インフィニット・ストラトス 最強と天才の幼馴染 (更新終了) 作:灰崎 快人
「というわけだから、部屋替わって」
「ふざけるな!何故私がそのようなことをしなければならない!」
寮の部屋前、時刻は八時を過ぎた。特訓が終わり夕食を済ませた俺は、くつろいでいた状態でお茶を入れていたところ……いきなり鈴が部屋の前にやってきて、現在この状態へとなった。一体何の用なのだろうかと、俺は二人の会話を聞くことにした。
「いやぁ、篠ノ之さんも男と同室なんて嫌でしょ?気を遣うし、のんびりできないと思うからさ。その辺、あたしは平気だから替わってあげようかなって思ってさ。」
「別にイヤとは言っていない、それにだ!これは私と一夏の問題だ。部外者に首を突っ込んで欲しくは無い!」
「大丈夫、あたしも幼馴染だから」
「それが何の理由になるというのだ!」
こんな感じだ、全然話が進まない。というか噛み合っていない。鈴は鈴で我が道を行く性格だし、箒は箒で人一倍頑固者だ。どう考えても会話が成立するとは思えないし、平和的解決も望めなさそうだ。二十何世紀を過ぎても人は争いあう運命ということか。業の深いことだな。
というか俺の幻覚か?鈴は既に荷物をまとめたかのように見える、やはり幻覚なのだろうか……それは鈴に聞けばわかることか。
織斑との特訓が終わりリラックスタイムとなった俺は、千冬に今回の成果と課題点を話していた。織斑は千冬の戦闘スタイルを真似ているようなことが多く見られる状態だ。だがそれは当の本人にしか扱えない、仮に真似ができたとしても劣化という点には変わらないものだった。既存の戦闘スタイルよりも、自分自身にあった戦闘スタイルを組んだ方が今よりも成長に繋がる。
そんな話をしながらレモン水を飲んでいると、上の階から何やら騒がしい声が聞こえてきた。大体問題を起こすのは織斑と箒だけである。だが聞いた事の無い声も聞こえてきた、一体誰だ?
「また問題を起こしたのか。確認するのも面倒だな」
そんな事言って良いのか?仮にも教師だろうに……全くお酒を飲むといつもこうだな。
「俺が見てこようか?千冬酒飲んだろ?」
「何を言っている、飲んでいないぞ?」
ほう?しらを切るのか……ならしょうがない。
「じゃあこのゴミ箱に捨ててある缶はなんだろうな~」
「それは昨日の……」
「昨日のゴミは今日の朝捨てたんだよな~」
千冬は管理が雑だ、今日着ていた服をそのまま置いておく女だ。ゴミ箱がいっぱいになっても気がつかないから、俺が管理している。もう慣れてきたが、彼女は下着もそのままにするので洗濯かごに全て入れているからな。今までどうしていたのか逆に気になる。
「何か異論はあるかな?」
「……無いです」
捨てられた子犬みたいな表情を浮かべるなよ……こっちが悪いみたいじゃないか。だがお酒を飲んでいないと嘘をついたことは許さないがな?
「じゃあ俺見てくるから」
「あぁ、何があったのか教えてくれ」
そう言って俺は部屋を出て問題の起きているであろう織斑たちの部屋に行った。ついでに千冬が箱買いしたお酒はロックつきの戸棚に保管した、部屋から何か聞こえるが……気にしないでおくとしよう。きっと帰ってくるころには泣きつきながら懇願してくるだろうからな。
「鈴、それ荷物全部か?」
「そうだよ。あたしはボストンバックひとつあれば何処にでもいけるからね」
幻覚ではなかった。それにしても相変わらずフットワークの軽いやつだな!箒も女子にしては荷物が少ないが、鈴の方がさらに少ないというか少なすぎだ。昔の話になるが、鈴に「いつでも家出ができるようにかと」と冗談で言ったら本気で怒ったことがある、なのでもう言わないことにしている。
セシリアとか千春はどのくらいなんだろう?見た事無いから良くわからないが。まぁ他人のことに首を突っ込むのは避けておいた方がいいか、誰だって首突っ込まれたくないだろうし。
「とにかく、今日からあたしもここで暮らすから」
「ふざけるな!今すぐに出て行け!ここは私の部屋だ!」
「『一夏の部屋』でもあるんでしょ?じゃあ問題ないじゃん」
同意を求めるようにこちらを向いてくる、箒も同じようにこちらを向いてくる。鈴に出て行けという意見を欲しているように見える……というか睨まれている気がする。何故俺に全て振ってくるんだ。こうされるととにかく頭が痛い、半分優しさで出来ている錠剤かCAS登録番号: 68767-14-6の錠剤が必要だな。
「とにかく!部屋は替わらない!さっさと自分の部屋に戻れ!」
「ところでさ一夏、約束覚えてくれてる?」
「無視をするな!こうなったら力づくで……!」
激昂した箒はいつでも取れるようにベットの横に裸で立てかけてあった竹刀を握る。
「あっ、馬鹿―――」
止められる暇は無い。箒は完全に冷静さを失っている、防具も何も身に着けていない鈴にその剣先を振り下ろす。
バシィンッ!という物凄い音が響き渡った瞬間、俺は目を閉じてしまった……危険なことが目の前で起きてしまったら、誰でも閉じてしまうのではないのか?
「鈴大丈夫か!」
「大丈夫に決まってるじゃん。今の私は、代表候補生なんだから」
閉じた瞳を開けてみる。確実にヒットしたしたと思われた打撃は、ISを部分展開を右腕によってしっかりと受け止められていた。
誰よりも驚いていたのは箒だった。いくらISの展開が速くとも、その判断を下すのはそのISの操縦者であり所有者でもある生身の人間だ。ISの展開速度は人間の反射限界を超えないようにはなっているらしい。
そしてさっきの打撃は、おおよそではあるが素人が土壇場で対処できるレベルのものではなかった。つまり鈴自身がかなり強いという単純かつ明朗な答えがそこにはあった。
「ていうか、今の生身の人間なら本気で危ないよ?」
怒りに任せて自制心を失ったという指摘が何より効いたのか、箒はとてもバツが悪そうに顔を逸らしていた。
「まぁいいけどね」
細かいことは気にしないとばかりにからっとした態度で、鈴はISの部分展開を解除する。スマートな装甲を纏った右腕がぱっと光り、元の状態へと戻った。
気まずい雰囲気が漂っている中、コツコツと足音が近づいてくる。誰かと思い音のした方を向く、そこにはラフな格好をした千春の姿だった。
「うるさいぞ、何をしている!」
「おっさん、こんなところで何してるの?」
問題のある織斑たちの部屋にたどり着くとそこにはあの少女が立っていた。それにしても相変わらず口の悪いやつだ、こんなのが候補生なんて中国も苦労しているんだろうな。まぁほかのことでも問題を抱えていそうだがな。
「お前か……常識が無いのか?こんな時間に騒ぎを起こすな」
八時になったのなら静かに部屋で自主学習でもしてろ、何もすることが無いのであれば寝ていればいい。本来ならばリラックスできる時間帯だというのに、何でこう問題を起こしてくれるのか。
「私だって起こしたくは無いわ、この子が部屋を交換してくれないから―――」
「お前馬鹿なのか?そう簡単に部屋が変えられるわけ無いだろう」
何故部屋を交換できると思ったんだ?こいつには常識が無いのか……それとも自分の思った通りに世界が回っているとっでも思っているのか?呆れたものだな。本当に交換してほしいなら教師などに頼み込めばいいだろう。
「なんですって!」
「部屋を変えたいのなら織斑先生に直接言え、それで無理ならあきらめろ」
まぁ言ったところで何も変わりはしないだろうがな、逆にわがままだと言われて怒られるだけだ。
「わかったかガキ」
「偉そうに……何様のつもりよ!」
そう言ってISを部分展開し、俺を殴り飛ばそうとしてくる。こいつは沸点が低いな……まぁいいやとりあえず受け止めるとするか。ID展開、Connect……construction。部分展開右腕部を選択、展開まで0.01秒……展開完了!
展開を終えたIDを腕部に纏い少女の拳を受け止める。受け止められるとは思われなかったのか、驚愕の表情を浮かべている。他の二人も彼女と似たような表情をしていた、そんなに驚くことか?
「危ないだろ、それにこんなところでISを展開するな!このことは報告させてもらう」
「誰によ!」
「織斑先生に決まっているだろう、問題児なら織斑先生に報告するのが先決だ」
千冬の事を出せば大体は引っ込む、虎の威を借る狐のようだが……いや虎どころではないな。魔王だな。
「くっ……」
「篠ノ之箒、お前もだ」
「何故だ!私は―――」
「この小さいのをその手に持っている竹刀で叩こうとしたのだろう?防げたみたいだが、これが当たっていたらどうなっていたか良く考えろ。でなければお前は剣を持つ資格はない」
昔、俺にも荒れていた時期がある。そのときに千冬にも似たようなことを言われたものだ。「命を奪えるほどの力をぞんざいに扱うな、力とは誰かを護るためのものなのだから」荒れていたこともあり、その言葉を言われて一度剣の道は外れてしまっている。今の俺にはそれが出来ているのだろうか?それは誰にもわからないだろう、わかっている人物が居たとしたらそれは千冬なのかもしれないな。
「良く考えろ、お前の欠点を理解しろ」
今の自分にも言い聞かせるようそう呟き、千冬の居る部屋へと戻っていった。
「二人とも、大丈夫か?」
青ざめた表情を浮かべた目の前の二人を今は元に戻すしかない。それにしてもこんなタイミングで来るなんて……タイミングが良すぎる、意外と近くの部屋に居るのか?
「大丈夫だと思う?最悪よ……」
「あぁ最悪だ、まさかあの人が来るなんて」
「まだ千冬姉が来なかっただけ良かったじゃないか」
千冬姉が来たら絶対に俺も巻き込まれて説教モードになる、それだけは避けたかったんだよな~、いや明日そうなるのかもしれないけど……
「まぁそれもそうね、それで一夏」
「約束だろ?」
「覚えてるよね?」
「あれか?鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を―――」
「そうそう!」
「―――おごってくれるってやつか?」
確か俺が小学生の頃に薄っすらとそんな約束をしたことを覚えている。良くそんなこと覚えているな、俺の記憶力は凄いな。千冬姉に叩かれてはいるものの、俺の脳細胞はちゃんと仕事をしているようだ。
「はい?」
「だから、鈴が料理出来るようになったら、俺にメシをごちそうしてくれるって話だろ?」
こんなにもありがたい話は無い、なにしろタダで飯が食えるんだからな。
「いやしかし、俺は自分の記憶力に関心がな―――」
パアンッ!という音と同時に俺の視界が右に動く。何がおきたのかわからなかった俺は、「へ?」と間抜けな声を出してしまう。
「えっ、えーと?」
どうやら頬を引っ叩かれたらしい。箒のほうに目線を合わせると、向こうも状況が把握できていないようだった。俺もあんまり理解できない状態であることには変わらない。
「最低!女の子との約束も覚えてないなんて!男の風上にも置けないヤツ!犬にかまれて死ね!」
そこからの鈴の行動は早かった。床に置いてあったバックをひったくりの様に持って、ドアを蹴破るという勢いで出て行く。ドアの閉まる強い音が響き渡り、その音で俺は我に返った。
「……まずい、怒らせちまった」
おそらく俺が悪いんだろう、たぶん。それにしても、男の風上にも置けないやつというのは……少し頭にくるぞ?それにそこまで言われるほどの約束ではなかったはずだ。いやしかし……泣いてたよなあれ絶対。
「一夏」
「おう、なんだ箒」
「馬に蹴られて死ね」
何故か箒もご立腹だ、しかも今になって頬が痛く感じる。明日までには消えてほしい痛みだな……消えなければ明日のクラスメイトの質問攻めに遭うだけだ、あれは何度体験してもなれるものではないけど。そう言えば女子っていきなり会話が飛んだりするよな?なんで飛ぶのかはわからないが、正直あれにはついて行けない。
「はぁ……」
とりあえず寝よう、まだ九時前だが。起きていては仕方が無い。それに箒もご立腹だ、起きていてもいい事は無いだろう。
明日になれば状況は変わっているんだろうか?いやそんな事は無いか、女は喜びや怒りの感情が男よりも三倍長持ちするらしいし。はぁ……ため息が尽きないな。
さて、千冬に説明しに行くか。相変わらずあの二人は問題が多すぎる、いつまでもあのままで居るのであれば部屋を分けることを提案させるか。
ん?なんか後ろから物音が近づいt―――
「オゴッ!?」
突然、背後から物凄い勢いで何かがぶつかってきた。普通こんなことにはならないだろう、それにこんな時間に生徒は居ない。つまりぶつかってきたのは……
「痛っ何処見てるのよ!」
この問題児だった、背中にぶつかってきてなんだその言い草は?廊下では走らないって教わらなかったのか?
「あんた……なんでこんなところに」
それはこっちの台詞だ。何でこいつは全力疾走で俺にぶつかってきたのか甚だ疑問である。ボストンバックを持っているあたり、同居はあきらめたみたいだが……なんでこいつは泣いているんだ?
「そういうお前は何で泣いている?」
「泣いてないわよ」
あくまでも自分は泣いていないと主張してるのか……これ以上面倒なことに首を突っ込む気にはなれない、それにこいつにとって俺は「おっさん」らしいからな。
「あっそ、じゃあ部外者はさっさと去りますかね」
そう言って部屋に戻ろうとするが、小さいのはその場に蹲って動こうとしない……これを放置しておくわけにはいかないよな、正直気は乗らないが仕方が無い。
「何があったかだけ聞いてやる。休憩スペースに場所を移すぞ」
そう言うと小さいのも了承したのか、コクリと小さく頷いた。まったく、織斑一夏の周りの人間はなんとも言えないやつらが多いな。