インフィニット・ストラトス 最強と天才の幼馴染 (更新凍結) 作:灰崎 快人
『トーナメントは事故により中止となりました。ただし、今後の個人データ指標に関係するため、すべての一回戦は行います。場所と日時の変更は各自個人端末で確認を―――』
誰かが学食のテレビを消す。俺は海鮮塩ラーメンを食べながら見ていたので、そのままズルズルと麺を啜っていた。
「シャルルの予想通りになったな」
「そうだね。織斑君七味取って」
「はいよ」
「ありがとう」
当事者なのに何をのんびりしているのかと何処からか批判が来そうだが、ついさっきまで俺とシャルルは教師陣から事情聴取をされていたのだ。やっと開放されたときには食堂が閉まってしまうギリギリの時刻であった。急いで食堂に入ってみると話を聞きたかったのか、かなりの数の女子が食堂で待っていた。
とりあえず晩飯を食べてから、ということで俺たちは夕食優先でテーブルに移動した。そして先ほど重大な告知があるということでテレビに帯が入り、そして先の内容になるわけである。
「ごちそうさま。学食といい寮食堂といい、この学園は料理が美味くて幸せだ。……どうした?」
なぜだか知らないが、さっきまで俺たちの食事が終わるのを今か今かと心待ちにしていた女子一同たちがひどく落胆していた。その沈みっぷりはさながら沈没していく戦艦のようだった。見たこと無いけど。
「優勝チャンス……」
「交際無効……」
「うわぁぁん!」
何名かバタバタと泣きながら走り去っていった。何だったのだろう?
「どうしたんだろうね?」
「さぁ?」
俺とシャルルにはちんぷんかんぷんだ。女子というものは難しい生き物だということがまたひとつ分かったくらいである。
女子が去った後に、一人呆然と立ち尽くしている姿を見つける。それは見慣れた幼馴染こと箒だった。
まるで魂が抜けているかのような姿だが、ひとまず俺は箒のそばへと移動する。
「そう言えば箒。先月の約束だが―――」
俺はこのトーナメントが始まる前、箒ととある約束をしていた。箒のほうから付き合ってほしいと言われたのだが、なぜそんなことをあんなに大きな声で言って了承したとき、あんなにも嬉しそうだったのかそれがわからなかった。
「付き合ってもいいぞ?」
「………なに?」
「だから付き合ってもいいって~おわっ!」
突然、バネ仕掛けの玩具の様に大きく動いた箒は、身長差のある俺をお構いなしに締め上げてきた。くるしい。
「本当か!?本当に、本当なのだな!?」
何度本当を繰り返すんだよ、そんなに本当だって言われると嘘だって言いたくなるだろうが。
「お、おう」
「な、なぜだ?理由を聞こうではないか……」
さっと俺を離し、腕組をしてコホンと咳払いをする箒。その頬には赤みが差していた。なぜだろうな?
「そりゃあ、幼馴染の頼みごとだからな。付き合うさ」
「そうか!」
「買い物くらい」
「…………は?」
箒の表情がこわばる。おお、鬼面のごとしとはこのことか。千冬姉とはまた違った恐ろしさだ。
「はぁ……」
「どうした?」
かなり怖い顔の箒さんには、刺激を与えないのが一番だ。ニトロと唐辛子を食べた後の胃くらいデリケートかつソフトに扱おう。
「そんなことだろうと思ったわ!」
その瞬間、俺の顔面に向けられてこぶしが飛んできた。腰のひねりが加えられたその一撃は視界が一瞬暗転してしまうほどの一撃だった。
「ふん!」
吹き飛んだ俺に追い討ちをかけるように、みぞおちを踏みつけられた。
「ぐぐぐっ……」
ずかずかと去っていく箒を視線で追うことも出来ずに、俺はその場に倒れていることしか出来なかった。ダメージはかなり深く、しばらく動きたくないというか動けない。
「織斑君てわざとやってるんじゃないかって思うときがあるよね。」
「なっ……どういう意味だ?それは」
「まぁ乙女心は複雑なんだろうね」
シャルルは苦笑い視線をそらしてしまう。いったい何なんだよ……
まだわずかに痛む腹部を優しく撫でながら、俺はシャルルの正面席に腰をかける。
「そう言えば、千春はどうしたんだ?」
「千春さんは今救護室で眠っていると思うけど、それがどうかしたの?」
千春が死に掛けるほどの戦いをしたのか、でもあの場に俺がいれば何か役に立てていたんじゃないか?あの時、俺のISには少量のエネルギーが余ってた。僅かではあるがまだ動ける状態だった、なのにあいつは俺を気絶させて引き下がらせた……その結果があれなんだろ。俺に無謀だと言っておきながら、あいつも同じことをしているじゃないか!
「まるであの結果は本来俺に待ち受けていたものだった……」
「どうしたの?」
「いや……なんでもない」
もしあの場に千春が居なくて、俺があれと戦っていたら?俺はどうなっていたんだろう?もしかしたらISのエネルギーは一瞬で消え去り、壁に叩きつけられていたりあの刃で真っ二つにされていてもおかしくなかったのか?いや俺はあいつとは違う、俺だったらもっとしっかり……しっかりどうするんだろうな。
「暗い表情だな織斑、何か変なものでも食べたか?」
ふと顔を上げるとそこには眠っていると聞いていた千春が立っていた、どうやら気が沈みすぎて幽霊が見えてきたようだ。
「千春さん!体のほうは大丈夫なんですか!?」
「これくらい問題ない、お前達は大丈夫だったか?」
「はい!千春さんが意識を引いてくれたので」
シャルルが幽霊と会話をしている……いや幽霊じゃないのか。ということはいきているのか。まぁ死んだら千冬姉がどうなるかわかったもんじゃないしな。
「織斑君にデュノア君、黒神さん。ここに居ましたか。さきほどはお疲れ様でした」
「いえいえ山田先生こそ、あの後の状況整理など全て押し付けてしまって申し訳ないです。疲れてたりとか大丈夫ですか?」
「私は昔からああいった地味な活動が得意なんです。心配にはお及びませんよ。なにせ先生ですからね」
えへん!と胸を張っている山田先生。あの大きな膨らみが重たげにゆさゆさと揺れた。俺は目のやり場に困って視線を切ってしまったが、千春はどこかなれているような感じだった。
「それでどうしました山田先生」
「三人に朗報ですよ!」
グッと両拳を握りしめてガッツポーズをする山田先生、なんか先生のはずなのに可愛く見えてきたぞ……
「なんとですね!ついに今日から男子の大浴場使用が解禁です!」
「そうなんですか!?来月くらいまでかかると思っていたんですが」
「実は今日、大浴場のボイラー点検があったんです。基本的にこの日には生徒が使えないんですけど、点検自体はもう終わったので。それなら男子三人に使ってもらおうって計らいなんです」
正直大浴場が使えるようになるというのはありがたい、シャワーだけでは物足りないとおもっていたからな。しっかりと湯に浸かって今日の疲れを取りたいところだ。
しかしあれだな。先月の対抗戦といい、今回といい……本来予期せぬことというか、あり得ないことばかり起きるな。今のところ100%だ。嬉しくねえな。
「ありがとうございます、山田先生!」
大浴場が開放された感動のあまり先生の手を握りしめてしまう。両手を両手で包み込み、山田先生を見つめる俺の目はきっとキラキラと輝いているだろう。風呂が使えるのはすばらしい、日本の文化にして伝統!
「あの……そんなに近づかれると、先生ちょっと困っちゃいます」
「あっごめんなさい」
山田先生が落ちつかなそうに視線をさまよわせている。いつだったか「相手の目を見て話さないとだめですよ!」とか自分でいっていた気がする。
「ともかくですね、三人は早速お風呂にどうぞ。今日の疲れも肩まで浸かってしまえば疲労もすっきり!ですからね」
「わかりました、ありがとうございます」
よしそうと決まればシャルルと一緒に向かうとしよう!……あれ?なんか複雑そうな表情してるな、シャルルってお風呂嫌いなのか?
「大浴場の鍵は私が持っていますから、脱衣場で待っていますね」
よ~し早速大浴場に移動だ~!
織斑が大浴場に走っていた。織斑には悪いが少しシャルロットと話さなければならないことがある、アルベールも交えてな……
「デュノア、少し時間を貰えるか?」
「はい、どうしました?」
「話したいことがある、君の父親を交えてね」
「父親」というワードを聞いた瞬間、彼女の顔が強張った気がした。