インフィニット・ストラトス 最強と天才の幼馴染 (更新終了) 作:灰崎 快人
「もう夕方だね」
強盗事件から二時間後、三人は残っていた買い物を済ませて駅前のデパートから出ると外はもうオレンジの光景に変わっていた。
「買い物は全部終わったか?」
「うん大丈夫。それよりラウラ、自分のものなのに後半は『任せる』とか『好きにしろ』とかばっかりだったでしょ?ダメだよ?女の子なんだから」
「あまり小言を言うな。老けるぞ」
「老けないよっ!」
二人が微笑ましく話しているが、その言葉は千春のメンタルにぐっさりと傷をつくっていた。
まだ二十代前半とは言え、まだ老けてはいないとはいえこれからの事を考えるとため息がつきなかった。
「あっあそこにある公園に行ってみようよ」
「公園?」
「
「それは興味深いな。日本の城は守りが硬く攻めがたいと聞く。城跡とは言え、一見の価値はありそうだ」
相変わらず何処までもミリタリーな着眼点だが、口は挟まない。
個人の感覚は観察し合い、認識し合うものであって、押しつけるものではない。これは過去に二人から学んだことだ。
あのやり方が正しいと俺が一方的に決めつけてしまった、あの時はそれしか無いと思ったが、冷静になればもっとやり方はあったのかもしれない。
「それにしても、結構買っちゃったね。店長さんがこっそりお給料入れてくれたから、予定より色々買えて助かったね」
「む?金か?それならば口座に二千万ユーロほどあったはずだが」
1ユーロは大体140円だと思っていただきたい、それが二千万……つまり大体26億位と言うことになる。
軍人と言うこともあるが代表候補生としての立場もあるのだろう。
ちなみに俺の口座には日本円で二千万ほどだ。なんか涙出てきそう。
「あとでお金の使い方は教えるとして、公園に着いたからクレープ屋さん探そうよ!」
「クレープ屋?」
「うん、休憩時間にお店の人に聞いたんだけど、ここの公園のクレープ屋さんでミックスベリーを食べると幸せになるおまじないがあるんだって」
「『おまじない』……それは日本のオカルトか?」
「ジンクスだと思えば良い」
しかしそんな噂は過去にあっただろうか?ここにクレープ屋は確かにあるが、ミックスベリーは無かったはずだ。もしや新しいメニューが追加されたのか?
ともあれ今はそれを楽しみにしつつ、そのクレープ屋を探す。しかしそれは探すまでも無くすぐに見つかった。
おそらくは部活動の帰りやお出かけの寄り道なのだろう。女子高生が局所的に多く居る一角にそのお店はあった。
「じゃあ早速頼んでみようよ」
二人の手を引いて、シャルロットはバン車を改造した移動型店舗であるクレープ屋さんに入る。
「すみません~クレープ三つください。ミックスベリーで」
そう言うとお店の主であろう四十代後半の男性が、無精ヒゲにバンダナという風体でありながら人懐っこい顔で頭を下げる。
「あぁ~ごめんなさい。今日、ミックスベリーは終わっちゃったんですよ」
「あっそうなんですか。残念……ラウラ、千春さん別のにしますか?」
「ん?ではグレープを」
「僕はイチゴを。千春さんは?」
「……ブルーベリーはまだ残ってるか?」
「――勿論だ」
「それを頼む」
そう言うと三人の料金を全額払った。
「千春さん別に自分たちで出しますよ」
「気にするな、これくらいは大人に甘えておけ」
出来あがったクレープを受け取り、ラウラとシャルロットに渡す。
二人が店から離れたベンチに移動するのを確認したあと、ふとクレープ屋の店主から声をかけられる。
「あの子は元気か?」
「勿論、たまに悲しい顔をさせてしまうが……」
「そうか。たまには二人で来いよ~」
「えぇ、また時間があれば」
少し言葉を交わした後、俺は二人の元へと駆け寄る。
噂のミックスベリーを食べられなかったことに最初は少し沈んでいたシャルロットだが、出来たての柔らかさもあってその味についつい声が弾んでいるように見えた。
「おいしい!せっかくだからまた来ようよ。次は皆誘ってさ」
「そうか。では私は教官と二人っきりで来よう」
「それは抜け駆けって言うんだよ。もうっ」
聞かれていないと思って好き勝手言ってるな。しかしここまで素直に自分の気持ちを打ち明けられるラウラは見たことがない。
そんな彼女を見てシャルロットは少し羨ましく思って居そうだった。
「なにを話してるんだ二人とも?」
「「何でもないです!」」
「そ、そうか?」
即答で返されるとこっちは少し困ってしまう。ん?あぁ――
「なっ!なななっ!」
「ソースがついてたぞ」
指先でソースを拭き取り、それをなめとる。イチゴのソースも悪く無いかもしれないと思ってしまった。
「拭く前に言ってくださいよ……」
「ん?あぁ悪いな今度から注意する――」
「そう言う教官も、口元に着いてますよ」
そう言うなりラウラは直接なめとりに来た、注意してくれればそれで良かったんだけどな……
「直接なめるんじゃないよ」
「教官だけですよ、ミックスベリーを食べたのは」
「あっブルーベリーとストロベリー……」
「ご名答」
いつの間にかあのお店でイチゴとブルーベリーを頼むのがおまじないになっているとは思わなかった。
一体どこからそんな噂が広まったのだろうか?奇妙なこともあるものだ。
「そっか、それで『いつも売り切れているミックスベリー』ってそういうおまじないだったんだ」
なるほどと感心しつつも、こっそりと千春の手にあるクレープを一口食べる。
ブルーベリーも美味しいのか舌つづみをうつシャルロット。ちなみに先ほども言ったように、あのお店にはブルーベリーとストロベリーの合わせた物はない。
幻のミックスベリーはどういった経緯で生まれたのか分からないが、一つだけ言えるのは千春はブルーベリー、千冬はストロベリーのクレープを好んで買っていたという過去がある。それだけだ。
「それにしても、夏ももう終わりだな」
「そうだねぇ」
二人は何処か遠くを見ていた。きっと二人にしか分からない何かがあるのだろう。
今年の夏は――いや夏と限定すること無く今年というのは色々あって大きな節目だった。千春にとっては二度目の高校生生活、そして過去に出会った人達との再会など出来事はとても大きかった。
まさに人生の節目だと、今はそう思える。
きっとこの二人もこのことは生涯忘れることはないだろう。
「こ、これは何だ……?」
「かわいーっ。ラウラ、すっごく似合うよ!」
「だっ、抱きつくなっ。動きにくいだろ……」
「ふっふー、ダ~メ。猫っていうのは膝の上でおとなしくしておかないと」
「お、お前も猫だろうが……」
そんな楽しげな声が聞こえてくるのは、ラウラとシャルロットの寮部屋である。
夕飯を済ませて千春と別れた後、特にすることも無くゴロゴロとしていた二人は、シャルロットの提案で早速今日買ったばかりのパジャマを着てみよう!ということになったのだ。
「これは本当にパジャマなのか?」
「うん、そうだよ。寝やすいでしょ?」
「寝てないから分かるはずないだろう……」
ラウラが疑うのも無理はないだろう。それは確かにパジャマではあるものの一般的にはあまり見ないタイプのパジャマである。
袋状になっている衣服に身体をすっぽりと入れて、出ているのは顔だけ。しかもフードにはネコミミがついており、手先足先には肉球がつけられている。ようは猫の着ぐるみパジャマだった。
ちなみに他にも着ぐるみのパジャマはあったが、シャルロットが独断で決めたため千春やラウラの意思は全く反映されていない。
「や、やはり寝るときは裸でいい。その方が楽だ」
「ダメだってば~。それに、こんなに似合ってるのに脱ぐなんてもったいない」
今現在の二人の格好というと、ラウラは黒猫のパジャマ、シャルロットが白猫のパジャマである。特にシャルロットはこれをお互いに着てから、ずっとラウラの後ろから抱きしめるかたちで膝の上に座らせていた。相当この状態が気に入っているらしい。
「ほらラウラ、せっかくだからにゃーんって言ってみて」
「なっ!断るっ!なぜそんなことを言わなければならない!?」
「えーだって可愛いよ?可愛いのは何よりも優先されることだよ?」
ポワポワと音が聞こえてきそうなハッピースマイルのシャルロット、今の彼女に堕ちない男性は誰1人としていないだろう。そんな彼女はラウラにとっていつも以上の強敵であった。
とにかく『可愛いから良い』『これを着ないなんてとんでもない』『残念ですがその要求は却下されました』という、いつもとは180度違う理屈なし根拠なし交渉なしの強引なやりとりで、気がつけばシャルロットの膝の上に座らされていた。
「ほらほら、言ってみようよ~にゃ~ん」
「に、にゃ~ん……」
照れくさそうに猫の手振りまでつけてくれる眼帯猫ラウラに、シャルロットはますます幸せのパーセンテージを上げる。
「ラウラ可愛い~写真撮ろう!ね、ねっ!?」
「記録を残すだと!?断固拒否する!」
「そんなこと言わずにさ~」
そんな雰囲気のなか、部屋の扉がコンコンと叩かれる。
女子寮特有のフランクさでそれに答えたシャルロットは、ラウラを愛でて幸せいっぱいだった笑顔が、次の瞬間には真っ赤になっていた。
「おっまだ起きてい……やっぱりそれ着てたか」
来客は千春だった。その手にはなにか抱えられているがチラッとネコミミが見えた。
「買い物袋に一つ紛れてたから、渡しに来たぞ。といっても2人のなのか怪しくなってきたんだが」
そういって千春から渡されたのは少し大きめのグレーの猫パジャマだった。どうみても彼女ふたりの身体とは全くサイズ感があわない。何故これを買ったのだろうか?
「それは千春さんので間違いないですよ?」
「俺が買った覚えはないんだが……まさか勝手に?」
「お揃いで良いかなって思って」
マジかと言葉を漏らしながらもそれを見つめる千春、正直言ってこれを成人男性が着ると言うには絵面的に大丈夫なのか
「2人とも似合っていて可愛いんだが、これを俺が着るのはちょっとな――」
「「か、可愛い……」」
千春が何か話しているが2人の耳には一切入っていないようだった。顔を真っ赤にして停止してる2人を見て苦笑いしつつも、こっそりと部屋を出て行く。これ以上余計なことを言えばラウラのように逃げられない状況になりかねない。
「それじゃあ、2人ともおやすみ」
2人の部屋を離れ、千冬の居ない自室へと戻りパジャマをじっと見ていた。
お揃いとして買ってくれた事は嬉しいのだが、猫パジャマは色々と複雑だった。これを着るべきか着ないべきか……悩んでいても仕方が無かった。
買ってくれた物なら一度は着ておかないと、そんな思考が一瞬浮かびおもむろにパジャマに着替え始める。
着替え鏡に映る自身の姿を黙って見る。じっと黙って見ているが、やはり成人男性がこれを着るのはおかしいのでは?と思い始めている。
「俺には似合わないか……」
「そんな事は無いぞ?くくくっ」
そんな声が聞こえハッと振り向く。そこには仕事上がりの千冬の姿があった。にやにやとこちらを見ている千冬は何処か面白そうな玩具を見つけた子供のようだった。
「すぐ着替える」
「いいや着替えなくて良いさ、むしろそのままで良い」
そう言うなりベットに押し倒してくる、こうなってしまえば千冬を止めることは出来ない。
「ほら鳴いてみろ、にゃ~んとな」
俺に残された選択は彼女に従うだけだった……鳴くよりも泣きたい