腐り目、戦後の艦娘とともに   作:やっとぅー

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あぁ、共通テスト嫌だなぁ




先日終業式が執り行われ、ようやく待ちに待った夏休みがやってきた。

ある者は部活に励み、ある者は勉強に励む。

そんな各々に自由が与えられる期間、それが夏休みである。

もちろん俺は高校生活の折り返しを向かえる時期にあり、一切勉強をしないわけにもいかない。

宿題は初めの1週間で終わらせた、とまではいかないが、既に大半を終わらせて今後少しずつ消化していく予定だ。

 

何の為に?それは愚問である。

残りの日を目一杯バカンス(家)で満喫する為だ。

自分の部屋にこもってクーラーをガンガンにつけ、冷たいマッカンを飲みながらゲームやアニメを消化する。まさに天国。ゴートゥーヘブン。

って死んじゃうのかよ。

 

ただ一つ、問題が生じてしまった。

先程俺は『ある者は部活に励み、ある者は勉強に励む』と言った。

そう。『部活』である。

基本的に夏休みの間、学校がなく校内からの依頼がない為部活は休みになっている。

 

が、外部から学校に来る依頼、この場合はボランティア募集と言ったところだが、この案件になると話は別である。

何が言いたいかというと夏休みにも部活とあう労働に参加しなければならない。いや、賃金は発生しないから労働ではなくただのボランティア。発生するとしても内申程度だろうが、俺は元々成績は悪くないし貰ってもあまり嬉しくない。

 

ボランティアの内容は小学生の林間学校の手伝いをするというものだ。しかも一泊二日。

俺のバカンス計画に多少ズレが生じてしまうが、これくらいなら問題ない。だってずっとゴロゴロしたいだけだから。

 

そして今回も平塚先生による圧力で強制参加である。

さっき夏休みには自由が与えられると言ったが、どうやらアレは嘘だったらしい。

てか、今回の件は「どうせ俺が来るの嫌がるから」という理由で当日騙して強引に連れて行く予定だったらしい。怖いわ。

それもこれも吹雪がドジって俺に話してしまったことで台無しになった訳だ。

 

え?断らなかったのかって?

そりゃもちろんバカンスの為、断ろうとした。

でもさ、吹雪が涙目で上目遣いで「私、楽しみだったんですよ…?戸塚君も来るのに」って言って、君たち断れるの??

俺は無理だったよ。

 

今日はそのボランティアに必要な物を揃える為に、吹雪と2人でららぽーとに向かっている途中だ。

本当は家族5人で行く予定だったのだが、小町の宿題の目処が立ってなく期末試験もちょーっとマズかった為姉2人がつきっきりしている状態だ。

…アイツ、本当に総武高校受かるのか?姉達がいるからそこまで心配していないが…。

 

吹雪の服装はジーパンに青い無地のTシャツ、その上に白いパーカーを着ている。

なんというか、いつも出かける度にコーディネートって言って俺を着せ替え人形にする小町や大井姉と違って凄く楽だわ。

確かに見た目も大事かも知れないが、やはり機能性が大事だと思う。

こんなこと言ったらアイツらに怒鳴られそうだが…。

 

『次は南船橋ー南船橋ー』

 

「そろそろ着く頃だな」

「はい!電車も混んでますし、早めに降りたいですね」

 

そう、電車がめっちゃ混んでる。

俺らは夏休みであるが、社会人からすればただの平日だ。

彼らは夏休みシーズンの中お盆頃に訪れる、たった数日の休みの為に今日も出勤しなければならない。

この時期から休みを貰える社会人は少ないだろう。

幸い深海棲艦による打撃の復興中で働き口は多いし、こんな中皆一生懸命働いているのだろう。

結果的に、電車が物凄く混んでしまうのだ。てか俺の後ろにいるであろうおっさん、鼻息荒いしちょっと臭う。勘弁してください。

 

プシュー、と聞き慣れた音とともにドアが開く。

電車が破裂するかのように人が動き、俺らも巻き込まれる。

っておい。さっきのおっさんめっちゃグイグイ来るんだが。

電車降りてすぐにこんな人波に揉まれると凄く酔いそうだ…。

隣で同じように押しつぶされて死にそうになっている吹雪に声をかける。

 

「吹雪、とりあえずこの人波から抜けないか…」

「八幡兄さん、助けてくださいー!」

 

人に押しつぶされて、そんな!ダメです!って言っている吹雪の手を掴み、人波から脱出する。

幸いエスカレーターを一直線の列だった為、横にズレれば意外にも簡単に抜けることができた。

 

今もなおエスカレーターにギュウギュウ詰になっているスーツ集団を見て一言。

 

社畜って嫌だなぁ。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

流石夏休みのショッピングモール。

まだ午前なのにこの時間からめちゃくちゃ混んでるが、電車で耐性がついていたのかスムーズに買い物ができたと思う。

 

「虫除けやムヒも買ったし、後はお菓子ですね!」

「あいつ、遠足じゃねえんだから…」

 

小町からのメモにある大量のお菓子の名前の羅列に若干引きつつもメモ通りカゴにお菓子を放り込んだり、

 

「やっぱサイゼは神」

「私は大井先輩のご飯が1番です!」

「いやまあ、それはそう」

 

吹雪にサイゼの素晴らしさをスピーチしたり、

 

「どっ、どうでしょう…?」

「ん?世界一可愛い」

「えっ???///」

 

洋服店で白いワンピースを試着してる吹雪を見て、「雪ノ下さんも大井姉も似合いそうだけど、性格が真っ黒だからやっぱりダメだな」とか思ったり、

 

「ここは俺に任せろ」

「はいっ!あのぬいぐるみをお願いします!」

「…よし!ここだ!」

「おぉー引っかかった!……あ」

「…」

「そ、そういう時もありますよね〜。なんちゃって」

「はちまんおうちかえる」

「ま、待ってください!!」

 

……新たな黒歴史が生まれたりした。

 

「とっても楽しかったです!!」

「そりゃ良かった」

 

時刻はもうすぐ午後4時。

夏だから日没はまだまだだが、そろそろ帰ってもいい頃だ。

吹雪は本当に満足しているようだった。

 

「そろそろいい時間だし、帰るか?」

「あの…一つだけいいですか?」

「おう」

「海に…海に行きたいです」

「海、か…」

「はい…」

 

先程とは打って変わって少し不安な表情をしている吹雪。

こいつら、艦娘にとっての海とはなんだったのだろうか。

3年前、姉達とであってからずっと考えていた。

吹雪はどんな考えを持っているのだろう、気になった。

そういえば、北上姉達が吹雪について言ってたな。海に行けば何か掴めるかもしれん。

 

「よし、まだ時間はある。行こうぜ」

「…はい!」

「ところで海とは言ってもどこに行くんだ?」

「えっと、南船橋も海に近いですが、東京湾側なので被害は少ない方です。……そうですね。九十九里浜とかどうでしょう」

「真逆じゃねぇか。でもまあ、日没までは時間があるからな」

「そうですね。行きましょう、八幡兄さん」

「ああ」

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

南船橋から東に1時間半かけて九十九里浜までやってきた。

時刻は午後5時半。まだ明るい。

最寄りの駅から目的地まで歩きはじめ堤防へたどり着いた。

…やはり太平洋沿岸部はまだ他に比べると、ダメージが深い。

交戦中の流れ弾だろうが所々堤防に弾痕があったり、そのものが崩れたりしている。近隣の住宅も砲撃を受けていたのか、倒壊している場所もある。

今も高校生として普通に過ごしているから忘れかけていたが、この状態を見て今一度気が引き締められた気がした。

 

堤防を降り、ザッザッと砂浜を歩く。

 

「…」

「…」

 

吹雪は海が見えるようになってからずっと無言で海を見つめている。

いつも見ているような顔とは全くちがう、とても強い表情をしている。

それもそうだ。彼女達は命をかけてここで戦っていたのだから。

深海棲艦との戦闘を思い出しているのか、それとも艦娘としての思い出を振り返っているのか。それとも…

 

「…決して目を背けていた訳ではないんです」

「ああ」

「ただ封印から解放されて、今まで見てきたものは全て『守れたもの』だったんです。…こうして『守りきれなかったもの』を見るとですね…」

「ああ、そうだな」

 

そう言って吹雪の頭を撫でる。肩を震わせていた吹雪は嗚咽を漏らす。

本当なら、何か少しでも肩の荷が降りるような言葉をかけてやりたい。

「君が今生きているだけで十分だ」なんて言葉をかけられたら、とってもカッコいいお兄ちゃんだ。

でも俺はそんな言葉をかけられない。なぜなら俺も強いからだ。

だからこう言ってやるんだ。

 

「もっと自分が被害を受ければ、守れたものが増えたかもしれない」

「…え?」

「俺はぼっちなんだ。……ぼっちは強いんだぞ」

「…」

「正しいとか間違っているとかじゃないんだ。残酷なことに皆がハッピーより、誰か1人を悪にした方が効率がいい。そうだろ?」

「……ふふっ。そうですね」

 

泣き止んだ吹雪は顔を上げて、再び海を見つめる。

つられて俺も海を見つめる。もう少しで日が沈む。

段々と赤みがかっていく空。とても幻想的だ。

 

「八幡兄さんに会えて、よかったです。私、話したいことがあるんです」

「ああ、知ってた」

「それでは……ッ?!」

 

海からこちらに視線を戻そうとした吹雪が固まった。

 

「…これから話そうっていうのに、タイミングが悪いですね」

「何がどうしたっていうんだ」

「細かいことは後で話します。今は手短に話します」

「…わかった」

 

そう言うと吹雪は満足そうに頷いて、海を指さす。

 

「奴らが、来ます」

「奴らって……あ、アレはッ!」

「そう、深海棲艦です」

「この際、理由は聞かない。俺はどうすればいい?逃げて助けでも呼ぶか?」

「いえ、実は私にはまだ艦娘の力が残されています。でも半分人間でもあります。前のように自ら艤装を展開することができません」

「元より、私たちは自分だけでも十分戦えるのですが、一つの存在があるだけで更なるパワーアップができます」

「恐らくその条件を満たせば、私はまた艦娘として戦えるはずです」

 

そう言って吹雪は強気に微笑みながら俺に手を差し伸べる。

 

「八幡兄さん。私の『司令官』になっていただけませんか?」

 

俺はその姿に笑いながら手を掴む。

 

「俺たちは似てるからな。わかった」

 

その瞬間、吹雪の姿が変わった。

俺と吹雪が初めて出会った時に着ていたセーラー服。

前と違うのは背中に抱える鉄の塊、右手に持つ主砲、足にかかる魚雷。

『駆逐艦』吹雪である。

 

吹雪はこちらを見つめて微笑み、また海を見つめる。

そして、

 

「駆逐艦、吹雪!出撃します!!」

 

海へと飛び込んでいった。




先程、お気に入り100件になっていました。
ありがとうございます!
これから少しシリアスが増える予定です。
よろしくお願い致します。
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