明けぬ夜の宿痾   作:moti-

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グッバイ・シンフォーシア

 

 

 配信の時間。

 

「ほらーはじめるぞー」

 

 『わぁい』

 『ハピコちゃん、かわいい!』

 『ハピコちゃんひっさしぶりに配信したね?』

 『毎日更新じゃなくなったからって久しぶりっていうのはどうなのかなぁ』

 『昨日もやってたぞ』

 

「なんだろ……俺も久しぶりの配信の予感がする……」

 

 実際、しばらくは心が落ち着いてなかったから仕方ないと思う。だがまぁとりあえず、今日は普通にテンションを上げてやっていこう。

 こういうの、テンアゲと言うのだろうか。わからん。

 まぁいいや。

 

「ということでこういうものを買いました」

 

 がさごそと袋を漁る。

 

「ダークソウルリマスタード」

 

 『RFAかと思ったらRTAですか?』

 『スイッチ版? あんまりよくないって聞く』

 

「まぁ俺もPC版あるしどうしようかなぁって思ったんだけど。でも60FPSとグリッチに慣れてるとほら……ちょっと腕なまるじゃんか。だから30固定のやつでちょっとね」

 

 『グリッチとか言うワードの時点で結構やってるやつだ』

 『ブラボをしろ』

 『ブラボ……2……?』

 『俺は泣いた かわいそうに ブラボ2なんてないんだよ 血に酔った狩人が生み出した虚像なんだ』

 『カイシャクだ↑ なにか言い残すことはあるか?』

 『先生……ブラボが……したいです……』

 『したいと死体をかけた粋な終生の句』

 

 ブラボ2なんてないんだよ。

 ていうか2が来るとして前作を超えられないんじゃないだろうかという思いがある。ブラボはあれでまとまっているからいいので、そこからさらに広げようとするとどうしても無理が来るんじゃないだろうか。

 例えばダクソ2みたいに。

 いや個人的には嫌いじゃないが。

 

 ということでスイッチの画面をキャプチャー。配信画面に載せる。右下にwebカメラの映像。俺の反応をこれで捉える感じ。

 まぁそれは別になくてもいいんだが、せっかくなら少しやっておこうかと。

 

「ってことではじめるぞー」

 

 キャラ選択。

 盗人を選んで贈り物は黒火炎壺。これで不死院のデーモンを初手爆殺する。

 

「先手を取ってフレイムを撃つ。これだけでいい……」

 

 『エステルさん!?』

 『アホでち』

 『ガバってて草』

 『アホでち』

 『被弾してんじゃねぇか!』

 

「慣れてないの……」

 

 普段はこのルートを使わないのでどのタイミングで火炎壺を投げればいいのかわからないのだ。

 まぁ倒せたのでいいだろう。

 次は壁に向かってめり込むようにジャンプしてプロファイルロード。

 

「あっやべぇロードおっそ」

 

 『いつもの癖ですねぇ……』

 『アホでち』

 『国王呆れまくってるじゃんほらー』

 『PCじゃないと駄目なんじゃないっけ』

 

 PS4も駄目だったっけ。覚えてないからいいや。

 とりあえず今後はミス以外にプロロを使わないことにしよう。時間の無駄だ。

 

「今思ったけどこれリマスター前の仕様だな?」

 

 『まぁだってスイッチだけリマスターした会社違うんでしょ』

 『はえー知らんかった』 

 『スイッチとか出先でダクソできる以外の長所あるんですかね』

 『出先でできること以上に長所があってたまるか だったらみんな買うわ』

 『携帯機って考えたらまぁ許せるくらいにはサクサクだと思うわ』

 

「トロフィーないけどな」

 

 無印はトロコンが超簡単だから楽しいのに。基本的に周回も余裕だし。

 飛沫に飲まれてしまったらPS落ちるけど一瞬で敵が溶けるの楽しいんだ。

 

 楽しい。

 不死院を脱出。とりあえず城下不死教区へと向かい、さっさとセンの古城を抜けてしまおう。

 SGSは普通に使えたはずだし。

 

 赤涙を確保しながら飛び降りて着地キャンセル。

 そして走り抜けて城下不死教区へ──

 

「ねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 『草』

 『やっちゃえバーサーカー!』

 『楔のデーモン抜けミスってて草』

 『事故らないように普通は逆抜けするんだよなぁ』

 『ぴえん』

 

 最悪だ。

 また同じルート走らないといけないし。

 ばーか。

 

「い……いや、乱数調整。これで黒騎士斧槍取るから」

 

 『本当ですかねぇ』

 『むりでしょ』

 『はいはい乱数調整ねはいはい』

 『アホでち』

 

 落ちませんでした。

 

「ねぇぇぇぇぇぇぇぇ……!」

 

 『元々使うつもりないなら別にええやん?』

 『斧槍に逃げるな』

 『RTAから逃げるな』

 『トロコンして♡』

 

「トロフィーないんだっつーの。ってかもともとちょっと早い攻略しよっか程度の気持ちだったしだから別にあの落下は問題ないから」

 

 ないんだ。大丈夫。ないから。

 ないってば。

 

 嘘です。

 

「ここでバグ技の時間です」

 

 『SGSやろなぁ……』

 『親の声より聞いたカンカン音』

 『もっと親の声聞けよ』

 『聞けたら……よかったな……』

 『あっ』

 『ごめんやで』

 『マジですまん』

 『嘘ぴょん☆』

 『アホでち』

 『この馬鹿息子を磔にしろ』

 『殿下!』

 

「親の話はやめろ」

 

 思った以上に冷たい声が出た。まずい。なんとか舵取りしないと。

 それでも、昔よりも心に余裕が出来ているのは少しは割り切れたってことなのだろうか? わからないけれど。

 とりあえず、今は配信だ。

 

「ごめんごめん、ちょっとな。そういうネタはやめとこうぜ」

 

 『ごめんやで』

 『ごめんなさい』

 『内臓三十メートルふっ飛ばして死んで侘びます』

 『やめなさい』

 『仕事はじめてから親と話すこともなくなったなぁ』

 『仕事ニキいろんなこと聞いたほうがいいぞ 親ほど気軽に社会のことを聞ける人は滅多におらんからな』

 『LINEしてみるわ』

 

 人の死というのは呪いだ。

 死ねば抱えていた呪いも許さざるをえなくなる。それがどれだけ酷いことか。当人になってみなければわからない。

 俺は当事者だ。父親が死んで、今はこうなってしまっている。

 だからこそ、俺にはそういうことがわかる。

 

「会いたい人には会いたいって言っとけよ」

 

 SGSを成功させる。

 センの古城に不法侵入。ここは走るだけなので問題ない。

 楔のデーモンでガバッた俺だが、ここにはそれこそ無数に来ているのだ。今更ミスるなんてありえない。

 

 ロイド取ってない。

 

 ガバが発覚。

 あれがないとミミックと殴り合うことになるから面倒なのだ。

 仕方ない。鉄球にぶつけて殺すべきだろう。

 

「いつ会えなくなるかもわからんからなー。隣人二人みたいに部屋に乗り込んでくるやつはまぁ、言わなくても会うことになるけど。

 いつか必ず会えなくなる日が来るからさ。そのときまでにやれることはやっておきなよ」

 

 『後悔しないように?』

 

「後悔は絶対するよ。これは絶対。いくら円満な関係を続けていても……違うか。続けているからこそ絶対に後悔する。でもそこそこの相手に対して『もっとああしておけば』って後悔も絶対ある。なら、少しでも明るい思い出を詰め込んでおこうって話なわけであって」

 

 後悔しない道はない。

 それは生きている以上当たり前のこと。

 人生は後悔が連なってできているし、後悔こそが人生を作っている。

 だからそれを人は航海と呼ぶのだ。

 なんて、言葉遊びでしかないが、そう思った。

 

 『呪術師に悔いのない死なんてないんだぞ』

 『呪術師じゃないんだけどなぁ……』

 『生き方は決めた 後は自分にできることを精一杯やるさ』

 『俺だけ強くても駄目らしいよ 俺が救えるのは他人に救われる準備がある奴だけだ』

 『特級術士共は帰って』

 『テレビで知らんやつが死んでもなんとも思わんのに知り合いが死ぬと異常につらいのはある そういうことさ』

 

「辛気臭いか。そろそろやめようぜ。はいミミック殺しました」

 

 天才かも知れない。雷のスピアを確保してそのままエレベーターで上へとのぼる。

 

 ボスのアイアンゴーレムまでたどり着いた。

 こいつは足に400ダメージくらい与えるとよろけ、そのときにまた足にダメージを与えると転ぶ。

 うまくやると落下させて相手を即死させることも可能だ。基本的に赤涙を発動させてそれを狙いに行くことになる。

 ちなみに赤涙はモンハンで言う猫火事場みたいなもので、簡単に言えば瀕死時の火力バフ。強い。

 

 代わりに一撃でももらえば死ぬラインまでHPが下がっているがまぁそういうものなのだ。問題はない。

 さくっと撃破してアノール・ロンドへ。

 

「よっし急いでオンスモ狩るぞー」

 

 『既プレイ特有の周回ルート』

 『武器強化しないの?』

 『立ち回り次第でどうにか』

 『両方に気を配らないといけないのつらすぎる』

 

「えー、じゃあ強化しないで行くか。上手い人は赤涙なしでいくんだろうけど一発ぶんは保険がほしいから俺は回復してくね」

 

 『どっち狙い?』

 『オンスタ先でしょ 後半楽だし』

 『い つ も の』

 『スモウくんが雷耐性低いのが悪い』

 

 だいたいそのとおり。

 ていうかここらへんのルートはまぁ決まってるし。

 スモウ先ルートもまぁ苦手ではない。というか得意なほうだが、殴り合いが楽なやつをさっさと倒してしまったほうがいいだろう。

 ということでボスです。

 

 

 

「正直な話さぁ。オンスモは余裕なんだよ」

 

 ため息一つ。さっくりと倒してしまったのでなんというか思うこともない。真面目に走ったときはいっつも敵になるくせにこうしてじっくり戦うと弱いのは本当になんというか、絶妙だと思う。

 

 余っていた火炎壺を投げつけてグウィネヴィアを殺害。幻影なので殺すというのは間違っているだろうか。

 王の器を入手したので部屋の前の篝火で転送して退場。

 

「こっからどうしよう……」

 

 『ルート考えてないなら木槌取りに行こ?』

 『やめやめろ!』

 『やめやめる』

 『恋愛サーキュレーションやめろ』

 『やめやめる』

 

 『半丁善悪:筋トレしてたら遅れました』

 

「別に呼んでないよ?」

 

 『すげぇ……めちゃくちゃ澄んだ目で答えてる……』

 『本気でそう思ってるんだろうなぁ』

 『よかったねニキ』

 『さっきからすっげーかわいい顔しながらしれっとダクソやってんの違和感あるな』

 『目つき悪いのにこういうときだけまるで憑き物が落ちたみたいにめちゃくちゃ可愛くなるな』

 

 褒めすぎじゃない? まぁ、こういう感じで変なことを言われたらちょっと驚くからこうなるわけだろうか。

 俺が中にいなければきっとこの体は普通にかわいい顔なのだろう。

 ただ、俺由来の目つきの悪さがすこし悪さをしているだけで。

 

 

 

 

 配信終了。

 体をぐいーと伸ばし、そして後ろに体を倒した。

 

 スマホに着信あり。確認すると高山兄だ。

 

「あいよー」

 

『よっす。曲作ったぞ。ファイル送ったから確認頼む』

 

「あいよー」

 

 ということで添付されてきた音声ファイルを開く。

 確認すると、かなりいい感じだ。

 直感的にいいと気づいたので採用ということにする。

 

 LINEでオーケーと送る。

 あとは歌詞だろう。そこはどうにかするしかない。

 

「さてと」

 

 配信終わり。

 少しばかり、気分が悪い。別に誰が悪いという話でもないが。強いて誰が悪いかとあげるとするなら、それは俺だ。未だに前に進めない俺。

 確実に、俺が間違っている。どうしようもないから、何もしないが。

 

 酩酊。酔っ払っている。酒も飲んでないのに。至って素面で。俺は今も酔い続けている。そして間違い続けている。

 だからそれでいいや。酔っているのが俺なら、それでいいんだよ。

 俺が俺であるために、酔っている以外にはない。

 

「お邪魔しまーす」

 

「はいよー。やっほーなふだ。今日の調子はどうだい?」

 

「まぁまぁですね。良くも悪くもないです。つまりは」と彼女は一呼吸置いて。「いつもどおり」

 

「そっか。それが一番かもな」

 

 俺もいつもどおりだ。

 いつも最底辺にしかいないから。

 

「一つ質問だ」と俺は言った。

 

「はい、なんでしょう?」と彼女は言った。

 

 もしも。

 そう、全てもしもの話だ。

 今から話すのは突拍子のないこと。彼女からすればわけがわからないだろうその言葉。

 

「もしも、俺の姿がみんなが見えてるのと違うものだったら?」

 

 俺にとっての一つの命題。

 こんな体になっているのは一体なにか。宿命か。俺に押し付けられた定めだとしたら。そんな言葉は意味のない。言葉に出さない言葉は埋もれて終わる。そして言葉に出したとして意味のない言葉であれば、勝手に拡散して消える。

 そこにあったことすら失って。

 

 そして本来あったはずの『戦火ハジメ』は俺以外から消え失せる。

 

 そんなものでしかないのなら。

 

「どうでもいいですよそんなの」

 

 ばっさり切られた。

 

「別にハジメさんの姿がみんなと見えてるものでないとして」

 

 彼女は自分を指差した。

 

「私と変わらないじゃないですか。私だってバーチャルユーチューバーなんてものをやっていて、リスナーは私の本当の姿を知らない。

 でも私は私で受け入れられている。ハジメさんがそうだったとして、そんな私が受け入れないわけないじゃないですか」

 

 それは。

 

「事情が違うんだ」

 

「……そうですか? よくわかりませんが……だとしても、答えは変わらないことは確約しておきましょう」

 

「ああ、うん。なふだ。お前はすごく良いやつなんだよ」

 

 惨めになるほどに。

 

「ちょっと善悪にも聞いてくる。そんで外出てくる」

 

「え、えっと? ……まぁ。はい。わかりました。そういうことなら。何時くらいに帰ってきますか?」

 

「わからん」

 

 夜までには帰る。

 そう言い残して、俺は家から出ていった。

 

 

 

 

 靴底を引きずるように歩き出す。ポケットに手を入れて、俺はそこで立ち止まった。

 

 そこそこ人通りの多い道路だ。立ち止まると邪魔になる。それを承知で、俺は立ち止まった。

 

 あんまりにも不明瞭な俺の体の変化。その原因を突き止めるのが、今となっては怖かった。

 俺がどんな姿でも受け入れてくれるとは思えなかった。だからこそ、突き止めることが怖くなった。

 

 けれど、いつまでも停滞してはいられない。

 歩き出したのなら。俺の停滞は長すぎたから。段数をいくつも飛ばして登っていく必要がある。

 

「夢で見ていたのは一体誰の記憶かな?」

 

 想像はついているんだ。

 そうだろう? なぁ、俺自身。

 

「──おや」

 

 人混みの中。

 その声はよく聞こえた。

 

 雑踏をくぐり抜けて俺の前に立つそいつ。

 

「よお」

 

「ここにいるってことは──僕のこと、思い出したってことですか?」

 

「いいや。でも一つわかってることがある。お前、()()()()()()()?」

 

 何がとは言わない。けれど、こいつなら確実にわかっているという自信がある。

 

「だろ。青玻璃カイラ」

 

「そりゃあ気づきますよ。あれだけのことがあったらね」

 

 時間が進む。

 そして今、俺はようやく理解する。

 自分がようやくスタートラインに立ったことを。

 

 父が死んだ道路。立っていて気分の悪くなるような場所。

 そんな場所から、俺は始まったのだ。










 そろそろ更新止まるかも知れないと予言しておきます

番外編をするとしたら

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  • 公式ライブ
  • なふだちゃんお家騒動
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