インフィニット・ストラトス 最強と天才の幼馴染 (更新終了) 作:灰崎 快人
こんな……こんなところでも貴方に頼らなければいけないか。私は確かに相手の力量と技量を見誤った。それは間違えようのないミスだ。しかしそれでも―――
(貴方にだけはこんな無様な姿を見せたくなかった)
ラウラ・ボーデヴィッヒ。それが私の名前。この名は識別上の記号ではない。この名がつけられる前、最初につけられた記号は―――遺伝子強化試験体C-0037。
人工合成された遺伝子から作られ、鉄の子宮から生まれた。暗い、暗い闇の中に私はいた。
私はただ戦いのためだけに作られ、生まれ、育てられ、鍛えられた。最初に知ったのはいかにして人体を攻撃するかという知識、分かっているのはどうすれば敵軍に打撃を与えられるかという戦略。
格闘を覚え、銃を習い、各種兵器の操縦法を体得した。私は軍の中でも優秀であった。性能面において、過去最高レベルを記録し続けた。それがある時、世界最強の兵器、ISが現れたことで世界は一変した。その適合向上の為に行われた処置『ヴォーダン・オージェ』によって変異が生まれてしまったのだ。
『ヴォーダン・オージェ』は疑似ハイパーセンサーとも呼ぶべきものだ。それは脳への視覚信号伝達の爆発的な速度向上と、超高速戦闘状況下における胴体反射の強化を目的とした、肉眼へのナノマシーン移植処理のことを指す。そしてその処置を施した目のことを『
危険性はまったくない、不具合も起きない。だがそれは理論上の話だった。この処置を受けた私の左目は金色へと変質し、常に稼動状態のままカットできない制御不能状態へと陥ってしまった。
そしてこの『事故』により私は部隊の中でもIS訓練において後れを取ることとなった。そしていつしかトップの座から転落した私を待っていたのは、部隊員からの嘲笑と侮蔑、そして『出来損ない』の烙印だった。
世界はISによって一変した。私は闇からより深い闇へと、止まることなく転げ落ちていった。
そんな私が、初めて光を目にした。それが教官と副教官……織斑千冬と黒神千春との出会いだった。
「お前こんなところで何してるんだ?」
「貴方は?」
「俺か?織斑千冬の付き添い、荷物持ちってやつだよ」
「何故こんなところに?」
「部隊員の資料を見ながら一人ひとり確認してたんだが、お前だけいなかったからな。探しに来たんだよ」
「……そうですか」
「ともあれ見つかったんだ、行こうぜ?えっと……なんて名前だっけ?」
「C-0037です」
「それ名前って言うのか?まさかほかの奴らもこんな感じなのか?」
「分かりません」
「そうか……じゃあ俺が名づけてやろうか?」
「結構です」
「じゃあこのまま連れて行くからな」
そう言って彼は私を持ち上げて皆が集まっている場所へと移動させられる、正直恥ずかしかった。
「千冬、この子か?成績が悪いって子は」
「あぁ、ここ最近の成績は振るわないようだが、何心配するな。一ヶ月で部隊内最強の地位へと戻れるだろう。なにせ、私たちが教えるのだからな」
「え?俺が何か教えれることはあるのか?」
「もちろんだ。お前は普通だと思っているのだろうが、ISに真正面から立ち向かえるのなんてお前くらいだぞ?」
「俺のことなんだと思ってるんだよ」
「異人」
その言葉に偽りはなかった。特別私だけに訓練を課したというわけではなかったが、あの人の教えを忠実に実行し彼と出来るまで繰り返した、そして私はIS専門へと変わった部隊の中で再び最強の座に君臨することが出来た。
今思い返して見れば、第二世代の試作機とはいえ刀一振りで立ち向かう彼の姿は異常だった。それまで私よりも優秀だった部隊員を次々となぎ倒していった、もちろん彼も無傷というわけではないが翌日には全快していた。もしかしたら私と同じなのかも知れないと思ったが、彼自身の口からは「しっかりとした人間だよ、俺もお前もな。」とのことだった。
その後私は彼から『ラウラ・ボーデヴィッヒ』という名前を貰った、どうしてその名なのか理由を聞いたが、彼は「なんとなくそんな感じの名前が良いと思った」と言った。
私はISの頂点に立っているあの人に憧れた。その強さに、その凛々しさに、その堂々とした様に。自らを信じる姿に、焦がれた。私もいつかこの人のようになりたいと。
そう思ってからの私は、教官たちが帰国するまでの半年間に時間を見つけては話をしにいった。いや話など出来なくてもよかった。ただそばで見ているだけで、その姿を見つめているだけでも、私の体の深い場所からふつふつと力が涌いてくるのが感じられるからだ。しかしそんな私に気がついた副教官はいつも私をあの人のもとへと手を引っ張ってくれた。
私の中で感じたものは『勇気』という感情に近いらしい、そんな力があったからだろうか。私はある日教官と二人きりで訊いてみた。
「どうしてそこまで強いのですか?どうすれば強くなれますか?」
その時だ。あの人が、鬼のような厳しさを持つ教官が、わずかに優しい笑みを浮かべた。私は、その表情に何故か心がちくりとしたのを覚えている。
「私には弟と幼馴染がいる」
「弟……幼馴染ですか?」
「あいつらを見ていると、分かるときがある。強さとはどういうものなのか、その先になにがあるのかをな」
「……よくわかりません」
「今はそれでいいさ、そうだな。いつか日本に来ることがあるのならあってみるといい。それに千春にも強さというものを訊いてみればいい、あいつのほうがよっぽど理解していると思うからな」
優しい笑み、どこか気恥ずかしそうだが信頼しているような表情だった。だがそれは私の憧れるあの人ではなかった。
あの人は強く、凛々しく、堂々としている。それがあの人だというのに。許せない、というわけではない。私は心のどこかで嫉妬していたのかもしれない。教官にそんな表情をさせてしまう存在に立っているあの人が、認めたくなかったのかもしれない。そこから少し経ったとき、私はあの人と話す機会があった。それはあの人たちがこの国を去るときだった。
「強さとはいったい何なのですか?」
「それを俺に聞くのか?」
「教官が貴方に訊けと。貴方はISを使用できなくとも強い、その強さの源とは何なのですか?」
私がそう訪ねると、彼は複雑そうな表情を浮かべた。
「強さか、それは俺にも分からないな。だけど―――」
「だけど?」
「誰かを護りたいとか、誰かの役に立ちたいとか。俺はそういった気持ちだからな……多分強さに答えはないんだと思うぞ?俺の強さの源は『心』だと思うが、ラウラお前の強さの源は別にあるんじゃないか?」
「心……ですか」
「まぁ俺は今そう思っているだけだ、お前もいつか答えが出るさ。強さとはどのようなものなのか、自身の強さの源はなんなのか。強さの根本は人それぞれだからな。」
私には彼の言葉が理解できなかった、だが力を求めすぎてはいけないと忠告を受けた。力に溺れたら戻るのは難しいとも言われた、きっと彼は知っているのだろう。力に溺れた人物をその結末を。
だが今の私は、この有様だ。こんなところで無様に立っている訳にはいかない、敵はまだ動いているのだ。動かなくなるまで、徹底的に壊さなければならない。その為には―――
(力が、欲しい。あの人に届くほどの、あの人と同じように!)
ドクン…………私の奥底で何かがうごめいた気がした。そして名のないものは言った。
『願うか?汝、自らの変革を望むか?より強い力を欲するか?』
言うまでもなかった。力があるのであれば、それを得られるのであれば。私など―――空っぽの私など、何から何までくれてやる!
だから力を……比類無き最強を、唯一無二の絶対の力を!私によこせ!
その瞬間、私の意識は何者かによって深い闇へと落ちていく。見えない無数の手のようなものに、闇へと引きずりこまれて行く。
(あぁ……これが力に溺れると言うことなのか……)
それは突然だった。俺が織斑とデュノアを追い詰めていたとき、黒式から突然危険信号が送られてくる。それは二人も同じだったようで戸惑いと驚きを合わせた表情を浮かべていた、そしてもう一つ。黒式にはとあるシステムが内蔵されていたことを再確認することが出来た。
「『
シュヴァルツェア・レーゲンから激しい電撃が放たれている、そしてISが変形していた。もちろん今までのISに変形というシステムはない、いや変形と言えるほど生易しいものではない。装甲をかたどっていた線はすべてドロドロに溶けていく。そしてそれはラウラを包み込むように形を形成していく。
「なんだよ……あれは……」
織斑が唖然とした表情で呟く。傍観している場合ではない!俺は急いで彼女の元へと走っていく。彼女が取り込まれる前にあれから開放することが出来れば、命は助かる。だが一度取り込まれた場合、あそこから救出するのは困難に近いだろう。
「クソッ……形成されるのが速い!」
先までシュヴァルツェア・レーゲンだったものはラウラの全身を包み込むと、心臓のように脈動を繰り返す。すると突然高速で全身を変化、成形させていく。そしてそこに立っていたのは、黒い
ボディーラインはまるで少女のようであり、最小限のアーマーが腕と脚につけられている。そして頭部にはフルフェイスのアーマーに覆われている、誰を参照したのか分からなくさせるためか。目の箇所には装甲の下にあるラインアイ・センサーが赤い光を漏らしていた。そしてその手に握られていたものは―――
「「《雪片》」か……」
千冬がかつて振るった刀、それに酷似していた。いや酷似というレベルではない瓜二つ、まるで複製だ。俺達が手にしているものとまるっきり同じというわけだ。
「これは……流石にきついものがあるぞ?」
俺は所持している薙刀を再び構える。刹那、ISもどきが俺に向かってくる。居合いに見立てた刀を中腰に引いて構える、そして必中の間合いから放たれる必殺の一閃。それは間違いなく千冬の太刀筋だった。
「マジかよ!?」
構えた薙刀が真っ二つに切断される。そしてそれはそのまま上段の構えへと移る。これはかなりまずい、だがこんなところで墜ちるわけにもいかない。
縦一直線、落とすように鋭い斬撃が襲い掛かる。薙刀はもう使えない、装備を展開しても間に合わない、後退回避したとしても次で墜ちる。ならば答えは一つ!
「ふんっ!」
振り落とされた斬撃を俺は両手で受け止める、そう真剣白刃取りというやつだ。何とか刃が届く前に受け止めることが出来たが、こいつは力で押さえ込んでいく。少しずつ俺は押されていく形になってしまった。
この手を離せば俺の頭に直撃する、避けて装備を……駄目だな。俺があいつより早く動ける自信がない。どうするか。
そのときだった。
「うおおおおっ!」
織斑が《雪片弐型》を手に突っ込んできた。正直言って無謀だ、あいつがこれに勝てる未来が見えない。それにあいつのSEはほとんどないはずだ、そんな中で突貫してくるなど馬鹿なのか!?