インフィニット・ストラトス 最強と天才の幼馴染 (更新終了) 作:灰崎 快人
お互いに一目散に駆け出す。ぶつかり合った鍔で弾き飛ばされた後、彼女の斬撃が降り注ぐ。しかし同じ手は食らわない、俺は手にした一太刀で弾きそのまま腕を切り落とす。だが相手も相手そう簡単に切断できるわけもない。
「だが傷は入った、これを繰り返していけばいいはずだ」
的確に相手の急所を斬る、相手を殺す……そうこれは殺し合いなんだ。俺が死ぬかもしれないしラウラが死ぬかもしれない、だから殺し合いなんだ。それにしても懐かしい、こうして千冬と本気で刃を交えるのは久しぶりだ。少しずつ偽者と刃を交えていくことで過去の感覚を取り戻していく、もう俺の目の前にはあいつしか見えない。
だがやはりというべきか、俺の力ではあいつを超えることはできない。そもそも俺とあいつでは技能戦術共にこちらが劣っている、過去のことかもしれないがそれは今でも変わらない。
……いや何かあるはずだ、相手は全盛期とはいえ今の俺を知らない。逆にこちらは相手の戦術を理解している、だがこちらにはそれを受け止められるほどの力はない。お互いに欠点を抱え込んでいる状態。もしラウラの記憶から情報を得ていないのであればあれが使えるかもしれない、危険な賭けでは試すほかないだろう。
「たった一つだけ、誰にも見せたことのない技がある。それにかけるしかない」
これは真剣勝負や模擬戦では一切使用しないと心で決めていた技だ、なぜならば人命が脅かされるかもしれないからだ。だがこいつになら問題はない。幸いなことにVTシステムと対峙するのは二回目だ、こいつのどこを破壊すればいいのかも検討はついている。だからその技で破壊できれば、取り込まれているあいつも救出できる。
「一回で終わらせよう、お互いに短期で終わらせたいだろう?」
にこやかな笑みを向けると、そいつはどこか驚いたような微笑んだような気がした。そうだな、試合は楽しんでなんぼだよな。
そうして俺は笑みを絶やさずにあいつの下へと走っていく、それはあいつも同じだ。一撃で相手を沈めるそのために全力の一撃を放つ、あいつは横になぎ払う『円月』を出してきた。確実にしとめるにはこの技が一番扱いやすく破壊力も高い。だがそれを逆手に利用してこそ、真の一撃といえるだろう。
そいつが放ってきた剣技で俺は真っ二つに切り裂かれた……そう見えるように仕向けた。
「影落とし」
こいつが斬った俺は服をデゴイとした偽物、本物はすぐ後ろにいる。勿論データにない新たな技、反応できないのも無理はなかっただろう。
ラウラ、ISの核を避けてシステムの核を破壊する。チップが砕けたような音が中からしたとき、ゆっくりと装甲が解けて中からラウラが現れてくる。
「じゃあな偽者、二度と会いたくないがな」
何とか形状を維持しようとしているそいつに最期の別れを告げる、なぜか裸のラウラを優しく抱きかかえる。酷く弱ってしまっている彼女を急いで救護室へと運んでいった。
「一つだけ忠告をしておくぞ。あいつに何かを委ねたりするときは心を強くもて、あいつはその気はないくせに女を刺激する。油断してしまえば沈んでしまうぞ?」
そんな風に言う教官はひどく嬉しそうで、それでいて何処か複雑そうで、なぜか聞いているこちらがモヤモヤとした気持ちになった。
だが今ならわかるかもしれない。あれはヤキモチだったのだろう、それでついあんなことを訊いてしまった。
「教官はあの方に惚れているのですか?」
「フッ……まあそうなるな」
微笑ましい顔で言われて、私はますます落ち着かなくなってしまった。教官にこんな顔をさせてしまう存在であるあの男―――あの人が羨ましい。
そして話して、共闘して、守られて理解した。
強さとはなんなのか、答えは無数にある。けれど私はその答えの一つに出会えたかもしれない。
「あくまで強さとは心の在処。己の拠り所。常に相手を思うことではないかと、俺は思っている」
「そうなのですか?」
「まぁ自分自身がどうしたいのか、それがわからなければ前にも後ろにも進めないからな。どこに向かうべきか、どう相手と向き合うかな」
「…………」
「やりたいことを見つけろ、自分を見失うな。見失ってしまったら自暴自棄になる」
「貴方は、なぜそこまで強くあろうとするのですか?」
「俺は強くない」
「嘘です、あれほどの力を持っていて強くないなどと!理解できない」
「強さってのはな、計り知れないんだよ。いろんなものを乗り越えて経験し努力する、その後に得られたものが真の強さ。俺はそう勝手に考えている、自身の全てを使って誰かを想い守る。なんてな」
「あの人とは違う強さの考えですね」
「だから言ったろ?強さは人によって捉え方が代わってくる。お前はどうだ?ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「私は―――」
わからない、強さというものはわからなかったが。あの人が彼に惚れてしまった気持ちは理解できた。答えに届かないとしていても決してあきらめずに自身を貫き通す彼に、ときめいてしまった。
それからはあの人とであったとき、心臓の鼓動が少し早くなっているのを感じた。黒神千春。やはり恐ろしく惹かれてしまいそうだ。
「あ、ぅ………」
ボヤっとした光が天井から降りてきているのを感じ、ラウラは目を覚ました。
「やっと気がついたか」
隣からは聞きなれた声が聞こえてくる、いや判断する必要がないほど尊敬している人物。織斑教官の声であった。
「教官……私は……」
「全身に無理な負荷がかかったことで筋肉疲労と打撲の痕跡がある。しばらくはまともに動けないだろう。無理をするな」
「何が起きたのですか?」
私は無理やり上半身を起こす、全身に痛みが走り顔を歪めそうになる。しかし私はまっすぐに教官を見つめていた。治療されていたのであろう眼帯は外されていたため、左の金色の瞳がただまっすぐ問いかけているだろう。
「ふむ……一応重要案件である上に機密事項なのだがな」
しかしそう言って私がおとなしく引き下がるとは思っていないのだろう。教官はここだけの話であることを沈黙で伝えると、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「VTシステムというものは知っているな?」
「はい、正式名称はヴァルキリー・トレース・システム。過去モンド・グロッソでの部門受賞者の動きをトレースするシステムで、確かあれは―――」
「IS条約で現在どの国家・組織・企業においても研究・開発・使用すべてが禁止されている。それがお前のISに積まれていた。巧妙に隠されていたがな。操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何より操縦者の意志……いや願望なのか。それらが揃うと発動するようになっていたようだ。千春がお前に下がっていろと言ったのはそれを発動させないため、いつわかったのか分からないがな。あのあと直ぐにドイツ軍に連絡を入れていた、近くに委員会からの強制捜査が入るだろう。千春も向かうと言っていたが、無理やり押さえ込んだ」
「私が……望んだからですね」
私が力を欲し、あなたのようになりたいと願ってしまったから。自身の行いに俯いてしまった。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「は、はいっ!」
いきなり名前を呼ばれ、驚いて顔を上げる。
「お前は誰だ?」
「私は……私の名前は……」
「ラウラ・ボーデヴィッヒだろ?」
その声に驚く、隣では先まで眠っていたあの人が目を覚ましこちらを向いていたからだ。
「副教官!ご無事なのですか!」
「なんとかな、このくらいだったら問題ない。直ぐにでも復帰できる」
VTシステムとやりあってまともでいられるはずがない、何処かしら大怪我を負っていても可笑しくはないはずなのに……どうしてそんなに簡単に立ち上がれるのですか!?
「お前はラウラ・ボーデヴィッヒだ。それ以外の何者でもない。だがもし悩んだりしたのであればしっかりと考えたり相談することだ、ここに三年間は在籍するんだ時間はたくさんあるだろ?たくさん悩んでたくさん成長しろ。我慢などするな、まずは自分自身のことを考えればいい」
私のことを励ますように言葉をかけた後、彼は部屋を出て行った。私はあの人に何を言えばいいのかわからないまま、ただポカンと口を開けていた。
教官は席を立ってベットから離れる、もう言うべきことは彼が言ってしまったということなのだろうか。教官は仕事に戻るようだった。
「お前よりも状態は酷かったからな。生身で対峙している時点で死んでもおかしくなかった。今回は切創、擦過傷が多く見られた。致命傷がないのが不思議なくらいだ」
「平気そうに見せるための演技ですか……」
「まぁそうだろうな」
そう言ってドアに手をかける。あの人は変なときに気が利いてしまう、こっちは問題ないからお前自身を優先しろということだろう。
「ああ、それから」
教官がこちらを振り向き再度言葉を投げかけた。
「お前は私にはなれない、もちろんあいつにもなれない。だからこそ己を磨けよ?」
ニヤリと笑ってそう言った教官は扉を開けて部屋を後にした。
あぁ……なんてズルい教官たちなんだろう、二人揃って言いたいことだけ言ってこの場を後にした。あそこまで言っておいて結局はお前が考えろなのだから、ズルいことこの上ない。
(自分で考え、自分で行動しろ……か)
笑いが少し漏れるたびに全身が引きつるような痛みが襲ってくるが、それさえも何処か面白いと感じてしまった。
二度目の完敗。完膚無きまでの敗北。けれどなぜかそれが心地よかった。
これから先、私ラウラ・ボーデヴィッヒが再びはじまっていくのだから。
「まったく無理をする!データに無い戦術を行ったことで何とか事なきを得たがいいが!」
「わかったから!傷口触るのだけはやめてくれ、痛いから!まだ傷口塞がってないから!」
「ええい!今日はおとなしくしていろ!風呂に入るな!」
「はぁ!?こっちは砂だらけだぞ、せめてシャワーくらい許してくれよ!」
「駄目だ!傷口が開いたらどうする!」
「じゃあ触るのやめてくれよ!」
廊下で痴話喧嘩している千冬と千春の後姿を見た生徒は「やっぱり幼馴染なだけはあるんだな。」と言う心境になったと後の新聞で描かれていた。
何度も試行錯誤してるのですが、しっくり来ないのでまた内容が少し変わるかもしれません