「で、歌詞はどうするか決めたか?」
「ストーリーだけ」
「ていうかそもそも曲ができないと歌詞なんて付けれないでしょう?」
「歌詞から作るって選択があるんでね。すでに作ってるのならそっちに合わせるつもりだった。……まぁいいや。ないならないで今の試作が腐らないで済むし」
高山兄の家にて、三人で集まっている。
その理由は曲作りだ──納期は別に設定していないが、そんなに時間はかけたくはない。だから始動はなるべく早く。
曲というか創作物は時間をかければそりゃあ良くなるが、時間をかけたからと言って評価されるとは限らない。時には速度を重視したほうもいい。YouTubeなんて、毎日途方も無い数の動画が上がる場所からすればなおさらだ。
だから完璧主義は捨てた。なるべく早く出すことを意識する。
明確な納期こそ設定していないが、幸い俺たちは時間に余裕が有り余っているやつらだ。二ヶ月以内には絶対上げるという気で。
「で、現状どんなの?」
「これ」
「んー、なんか違う。もっとなんかこうネガティブポジティブみたいなもん」
「んー、歌詞とか歌い方で調整できない?」
「今はなんか中途半端。ちょっとポップな感じで浮足立ったみたいにへんてこを入れてみて」
「感覚的すぎてわかんねぇ……」
と言いつつも、即興で進行を調整していく高山兄。
コードの感じ自体は嫌いじゃないけれど、今のはちょっとダウナーすぎる。俺っぽさがあると言えばあるのだろうが、まだちょっと明るくしてほしい。
夜中の暗闇をスキップしているような。そんな感じの想定がある。……ていうか今ちょっと考えてるのを前で弾けばいいのか。
作曲なんかは門外漢だが、それでもコードの扱いで雰囲気を作ること自体はできる。
「あー、なるほどそんな感じね。最近良く聞く感じのあれだ」
「全然これっぽさがあったら崩してもいいから」
「じゃあピアノの音使ったほうがいいな……っていうか不安定さ表現するときにピアノの音声が優秀すぎる……」
「すごくわかる」
チートだよチート。ピアノ入ってたらそれだけでなんか上品さとか出るし。ずるい。
こういうのが気軽に入れられるようになったのは時代の進歩だと思う。
「ストーリーって言ってたけど、どんな雰囲気?」
「ちょっと明るく振る舞ってるやつがあれやこれやネガティブ極まりないこと言って周囲を遠ざけようとするんだけどうまくいかなくてそれに救われてるってどうしようもないやつ」
「ハピコさん自身じゃないですか」
ちがわい。別に明るく振る舞ってたりしないわい。
別に俺のこれは空元気なんかじゃないし、ネガティブなのは元からだ。周囲を遠ざけようとしているわけじゃない。周囲と関わる意味がわからないだけ。
それに救われているっていうのだけはまあ、否定しない。
言い逃れのしようがないほどにそのとおりだからだ。
「とりあえず、そういう雰囲気」
「なるほどねぇ……入れたい歌詞とかはある?」
「んー。今んところ特にはない。ていうか曲に合わせて作るから別に気にせず一回作ってもらえれば」
「おっけー。じゃあその方針で」
話し合いは万事快調。
「それでソラのほうはカイラに話はしたわけ?」
「しましたよ。結構乗り気でしたから、そっちのほうは特に問題ないかと」
「ふーん。じゃあ公式動画のBGMとか任せれるじゃん。やったね」
「そうですね。外部に依頼しなくて良くなるので」
ていうか青玻璃カイラのフットワークが軽すぎる。
ひょっとしてアパートの住民が消えたの、あいつが大家さんに何か言ったからだったりしないだろうか。
いやそれは流石に無理か。でもなんか父親に雰囲気似てるから普通にやりかねないんだよなぁ。
こわい。
「MVとかってどうするか決めた?」
「俺がイラスト描く感じかなぁ。それか善悪に依頼しようと思ってる」
「一枚絵?」
「一応画像編集自体はちょっとできるから、それを編集してどうにかできないかなって」
「クリエイターに任せたらどう? MIXとかの計画は」
「なしでよくない?」
「……まぁなくても全然通用する歌唱力だからなんも言わんが。一応俺もできるからちょっとだけやっとこうか?」
「わぁい」
助かる。
そこらへんに関しては全く知識ないからなぁ。
そもそも土台が違ったわけだし。これまでは劇で使うために歌ったりしたから、一発勝負として上達せざるを得なかったわけだから。
見せるという意識自体はあるけれど。
だからと言って、あんまり音源化するということに対しては理解があるわけじゃないから、そういう意味でもこうして顔を突き合わせて話せるのは助かった。
「っていうかさ。高山兄って作詞できるわけ?」
「ん? 基本的に全部やったことあるしできるよ。作曲も作詞も」
「強い……」
「必須技能でしょ。一つだけで食えるほど強いわけでもないんだし」
確かに、そう言われればそうかもしれないが。それにしたってすごいことはすごいんじゃないだろうか?
「まぁあとは俺がどこまでできるかの勝負になるからさ。監修頼むわ」
「じゃあはい。おしまいー。あー疲れた」
「一気にダレるじゃん」
「膝枕しましょうか?」
「わぁい」
やってくれるというのならやってもらう。なふだも時々やってくれるんだよな。善悪も。男に膝枕されるっていうのは何だとも思うが、それでも普通に嬉しいので問題はない。
「ざくアクどこまで進んだー?」
「あんまりやってない。エステルって人が仲間になったくらい」
エステルさんすき。
でも彼女がいろいろコミュガバッたせいで大変なことになってるの困る。
いや、ただのやんちゃなガキ大将にそこまでいろいろ任せるっていうこと自体がおかしいんだけれども。
「エステルさんはいいぞ……いいぞ……」
「沼者特有の発言じゃんこっわ」
ていうかざくアクキャラ基本全員最高なのでもっと推していってください。
お願いします。
「──修学旅行の思い出?」
ええ、となふだから返ってくる言葉を聞いて、ようやくちゃんと飲み込めた。
にしても随分いきなりの発言じゃないだろうか。急にそんなこと言われても困る。
「特にない」
「え……ホントですか? 京都のお土産屋でダサいキーホルダー買ってたりしません?」
「やめてくれ後輩、その言葉は俺に効く」
善悪に二人分の冷たい目線。
「やめてくれ」
「なんていうかお前」俺は言葉を最大限に選び、ようやく最適なものを導き出す。「かわいそう」
「やめてくれ」
「……ま、その感性に関しては今更なのでなにも言いませんよ」
前からそうだったのか……俺にはいまいちわからなかったが。ていうか感性の良し悪しってわからない。
今のが流石にありえないとは思っても、普段からセンスが悪いわけじゃないと思うんだけどなぁ。
「ハジメさんも結構感性が狂ってますからね」
「そうかなぁ……」
「いいですか、ハジメさん」彼女は深刻そうな表情で。「普通はクソダサシャツに人権ないんですよ」
俺に人権はなかったようだ。
「ていうかハジメさん……女物の服が嫌だからって、そんなきぐるみパジャマ着ないでも……」
「あつい」
「そりゃそうですよ。あと柴犬好きですよね。猫のはないんですか?」
「アメショのがあるよ」
「あるんですね。そうですか。なんであるんですか」
買ってきたに決まってんだろ。
普通のパジャマだとお洒落してる感が強くて好かないが、きぐるみパジャマだとネタになるじゃないか。
ほら、存分にネタにするといい。両手を広げて威嚇のポーズ。
「先輩、ゴー!」
「あいよ」
「えっちょっまっ……っく、んんんっ……!」
くすぐりには人間は無力なのだ。地面に両手をついて敗北宣言。
「サイテーいきなりくすぐるなんてサイテー」
「両手を広げたってことはそういうことでは……?」
マジで言ってんのかこいつ。流石に怖すぎるだろ。
人の心がない。
「なんかいらっとしたので先輩値下げしておきますね? 百円」
「いつになったら回復してくれるんですかねぇ……?」
「それらしいことしないからじゃないですか。……まぁ、百円だったら手を伸ばしやすいからついでに買ってあげますよ」
「これはデレ……?」
「俺より高いね」
「ハジメさんは自分で二円にしたからでしょう? あと先輩刺しますね、いいでしょう?」
「よくないぞぉ?」
と言いながら善悪を指で突くなふだ。わざわざ効果音まで自分の口で言っちゃう感じのやつだ。俺も時々やるからわかる。
「で、なんでいきなり修学旅行の話? 俺は小学のときは同級生から逃げて中学のときハブられてたからあんまいい思い出ないぞ?」
「高校も一年で中退ですしねー。ところで小学生のときはなんで逃げてたんですか?」
「あー」
あんまり思い出したくもないが。
あのときの俺はそこそこあれだったもので。
「狙われててさぁ。ベッドに夜中忍び込もうとしてくるやつがいたんよ」
「あー、なるほど。たしかにそれは怖いですね」
「あんまりに怖くてトイレで寝たもんね俺。おかげで寝不足だし遊園地とかお土産見るだけで終わっちゃったわ」
あれはあんまりな思い出だった。忘れよう。
ああ言うの本当によくない。ちゃんと人の布団には入らないようにわきまえよう。わかったか。
相手からの許可があったらいい。
「じゃあ、今度私たち遠出することになるんですけど付いてきません?」
「えー? どういうこと?」
「……ああ。俺たち、ライブの企画があるんですよ。だからでしょう」
「あーね。えっ、そんな余裕あるの? すっげー」
「だいたいカイラさんがどっからか資金調達してくるんで開催自体は結構な頻度でできるんですよね。ただ今回みたいに大規模な舞台は初めてです」
「で、いつになるの?」
「三ヶ月後。これは公式が今日発表しましたね」
「はえー」
だからそれに付いてこないかということだろうか。まぁ、誘われたのなら行くが。
「で、それについて告知企画があるんですよ」
「はいはい」
「そのときに定期放送とついでに会場付近のお店を事前に紹介するものを作りたいなという話が出まして」
「はいはい?」
「ということでカイラさんがスペゲスとしてハジメさんを呼んで一緒に周辺のお店を回っていこうという企画が」
「なんであいつ俺を巻き込むの??」
これがわからない。
いや、ちゃんとVTuberの中の人が露見しないように気を使っているというのはわかる。でもなんで関係ない俺が呼ばれるのだ。困る。
「カイラさんが言うには『ハピコさんはじぐざぐプロジェクトの特別協力者だからー』って……」
「クソが」
たしかにそういう話はした。でもなんでここで絡んでくるのやら。
わけがわからない。でも身バレ対策とかもやってくれてるんだしちゃんと従ったほうがいいか。
ため息一つ。
「そもそもVTuberの運営グループがリアル方面からなにかするのどうなの?」
「タブレット越しにライバーさんも参戦するようなので大丈夫じゃないですか?」
「むー……まぁいいよ。でもバーチャルの強みを潰しにいくのどうなのかなぁほんと……」
「もう手遅れですよカイラさんは自分自身の3Dモデル持ってますし」
「は?」
「全方位からカメラで撮ってモデルを作成したわけですよ」
「アホじゃねぇの」
「ついでに時々公式で出演しますしね」
「アホじゃねぇの」
と言いつつ動画を検索する。マジで出てきた。
ていうか青玻璃カイラで検索かけたら大量に出てくるの笑ってしまう。
せっかくだからモニターにうつして三人で眺めることに。
モニターの前でぎゅっと団子になりながら見る。
『はじめましてー、『じぐざぐ』プロジェクト統括をしてます青玻璃カイラですー』
マジで何やってんだこいつ。
自己主張が激しすぎる。
『皆さん疑問だろう『VTuberの企業って基本普段何やってんの』っていう疑問を徹底的に暴いていこうかと思って無許可で動画撮ってます。いわばドッキリですね』
「クソ野郎じゃない?」
「そりゃあそうですよ」
頭おかしいもんなぁこいつ。
カメラがそのまま会社の事務所を覗く。この間顔を見た技術班の固まっているところにゆっくりと近づいていき、カイラが声をかけた。
『よっす』
『こんにち……っていや何やってんすかカイラさん』
『企業がなにをやってるのか簡単に見せようと思って……』
『マジですか? 企業秘密というか公式公開できないやつの塊ですよわかってます?』
『大丈夫だって僕に任せろ(キリッ)』
『不安だなぁ……』
俺もそう思う。
で、そこからなにをしているのかの情報が少しだけ見えた。
涼の3Dモデルを作っていた様子。
『じぐざぐ』は必ずライバーが公開されたタイミングですぐ3Dモデルがお披露目される。
だがデビューから発表まで少しだけ時間が空くから、これはおそらく連理がVTuberデビューした次の日の動画だろう。
いろんなことやってんなぁ。
俺が意外とすんなり受け入れられたのはこいつの自由さがあったおかげかもしれない。
そう考えれば少し感謝しないといけないかも。
「──あ、今ついでに情報が来ました。
『じぐざぐ』定期放送にもカイラさんと一緒に参加しないかって」
「アホじゃねぇの……?」
なんというか、どんどんと外堀を埋められるような気がしている。
まぁいいか。
仕方ないから受けてやる。
やることがないよりははるかにいいと思うから。
やることができたのでハジメちゃんをニートとは言わせません
番外編をするとしたら
-
過去編
-
公式ライブ
-
なふだちゃんお家騒動
-
全部