誕生日に色が付いてなんというか幸せ者だなぁと思ったので更新します。皆様ありがとうございます。
ところで今回は結構実在する曲の話が出てます。ぜひ検索して聴いていただければなーと。
俺には兄弟がいる。
兄と弟だ。
兄は俺に似てどうしようもないろくでなしだったし、俺は兄に似てどうしようもないろくでなしだった。でも俺とは違って、兄はしっかりとクズなりに流儀を持っていた。
ろくでなしなことに変わりはない。
けれど互いに、兄弟の情は持っているつもりだ。
弟はどうしようもなく俺に似ていなかった。
俺にはできないものを持っていた。素直で、まっすぐで、刀のように鋭い意思を持っていて曲がらない。
けれど、誰かを害するためにあるわけではない。
そんな弟を、俺は好ましく思っていた。
だからすぐに離れた。俺の存在は悪影響だ。
俺のようにどうしようもなく終わっている人間が、弟の側にいていいわけがない。
『お元気でしょうか』
だから、スマホに溜まっている通知を覗いたのは本当に偶然。
ずっと無視してきたその通知。
しばらくぶりに、それを覗いた。
『兄ちゃんへ。僕は元気です。
貴方は一人で生きようとする人だから心配です。
ところで、少し厄介な奇病になってしまいました。
一日おきに性別が変わる病気です。
おかげで学校にいくのも一苦労です。せっかく受験がんばったのになぁ。
もし兄ちゃんのほうにも変わったことがありましたら、いつでも連絡をください』
『午後は空いてるか』
その返しに、すぐさま反応があった。
『はい』
『会いに行く。つがまる喫茶店で待ち合わせよう』
スマホをスリープモードに移行。キッチンで今日の昼飯を作っていたなふだに事情を説明する。
「ということで、送ってくれ」
「いいですよー。私も着いていっていいですか?」
「……んや。すまんけどどっかで暇つぶししてもらって……金とか払うから」
「別にいいですよそんなの。かわりに、話し合いが終わったあとに時間を頂いても?」
「いいけど……どうした?」
「ちょっとしたことですよ」
彼女は笑って言う。
「服買いにいきましょう」
そしてつがまる喫茶へ。
「お一人様ですか?」
「いや、……もうひとり来る」
「わかりました。こちらへどうぞ」
あっさりと話は進む。窓際の席に座ってメニューを見る。
しばらく来ていなかったから、見覚えのない商品もあった。
また、なくなっている商品も。
懐かしさと同時に寂しさを覚えるのは。
ここが、家族みんなでよく来ていたからだろう。
「──
自分の名前を呼ぶ。
久しぶりだった。けれど、確かにそれは自分の名前だった。
兄をレイトにしてしまったから、俺はその続きでハジメ。
弟はならそのまま二にいくのかと思えば、そういうわけでもない。一体どうしてこんな名前の付け方になったのだろう。
……忘れよう。思い出して気分のいい話でもなかった。
別にそこまで胸くそ悪い話でもないが。
ごくごくありふれた悲劇だって、当事者からするとひどいものなのだから。
持ってきた本に顔を落としつつ、注文したカフェラテをストローで吸い上げる。本の内容はほとんど頭に入ってこない。
今はただ、窓の外に弟の姿が見えないかを探している。
──見つけた。
変わらない。
高校生男子にしては異様なほどに華奢な体。露出した白い肌は日焼けを知りそうにもない。
それでも、そこそこ高めの身長。それが謎に「らしさ」を感じさせる。
長めの茶髪をゆらゆらさせて、ぴっしりと伸びた背筋で歩いてくる弟。
ぴっしり治ったくせにいまだに猫背になろうとする俺とは大違いだ。
目が合った。
驚いたような表情をして、一瞬その足取りが重くなる。
頬を釣り上げて手を降ると、彼は「まさか」といった表情をした。
店の扉が開いて、窓の外に見た姿が入ってくる。
「お一人様でしょうか?」
「いえ、待ち合わせを」
「そうですか。待ち合わせというと……あちらのお客様でしょうか」
「……え、ええ。たぶん」
そんなやりとりを交わして、おそるおそる向かってくる。
そんな様子がおかしくて、うっかりと笑ってしまった。
「よ、
「……兄ちゃん、で、間違いなさそうだね」
正面の席を指した。そこに、どこか難しげな表情をした弟が座る。
せっかくなのでデザートのチョコレートケーキを注文。
弟もそのタイミングで、サンドイッチとオレンジジュースを注文した。
「ひょっとして、兄ちゃんも?」
「見ての通りだ。兄弟で似たような事態になるなんておもしろいな?」
「おもしろくないし……」
俺もそう思う。
何一つ面白くはない。全くだ。
「俺の方は見た通りだけど……お前は一日置きにだって? そんなことあるかフツー」
「あったんだからしょうがないでしょ。写真もあるよ」
スマホを使って写真を見せてくる。
そこには、美少女の姿がある。
ベースは今の弟だろう。顔立ちに似たところはある。
が、全く違うのは
画像の少女の髪の色は真白。瞳は紅く、肌の色は病的なまでに白雪色。
「……へぇ。自然だな。声も変わるのか?」
「うん。ジョークアプリとかで、女の声に変換するやつあるじゃん? あれを自然にした感じの声になる」
「ふーん? 俺のほうはどうだ? 面影とかある?」
「うーん」
首をかしげてこちらを見てくる。
「雰囲気と目つきは兄ちゃんって感じだよ。……声と髪型もそれっぽいから、兄ちゃんだと思ったら兄ちゃんっぽい」
「つまり結構違うってことだな」
「なんだろう。
「魂か」
なかなかスピリチュアルな話をしてくる。
だが、たしかにそうだ。俺もそんなような気分がする。
魂。
そんな不確かなものがあるとするならば。
俺のそれは、きっとどす黒く淀んでしまっているのだろう。
「つまりあれか? 最近流行りの異世界転生みたいなものか?」
「それは違うと思う。……なんだろうなぁ。僕もこんな体質になってから調べてみたけど、兄ちゃんのそれは『あさおん』ってやつじゃないかな」
「なんだその絶妙に嫌な名前」
あさおん。
寒気のする響きである。
聞いたことをさっさと忘却の彼方に投げ捨てて、ふと疑問に思った。
「レイトは? あと、母さんに異変とかはなかったか?」
「……ああ。母さんは大丈夫。でも兄さんは、ちょっと……」
目をそらして、言いづらそうに言葉を探している。
絶対になにかあるなこれ。そう考えると、連理は持っていたスマホを操作してこちらに画像を見せてくる。
「これがこの間の母さんの誕生日」
絶句した。
そこに写っていたのが、全員女にしか見えなかったからだ。
「……なにこれ?」
「兄さん、兄ちゃんが出ていってから常に女装で過ごすようになったんだよ。帰ってきたときだけ普通の服装してるけど。
理由を聞いたら……『俺がみんなを甘やかす姉にならなきゃ』とかよくわからないことを言ってた」
「マジで??????」
──まぁ、心当たりがないと言えば嘘になるが。
俺はさっさと実家から消えた。
あそこには俺はいてはいけなかった。
いくら誰かに否定されようが、それだけは間違いようのない事実だった。
俺は俺の頭で判断し、そう結論を出した。誰にも消せやしないし、変えられはしない。
「つまりあれか。──女になりたいと思ってるやつには、この症状が出ないって感じか?」
「……かな。兄ちゃんはいつからその姿なの? 僕は二ヶ月ちょっとくらいだけど……」
「同じくらいだ」
──つまり、これは同時に発生したってことだろうか。
一体なにがあってこうなったのか。
そして、もし同じことならばどうして俺は女で固定され、弟は一日周期で性別が変化するのか。
わからない。
わかりたくもない。
認めてたまるか。そんな非現実的なこと。
──俺は見た。
どこにでもあるような悲劇だった。
その正体がどこにでもあるようなものでなかったとしても、そのときはたしかにどこにでもある悲劇でしかなかった。
葬列に参列するものは、表情こそ様々だ。だが口数は総じて少ない。俺はたしかにそこにいた。
二兎を追うならば一兎も得られない。
そうならば。
そうであるのならば、因幡の兎は己を焼くのだろう。
「非現実的だ」
俺は呟いた。
「……そうだね」
弟も呟いた。
「──タバコ吸うんですか?」
声をかけられた。
煙を大きく吸い込んで、吐き出しながら返す。
「カッコだけだ。クソ不味い」
けれどこのドブのような、致命的に俺に合わないこれだけが、今の俺には心地よい。
そこでようやく相手を見る。
なふだだけかと思ったら、なぜか半丁善悪までいた。
「今からデートだっていうのに、嫌われますよ?
──まぁ、若干一名変な人が着いてきちゃいましたけど」
「いやマジで偶然なんだけど」
「偶然でもキモいぞ流石に」
「……酷くないですか? 一緒にコラボした仲でしょう?」
「冗談だ、悪い。ちょっと当たっちまった」
思いっきり吸い込んで噎せた。
ちょっと涙目になる。
けれどいい。こうしている間は考えることもなくていいから。
考える。
あれから弟とは別れた。少しだけ世間話をして、俺のことは家族には言わないように言った。
絶対に心配されるから。
その心配は、俺に向けるべきものではない。
「──じゃ、行くか?」
吸い殻を握りつぶした。コンビニでもらった袋にくるんでカバンにしまう。
「……ですね。行きましょうか。ばっちりかわいい服選んであげます」
「まぁ、いつまでもその服装というわけにもいけませんしね」
姿を見下ろす。
二ヶ月前から変わりない、男時代の適当なものそのままだった。
「重てぇ」
「私のこれまでの怒りの重さでもあるんですよ」
「まさか下着まで選ぶとは……ていうかハジメさんこれまで一つもちゃんとしたもの持ってなかったんですか……? そりゃなふだのやつも怒るに決まってますよ」
「今までの先輩が紳士だったから間違いも起こりませんでしたけど、これからはちゃんとそんなぶかぶかでよれよれな衣装じゃなくてちゃんとしたもの着てくださいよ。あんまりゆるいサイズのものも買ってませんし、これなら危ういシーンも減ります」
「はーい、わかりましたよーっと」
店員の野生動物を見る目は忘れない。
今は買った服に着替えさせてもらっている。そのときの店員さんの反応がまるで文明に初めて触れた人間を見るような目で困った。
「で、このまま帰るには時間も微妙ですし。どこかで時間でも潰します?」
「だったら休憩できるところがいいわ。どっか知らない?」
「いや、ハジメさんは知らないんですか? 一応あなたの育った場所でしょうに」
「んー。じゃあカラオケでも行くか?」
なふだが無言で十点の札をあげた。
マジでそれ何なんだ。
そしてお前もか善悪野郎。
「というわけでチキチキ突発カラオケオフコラボキャス始まるぞ」
「ちなみに株式会社ドモールは企業からの許諾を得ているので配信は問題ないですよー。
今回もハピコさんがいますが、配信者が私達ドモール側の人間なので遠慮なく歌ってくださいね~」
丁寧に外堀を埋められた。
それもいざ次俺の番というタイミングで。
「つられくまー……」
「事務所の許可もちゃんととった。安心して歌ってくれ」
「狙ってやがったなぁ!? 曲入れてるから歌うんだけどさっ!」
家族の前ではあるが、こうして大勢の前で歌った経験はあまりない。
昔中学校の音楽会とか文化祭かなにかでちょっとやった程度だ。それもシャウトとかしまくるロック。なんで俺そんなことやってたんだろう。
だから、いざこうして女になってから女性ボーカルのファンシーな曲を歌うのは初めてだ。
「あー、もうっ! じゃあ歌います! 誰も知らないと思うけどな!」
息を吸う。腹を膨らませるイメージだ。丁寧に、息を取り込んでいく。
昔、発声のやりかたは叩き込まれた。
歌や身振り手振り、相手に魅せる動き方の練習はよくやっていたのだ。
……どうしてやったんだっけ。
『わくわく』
『初手ハピコちゃんか どんな曲歌うんだろ』
『地味に初めて使われたキャス』
『ていうかこの三人マジで仲いいな??』
『期待』
『俺はニキのガチ歌期待してる』
『スマホにしては音質良さ目だな 普段よりは劣化してるけど』
スマホ用マイクを使っているからではないだろうか。
意外と音質が変わるんだよな、あれ。
「──じゃあ、いきます」
物寂しさあふれる入り。
そこから、気泡が弾けるようにふんわりと歌い出しが来る。
歌う曲はBottleship。
メルクストーリアというゲーム。
そのアニメのエンディング曲。
俺はどこでこの曲を知ったのだろう?
ああ、思い出した。
弟が、特に好きなゲーム。そしてアニメだと、教えてもらったのだ。
だから俺も見た。ハマる理由はよくわかった。
男が歌うにはちょっときつい。
でも、今の俺は女だから、問題はない。
──歌い終わる。
ちょっとばかり興が乗って思いっきり歌ってしまった。
でも、こうして思いっきり歌えると楽しいものだ。
『嘘でしょ……これスマホで直撮り音声だぞ』
『泣いた』
『すご』
『生活能力皆無なぶかシャツ女なのに歌上手すぎませんか』
『歌唱力というか表現力えぐすぎる めちゃくちゃ思い入れある曲だったり?』
『声量おかしくない……? サビのところでめっちゃぐって上がるやん……』
『これが……心……?』
『鈴音涼:ありがとうございます』
意外と褒められててむずっとする。
実際、思い入れはかなりあるのだろう。
思いっきり歌って涙が溢れそうになるなんて、滅多にないんだから。
「お疲れ様です、ハピコさん」
差し出されたのはハンカチ。
気づけばぼろぼろと涙が溢れていた。ありがたく受け取って、涙を拭き取る。
なんで俺は、こんなことになっているのだろう。
それだけゲームに、この曲に思い入れがあったからか。
──ああ。
そういうことか。
俺はずっと、このゲームで語られるような優しさがほしかった。
たぶんそういうことだ。
そして今、俺は人に恵まれている。
だから、ひょっとして、これは。
「うー……このあとに歌うの、すごく避けたいんですけど……」
「……泣いてるのか?」
「泣いてないですっ、千円先輩めっ。そっちだって泣きそうになってたくせにっ」
「あれっ、サイレント値下げ!?」
──俺の本心だったりするのだろうか?
「……ないない」
ありえるはずがない。
まさか、俺がふたりに絆されてるなんて。
それどころか、感謝をしているなんて──!
『まぁ今の直に聴いたら泣くよね……』
『ちょっとニキが惚れた気持ちわかったわ』
『メルスト大好きだから嬉しい』
『これメルストの曲なんか だから涼くん出てきたんか了解』
『涼くんはメルストとお姉ちゃん大好き勢だからね……』
コメント欄のなんてことないことを見ながら、俺は考える。
ちょっとなにか引っかかったが、今の俺にはそれどころではなかった。
ああ、もう。
何から何までおかしくなっている。
わけがわからない。
でも気の所為だと断じられない。
だからここで一度断言しよう。
俺は二人に、そこまでの好意を持っているわけではない。
ない。はずなのだ。
〜配信終了後〜
「ハジメさんってあんなに歌上手かったんですねぇ」
「あんま実感ないけどなぁ」
「あ、それわかります。歌が上手って褒められるとちょっと首傾げたくなりますよね」
「わかる気がしてきました」
「結構無茶して合わせてない?」
「じゃあ歌ってみようぜなふだ。はいせーの」
「えっ、急にっ!? じゃ、じゃあ……ナナホシ管弦楽団さんのさよならレシェノルティアを……」
「知ってる?」
「知ってます。ナナホシさん大好きですよ俺」
「よし、いけ!」
「は、恥ずかしいですね……
『Still love you,まだ愛してる
大事なことなので二回言いました
後ろ手に 抱き締めた
あの日の高鳴りは蝉の声の向こう♪』」
「すごい! うまい! 表情がいいな! 抱きしめたっていいながら手を結ぶの俺的にすごくポイント高い! なふだちゃんかわいい! ……ってどうしたふたりとも」
「初恋を思い出して死にたくなりました……」
「す、すごく恥ずかしいですねこれ……。純粋な好意なのがわかるぶん余計に……」
「お、おう……そうか……?」
「つ、次は先輩! 先輩が歌ってくださいね!」
「じゃあジャンキーナイトタウンオーケストラ歌うわ」
「あ、それ俺も好き。歌いたい」
「じゃあ一緒に歌います?」
「最高じゃん。サビから歌う?」
「ではそれで。せーの、」
「Are you?」「ready!」
「……わー、私そっちのけで仲がいいです……あ、店員さんだ」
「じゃっ……うぇぇっ!?」
「あ、どうも……」
「あははははっ! めっちゃ照れてるじゃないですか二人ともー!」
(なんだこの空間みんな顔も声も良すぎるし仲良しオーラが強すぎるてぇてぇかよ)
「良いものを見させていただきました」
「「店員さん!?」」
「あはははははっ!」
自分が入ってることに気づいたなふだが赤面するまであと一秒。
番外編をするとしたら
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なふだちゃんお家騒動
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