同盟上院議事録~あるいは自由惑星同盟構成国民達の戦争~   作:兵部省の小役人

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議会制度は偉大である。自由惑星同盟は130億を超える市民を抱え、100の構成邦を抱き、自由惑星同盟の全構成邦に議席を持つ政党を数えれば500を超えるだろう。それを同盟議会では6つの国政政党と4つの上院会派に集約できている。我々はその偉業を称えるしかない――エーリッヒ=ヴァルデマー・フォン・エプレボリ教授(アルレスハイム国立ヴァルシャワ大学法学部)著『党人文化の変遷~同盟政党と構成邦政党~』


796年自由惑星同盟総選挙
第35話 保守主義の操舵手


宇宙歴796年8月10日 パルメレント連邦 カルディフ ミレニアム・スタジアム

アライアンス・ポリティカ編集部記者(国民共和党党本部担当) ロイド・マーゲリッジ記者

 

 青と白と赤、自由惑星同盟と国民共和党の旗が大会会場を埋め尽くす。フェザーン航路の政党人と交戦星域の政党人が親しげに握手を交わし、情勢を探りあう。

 あちらこちらの観光局や議員事務所がPRと共にフードワゴンで特産品を販売している。

 その騒々しさが示唆している通り、国民共和党は党総裁として次の最高議長候補をここで決定する。

 自由惑星同盟全土からきた代議員たちが詰めかけ、さらにマスメディアやインフルエンサーたちも訪れている。

 政治経済を専門に扱う雑誌アライアンス・ポリティカのベテラン記者、ロイド・マーゲリッジは当然のようにここに取材にやってきた。

「どうなると思います?先輩」

 後輩記者サラトクが汗を拭きながら訪ねる

 

「何とも言えないが、同盟の歴史が変わるときの予兆はこういう場所で出てくるものだ。記事に書かないところでも見逃さんことだ『国民共和党の歴史とは自由惑星同盟の歴史である』ともいわれるくらいだからな」

 ロイドは報道席から会場を眺める。

 

 その言葉はいささか単純化がすぎるが、少なくとも一側面を象徴しているのは間違いない。自由惑星同盟最古の政党は国民共和党と自由党である。国民共和党と自由党のニーズは星系開拓にあった。旧銀河連邦サジタリウス準州(現在の交戦星域)と【ハイネセン】の間をつなぐことにより広大な未開拓惑星が【勢力圏】と規定されたのである

 

「政治史をやるなら必ず国民共和党と自由党を見るはずですからね」

 

 

 国民共和党の綱領は、中道右派ではあるがその実態は同盟主義‥‥すなわち中央政府による課税と再分配による星系開発の推進であり、これにより経済発展が促進されると考えられた。さらに重要なのは、各地域の多様な利益を結集することで、国民の統一と調和を促進することを目指していた点である。すなわち【構成邦は自由惑星同盟に所属し、自由惑星同盟は構成邦を守護する義務がある】という価値観である。ゆえに彼らは構成邦や自治体の議員が主体となる利益誘導のための政党であった。

 

 自由党は政府の経済介入は、富裕層に有利な企業独占を生み出すと考えていた。彼らは、同盟政府の課税を減らし、独立した企業と開拓民が需要と供給の黄金律による経済と民生を構築することを望んだ。政府の適切な役割に対する彼らの定義は否定的である傾向があり、急進的なものには公立学校制度の設立といった政策にすら反対する者もいた。【同盟政府は星間交流を保護することが至上であり、そのために同盟政府に諸星国家が参画している】と定義していた。ゆえに彼らは大企業の経営者とその労働者が母体となっている。

 

 

 さて、今回の話の焦点は国民共和党である。 現任のロイヤル・サンフォード最高議長に2期目を任せるかどうかが焦点となる。その有力内対抗馬は中央派のヨブ・トリューニヒトだ。

 本来は2期目に挑む最高議長を引きずり降ろそうというのであれば、最高評議会の外にいる有力議員が挑むことが多い。だが今回は違う。

 

「今回の総裁選挙、取材のポイントは――」

 サラトクの言葉をロイドは手を振って遮る。

「おい、来たぞ。サンフォード【総裁】だ」

 サラトクがカメラを構えて前へ出る。

 国民共和党という政党の実態は政党連合であった。ロイヤル・サンフォード総裁はその象徴的存在だ。彼は長老政治家であり、シロンの大規模農場を父親から継承し、さらに【シロン国民ブロック「未来」】の穏健派として党務に精励し、「シロン農業のより良い未来を考える超党派議員連盟」「シロンの魅力発信強化に取り組む議員連盟」を地盤として同盟政界に進出した男である。

 

「栄光ある国民共和党の党員諸君。私はシロンで政治家の第一歩を始めました。そこから多くの方の支援をいただき、4年前に最高議長の座まで推薦していただきました」

 サンフォード総裁は無論、国民共和党の党員であるがキャリアからすれば【シロン国民ブロック「未来」】としての知名度の方が(最高議長になる前は)高かったのは間違いない。シロンでは開票開始と同時に当確速報が出されるほど盤石な地盤を持つ政治家である。しかし、シロンの外では農業系議員以外への応援演説はそれほど効果のあるものではない。だがそれこそが【地方党人の党】である古き良き国民共和党らしさでもあった。

「この4年、イゼルローン要塞からの侵略が与える多くの苦しみに国民とともに耐え忍びました。政治への信頼が失われていく無力さを感じてきました。ですが、それらを我々はこの3か月で乗り越えることができました。我々はイゼルローン要塞を陥落せしめました」

 国民共和党の党員たちが喝采を上げる。極左の反戦派ですらこれを批判できるものはいないだろう。

 

「我々は軍部の活躍だけを誇るのではありません。我々は産業の復興に向けた法案をまとめました。私は国民共和党を構成するすべての党員に宣誓します。我々は専制主義者の諜報網と経済攻撃のシステムに対する重大な一撃を与えました。自由惑星同盟はすべての同盟構成邦を疎外しないために枠組みを作り、サービスの安定供給を確立し、専制主義軍閥との闘いのために国を再建しなければならないのです」

 ゆっくりとサンフォードが見回す。

「私は次の4年間を自由惑星同盟市民の皆様に負託していただければ、すべての構成邦のための同盟を作り上げるために議会と密接に協力します。我々は対フェザーン作戦で混乱した金融ネットワークをフェザーン資本から取り戻した資産を活用し、地域のイニシアチブをサポートします。一次産業と二次産業、そしてなにより星間運輸を地域のニーズに則る形でサポートし、地域産業を支える人材教育を推進します。そして自由惑星同盟の領域をつなぐ経済網を再建し、現代化します」

 地方から訪れた党人たちが拍手する。

 

「全国の治安を改善し、同盟軍の再建と現代化のための教育と構成邦軍と交流を強化します。軍全般の教育改善を力強く進めます。特にABI(法秩序委員会同盟捜査局)および同盟軍情報部と構成邦情報機関のインテリジェンスコミュニティを強化することでより自律的な防諜体制を支える人材育成を推進します」

 

 サンフォードは深く息を吸い、ゆったりとした声で語りかける

 

「皆さん、私は国民共和党の総裁、そして最高議長として中道3党の連立政府のかじ取りをしてきました。この4年間は皆さんの支援の賜物です。私は皆さんの負託にこたえる形で上院の復興3法案を後押しし、可決させることができました。2期目は古き良き自由惑星同盟の価値観から連続し、そして新たな時代に見合った同盟を、私と共にすべての党員が参加できる自由惑星同盟づくりに参画してください」

 

 観客は拍手をする。影が薄いからこそのアピールだ。だがそれは強さを求める層にはあまり響いていないようにも見える。

 

「どうですか?先輩。なんか左派の労農連帯党っぽい感じもしますね」

 サラトクはメモを取りながら呟く。

「内容が無難すぎる。無難すぎるが‥‥メッセージ性が強いな」

 ロイドは考える。地方党人派のカラーをここまで前面に出すとは!これは他の政党に対するメッセージもあるのかもしれない。サラトクの言う通り地域間の平等を訴えるのは保守左派的な色合いを強めているのだろう。

 

「次はトリューニヒト国防委員長ですね!記事のメインはトリューニヒトですかね!」

 

 ヨブ・トリューニヒト国防委員長とウィンザー情報交通委員長はその新世代だ。官僚やマスメディアなどから、構成邦の政治キャリアを積まず、直接選挙に出たものが幹部の地位を多く占めるようになってきた。彼らは中央政界でのみ活躍していることから『中央派』と呼ばれている。

 

「そうだな、中央派は無視できない。だがなあ――」

 ロイドの言葉は拍手とざわめきに打ち消された。

 

 颯爽とした若手政治家は壇上に登ると、笑顔で聴衆を見回す。そして両手を広げて演説を始めた。

 

「皆さん!我々は大いなる転換点を迎えました!しかし私はここで諸君に辛い現実を告げなければなりません!我らの戦いはまだ終わっていないのです!フェザーンに対する捜査の結果!金融のみならず経済安全保障においてもセキュリティをかいくぐり、卑劣な工作を彼らは行ってきました!裏切り者との決別こそ、真の経済復興への道となるでしょう!自立と自尊のために経済を再建する必要があります!今こそホワイトカラーではなく、産業を支える現場の人材が誇りを持って働ける社会を構築します!」

 保守系の労働者は喜ぶだろう、だが――

 ロイドは経済開発委員会と人的資源委員会の標準賃金の統計を思い出す。バーラト共和国など首都圏の賃金そのものは高止まりしている。むしろ問題は経済停滞が深刻な中間星域から辺境部の賃金と中小企業のキャッシュフロー、そしてスタグフレーションだと経済部の記者たちの見解だ。

 

「自由を享受するには、強くなければならない!認めましょう!イゼルローン要塞からくる卑劣な専制主義者との戦いで我々は傷ついています!軍も国民も血を流し、戦い続けてきました!だからこそ!我らは経済と共に軍を再建せばなりません!」

 トリューニヒトは拳を握りしめ、聴衆に訴えかける。

「多くの将兵が軍功で出世してきました!ですが我々はそれに伴うサポートができていたでしょうか?私は将校たちの昇任に伴う学習機会をより強化します!艦隊の更新を進めます!そして何より情報機関と軍令機関を改革し、より強力な指揮系統とそれを支えるスタッフを構築します!最高議長と国防委員会のリーダーシップをより強化するでしょう!」

 そして拳を振り上げる。

「自由惑星同盟を再建するために!我々が必要としているのは、未来への明確なビジョンを持つ勇気あるリーダーシップです! 私、ヨブ・トリューニヒトこそが、その責務を負います!新時代の国民共和党の代表にトリューニヒトを! 自由惑星同盟万歳!!国民共和党は皆さんと共に強い同盟を取り戻します!!」

 トリューニヒトの演説は人々を沸かせることができたが、その急進的な勢いに中道的な層や穏健派は疑問の目を向けている。

 

 

 サラトクは口笛を吹く

「いやあ、さすが中央派のエース!ぶち上げますね!」

 ロイドは唸る

「本当にそう思ってるのか?お前、もうちょっと関連記事を読んでから取材に来るようにしとけよ」

 

「え?」サラトクは目を瞬く

 

 

 ロイドは後輩に耳を寄せる

「よく聞いてみろ!あの2人は具体的な政策はほぼ同じなんだよ。当たり前だ、タッグを組んでイゼルローン要塞陥落後は上下院の連立与党の票を固める工作をしてたのだから」

 

「ええ!?でも言ってることが全然違うように‥‥いや、いや、確かに‥‥軍周りとか確かに‥‥!」

 サラトクが声を上げる。

 

「 軍の再建、経済の立て直し……やるべきことは決まっているからな」

  ロイドは冷ややかな目で壇上のトリューニヒトを見る。ウィレム・ホーランド提督など参謀教育の欠如や体系的な大規模戦術や戦略・他軍種への理解の浅さや軍事行政との連携など、上級将校の軍功ベースの昇進による過剰なスペシャリスト化が問題となっている。

 若手の登用は人的資源の枯渇だけでなく育成ができていないということだ。

「だが、売り込み方が違う。サンフォードは『貧困星系を安心させよう』としている、トリューニヒトは『フェザーンと帝国を倒して強くなろう』と言う。政策は同じでも、視線の先が違うんだよ」」

 ロイドは目を細める

「全国委員たちが代議員たちにどう話をするかになるだろうな、こりゃ」

 

 

 

同日同時刻 カルディフ ミレニアム・スタジアム貴賓用ミーティングルーム

国民共和党 全国委員会幹部会

 

 

 もちろんローマ元老院の時からずっとそうであったように、議員たちによる実務的な意思決定は会場の喧騒から離れた会議室で行われる。

 全国委員会役員である一握りの白髪の男たちとピンと背筋を伸ばした女性たちがコーヒーを飲みながら、どちらの男が膨大な党員を乗せた国民共和党という超巨大船を(そしてあわよくば自由惑星同盟という更なる巨大な船を!)舵取りできるだろうかと思案している。

 

 バンボック・グラントフィールド全国委員長が見回す

「それで、皆さんはどうお考えですか?」

 

 下院議員団長のグロリア・スミスが毅然とした口調で口を開く。中道右派から保守派まで幅広い影響力を振るう対帝国タカ派の老婦人議員だ。

「難しいですね。何しろ状況が流動的すぎます。なすべきことが多すぎます。内政面においては無数の争点があっても争点が拡散しすぎており、選挙の争点にはなりません。逆に選挙の争点となる大方針で争う余地はないでしょう」

 コーヒーを口に含む。

「サンフォード総裁は党を揺さぶらず、連立に必要な駆け引きを心得ています。一方でトリューニヒトは‥‥‥華々しいこと、彼なら世論の求める姿を演じられるでしょう。得るものは非常に大きいかもしれません。ですが飲み込まれればこの船が転覆してしまうかも」

 

 バンボックが肩をすくめる。

「なるほど」

 

 同盟弁務官総会仮議長(国務委員長が総会議長を兼務するため事実上の議長となる)ジョージ・ホインズは全国委員会の顧問として発言する。上院では無所属ではあるが国民共和党の党員だ。

「上院は現在非常に微妙な状況です。ああ、皆さんの考えていることはわかりますよ」

 上院は邦権の擁護者であり連邦制の番人であり、それ故にまとまっているのはイゼルローン要塞への憎悪(とくに【縦深】たちのそれ)くらいだ。

「イゼルローン要塞という重しがなくなりました。経済回復に向けた要望は院内会派の集約だけでなく活発に行われるでしょう。最高評議員はひどく苦労するでしょうね」

 ミーティングルームに沈黙が降り、演説や討論が行われている生中継を眺める。

 

 国民を奮い立たせて突如として台頭してきた両極端な極右極左に対抗できる候補者が必要であった。イゼルローン要塞という重しが取れた同盟世論という複雑怪奇なびっくり箱から何が飛び出すのか?この複雑怪奇な連邦を統治する席を争う有力候補をどちらにするのか?

 少なくとも彼ら彼女らは誰を支援するのか決断しないといけない。

 

国民共和党の総裁は

  • 【親父さん】サンフォードの船に乗れ!
  • トリューニヒトを総裁へ!
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