インフィニット・ストラトス 最強と天才の幼馴染 (更新終了) 作:灰崎 快人
全員動くんじゃねえ!と時代遅れのセリフを吐きながらドアを蹴り破って雪崩れ込んできた男が三人、怒号を発していた。
一瞬、何が起こったのか理解できなかった店内の全員だったが、次の瞬間に発せられた銃声で絹を裂くような悲鳴が上がった。
「騒ぐんじゃねえ!静かにしろ!」
男達の服装はジャンパーにジーパン、そして顔には覆面、手には銃が握られている。背中のバックからは紙幣が飛び出していた。
見るからに強盗である。しかもどこかから金を盗んだ後の逃走犯。
しかし古くさい服装である、こんな格好はアニメや漫画の世界でしか出てこないだろう。こんな格好をする人は「私は泥棒、強盗です!」と自己紹介しているようなものだ。
そんな服装に皆一瞬ぽかんとしていたが、銃を持っている凶悪犯なのだ。大人しく言うことを聞かないわけにはいかない。
「あー犯人に告ぐ!君たちは既に包囲されている――」
駅前と言うこともあり警察機関の動きはこの上なく迅速で、窓から見える店外では車両による道路封鎖とライオットシールドで構えた対銃撃装備の警察官達が包囲網を作っていた。
正直言ってやり方が古くさい、何処の刑事ドラマだ?〇阪県警の組事務所の捜索を見習って欲しい……いや見習わなくてもいいかも?
「ど、どうしましょう兄貴!このままじゃ俺たち――」
「うろたえるんじゃねぇっ!焦ることはねぇ。こっちには人質がいるんだ。強引な真似はできねえさ」
リーダー格と思われるガタイのいい男がそう告げると、逃げ腰だった他の男達も自信を取り戻す。
「そ、そうですよね!俺は高い金払って手に入れたコイツがあるし!」
そういうと固い金属音を響かせてショットガンのポンプアクションを行う。そして次の瞬間威嚇射撃を天井に向けて行った。
蛍光灯が破裂し、パニックになった女性客が耳をつんざくような悲鳴をあげる。
今度はリーダー格の男がハンドガンを撃って黙らせた。
「大人しくしてろ!俺たちの言うことを聞けば殺しはしねえよ。わかったか?」
女性客は顔面蒼白になって何度もうなずくと、声が漏れないようにキツく口をつぐむ。
「聞こえるか警察ども!人質を安全に解放したかったら車を用意しろ――」
凶悪犯三人が警察に注目している間に、千春は人質となっている客を一カ所に集めテーブルで壁を作った。
弾丸が警察車両のフロントガラスを割った音と、店外の野次馬がパニックになっている声が聞こえてきた。だが客全員を集めるには十分すぎる時間だった。
「平和な国ほど犯罪は起こしやすいって話本当ッスね!」
「まったくだ」
高笑いをしている男達。それを物陰から観察する目があった。
(ショットガン、サブマシンガン、そしてハンドガンか……他にも予備で持ってる可能性があるけど、とりあえずは――)
目立たないようにしゃがみつつ状況を冷静に分析していく。
もう一度店内を確認しようと視線を動かしていると、ぎょっとした表情に変わった。
「…………」
店内で強盗以外にただ一人立っているのはラウラだった。さらに強盗の後ろで倒れている机の陰にはいつの間にか千春が潜んでいた。
千春はともかく、ラウラは堂々と一人立っていた。銀髪に眼帯、目が覚めるような美少女となれば誰の目にも止まるだろう。
「なんだお前・大人しくしてろってのが聞こえなかったのか?」
案の定、すぐリーダーがやってくる。その手に握ったままの銃を、ラウラは一瞬だけ見てから視線を外した。
「おい!聞こえないのか!?それとも日本語が通じないのか!?」
「まあまあ兄貴、いいじゃないッスか!時間はたっぷりあるんスから、この子に接客して貰いましょうよ!」
「何言ってるんだお前」
「俺も賛成っ。メイド喫茶入ったこと無くって……」
二人そろってテヘッと嬉し恥ずかしそうな表情を浮かべる部下に、リーダーはシワを寄せながらソファにどかっと腰を下ろす。
「まぁいい。ちょうど喉が渇いてたころだ。おいメニューを持ってこい」
ラウラはうなずくでもなく男達を一瞥すると、カウンターの中にスタスタと歩いていく。
そうして持ってきたものは氷が満載された水だった、いや水すらないな氷だ。
「これはなんだ?」
「水だ飲め」
「いや……メニューが欲しいんッスけど……」
「黙れ飲め。――飲めるものならな!」
ラウラは突然トレーをひっくり返す。当然氷が宙に舞うが、それらを回転するかのような動作で掴み――弾いた。
「イイッタイメガァァァ!?」
氷の指弾。それをトリガーから離れていた人差し指に、突然の出来事に反応できずにいた瞼に、眉間に、喉に的確に当てる。
そして犯人の怒号よりも早く、男の一人の懐へと膝蹴りを叩き込んだ。
「ふざけやがって!このガキ!」
いち早く痛みから復帰したリーダーが、早速ハンドガンぶっ放す。
火薬の炸裂音が連続して響かせるが、ラウラまでは届かない。
ソファーやテーブル、観葉植物など、店内のあらゆるものを盾にして、ラウラはその細身からは予想もつかないスピードで駆けていく。
「兄貴!コイツッ!」
「うろたえるな!ガキ一人すぐに片づけて――」
「――1人じゃないんだよねぇ、残念ながら!」
マガジンを切り替えたリーダーのその背後に迫っていたのは、見目麗しい執事服の美少年――もとい美少女のシャルロットだった。
その言葉にはやれやれとため息が含まれていたが、どうもそれは強盗事件に巻き込まれた事では無く、ラウラが機を待たずに戦闘を開始したこと――そしてそれをサポートしなければならないと言うことに対してのものらしい。
「なっ!このっ!」
「あ、執事服で良かった。思いっきり足上げても平気だし」
そんなことを口にしながら、シャルロットはリーダーの拳銃を手ごと蹴り上げる。
そのままの勢いでショットガンの男の肩に今度はかかと落としを叩き込んで無力化する。ゴキッと鈍い音がして、ショットガンを構えていた腕はだらりと垂れた。
2人そろって慣れている。というレベルではない。
より高度な戦闘技術を経験している。その証明であった。
ISの専用機持ちとなればどの国も「ありとあらゆる事態」を想定した訓練を課している。それが候補生であっても変わりは無い。
ISが戦闘不能であっても、状況を打開できるように鍛えられている。
さらに軍人であるラウラと、非軍人であるシャルロットでは、それぞれ持っている技術や対応力、肉体能力に開きはある。
「目標2制圧完了。ラウラそっちは?」
「問題無い。目標3制圧完了」
手下二名の意識及び行動能力の喪失、つまりは気絶を確認して、ふたりはうなずく。
それじゃあと最後の目標1ことリーダーを――と思ったところで、既にリーダーも左手にはハンドガンが握られていた。
「ふざけるな!俺が!こんなガキどもに!」
その引き金が引かれる刹那、物陰から誰かが弾丸のように一直線に飛びだす。
身体を捻って初弾をかわしたシャルロットは、丁度足下にあった@クルーズの特性トレーを勢いよく踏みつける。
フチを踏まれたトレーはそのまま乗っていた『物体』をポーンと空中に投げる。そしてジャストのタイミングで千春の手に渡った。
黒く鈍い光を放つ殺傷兵器。片手に収まるほどの人工殺意。そのハンドガンの銃口をリーダーの眉間に突きつける。
「遅い」
「教官!?」
ガツン!と銃弾では無くグリップが額に叩き込まれ、男は糸が切れた操り人形のように倒れて伏せた。
「全制圧、完了」
「……びっくりしましたよ。本気かと」
「あれなら躊躇いが生まれるからな、大きなスキを活かした制圧方法だ」
「そうなんですけど」
千春さんなら本当に撃ちかねない。というのは黙っておく。
しばらくの間、しーんと静まり返った店内。ジェットコースター展開に呆然としていた店内の『民間人』こと客とスタッフは、のろのろと頭を上げはじめる。
「お、終わった?」
「助かったの?」
危機を脱したことはわかるものの、まだ状況を把握できていない人々は何度も瞬きを繰り返し、ラウラとシャルロットの姿を唖然と眺めている。
同じくまだはっきりとした意識が戻らない店長は、このことを本社に報告したら信じてもらえるだろうか?と妙にずれたことを考えていた。
「ラウラ、シャルロット銃器の回収を頼む」
「「了解!」」
千春は二人に命令を出した後、スタッフと客を動かさずに安静することを優先した。
ある程度状況を理解してもらうのにも時間がかかる、だからこそ少しの時間が必要なのだ。
「もう少しすれば警察隊が来るな、俺たちはこの辺で失敬する方が良いだろう。専用機持ちが公になるのは避けないとな」
ある程度回収が終わった二人を集めて、急いで荷物をまとめる。まとめると言ってもお金じゃないぞ?自分たちの荷物だ。
マスコミが立ち入り禁止のロープを乗り越えてきたところで、事態が再び一変した。
「ムショ暮らしになるくらいなら!いっそ全部吹き飛ばしてやる!」
完全に意識を失っていたと思っていたリーダーは、決まりが浅かったのかそう叫んで立ちあがるなり、革ジャンを左右に広げる。
そこには軽く四十メートルを吹き飛ばせそうなプラスチック爆弾の腹巻きだった、起爆装置は発動しやすいように手の中にある。
「諦めが悪いな」
ため息をつきながら、確実に相手のスキを作り出すためにカモフラージュとして執事服をリーダー格に投げ飛ばす。あちらからの視線は服で何も見えないだろうが、こちらは爆弾の仕組みを全て理解した。
そして三人の手元にある拳銃から――
ダダダダダンッ!
「「「チェック・メイト」」」
高速五連射✕3の弾丸は、的確に起爆装置と爆薬の信管、そして導線だけを確実に撃ち抜いていた。
「まだやる?」
「次はその腕を吹き飛ばす」
「吹き飛ばされないように、ちゃんと罪は償えよ?」
三丁の拳銃を突きつけられ、先ほどまでの威勢も高圧的な態度もなく男は震える声で謝った。
「すっ、すみまっ、すみませんっ!もうっ、もうしません!い、命だけはお助けを――」
その敗北宣言は最後まで続くこと無く、男は再び千春の一撃によって意識を失った。
そして誰にも気づかれることも無く三人は颯爽と立ち去った。