インフィニット・ストラトス 最強と天才の幼馴染 (更新終了) 作:灰崎 快人
「と言うわけでね、いきなり二人辞めちゃったの。辞めたって言うか駆け落ちしたんだけどね……ハハッ」
「はぁ」
「ふむ」
「でね!今日は超重要日なのよ!本社から視察の人間も来るし、だからお願い!貴女たち
女性のお店というのが、これまた特異な喫茶店だった。
女性は使用人の格好、男性は執事の格好をしながら接客をするという。いわゆるメイド&執事喫茶である。
「それは良いんですが……何故僕は執事の格好なんでしょうか?」
一足先に着替えが終わったシャルロットはやや控えめに訊く。
「だってほら!似合うもの!そこら辺の男なんかよりも、ずっと綺麗で格好いいもの!」
「そうですか……」
褒められているはずなのにあまり嬉しくなさそうなシャルロットはため息を漏らしていた、少し残念な気持ちになりながらも彼女は自身の着ている執事服を見下ろしていた。
そんな彼女に気がついてか、メイド服に着替えた女店長はがしっとその手を掴んだ。
「大丈夫!凄く似合ってるから!」
「そ、そうですか。あはは……」
社交辞令で笑顔で返していたが、彼女の表情がやや引きつっていたのは見逃さなかった。
複雑な乙女心を持て余しながら、シャルロットは改めてメイド服のラウラを眺めた。
細身でありながらも強靱さを秘めた体躯に、飾りっ気の多いメイド服。そしてそれらを統一するかのように伸びた銀髪。そしてミステリアスな要素のある眼帯。
(羨ましいな~ラウラってなんでこんなに可愛いんだろう?)
そんな視線に気がつかないラウラは、じっと男子更衣室の扉を見ていた。
数分も経たずにドアが開くと中からは執事服を着た千春が出てきた。何故千春がそんな格好をしているのかと言えば答えは簡単である。
二人に巻き込まれたからである。
「少し身体がキツいな……」
「それしか服が余って無くって、ごめんなさい」
「いえ、無理に動かさなければ問題無いですよ」
ラウラが更衣室をじっと見ていたのは千春の執事姿を見たかったからだろう。物好きだな……
「お似合いです教官!」
「こんな時くらい千春って呼べ」
「あっ……ち、ちはる」
何処となくぎこちなく頬を赤らめているのは一端置いとく、名前で呼ばれなければお客さんに疑問を持たせてしまうかも知れないからな。
シャルロットはメイド服じゃ無くて執事服だったのか……彼女の場合は髪を解いているときにが似合いそうだ。
「店長~はやくお店手伝って~」
フロアのリーダーと思われる人物からヘルプを求めて声をかける。すぐに店長はさいごの身だしなみをして、バックヤードの出口へと向かった。
「あのっ!もう一つだけ!」
「ん?」
「このお店。なんていう名前なんですか?」
そう言えばお店に連れてこられたのは良いがお店の名前を一切知らないのだ。
店長は笑みを浮かべながらスカートをつまんであげて、大人びた容姿に似合わない可愛らしいお辞儀をした。
「お客様、@クルーズへようこそ」
「デュノア君、四番テーブルに紅茶とコーヒーお願い!」
「わかりました」
カウンターから飲み物を受け取って、@マークの刻まれたトレーへと乗せる。
そんな単純な動作でありながらも、シャルロットからは気品がにじみ出ていて臨時の同僚に当たるスタッフ達からは、ほうっと感心のため息が漏れ出していた。
初めてのアルバイトだというのにその立ち振る舞いには物怖じた様子一切無く、堂々としていていた。
そんなシャルロットの姿に、女性客のほとんどが見入っていた状況だった。
「お待たせ致しました、紅茶のお客様は?」
「は、はい!」
彼女よりも年上であろう女性は、それを忘れているかのように緊張した面持ちでシャルロットに答える。
紅茶とコーヒーをそれぞれ女性に差し出す前に、お店の『とあるサービス』の要不要を尋ねた。
「お砂糖とミルクはお入れになりますか?よろしければこちらで入れさせていただきます」
「お、お願いします。ええと、砂糖とミルクたっぷりで」
「私もそれでっ」
「かしこまりました」
シャルロットがそう答えるとスプーンをそっと握り、砂糖とミルクを加えカップの中を静かにかき混ぜる。
時折、わずかに響く音でさえ、女性客は息をのんで聞き入っていた。
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
すっとシャルロットの手元から差し出されたカップを受け取り、女性客はドキドキとした様子でそれを口につける。
同じようにコーヒーを混ぜて貰った女性客も、緊張からかギクシャクした動きで一口だけ飲んだ。
「それでは、また何かありましたら何なりとお呼びください。お嬢様」
そう言って綺麗なお辞儀をするシャルロットはまさしく『貴公子』としか言いようのない雰囲気を放っていて、女性客はぽかんとしたままうなずくのが精一杯だった。
(接客業って意外と意外と大変なんだね……ラウラと千春さんは大丈夫かな?)
仕事をこなしつつも、シャルロットは千春とラウラの姿を探す。
そして丁度男性客三名のテーブルで注文を取っている所を見つけた。千春は見つかってない。
「君可愛いね~名前教えてよ」
「お店何時に終わるの?一緒に遊びに行かない?」
男性客の言葉を無言で受け止めたラウラはダンッ!とテーブルに垂直に置かれた(と言うよりは叩きつけられた)コップが大きな音と一緒に滴を散らした。
面食らっている男達を前に、彼女はぞっとするほど冷めた声で告げた。
「水だ。飲め」
「こ、個性的だね。もっと君のこと知りたくなって――」
台詞の途中で、しかもオーダーも取ること無くラウラはテーブルを離れた。
そしてカウンターに着くなり何かを告げ、少しして出されたドリンクを持って行った。
「飲め」
さっきよりも優しめにカップをテーブルに置くラウラ。
それでも先のように弾んだカップからはコーヒーはこぼれていた。
「こ、コーヒーを頼んだ覚えは……」
「何だ?客でないのなら出て行け」
「そ、そうじゃなくて。他のメニューも見たいわけでさ……?」
ラウラに好印象を持たれたいのか、それとも有無を言わせぬ態度に萎縮してしまっているのか、男は言葉を探りながら会話を続けている。
実際、この女性優遇社会でこんな風に初対面の女子に声をかけられるというのは勇者か馬鹿のどちらかだろう。この男はどちらかわからないが……
「コーヒーにしてもモカとか――」
「貴様ら凡夫に違いが分かるとでも?」
「いや、それ以外にもパスタとか――」
セリフの途中でラウラの背後に近づいてきた人物を見て、男性客は声を発するのを止めた。
不思議に思い後ろを振り向くと、そこには微粒の殺気を出しながらも笑顔を保っていた。
「お客様、何かうちの者がご迷惑おかけしましたか?」
(訳。何時までもここに居られたらラウラも大変だからさっさと帰ってくれ)
「い、いえ……」
「そうでしたか、では私たちはこれで失礼致します」
半強制的に話を切り上げさせ、ラウラをテーブルから引き剥がす。彼女自身も対応に疲れていたのかため息を漏らしていた。
ドイツの冷氷と呼ばれたラウラの一面が今でも健在であったことを確認できたが、接客業にはあまり向いていないかも知れないと思ってしまった。
そんなことはいざ知らず、店内の男性客のほとんどが自分たちも同じように接客して欲しいと言わんばかりの熱のこもった視線を送っていた。
「無理するなよ?大変だったら声かけろ」
「はい教官!」
「教官言わんでよろしい」
そんな二人の会話を見ていた男性客からは殺意の視線が、ラウラの意外な一面が見れた女性客からは微笑ましいと言わんばかりの視線が注がれている。
特に盛り上がっているテーブルでは異様な興奮を見せていたが、他の客は勿論スタッフまでもが見て見ぬふりをしてやりすごしていた。
二人の人気は騒動の様に一気に広まっていった。どう反応していいものか困る二人だったが、店長が間に入って上手く二人を滞りなくテーブルに向かうように声をかけて調整していた。
流石本業なだけはある。店長の指示は的確で、いつの間にか先の五割増しの客をさばいていく。
そんな混雑した状況が二時間ほど続き、流石にシャルロットとラウラも精神的な疲れが見え始めてきた。
「二人を一端休ませて欲しい」
「そう言われても……ほとんどのお客さんが二人を指名してるしね……」
二人が倒れる前にある程度休みを与えなければと千春は奮闘していた頃、その事件は起きた。
「全員動くんじゃねぇ!」