インフィニット・ストラトス 最強と天才の幼馴染 (更新終了) 作:灰崎 快人
翌朝。朝食を終えた俺たちは、すぐにIS及び専用機装備の撤収作業へと当たっていた。
俺は黒式の装甲をなるべく回収しておきたいとわがままを言って、山田先生と戦闘があった現場へと向かった。
幸いなことに装甲は集まっている状態で回収することが出来たが、肝心の頭部バイザーだけが見つからずそのまま投棄という状況になってしまった。
「どうですか黒神さん。ある程度回収できました?」
「そうですね……バイザー以外は全て回収できました。時間的にここまでなので撤収しましょう」
「それじゃあ捕まっていてくださいね~」
山田先生の操縦は安定しており揺れも少ない、胸の強調が凄いが千冬に知られたら何を言われるかたまった物ではないので大人しく帰還した。
千冬は少し不貞腐れていたが、生徒のまとめ役はやはり彼女が一番適材だろう。
帰還したときには既に十時を過ぎており他の専用機持ちも撤収作業を終え、生徒達は別々のバスへと乗り込み始めていた。
昼食は帰り道のサービスエリアで取るらしいが、なにを扱っているか先に確認しておかなければならないな。
「それで織斑、何があったんだ?」
「あ~……」
織斑の現状を一言で言うのであればボロボロだ。何故こうなって居るのか詳しいことは俺は知っていない。
織斑自身もあまり話したく無い様子で、空を眺めていた。目にはクマができていると言うことは寝不足なのだろう、それからこの重労働をしたと考えると眠くて死にそうなのか?
「理由は聞かないが、とりあえずこれ飲みながらバスで休め」
「助かる……」
死にかけの織斑に対しこっそり取っておいた栄養補水液を渡しておく、これならばある程度水分補給と栄養俸給が両立できるはずだ。あとはバスで寝ろ。
「さてと……車はどうした物かな」
皆の前で平然を装う為とはいえ、この身体では限度がある。普通に歩いているだけでも全身に激痛が走り、前に倒れそうになるくらいだ。
「私が運転する。お前は隣で寝るかバスに乗っても良いぞ」
「千冬免許持ってたか?」
「持ってるに決まっているだろう、個人的に取りたかった物でもあったからな」
千冬が運転免許証を所持していたことに驚きだ。
最近は近代化によりモノレールなどが発展してきている、自動車などはほとんど使用しなくても問題ない程度移動範囲が広がっている状態だ。
むしろ免許証を持っているのは少数派になりつつある。
「少しバスに乗ってみるかな」
「……そうか」
千冬の顔が暗くなってしまうのに申し訳なくなる。だが少し年下の雰囲気というのも知っておきたいのだ。
俺って少し世代から外れてるタイプだからさ。
「サービスエリアで車に乗り換えるから、それまでは許してくれ」
「わかった。お前がこちらに来るのを待ちわびるとしよう」
お昼には戻ると約束をした上で俺は一組のバスに乗り込んだ、俺が来るのは予想外だったのかこちらを驚いた表情で見つめてくる。
確かに俺はここに来るときバスに乗っていなかったからな、千冬と交代して入ってきた訳だし。
既にある程度席は埋まっているようで、俺に残された席は――
デュノアとラウラが座っている一番後ろの席、セシリアが座っている二人席、織斑が座っている席には篠ノ之が居るので無理だな。ちなみに本来千冬が座る席であった山田先生の隣も空いている。
さてどこに座ったものか……
(まさか千春さんがバスに乗り込んでくるなんて)
想定外の事態を一切考えていなかったシャルロットは少々困惑していた。
(昨日の事もあるし車では運転できなかったのかな、と言うことはあそこには織斑先生が?)
千冬が付近に居る状態では彼には近づくことすら出来ない、そう思いある程度一定の距離を開けてきていた。
しかし今邪魔者が居ないのであればこの距離を一気に埋めるチャンスにもなる。
これは絶好のチャンスだと踏んだシャルロットは、無駄のない思考でプランを作成し直ぐさま行動へと至った。
(千春さんを窓側に座らせてその隣に僕が座れば一人いじめできる、ラウラには悪いけど彼を堪能させてもらおうかな)
(これは黒神さんと二人っきりになれるチャンス!)
セシリアは千春がバスに乗り込んできた時、それは自身に降りかかってきたチャンスだと思っていた。
この合宿では千春と親睦を深めるチャンスであったが、印象に残った事と言えばバレーをしたことくらいだろうか?
昼食を取った後海に戻って見れば、千春は上を脱いでいる状態。刺激に弱い山田先生が鼻血を出してしまう程であったことから、刺激になれていない生徒達は話しかけることすら出来なかった。
(ここで距離を埋めるチャンスですわ!)
この機を逃す物かと千春を見据えるその瞳は、まるでレイピアのように鋭かった。
(教官がいらっしゃるとは、これも何かの縁というものか)
そんな関心をしているのは今回のビーチで新たに一歩踏み出したラウラだった。
自身の眼帯を千春へと明け渡し、お揃いとなった事を心なしか喜んでいた自分が少しおかしいと感じていた。まるで彼は自身の物であると錯覚しているような気分であった。
(あくまで教官との縁は教官としての縁、決して私の所有物ではない)
隣で座っているシャルロットの様子をうかがいながら、自身がやるべき事を考えていた。
どうすれば彼をこちらに誘い込めるのか、そう考えていると隣に居たシャルロットが独り占めしようとしているとわかった。
(そうはさせんぞ!教官の隣は私だ!)
彼女に対抗するかのように、ラウラは自身の欲望のために行動を開始した。
(あれ!?織斑先生どこに行っちゃったんですか!?)
一組の副担任である山田真耶は焦っていた、本来ならば自身の隣にはこのクラスの担任である織斑千冬が座るはずだった。
しかし彼女は一切こちらに来ることなく千春の愛車付近で止まっている。その代わりに彼がバスへと乗り込んできた、つまり場所の交代をしたと言うことだろう。
(織斑先生……私一人じゃ無理ですよ!?)
昨日の疲れがまだ残っているのか、彼女の目の下にはクマが出来てしまっている。生徒に質問攻めに遭ったのだろう。
親しみやすい性格と案外話してくれるかもしれないと、思われているのか仇になってしまっている。
(なんとかして織斑先生に頼らなくても良いようにしないと!)
そのためにはまず纏め上げる力が必要であると考えた真耶は、その力を持っている千春を参考にするために彼を招き入れる準備へと移った。
(千春さんを参考にしながら私の中で考えていくしか有りませんね!)
何というか凄い視線を感じ取ることが出来る、一人で座っている生徒達は何を思ったのか身なりを整えているし……
二人で固まっていたところは分散して片席を空けている状態にした、自意識過剰なのかもしれないが俺が座ってくれるのを待っているのかもしれない。
しかしなんと言うべきか、俺は空いている席であればどこでもよかったのだが。自身一人だけの席という選択肢はない。
「「「「千春さ――」」」」
「黒神千春さんっていらっしゃいますか?」
「ん?あっはい私ですけど」
まだ席に座っていなかったにが幸いした、俺は呼ばれた声に素直に答えた。
俺を呼んだ人物は女性であり、大体山田先生と同じような年齢だ。鮮やかな金髪だがセシリアやシャルロットとはまた異なる質感だった、それが夏の日差しで輝いてまぶしい。
格好は青いスーツを着込んでいる。千冬の様なビジネススーツではなく、おしゃれのに着飾るカジュアルスーツ。胸元が開いており女性特有の膨らみがわずかに覗いている。
その胸の谷間にかけていたサングラスを預けると、まっすぐに俺の顔を見つめてきた。
「ナターシャ・ファイルス。『
「黒神千春、二人目の男性操縦者であり――」
「私を救ってくれた張本人。でしょ?」
言い切るつもりはなかったんだが、こうもあっさりと言われてしまうとは。隠すつもりはなくかと言って話すつもりもなかった。
黒式に保管した福音のコアを明け渡したのか、彼女の手には小さなブレスレットの様な物が握られていた。千冬とある程度面識があるからこそ成せたのだろうな。
「ありがとうね、黒いナイトさん」
その言葉と共に頬に唇が触れた。バスの窓からこちらを眺めていたのか、中から黄色い声が響き渡るがその中からは悲鳴や怒りが感じられた。
そして一番見られてはいけない人物にも見られていたようで、その背後に居る強大な鬼がその手を振り下ろそうとしている。
「あまりそういったことは表でするな、恨まれるぞ」
それなら二人っきりの時に、と言葉に残してひらひらと手を振って去って行った。少しため息が漏れてしまったが、彼女には聞かれてはいないだろう。
いやな予感を少し感じつつも俺はゆっくりと視線の感じる方へと振り返る。
「千春さんさぁ……」
「相変わらずですね教官」
「貴方と言うお方は」
「あわあわ――」
さてさてどう説明したものかな?
「おいおい、面倒ごとを増やしてくれるなよ。」
その場を去ろうとしていたナターシャの肩に手を置いてそう言ってきたのは。千冬だった。その額には血管が浮かび上がっている。
それを見たナターシャは少し戸惑いつつも、はにかんで見せた。
「聞いていたよりもずっと素敵な男性だったから、つい」
「はぁ……身体の方は大事ないか?」
「ええ、それは問題なく。あの人に助けられたから、この子も一緒にね」
ここで言うこの子というのは、あの暴走によって今回の事件を引き起こした福音を指していた。
「あの子は私を守るために、望まぬ戦いに身を投じた。コア・ネットワークの遮断、強引なセカンド・シフト――私のために、この子は世界を捨てた」
言葉を続ける彼女の姿は、先ほどまでの陽気な雰囲気は一切無く、その身体に鋭い気配を纏っていた。
「だから私は許さない。この子の判断能力を奪い、全てのISを敵として見せかけた元凶を……必ず追って、報いを受けさせてやる」
福音のコアは黒神によって回収されていた為無事であったが、暴走事故を招いてしまったとして今日未明に凍結処理が決行された。
「あまり無茶はするなよ。この後も、査問委員会があるんだろう?しばらくは大人しくしておいた方が良い」
「それは忠告ですか、ブリュンヒルデ」
ISの世界大会『モンド・グロッソ』、その総合優勝者に授けられる最強の称号・ブリュンヒルデ。
千冬はその称号を手にしている唯一の存在であるが、その称号で呼ばれることは好きではないようだった。
「ただのアドバイスだ」
「そうですか。それならば大人しくしていましょう。しばらくはね」
一度だけ鋭い視線を交わした二人は、それ以上お互いに語ることなく帰路に就く。
――またいずれ。
その言葉が二人の背中に背負っていた。