インフィニット・ストラトス 最強と天才の幼馴染 (更新終了) 作:灰崎 快人
「ラウラ・ボーデヴィッヒ。階級は少尉。現在はISの試験操縦者か」
薄暗い部屋。不快なジメッとした温度がここは地下であると言うことを物語っている。
だが見覚えがない部屋では無い。
ここは彼女の記憶の中でも暗い部分の一つだ。軍隊の訓練の中で最も嫌いな『尋問に対する耐性訓練』。
ここはその訓練場所でもあり、数年前までも実際に拷問に使われてた場所。
床についている黒いシミは、温度とは全く関係ないだろう。多分。
天井からは水滴がポツポツと落ちてきている、一体どこから垂れてきているのかそんなことはどうでも良い。
「気分はどうだ?ラウラボーデヴィッヒ。顔色が良くなさそうだな」
立つ気力も座る気力すらもなさそうな彼女は、そんな問いかけを相手にしたりしない。
おぞましき部屋の主であろう男は、顔が見えずこちらから逆光の立ち位置に佇んでいた。
その声は澄んでいて何処か聞いた事のあるような無いような気がした。この部屋の湿度とは全くもって相容れない声であったのは間違いない。
「さて、四日間の不眠と断食はいかがだっただろうか?ラウラ?ん?」
答えるのも嫌になる。答えるのにも体力を使う。そのくらい今の彼女は疲弊している状態だった。
「これはね典型的な拷問方法だよ。大昔から使われている手法だ。時間の概念が無くなっている部屋で眠らせず、食べさせず、そして永遠に水滴の音だけを聞かせている」
コツコツと硬質のかかとを鳴らしながら、ゆっくりとこちらに歩んでくる。僅かな光が相手の足下を照らしている。
軍服は着ていない?一体誰だこいつは……
いつもの訓練官ではない。いやそれどころか軍人でもなさそうだ。
微かに聞き覚えのあるような声を頼りに思考を巡らせる、だが何度考えても顔が思い浮かばなかった。
(こいつは一体だれなんだ?何故ここに居る?)
とにかく今はこいつをどう制圧するか思考を再度巡らせる。
(そうだなまずは――)
「まずは相手の動きを封じ、そのまま首を取ると。それはあまりおすすめはしないかな?」
(なっ!なぜ!?)
「何故考えていることが分かるのかって?それはねぇ」
男の顔がゆっくりと光に照らされていく、しかしそれは口元までであり目は見えない。
しっかりとした輪郭であるが、左の頬に斬られたような後が残っている。
ゆっくりとそいつが言葉を刻んでいく。
「それは俺がお前と同じだからだよ」
不思議なことにそれは聞こえなかった。
軍人である彼女であれば、例え無言であったとしても口の動きから言葉を理解するのはたやすい。
しかし彼女は言葉化することが出来なかった、理解できなかったのだ。
だがそれでも――何故か酷く納得してしまった。
(なるほどな……)
仕方が無いと思ってしまう、そんな『なにか』。それがその言葉にはあった。
「さて、それじゃあ尋問を始めようか。ラウラ君、君に愛国心はあるかな?」
「ああ」
「ふーん簡単に嘘つくんだね?愛国心のかけらも持ち合わせていないのにね?」
「そんなことは無い」
まぁそれはいいや、どうでもよさそうに言ってから、男はなにやら手帳を取り出し開いた。
「さて仲間はどこに居る?規模は?装備のレベルは?バックアップは?」
「言うわけがないだろう」
「そうだね、ではこんなのはどうかな?」
にやりと男の口元が歪む。
そんな標所の変化には取り合わず、彼女は次にどうやって目の前の相手を制圧するかを考えてていた。
「好きな人は出来た?」
その言葉にラウラの思考は停止した。
「なに?」
「名前は黒神千は――」
「なっ!?馬鹿!馬鹿を言うな!」
「あははっ!顔真っ赤にしちゃって!わかりやすいね!」
「殺す!絶対に殺してやる!」
疲労も脱力も吹き飛ばして、彼女は立ちあがるのと飛びかかるのを同時に行う。
そして――
「あーあの……ラウラ?」
「う?」
ラウラが押し倒し、その首元にナイフを押し付けていた相手はルームメイトのシャルロットだった。
場所はIS学園一年生寮の自室。時刻は早朝らしく、窓の外ではカラスとスズメがのんきに鳴いてる。
「えっと、あのね?ラウラがうなされてたから声かけようかなって思ったんだけどね?」
「そ、そうか……」
言われてみれば確かに彼女は寝汗をびっしょりとかいていた。肌にまとわりつく髪と寝間着が、たまらなくうっとおしい。
「それで、いつまでこのままなのかな?」
「そうだな、すまない……」
動脈に当てていたナイフをそっとどけ、シャルロットの上からも離れる。
どうも夢の内容はあまり覚えていないようだが、楽しいものではなかったのだろう。自分の動脈がそう告げていた。だが頬に切傷がある男の影を妙に覚えていた。
「ん。別にいいよ気にしてないからさ」
「そうか、助かる」
この部屋割には最初こそ戸惑ったが、ルームメイトがシャルロットが非常に気の利く存在であったため、むしろ今ではこの編成に感謝している。
対決後も別段気にしていた様子はなく、改めてルームメイトとして、友人としての付き合いをしてくれていた。
そんな相手に刃物を向けてしまうなど、どうかしてしまっている。ため息を漏らしてベットから降りる。シャルロットもそれに続いた。
「ところでさラウラ」
「なんだ?」
「寝間着ってそれしかないのかな?」
改めてシャルロットは指摘する。というのもラウラが今着ている寝間着は千春に買ってもらった唯一のものであり、これを部屋で常に着ているのだが流石に洗濯しないわけにもいかない。その場合は寝るときは全裸なのだ。その理由が――
「寝るときの服がこれしかない」
「いや……他にもあると思うけど、風邪ひくよ?」
時々サイドテーブルに備えてあるバスタオルはそのための物だ。今日は服を着ていたから良いものの、全裸の時は彼女がラウラの体にタオルをかけている。
「ふむ。まぁいい私はシャワーをしてくるが、お前はどうする?」
「うん。僕も浴びてこようかな。冷や汗かいちゃったから」
「一緒にか?」
「違うよ!もう!ラウラの後ね」
「冗談だ」
いつも通りの冷淡な調子でそう言われたシャルロットは一瞬ぽかんとしてしまっていた。
その間にラウラはシャワールームへと行ってしまって、パタンとドアを閉じた音が聞こえた。
(少し前までは冗談なんか言わなかったのに、一体どうしたんだろう?)
心境の変化でもあったのだろうか?友人としてルームメイトとしても気になるところだった。
(それはそれとして、やはり寝間着はなんとかしないと)
朝から問題に悩まされるシャルロットだった。