インフィニット・ストラトス 最強と天才の幼馴染 (更新終了) 作:灰崎 快人
「ねぇねぇ、結局なんだったの?教えてよ~」
「機密事項だからダメ」
お膳を挟んだ向かい側、のんびりと夕食を楽しむデュノアに対し一年女子数名が群がりあれやこれやと訊いている。
おそらく一番親しみやすい彼女にならと思ったのだろう、しかしそれは大きな判断ミスだ。デュノアは専用機持ちの中では一、二番を争うほど責任感が強い。それだけは間違いないだろう。
もう一人はラウラだ、元軍人と言うことだけあり機密事項などには敏感だからな。
「シャルロットはお堅いなぁ~」
「聞いたら聞いたで制約がつくんだよ?それでもいいの?」
「あーそれは困るかな……」
「それならこの話はおしまい。もう何も答えないよ」
「ちぇ~」
流石と言うべきか、同年代の女子を軽くあしらうのもお手の物と言うことだろう。デュノアはなんというか頭脳派のお姉さんという感じだ。
「それにしても千春さんの姿がないね、どこに居るんだろう?」
「それな~今度こそ黒神さんの隣になれると思ったんだけど」
千春の人気は専用機持ちが思っているよりも進行が進んでいるようで、狙い始めている人も多くなり始めていた。それは千冬の実の弟である織斑一夏を遙かに超えるほどだった。
「デュノア、浴衣が緩んでいる。疲れていたとしてもそこはしっかりとしておけ」
「っ……!どこ見てるのさラウラ」
顔を真っ赤にしたデュノアは胸元を慌てて手で隠しながらも、ラウラに抗議の目を向ける。女の子同士だとしてもそういったことに関しては恥ずかしいのだろう。
「どこと言われてもその大きな膨らみだが?」
「ラウラっ!」
彼女の言葉に翻弄され始めるデュノア、その光景を見ながらも一年女子達はおいしい魚に舌つづみをしていた。専用機持ちはそれぞれ疲労しているが、それを表に出さないように視線に振る舞っていた。
「あとで千春さんのところ行ってみない?もしかしたら教えてくれるかもしれないし」
「そうだね、なんやかんや黒神さん教えてくれることとか多いし」
あれ?もしかして千春さんってなめられてるのかな……それに今あの人が居る場所知ってるの僕たちしかいないのにどうするつもりなんだろう?
「と言うことで黒神さんと一番関係が深いボーデヴィッヒさん教えて!」
「断る」
まさかのラウラに聞いてきた、確かに千春さんとは関係が濃いけど彼女も僕と同じくらい責任感や機密事項に敏感だ。そう簡単に情報を渡すわけはない。
セシリアや簪さん達からも情報を得ようと群がっているけれど、僕たちは一切話す気は無い。織斑くんはもしかしたらぽろっと話してしまうかもしれないけど、両隣には篠ノ之さんと凰さんが居るから問題ないでしょ。
食事を終えた僕たちは治療中の千春さんに会うために移動していた、専用機持ち以外には後をつけられないように最大限の注意を払ってきた。それでもついてきたり話を盗み聞きした場合はある程度の処分が下されるだろう。僕たちが事前に忠告はしておいたから問題は無いだろうけどね。
そうして千春さんが運ばれた治療室へとたどり着いた、織斑先生と千春さんの話し声が壁越しに聞こえてくる。僕たちはこっそりと壁に耳を当てた。
「千冬……流石にこれは少し恥ずかしいのだが」
「仕方ないだろう?お前はこんな状態なのだから」
「確かにそうだが、この歳でそれをするのはちょっと抵抗があってだな」
「甘んじて受け入れろ、でなければお前のためにならん」
「むぐっ……」
何をしているのか検討もつかなかった僕たちはこっそりと扉を開けて隙間を確保し、二人の現状を確認することにした。
「口の中が切れてる」
「むっ、ならばあまり刺激の強い物は食べさせない方が良さそうだな」
そこでは千春さんが織斑先生に食べさせられている光景が広がっていた、確かに何か軽い物が当たる音とかしたけど二人で食事をしていたのか。千春さんに食べさせれるなんて少し羨ましいけど、それだけあの人の身体が弱まってしまっている状態でもあるってことを表していた。
「……千冬やっぱり一人で食べるから」
「なに遠慮するな、例え年下のガキどもに見られたとて恥ずかしくあるまい?なあお前達」
織斑先生には気づかれていた、でもこういったことで千春さんが気づかないわけがないのだけど……もしかして視覚が奪われたことでそういった事に気づきにくくなってしまったのかもしれない。それはそれでありがた――強みが一つ無くなってしまった状態になってしまった。
「それでお前達、一体何のようだ?」
「「「えっと……」」」
「千春さんの意識が戻ったと聞いたので、様子をうかがいに来ました」
「つけられては居ないだろうな?」
「問題ありません」
それなら良いと織斑先生は僕たちを部屋へと招き入れる、千春さんは見られていたことが恥ずかしかったのか耳が赤く染まっていた。
その表情を見てしまった僕たち(織斑、篠ノ之、凰以外)の心の中では「もっとその表情が見たい」という欲が出てしまった、見たことのない彼の表情に心の何かが刺激されてしまった。この気持ちは何だろう?
「皆は身体に問題は無かったか?」
「はい、特に問題もありませんでした。教官の方は」
「特に問題は無いぞ。この右目以外はな……利き目だったがあの爆破で失われてしまった、しばらくは眼帯で隠すしかないだろう」
眼帯。私が普段身につけているもの、彼女が左目を隠すのと同じように教官は右目を隠す。お揃いになるがこれは喜ぶべきなのだろうか?いや喜ぶことではないだろう、何を思っているのだ私は!
「ラウラ、眼帯の予備はあるか?あるならば借りたいのだが」
「確かにありますがサイズが合うかどうか……」
ひとまず身につけていた物を外し教官の右目を隠すように縛り付ける、リバーシブルで使えるタイプでありサイズはベルトを延長することで身につけることが出来た。
「ふむ、ピッタリだな。それに傷も隠されている、これならある程度は紛らわせれそうだ」
「しかし限度という物もあります、理由も何かしら考えて置かなければならないでしょう。」
「そうだな、そのうち考えるとしよう。それはそれとしてこの眼帯しばらく借りるぞ」
「そのままお使いください、私は予備の方を使いますので」
長年使い続けて居た物はそう簡単に渡せる物ではない、しかしそれが恩師であれば喜んで差し出そう。それも困っているときならばなおさら。
「すまない。ありがたく使わせてもらう」
それから私たちは千春さんとたわいない話をし部屋を後にした、デュノアが何か耳元で話していたが何を言っていたのだろう?後で確認しなければならないな、抜け駆けなど許さんからな。
全くガキどもが入ってきたせいで二人での食事が長引いてしまった、さてこの後はどうした物か?風呂に入ろうにも千春は動ける状態ではない。仮に動けたとしても傷口にしみるだろう、それならばシャワーもダメだな……身体を拭いてやるしかないか。これでは完全に介護だな。
「今日は散々だったな」
「そうだな、だが死人が出ていないだけマシだろう。ナターシャも無事だったからな」
「ISのコアも無事に回収できたようだからな」
まさかISと操縦者を分離させるとは思わなかったが、それで命を救えたのであれば良いのだろうな。もう二度とやらせはしないがな!二度と自己犠牲などさせるものか!絶対にな!
「千冬……わかったからその顔はやめてくれ、流石に怖い」
どうやら表情にまで出てしまったようだ、少し怯えきっている千春の表情を見たとき私の中で何かが動いたような気がした。その衝動を抑えながらゆっくりと彼に近づく、彼に嫌われてしまうのは一番心に来るからな。
「身体を拭いてやる、海水でベトベトだろうからな」
「それは頼む」
「上はこっちでやるが下の方は自分で出来るか?」
「当たり前だ。千冬は少し過保護過ぎるぞ」
お前の現状を見てしまえば誰しもが過保護になるだろう!と思ってしまったが決して口には出さず、彼の身体のケアへと入った。
その後千春は全ての疲労により眠ってしまった。その顔はどこか安らかで安堵した表情だった、死力を尽くしたのだそれは当然だろうな。その表情を見たとき私の中でも安堵感が降りてきたのか、睡魔が襲ってきた。
私は彼の寝ている布団にも潜り込み、彼の身体を痛めない程度に抱きついて眠った。