インフィニット・ストラトス 最強と天才の幼馴染 (更新終了) 作:灰崎 快人
「ん~鈴のやつ遅いな……」
「そうだな」
あれから色々と屋台を回り、遊び、食べ、歩いた。
時間は八時を過ぎていて、もうそろそろ花火が始まってしまう時間になる。
「迷子って事は無いと思うんだが……大丈夫か?」
今席を外している鈴は、やはりと言うか当たり前だが液晶テレビが荷物として邪魔になり、それを千春に引き取って貰うために彼らを探しに境内を歩き回っている様子だった。
近くに居ると思うから、と言って二人を神社の水飲み場に残していった鈴だが、一向に戻ってくる気配がない。
探しに行こうかと一夏が考えたところで、数人の人影がこちらに歩み寄ってきてた。
「ごめん遅くなった」
「大丈夫だったか?って皆も来てたのか」
鈴の後ろにはセシリアやシャルロット、ラウラ、簪、そして千春の姿があった。山田先生は酒の入った千冬の介護をしながら、おつまみになりそうな屋台を歩き回っていた。祭りに行きたいと言っていた楯無さんは案の定仕事が終わるわけも無く、今頃泣きながら書類と睨めっこしているだろう。お土産くらは買って帰ろう。
鈴の当てた液晶テレビは千春の車のトランクに預けて、祭りが終わり次第学園に運んで行く予定だ。この時ばかりは学園用の車を借りてきて正解だったと思う
「時間的にそろそろ花火か……ならあそこに行くか」
「あそこ?」
「とっておきの場所があるんだよ」
そう言ってそのまま神社裏の林へと向かう。
(人気の無いところに……というかこんな所が?)
過去に住んでいた家とは言えまだ知らなかった事があったとは驚きだった。
千春の後を着いていくと、林を抜けたところで穴場のようなものがあった。
背の高い針葉樹が集まって出来たこの裏の林は、ある一角だけが天窓を開けたように開いている。
それはまるで季節を切り抜いた絵のようで、春は朝焼け、夏は花火、秋は満月、冬は雪と、色とりどり四季折々の風景を見せてくれる秘密の場所だった。知っているのは束、千冬そして千春の三人だけだった。
「ここも変わってないな~」
そんな千春の声は透き通っていた。
りぃん、りぃん、と虫の音だけが響く人気の無い林。わずかに吹く風が、夏の暑い空気を流してくれる。
そんな場所で男二人と女六人、何も起こらないはずもなく……
女性陣の視線は少しばかり光っているように見えた。しかしその視線を浴びている二人はそれに気づいていない様子で空の窓を見つめている。
(こ、これは。こっ、告白のチャンスと言わんばかりの場所では無いか!?)
誰に聞いているかと訊かれれば、こう答えよう。『
(ううううっ……?)
じいっと一夏を見つめる箒。しかし別の視線を感じ取りその方へ目を向ける。
「…………」
そこには鈴がいた。彼女の顔はだんだんと赤く染まっていき、気温とは関係のない汗がにじみ出していた。それを見たとき自身にも同じ事が起きていると気づいてしまった。
鈴は自分と同じ幼馴染みであり一夏と親しかった、だが一度だけ彼女は一夏から距離を置いて様子を改めることにした。その原因とも言えるものが改善されてきているのだろうか?それは彼を見ている人物にしか分からない。
(あぁ、鈴もまた一夏に――そうか)
そんな二人の視線を受けながらもなお一夏は空を見上げていた。
一方そのころ。千春の方はと言うと。
「少し離れるか」
三人を邪魔しないように少し距離を取っていた。
その光景に違和感を憶えながらも、左腕にセシリア、右腕にシャルロットがくっついている。そして胸に背を預けるように立っているラウラ、夜空を見上げてその場を楽しんでいる簪の姿があった。
「三人で花火見ていたのが懐かしい……今じゃそんなことすら叶わない」
彼の表情は少し暗かった。子供の頃の思い出は思い出補正がかかってしまいがちになる、だが三人で過ごした日々は楽しかったことに違いは無い。
毎年の花火で千冬と束に何か言われるが、毎回花火が上がってしまってその言葉を聞けていない。聞き返しても「なんでもない」と言われてしまう、いつかその言葉が聞ける時が来るのだろうか?それとも既に聞いてしまっているのかもしれない。
(いや今はそんなことを考えるべきでは無いか、今は彼女達が居るのだから)
「千春さん」
「どうした?」
「月が綺麗ですね」
月……?確かに月は出ているがどうしたのだろうか?シャルロットは三日月が好きなのだろうか?それともこの場所で見る夜空は別格だったのだろうか?
「そうだな。きっと今なら手が届くかもな」
そう答えると彼女は頬を少し赤く染めた、何かしてしまっただろうか?それとも夏の暑さにあてられてしまったのだろうか?
「黒神さん」
今度はセシリアから声をかけられた。セシリアも何か思うことがあったのだろうか?ラウラに至ってはシャルロットを少し睨んでいるように見える。簪はなにか分かったのか口に手を当てている、後で訊いてみることにしよう。
「星が綺麗ですわね」
「そうだな、願い事祈ったら叶うかもしれないな?」
再び彼が答えると、シャルロットと同じように頬を赤くしてうつむいてしまった。本当に何かしでかしていないかと心配になってくる。
「教官」
今度はラウラか……
「Der Mond ist schön, oder?」
ドイツ語で来たか。ならこっちもドイツ語で返すとしよう。
「Ich stimme zu. Aber Laura ist hübscher.」
そう答えると、ラウラは頭から湯気を出してしまった。普通に褒めただけだがダメだったのだろうか?
「黒神さんは罪作りですね」
クスクス笑ってるがしっかり聞こえてるからな?
後々分かってくるんだろうが、変に答えていると考えてしまったら恐ろしい。
ド――――ン!!
「始まったな花火」
この花火大会は百連発で有名で、一度はじまると一時間以上ぶっ通しで轟音と夜空の彩りが続く。
「一人で見るよりも、皆で見た方が良いよな」
ポツリと呟いたその言葉は、誰の耳にも入ることも無く轟音にかき消されていく。
パッ、パパッ!と花火が瞬くたびに、楽しそうに夜空を見上げる皆の表情が照らされる。
そんな無邪気な顔を見てしまうと、やっぱりまだ子供だなと思ってしまう。自分もそんな表情を浮かべているのに。
――今は、こうして楽しめているだけで十分だな。
赤、青、緑、黄色と様々な色の花火が多くの観客を楽しませている。
「いいものだな」
空を見つめながら笑みを浮かべる、その時だけは童心にかえったと後から思ってしまった。
『またいつかここで花火を見よう』
そんな約束をしていたことを思い出す。その約束はまだ成されていないが、事が終わり次第叶えよう。
再び花火の光に照らされた千春の横顔は、若返ったかのような笑みを浮かべていた。
「皆疲れて寝ちゃったか」
「皆まだ子供ですからね、体力使い切っちゃいましたね」
十人乗りのキャラバンを運転しながらも、寝てしまった皆の顔を伺う。
一夏達は勿論のこと千冬も幸せそうに眠っていた。お酒が入っている事も原因の一つだろう。そんな千冬とは違って山田先生はお酒が入ってるのにもかかわらず起きてくれていた。
「山田先生も寝て良いんですよ?」
「いえいえ、皆さんを部屋に運ばないとですから」
そう言ってくれるのはありがたい、だが無理させたくはないと思ってしまう。
……そういえばこの近くだったな。
「IS学園では無く家に止まりますか?」
「千春さんのお家ですか?」
「えぇ。それなら昼頃に戻れますから」
ぽかーんとした表情を浮かべる山田先生。まぁ急に家に泊まりに来ませんかって言ったら驚くか。
「いや、やっぱり辞めときますか」
自分で言っておきながら無いなと思って帰路に入る。
「いえいえ楽しみです、千春さんのお家」
「……じゃあそうしましょうか」
自宅へと帰路を変更し夜道を進んでいく。一人で住むには広い家だった、皆が寝れるくらいの布団はあったはず……無かったら川の字で寝かせれば良いだけだ。