学者であり、反戦市民連合が拡大するうえで【根本的な社会構造の大改革】を理論化した反戦市民連合の理論的指導者、俗にいう【反戦構造派】の首魁である。

 

「どうして千載一遇のチャンスにこんな法案に賛成する必要があるんだ?」

 

「法案の内容は否定しません。趣旨は素晴らしいものだと思います。ですが、早すぎますよ」

 

「適切な提出時期についてお考えを」

 

「最低でも帝国との休戦協定の交渉を試みてからですよ、もちろん」

 クラムチャンドは笑みを浮かべたまま答えた。

「‥‥‥‥」

 エオウィンがスゥーと息を吸うのを慌てて止める。彼女は理性的で穏やかな風貌を装っているがその実、自分以上に苛烈な面があるとすでに知悉していた。

 

「その場合にリスクを負うのは我々ですが」

 

「そうでしょうか?イゼルローン要塞を確保できたのです。これを利用して講和条件を探るのは間違いではないはずです?憎悪の声で票を稼ぐというのもあまり意味がないでしょう?」

 

 ビシリ、と空気が固まる。

 クラムチャンドという男は反戦市民連合を拡大させた男であり、それ以上に首都圏の民生向上へアピールを続けてきた。

 特に優れていたのは避難民の受け入れ拡大と定着である。

「そもそもですね、復興を行う必要などあるのですか?」

 

「な、なんですって!?」

 

 そう――定着の支援だ。つまりバーラト首都圏におけるコミュニティや労働者としての受け入れ支援の整備である。

「”感情的な”反発は理解しますとも。ですがごらんなさい、バーラトやテルヌーゼンなど【豊か】と言われる地域も常に人手不足です。星間流通復興法にこの復興支援に当てる予算の一部を割くだけでも大いに経済の回復が見込めます」

 

「それで――何を目的としてるのです?」

 

「ですから‥‥アスターテとティアマトは”発展的な解消”に向けた手続きを行うべきではありませんか?本来であればアルレスハイムやパランティアにデルメル、エル・ファシルだってそうです。あんな10年も復興に予算を割いても人口規模をみるとね‥‥首都圏の人間の半数は所得が平均以下ですよ?」

 

 

「‥‥‥はあ?」

 

「そこは冗談ですよ、ですが実際に中産階級といわれる水準から零落し、物価高が直撃した貧困層は増加傾向が止まりません。首都圏の人間でも社会的な支援が必要な人間はそれこそエル・ファシルの人口以上です。その上、星系ごとに人が分散しすぎています、社会を維持し、行政サービスを提供するコストが高すぎるのが人手不足の一因です」

 クラムチャンドはそのまま言葉と紡ぐ。

「そして交戦星域はそうした点からすると同盟社会構造最大のお荷物です。距離の防壁を確固たるものにするためには有人星系の移住が必要です。イゼルローン要塞ともども機能を粉砕し航路を封鎖してしまえば問題ないのです」

 

「それは‥‥‥」

 

「講和が信用できないというのであれば打倒するまであなた方にはイゼルローン要塞を通した軍需に依存した経済が続くのではありませんか?それは社会構造として首都圏から不要な富の移転ですよ。受け入れられません。同盟市民全体のため、そちらの福祉サービスを必要とする市民たちのためにもアスターテとティアマトの発展的な解消を求めます。帝国の戦火が遠のいた今こそ、できることでは?」

 

「‥‥‥本気でおっしゃるのですか?」

 

「本気ですよ?今すぐ返事をしろといいませんが、下院でそちらの試算は当然、問いますし、率直に申し上げればアスターテはそれこそ船団の受け入れだけで済みますからね。集合住宅のリノベーションなどに賭ける投資を考えても経済効果は絶大です。行政的な負担も一時的なものを許容すればむしろ長期的な効率化につながる。ティアマトだって自治区の発展的な解消ですむでしょう?あなた方の感傷に同盟の貴重な労働力と富をいくらつぎ込むのですか」

 

「ショッギョムッジョ、すべては移ろうもの。くだらない執着はお捨てなさい、そうすれば同盟の民主主義はより強くなり、平和への社会改革が進みます」

 沸騰するハラワタをなんとか冷まそうと足早に立ち去ろうとする2人は、政策委員室の前で声をかけられた

 

「お二人とも、こちらへ」

 

「エドワーズ議員」

 

「クラムチャンド事務総長から相当な無茶を言われたのではありませんか?」

 ジェシカ・エドワーズは申し訳なさそうに微笑みかけた。

「私は反戦市民連合の政策委員です、多少なりともお話ができるかと」

 

「まず復興ですが、これは否定しません。ですが財源は構成邦がそうですね‥‥半分は負担する形にしていただきたいのです。邦の債権を国が引き受ける形にしてもかまわないでしょう。第一次立法時点で5年間の低利子債権を6~25年の間に返済でいかがでしょうか」

 

「20年で5年分を返済しろと?本土を失ったものが?」

 

「債権の乗り換えもできるでしょう?それに構成邦軍の削減や同盟軍施設を計画より削減すれば収益性が高まるのではありませんか?」

 ジェシカはニコリと笑う。これまでの最大の顧客を削減する意味や、その際に利子がどうなるのか、それを検討するつもりはないということだ。

「それと国家安全保障・調達再編法ですが、国防予算の削減を目指すという付帯決議をつけていただきたいのです、そうしれば反戦市民連合の大義にも沿います」

 それは結果としては達成できるだろうが、それを法案に結び付けるのは違う。構造的に与党に対しても軍部に対してもなにより安全を求める構成邦主流派たちに対しても酷い不義理となる。

 

「ヤン中将は私の友人です。エル・ファシルに暮らす人々のことは私もよくわかっています」

 

「私が関係のある市民団体に話をすれば政策委員も取りまとめられるでしょう。クラムチャンド事務総長も考えを改めてくださるでしょう、どうか私の提案を考えてくだされば‥‥」

 女性弁務官たちは視線をかわし、持ち帰って検討する、と返答した。

 

同日ハイネセンポリス標準時間13:00

シュワルツ記念同盟弁務官会館 第4会議室

 

 同盟弁務官会館で使者たちの帰りを待つ老ロムスキーとリッツ医師が苦笑するほど、若手たちはげっそりとした様子で戻ってきた。

「やあ、随分と苦労したようだね」

 

 エオウィンとイロンシが視線を交わし、互いに同情の色を浮かべた。

 

「で、ラロック”閣下”の調子はどうだった」

 

「絶好調だね、飼い犬に吠えさせてから。条件を飲めば自由投票だとさ」

 

「自由投票!フリーランチを提供するほど我々は富裕ではないのだがね!」

 

「反戦市民連合の方はどうだい」

 

「クラムチャンド事務総長は相変わらずでした。ただジェシカ・エドワーズ”政策委員”が取引を持ち掛けてきました。ですが――アリシアさん、どう思います?」

 

「あれはグルよ」

 

「ああやはり?」

 だろうな、と全員が肩をすくめた。シトレ元帥閣下が油断して一撃を食らったことを全員が記憶に新しい。

 

「そもそもヤン中将閣下、エル・ファシルには半年程度しかいないし奪還作戦にも参加してないじゃない。なにがヤン中将は友人です、エル・ファシルに暮らす人々のことは~よ」

 アリシアは思考を巡らせる。

「でも反戦系市民団体に交戦星域出身者が一定数いることは事実。でも主流派はバーラト首都圏の貧困層、そして自由党がこちらにつけば中産層からも流れる連中はいる‥‥」

 

 

「なんにせよ、あの手の工作に積極的に参加している時点で一過性のブームに乗るタイプではないでしょう。パフォーマンスも上手いですが、それだけではない。親自由党のシトレ元帥をひっかけた。軍部がまとまると反戦市民連合の政策を通すのが難しくなるからです。その一方で彼を支持する反戦派が増えている。互いに

どうであれ彼女が契約をする以上は力及ばずは彼女の信用を弾丸にした、社会断裂の扇動だ。クラムチャンド事務総長に食い物にされるだけとなる。手ごわいですよ、彼女」

 

「それは同感」

 ありゃ出世するわよ、とアリシアがうめいた。

 

 リッツは微笑み、覚書を印刷した。

「とりあえず野党三党の条件を比べてみましょう」

【主権者自治連合】 

戦災復興基本法に対し…賛成を約束した!

星間流通復興法に修正を受け入れるならば…共同提出に署名することを約束した!

星間流通基盤支援機構において

・星間流通基盤支援機構は、構成邦産業団体が地域事務局を担う

 

 

国家安全保障・調達再編法に修正を受け入れるならば…共同提出に参画を約束した!

・構成邦情報機関と協同する星域インテリジェンスコミュニティーは、同盟軍が予算を負担し、活動を活性化する。

 

 

【人民防衛運動】

戦災復興基本法に対し…取引に応じるなら自主投票を約束した!

・低利子国債による同盟軍防衛施設の建設

 

星間流通復興法に…修正を受け入れるならば共同提出に署名を約束した!

・戦時における支援機構を通した統制の実施

・職業訓練学校に宇宙軍軍人を教官として受け入れ、職業訓練を受けたものは宇宙軍予備役兵士として登録される

・全児童福祉の自立支援における本法の職業訓練を義務化し、無償で行うとする

 

国家安全保障・調達再編法に…賛成する!

 

 

【反戦市民連合】

戦災復興基本法に対し…修正を受け入れるならば自主投票を約束した!

・交戦星域の各構成邦が地方債により事業の一定率を負担する

・同盟軍施設の抑制

・構成邦軍の軍縮

 

星間流通復興法に…賛成する!

 

国家安全保障・調達再編法に…修正を受け入れるならば共同提出に参画を約束した!

国防予算削減を目標とする付帯決議の追加

「連携しやすいのは主権者自治連合だな。こちらの支持基盤からも悪い反応はない条件だ。それに地方党人出身者や上院にも顔が利く」

 

 イロンシはとんとん、と条件が記された紙を叩く。

「それは最初から分かっていたことでしょう。それよりの両極の穏健派にどう対応するかだ」

 

 

 エオウィンがジト目でイロンシを睨む。

「穏健派が出したこの”すンばらしい”条件をすべて飲む必要はないでしょう。あれでは条件を吞んでも感謝されないでしょう」

 

 

 イロンシはその鋭い皮肉に苦笑を浮かべた。

「それはそうだ。人民連合の星間流通復興法の内容は論外だ‥‥というよりこんなものを出したら自由党も主権者自治連合も‥‥いいや!親軍路線の労農党だって激怒する!それだけではない!トラバース法以上に同盟憲章の違憲訴訟が噴き出すぞ!」

 

「未成年で福祉が必要な人間の首根っこをひっつかんで無理やり宇宙軍兵士の教育、ねえ。まったく!」

 アリシアが天を仰ぐ。当たり前だがこんな同盟憲章違反で違憲立法審査や訴訟が飛び交うことは予想の範囲だ、というより自分だって弁護士時代であればする。

 

「それでどうします?修正して法制局と所管政庁に提示せねばなりませんよ」

 

 エオウィンがじろりとイロンシに視線を向ける。

「話は聞いた、という点ではすでに役割は果たしたとも言えます。イロンシさん?」

 

「俺はまだ可能性はあると思う。リスクが高いのも事実だがエオウィン博士が言ったとおりすべてを受け入れる必要はない‥‥‥」

 そういいながらジャケットに刺繍されたヴァンフリート民主共和国の紋章をいじる。

「例えば、だ。戦災復興基本法における【低利子国債による同盟軍防衛施設の建設】はこちらとしても損はない。星間流通復興法の【戦時における支援機構を通した統制の実施】と【職業訓練学校に宇宙軍軍人を教官として受け入れ、職業訓練を受けたものは宇宙軍予備役兵士として登録される】というのもありではないか?」

 

 エオウィンは眉をひそめて返答する。

「軍施設の建設や有事の統制はともかく、軍事訓練には反対します。これは交戦星域であれば問題になりませんが、中間星域や首都圏ではそもそもの趣旨である星間流通を担う技能労働者の拡大を阻害する可能性があります」

 

 労働・雇用分野の専門家が発した意見を受けてもイロンシは引き下がらない。

「政局だけでなく法施行の方向性でもリスクになることはわかっているさ!そこをどの程度飲めるかを検討するべきだと俺は考える。むろん、与党の結束を高めるのも有力な選択肢だ、全てパージするのも選択肢だ。だが両党の穏健派が先鋭化するのは間違いない。それを受け入れることだね」

 

 ロムスキーとリヴォフは政策分野を統括するリッツ政調会長に視線を向ける。リッツは穏やかな声で状況を整理し始めた。

「つまりだね。与党3党は、方向性は違えど臨戦態勢を維持したまま経済と民生の回復をすすめることでまとまっている。軍部は軍部で戦力の回復――そして予算の維持を望んでいる」

 

 とん、と主権者自治連合の覚書を叩く。

「彼らは彼らで同盟政府の有事統制を緩和し、構成邦の自治権と地域経済の活性化を望んでいる」

 覚書をめくる。

「人民防衛運動は同盟政府の権威拡大と経済の軍事化促進を進めようとしている。ゆえに我々とイゼルローン要塞健在時には共同歩調をとっていたが今はそうはいかん。”裏切り者”ということになる」

 

「反戦市民連合は都市貧困層の怒りを同盟政府と交戦星域政府に向けている。我々が”公金を吸い取っている”ことをこれ以上は許容できないといことだね。イゼルローン要塞を同盟軍が占領したことで社会的断裂を抑え込んできた外圧がゆるんだわけだ」

 

 

「【自治連】は”今は”いいだろうがね。勢いをつけすぎるとどうなるかはわからん。とはいえサンフォードの閥とも近い。与党との調整は手間だが不可能ではないだろう」

 

「【人民防衛】と【反戦連合】は、どちらも譲歩すれば我々の経済回復に打撃を受け、支持基盤が流出しかねない。それに与党内のバランスも崩れる。総選挙はもう半年後だ」

 

「法案を通すために、部分的に譲歩するのならよいが、与党間の競争をあおって我々が主導権を握る、と欲を出すのは危険だろう」

 リッツがイロンシへくぎを刺す。

 

 ロムスキーはゆったりと執行部の面々を見る。

「さて、どうする諸君?」

 




法案提出までもうすぐ‥‥
アンケートは2月9日まで受付中です

【縦深】が提出する3法案は‥‥(選択肢には補正があり、作者がダイスで決めます)

  • 与党3党と【自治連合】を結集させるのだ!
  • 穏健反戦派の提案を一部だけを飲む!
  • 国粋派の親軍的提案を一部受け入れる!
  • ジェシカの提案を丸呑みしてやろう!
  • 悪魔と取引だ!【防衛運動】に全賭けだ!
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