インフィニット・ストラトス 最強と天才の幼馴染 (更新終了) 作:灰崎 快人
「お?」
突然かけられた声に一夏が振り向いて、箒の手はするりと宙をかすめてしまう。
しかし、みっともない姿を見られまいとして、箒は狙いを外したその手をそのまま髪に持って行き、乱れを直すような仕草を振る舞った。
(ああもう誰だ!私たちの邪魔をするのは!)
「おー、鈴か」
(な……何故コイツがここに居るのだ!?)
箒が驚くのも無理はない。この祭りにはこないと思っていた人物が今目の前に居るのだから、さらにその後ろでは見知った顔達がたこ焼きを頬張っている。千春からは口パクで「すまん止められなかった」と読み取れた。
「奇遇ね、アンタも来てたのね」
「あぁ。ここは幼い頃に剣を習ったところだからな、それに箒が舞を踊ったし」
「ふーん、まぁ篠ノ之神社だしね」
そう答える鈴は、偶然にも箒と同じく浴衣姿だった。髪はいつものようにツインテールでは無く、後ろで一つにまとめている。
「鈴の浴衣姿って久しぶりに見たな。洋服の印象しか無かったけど和服も似合うな」
「当然。まぁありがとうね」
少し赤く染まったその頬を隠すように、ややうつむきながらも笑顔でそう答える鈴。
その様子から恋心を察した箒は、警戒センサーの感度を抜群に跳ね上げた。
「鈴が来てるって事は、セシリア達も来てるのか?」
「勿論来てるわよ。だけど私たちだけじゃ危ないって言われて、山田先生と千春さん千冬さんも来てるわよ」
なるほど。だから今現在千春は屋台を連れ回されているのかと感心する一夏の隣では苦労している人なんだなと苦笑いをしている箒の姿があった、
「千春さんと千冬さんは懐かしいって呟いてたわね」
それもそのはず。千冬はIS学園の教職員として活躍しているよりも前から日本代表として活躍してた、そんな繁忙期にお祭りなどと楽しんでる余裕はない。
千春は彼女の補助を行いドイツ軍に一年所属した後、倉持技研に就職していた。その際に打鉄弐式の開発チームへと渡っていたため慌ただしく、家に帰らず寝泊まりしていたことも少なくない。
「二人ともこの祭りには参加していたからな……巫女として」
「何言ってるんだよ箒、千春は男だから巫女じゃないだろ?」
「いや男の巫女も存在するんだ。その場合読み方は巫女では無く
今は呼ばれ方も変わっている可能性もあるが、たしかそんな呼ばれ方だったと思う。
そんな豆知識を披露するが、一夏は興味がなさそうにへぇーと答えた。
「とりあえず一緒に回るか?」
予想通りの朴念仁ぶりを発揮する一夏にがくりっと頭を垂れる二人。
だが今回ばかりはこれで良かったのかも知れない、千春が心配そうにこちらを見ていたがいつも通りの彼を見て安心していた。
「じゃあ色々見て回るか」
「そうだな」「そうね」
一夏を真ん中に置いて、右を鈴、左に箒が並んで歩く。大盛況の夏祭りには、親子連れや子連れ、そして恋人連れが大勢いた。
(これはチャンスだ。一夏と近づける絶好の機会!よし……頑張れ私!)
(千春さん達がついてきたときはどうなるかと思ったけど、あっちはあっちで忙しいみたいだしラッキー!楽しみながらも近づけるチャンス!)
二人ともチラチラと一夏の横顔を覗きながら、二人は人知れず気合いを入れていた。
(しかし一夏の唐変木ぶりには慣れたつもりだったが、ここまで変わらないとはな……案の定私以外の浴衣姿も褒めるし)
そう思いつつも、どこか憎みきれない。そんな自分の甘さもあって、箒はなんとなくモヤモヤした気持ちを蓄積していったのであった。
(しかしさっきは……か、間接キスしたし、な。ふふふっ♪)
それはある人からしてみれば小さな幸せかもしれないが、当人に取ってはその幸せが乗っている手が自らの物であれば十分なのだ。
その思いを大切に包み込むように、箒はそっと重ねた両手をお互いに包み込んだ。
「鈴ってこういったお祭りには来たことあるのか?」
「まぁある程度ね。と言っても本当に昔だけど」
箒が引っ越してしまった際に、このお祭りも一時期止まってしまった。こうして鈴と祭りに来ること自体初めてかもしてない。
着慣れていないかも知れないが、鈴なら問題無いと思ってしまう。
「あっ!あれやろう一夏!」
びしっ!と鈴が指さしたのは射的屋だった。
射的屋の仕組みは従来の物と変わらず、コルクを銃に詰めて発射する方式だ。コルク銃の威力はたかが知れており飛距離は2メートルあれば良い方だろう、それに殺傷能力も無いから銃刀法違反にもならない。
「おっ。もしかして得意なのか?」
「勿論。一応軍人してたからね」
鈴は元々中国の軍に所属していたこともあり銃の扱いは器用なのかも知れない、だけどこれはコルクだ。実銃とは全く違う弾道を描くことがあるかもしれない。
(ふふん~実際はそこまで得意じゃ無いけど自分でもそこそこだと思うし、一つくらいは取れるでしょ!)
「というわけで、行こうぜ。箒、あんまり離れるとはぐれるぞ。ほら」
そう言ってさらりと箒の手を引き、鈴も連れて射的屋に向かう一夏。
それぞれ手を握られた女子の心境など、おおよそ知るよしもないのだろう。
「いらっしゃーい」
「おじさん。三人分ください」
「両手に花とは羨ましいね~。よしっ、おまけは無しだ!」
「えっ!?いや負けてくださいよ。せめて女子の分だけでも」
「はっはっはっ。無論断る」
豪快な笑顔でそんなことを言う射的屋の大将は、浅黒く焼けた肌に白いTシャツを型までまくりあげて筋肉隆々な腕を見せつけている。多分千春より凄い。気はいい人なようなので、一夏はそのまま三人分の代金を払った。
「まいど。お兄ちゃん甲斐性あるな?女の分も払うとは、最近のガキにしちゃ珍しい」
「でしょう?だからおまけを――」
「断然断る。モテるやつは男の敵だ。がはは」
気はいいが交渉の余地はないようだった。一夏たちはそれぞれに鉄砲を受け取り、コルクの弾を込めて構える。
「…………」
表情は真剣そのもの、スナイパーの様な眼差しで狙いをつける鈴。その雰囲気はいつもとは違っていて、触れればキレるコンバットナイフのようで一種近寄りがたいものであった。
(訓練で銃の扱いは一通り習ってるから大丈夫なはず……!)
数秒前の自分が恨めしい。とっさに出た提案は、完全に墓穴になってしまっていた。
「本格的だな鈴。頑張れ」
「当然!」
集中力を切らさないために、脊髄反射でそう答えてしまう。
(素っ気ない態度取ったけど、こうでもしないと集中できないのよね!)
しかし時間をかければかけるほど一夏だけでは無く周囲の客の期待値までも高くなってしまう。
(ここはささっと実力見せて終わらせちゃお!それでダメだったら一夏に教えて貰えば良いだけだし!)
そう、もしかしたら手取り足取り教えてくれる可能性もある。だが相手は一夏だ。過度な期待は出来ないのが悩ましい。
そんなピンクグレープフルーツ色の考えが膨らんだと同時に、ぱーんっとコルク玉が発射された。
「「おっ?」」
「おおっ?」
「おうおうおうおうおっうおうおっwwwwwwwwパンッパァンッパァンッ(ヒレを叩く音)おうっおうおっおうおうおうおwwwwおうっっおうおうおうおうおっwwwwwwwwパァンッパァンッ(ヒレを叩く音)おうおうおうおっっwwwwおうおうっおうっおうっwwwおうおうおうおっwwwうおっw」
「おい今何か居たぞ」
ぺしっ。――――ぱたん。
札が倒れる音がした。恐る恐る倒した札を見てみると――
「その鉄の札を倒すとは……え、液晶テレビ当たり~~~~~!?」
「えっ?えっ?」
鈴が無意識のうちに撃った弾が難易度最大だったであろう獲物を落としたようで、射的屋の大将はもちろん周囲の観客、それに一夏も多いに盛り上がっていた。
「すげーなお嬢ちゃん!絶対に倒れないようにして――あ、いやなんでもない」
「はぁ……」
「液晶テレビを狙うなんて、凄いな。しかもゲットしてるし。いや凄い」
一夏は感心したような様子でパチパチと大きな拍手をする。それに釣られて周囲の観客もまばらながらに手を叩いて、次第にその輪は大きくなっていく。
「赤字だ赤字!ちくしょう持って行け~!」
「ど、どうも……」
やや大きめの包み、しかし代表候補生が持てないと言うわけがない。それを受け取った鈴の表情は複雑な物だった。
「よかったな」
「良かったのかしらね……」
これどうしようと悩んでいる鈴に、一夏は「?」マークを頭の上に浮かべるのだった。
一方、逆方向の箒はというと。
「ふっ!」
五発目の弾丸を撃ち景品をしっかりとおとしていた。
「よし、昔よりはマシになってるな」
「箒は弓のほうが向いてると思ったけど、銃も悪くないのかもな。だけどもう少し構え方を変えた方が――」
説明しながら、直接体を触っての指導までされて、箒は仏頂面の下では大変なことになっていた。
(わあああっ!?近い近いっ!手が!手がっ、体に触れてっ!?い、息が顔にかかる……離れて……)
欲しくはない、ないのだが。
「こんな感じだな。どうだ?わかったか?」
「う、うむ」
「じゃあ撃ってみろよ。ちゃんと狙えよ?」
「わかっている」
つい語調を強めてしまう、「あっ」と思った瞬間と同時に引き金が引かれた。
べしーん。――ボトン。
「おっ!ぬいぐるみに当たったな」
少し大きめのそれは、クッションとしても使えそうなくらいのサイズのウマのぬいぐるみだった。
無垢な瞳が鉄砲で落とされてしまったことに無言の抗議をしているように見えなくもない、気のせいだと思うが。
「嬢ちゃんも上手いことやったなぁ~今日は大損だ」
「隣のぬいぐるみが良かったのだが……」
「うん?」
「いえ、なんでも」
そう言って受け取る箒は、狙いの物とは違ってしまった景品でありながらも、その顔は妙に嬉しそうだった。