明けぬ夜の宿痾   作:moti-

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実はジャンルは日常

 

 

 ギターを弾いている。指が痛くなることがまったくないから、ついつい長々と弾いてしまう。作業用BGMを担えるんじゃないかと思えるほどだ。それに歌までつけてしまったら、もう自重なしで一日中弾いてられるんじゃないかと思うくらいだ。

 

 ところで最近はまたこのアパートから人が消えた。それも一斉に。一体何が起こっているのやらわからないが、残っているのは隣人二人と俺だけだ。わけがわからない。久しぶりに大家さんと会って話をした結果。

 

『はぁーかわいいですやっぱりハジメさんは女の子の格好してたほうがいいですねぇー』

 

『……どうも』

 

『声もしっかり作ってるんですねーハジメさんかわいい!』

 

 高校生の少年が一人、いきなりこうして一人暮らしの場所を探せた理由はこの人のおかげも大きい。

 まぁそういうわけもあって、大家さんには俺の素性に対してはちゃんと伝えてあった。女になってからは引きこもっていたから会ってなかったが。

 昔から女役をすることはままあったし、その映像を渡したこともあったから、時折せがまれたこともあったのだ。

 

 ところでどうして一斉にこう退去してしまったのか聞いたがはぐらかされてしまった。

 彼女いわく『俺は大丈夫』らしいから、一応信用しておこう。でもそれは自分に原因があるということを暴露してしまってはないだろうか。

 忘れよう。

 

 ということもあって、騒音を気にせず歌うことができるようになったのだ。

 

「────♪」

 

「きゃー! ハジメさん素敵ー!」

 

「俺は泣いた」

 

 童磨やめろ。

 

 せっかくなので夜。パジャマパーティー的なノリで誘った二人の前で、練習がてら弾き語りをしてみる。

 二人の前だとあんまり気負わなくて楽だ。のんびりと、ギターを弾いている。やっぱりこうしてギターを弾くのは楽しい。というか、やっぱり俺は誰かの前で何かをするのが好きなのかもしれない。

 

 側に積んでいる鬼滅の刃を読みながら、善悪がごろっと寝転ぶ。

 

「鬼滅って誰推しですか?」

 

「んー。俺は善逸かなぁ」

 

 だいたい無限城での戦闘のせい。

 あれはズルいでしょうが。

 

「俺は義勇さんですね」

 

「あー、っぽいわー」

 

「コミュ障なところとか似てますよねー」

 

「やめろ……やめろ。そういうなふだは誰なんだよ」

 

「サイコロステーキ先輩」

 

「予想外のところから飛ばしてくるのやめろ」

 

 いやでも、となふだは続け。

 

「自分の実力不足を知ってるところ普通に好きなんですよねー」

 

「でも相手の実力見抜けなかったじゃん」

 

「そこはまぁ仕方ないということで」

 

 なふだはと言うと、のんびりとノートにペンを走らせている。見てみると配信になにやら関係のありそうなこと。

 

「なにそれ?」

 

「ボイスの台本についてちょっとだけまとめてるんですよー。……ていうかハジメさん、しれっと弾きながら話せるんですね」

 

「これに関してはコード繰り返してるだけだから別に誰だってできるよ」

 

 それこそ何回もやってると勝手に指が動く。

 だから、そんなに難易度は高くないのだ。

 

 しかしそうか。ボイス収録。というかボイスか。

 

「また?」

 

「またですよー。リスナーの需要が……ねぇ……。私なんかの声がほしいものでしょうか?」

 

「ほしいんじゃない?」

 

「ボイスの感想ではいっつも『もっと罵倒して』って言われるから困るんですよね。普段からそんなに言ってないでしょう……」

 

 言ってるんじゃないかなぁ。リスナーには。

 俺と善悪に対する対応の差みたいなものだろう。別に罵倒というラインではないのだが、なんというか……辛辣である。

 

 ギターを弾くのを一旦中断。そして腕を組んで考える。

 

「ボイス販売って売れるのかな……」

 

「いいですねやりましょうそうですよね先輩」

 

「ああその通りだともやりましょうねハジメさん」

 

「いや別にやるとは言ってないが」

 

 俺のボイス買うくらいなら猫の声を収録して買ったほうが幸せになれる。

 犬の吐息でもよし。

 言い値で買おう。

 

「……じゃあこうするか。

 ここに実家から持って帰ってきた劇の台本があります」

 

「なるほど?」

 

「昔一人でやったやつ今から読んでやろうか? ボイス代わりになるんじゃない?」

 

「わぁい」

 

「わぁい」

 

 そんな反応だったわけで、取り出したのはアホほど練習したその台本。

 髪を少しだけぐしゃりと。なふだが『ああ!』と声を上げたが、あとでまた梳くので許してほしい。

 劇前にやっていたことなのだ。いつもそうだったのだから、そうしないと少し落ち着かないのだ。

 

 ……若干乗り気になっている自分もいる。

 今の俺は少しだけテンションが高いのかもしれない。でもまぁいいや。これまで何度もやってきたことなのだから、後悔なんてしないだろう。

 

「これね、とある村のお話なのよ」

 

「村ですか?」

 

「うん。雛見沢みたいなところ」

 

「一気に嫌な雰囲気になりましたね」

 

「だから劇ではホントはその村の服着るのよ。スカートみたいな感じの。

 ってことでキャラの演じ分けは本人の話し方とか立ち振舞によるのね。まぁそういうわけで読むよー」

 

「えっ」

 

 普通におかしいと思うが、実際にそんなことをやらされたのだから仕方ない。

 

 読むだけなので簡単だ。比較的ラクにできる。もっと大変なのはセリフを覚え、動きをつけることなのだから。

 

「『──はぁー……。新しくカフェができるっていうから期待したのに……あんなのカフェじゃないじゃんね? まったく期待はずれだよ! 珈琲苦いし!』

 『え? 見栄張ってブラックとか頼むからだって? あー! 言ったなー!? もう、でも珈琲しかメニューがないのはカフェとしてどうなの!? だったらそのまま飲みたいじゃん!』」

 

 そこで一瞬間を開けて。

 

「『……なんてね。なんでもないよ』。

 『ただの狂人ごっこ』」

 

 早口でその場を締めくくる。本番では舞台袖に向かい、そこで一瞬止まるのだ。舞台から消える寸前に聞こえるか聞こえないかくらいの声量で小さく言い残して。

 今回は必要ないだろう。黙っておく。

 

「『……ったく、あの子は一体何を言ってるのやら……。にしても今日はいい天気だねぇ。気分も晴れるよ』」

 

 今度は少し年の入った親の役。声音と雰囲気を調節して、それでよし。続けてその声を継続する。

 

「『村長はなにを考えてるのか。あの子を受け入れるなんてさ』」

 

 そうして、本読みは進んでいったのだ。

 

 

 

 

「──ふぅ。終わりかな? ってどうした善悪」

 

「ハジメさんの演技力と自分の演技力を比較して死にました」

 

「恵まれた台本からクソみたいな演技しますからね先輩。だからボイスハブられてるんですよ……」

 

 まぁ、演技力には少し自信があるからちょっと嬉しい。

 

「どんな台本なの?」

 

「見ます?」

 

 と言って、少しスマホを見せてくる。

 シチュエーションとしてはルームをシェアしている年上の兄ちゃんくらいのイメージであるらしい。

 

 台本の出来としては……まぁ。刺さる人には刺さるのではないだろうか。なまじ中の人の顔を知っているからこそ、なんとも反応に困る。

 しかしまぁ、理解はできる。というかモデルの製作者がリアルの彼の特徴をよく捉えてるからこそ、あんまり違和感のないシチュエーションであることはたしかだ。

 

 いいことを思いついた。

 

「スマブラしない?」

 

「やりますやります」

 

「わぁい」

 

「一戦ごとに負けたら罰ゲームありね」

 

 負けた。

 

「うぅぅぅー……」

 

 なんでこうも俺を負かすときだけ結託するのか。

 

「ないっぴー」

 

「ないっぴー」

 

「俺は東堂じゃないんだけどなぁ……」

 

 そういうのは普通に駄目だと思う。

 しかし二人いわくその原因は俺にあったようで、なふだが代表してこちらを指していった。

 

「せっかく新しいパジャマ買ったんだから着てください。そのクソダサシャツをやめましょう」

 

「いいじゃんかよーこのシャツよー」

 

「だめです」

 

「いいじゃん」

 

「だめです」

 

「むー」

 

 仕方ないので洗面所で着替えた。

 ちょっともこっとしたもの。この時期はまだ微妙な時期なので、夜中暑くなることもあるからあんまり着たくはなかったが。まぁ罰ゲームだから仕方ない。仕方ないので着替えてきた。

 別にいいじゃんクソダサシャツ。でかでかと『やる気がない』って文字入ってるタイプ。

 いいと思うんだけどなぁ。

 

「よっしゃー次は善悪負かしちゃるわー」

 

「急に似非方言キャラにならないでください」

 

「ていうか普通にハジメさんが弱めなんじゃ……」

 

「CPUと何度も戦って研鑽してきた俺が弱いって言いたいの?」

 

「えっ、友達は……」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「…………今のなしで!!」

 

 泣いてないし。別に泣いてないし。友達なんていらないし。だから自分から遠ざけてやったんだし。

 そんなのいらないから別になくても問題ないし。

 だからそんなかわいそうなものを見る目で見ないでもらいたい。別に俺は何も思ってないから。

 

 そして二戦目。

 メテオでぶっ飛ばそうとしたら返されて死んだ。

 

「…………」

 

「……わ、わー、うまいなー……」

 

「顔覚えたからな」

 

「覚えたも何もリアルじゃないですか」

 

「ID抑えたからな」

 

 と冗談を言いつつ。けれどまだ残基はあと二つあるので大丈夫。死ななきゃいいんだ。このまま逃げ切って善悪をビリにしたらいい。

 と思いつつ、とりあえず始動する。

 削るのはなふだに任せればいいのだ。それまで逃げ続ければいい。それがすべてだ。よし、その方針で行こう。

 

「ガードクラッシュした……!」

 

「あっ」

 

 なふだにスマッシュ決められて撃墜。

 

「あなたの負けです」

 

「まだあと一基あるし……!」

 

「そうそう。そういうわけだ」

 

 と、そこで善悪がなふだを撃墜した。

 漁夫の利野郎め。あいつだけまだ一人残基が多いぞ。

 なふだと視線を合わせて頷く。

 きっと俺たちの心は一つになっているはずだ。

 

 きっちりとなふだにトドメを刺されて負けた。

 

「ねぇぇぇぇぇー!?」

 

「私、負けるの嫌いですから……。あ、じゃあ罰ゲームおねがいしますねっ」

 

「キレそう」

 

 まぁこんなことじゃキレないけどさ。

 次の罰ゲームはなんだ。何が来たって問題ない。やってこいよ。むっとしながら正座で待機。

 

「……。またかよ」

 

「また猫耳です」

 

「なふだがつければいいのに」

 

 そっちのほうが俺よりも似合ってると思う。顔を少しくしくししてみると、それっぽくなるだろうか。

 まぁいいや。これなら別に嫌じゃない。一回経験したことだ。一発芸だなんて言われたほうが困る。特に問題のないことならば流しておいたほうがいい。

 

「次こそは善悪を潰す……!」

 

「怖い……子猫の威嚇……怖い……」

 

「煽ってますねぇ……ハジメさん、どうします?」

 

「うぎゅ、うぬぬ……! 仕方ない……! なふだ!」

 

「はいなんでしょう?」

 

「一個言うこと聞くから善悪潰そう?」

 

「やったー! ということです先輩! 容赦しませんよ!」

 

「えっ結局ハジメさん罰ゲームに内定したみたいなもんじゃないですかそれでいいんですか」

 

「いいんだ」

 

 俺はにっこり笑って言った。

 

「赤信号、みんなで渡れば怖くないよ……!」

 

「やっべぇ目が据わってやがる」

 

「ハジメさん、かわいい!」

 

 三戦目開始。

 とにかく善悪だ。善悪を潰す。攻撃、場外へと運び、外に出し、そして空中で運びながらNBでさらに押し出しつつ戻る。

 バースト。よしだいたい即死。最初からメタナイトでやっとけばよかった。

 あんまりうまく行ったからついつい笑ってしまう。

 

「……く、くふっ、くはははははっ」

 

「わぁーいガチだぁ」

 

「どうします先輩? 罰ゲームの心の準備をしといたほうがいいですよ」

 

「おいお前他人事だと思って……!」

 

 復帰してきた善悪の無敵時間が切れるタイミングで即座に連撃。ダメージを稼ぎつつ、撃墜を狙う。崖際はもう警戒されるだろう。だから上だ。

 上空へと吹き飛ばして上Bでぶっ飛ばす選択が一番賢いし確実である。

 ということでダメージをためてなふだがスマッシュで二基目撃墜。

 あと一つ。

 

「これつらいなぁ……?」

 

「俺がずっと味わってきてたやつだよ」

 

「いや俺結構なふだもねらってたつもりだったんですけど……」

 

「俺がそう思ったってことはそれがすべてなんだよ。わかる?」

 

「まぁそうですね。あー! 負けたー!!」

 

 よっしこれで確実に罰ゲーム仲間ができる。

 最初の目的も果たせるというものだ。

 

 ちなみになふだとはガチでやった結果負けた。

 つよい。

 

「じゃあ善悪罰ゲームね」

 

「くっ……殺せ!」

 

「やだよ。ってことで」

 

 俺が指したのはスマホ。

 

「これ、読んで?」

 

「えっ」

 

「読んで?」

 

「えっ」

 

「読めっつってんだろすっとぼけんな」

 

「はい……」

 

 いやマジで言ってんのかって顔しないでいいから。

 クソみたいな演技と言われるそれが気になる。当然じゃないだろうか。

 これくらいいいと思う。

 

「えー……まぁいいですけど……」

 

 

 

 いざ聞いてみると……なんだ。いや、何だ? 反応に困るくらいには固い演技だ。

 

「うーん」

 

 なふだから借りた五点の札を上げる。

 なふだのほうはというと、一点の札を上げていた。なかなか辛辣だが気持ちはわかる。

 

「…………」

 

 それを見て善悪の目が閉じた。

 

「何も見たくねぇ……」

 

「おいこら」

 

 でもまぁ気持ちはわかる。

 ネタにしてくれたほうがいいよね、こういうの。

 

「じゃあ次はハジメさんの罰ゲームですね」

 

「……あー、うん」

 

 そうだね。

 なふだに頷くと、彼女はにっこり笑って親指を立てる。

 

「今度からちゃんとしたパジャマを着るって約束しましょう?」

 

「……えー」

 

 させられた。

 クソダサシャツ、買ってもらったものよりもはるかに着心地いいのになぁ。開放的で。






 イツライだいすこ

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