明けぬ夜の宿痾   作:moti-

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ダンシング・パラダイム・アナロジー?

 お絵かき企画。

 配信で一日がっつり練習している風景を映して、それを二週間続けて、結果としてどれだけ成長したかをまとめるという企画。

 少なからず関心を引く動画になるんではないかということは間違いないし、俺は他の人と違って時間が有り余っている。

 

 普段の睡眠時間が九時間。

 食事とかの雑事に扱う時間を二時間とする。

 つまるところ、残る十三時間はフリーということ。

 つまりそのフリーの時間のほとんどをガッチガチに練習し続ければすごい絵が描けるのではないだろうか。

 

 ということで、とにかく昨日のうちに動画を見まくった。そして配信中も音声をミュートにしたお絵かき講座の動画を別の画面に映しながらやる。

 また、それとは別に初心者向けの技法書なんかも善悪のやつに借りた。

 完璧だ。

 あとはやる気と根気と集中力。

 

 二週間に絞った理由は、なふだの新曲発表のタイミングに合わせて投稿する絵を残り六日で描き上げるためだ。

 

 パーツごとの描き方は昨日のうちに工程をしっかり見てきた。

 そしてそれはしっかりと頭に叩き込んできたのだ。

 あとはどれだけ俺がイメージをエミュレートできるかである。

 

 絵に限らず、全てのコンテンツは完成形が見えないと作り上げることができない。

 映画も小説も漫画もなにもかも、まず最初にやることは作品のイメージを作るための工程だ。

 絵の場合、それはラフになる。

 

 なにもないところからいきなり描き出すのは不可能だ。

 構図はまず最初に「こういうのがやりたい!」のイメージを作るところから始まる。

 だから、今回はテーマとして「清涼感のある雰囲気のイラスト」を設定する。

 

 そしてそれはどうやったら出すことができるか?

 例えば昼下がりの浜辺。例えば汗の滴る中運動を頑張っている子。光が反射しているものは、明度も上がってまた綺麗な印象も現れる。

 つまり、俺は比較的明度の高い色遣いを目標にするべきなのである。

 

 参考画像を用意して、別のモニターに用意する。

 

「始めるぞー」

 

 昨日のうちにクリップスタジオペイントというペイントソフトを買ってきた。

 なんというか無料ソフト使ってるのがちょっと恥ずかしかったのである。

 別に漫画を描くわけでもないので五千円で買って終わり。

 

 『クリスタ買っとるやん』

 『一発ネタじゃない感じ?』

 『ペンタブも買ったの?』

 

「ペンタブはもらった。善悪のやつが液タブ三つくらい持ってて使わないからってくれたんだよね」

 

 『羨ましいわ』

 『これがヒモの呼吸』

 『一ノ型』

 『ヒモは呼吸』

 

「誰がヒモだよ。施されてると言ってくれ」

 

 『半丁善悪:俺はハピコさんだったら養いたいけどなぁ』

 

 『草』

 『視聴者がニキを養って! ニキにネキが養われる……! 永久機関が完成しちまったなアァ~!!』

 『なにも永久機関じゃない』

 『皮肉だよね 全てを与えられると何もできず緩やかに死ぬなんて』

 『GTGは封印されたでしょ 出てこないの』

 

「視聴者のおかげで得た金で人を養うなよ」

 

 『それ言ったらテレビ業界もそうじゃないか?』

 『そうそう 別にそこらへんは気にせんで』

 

 そういうものなのかなぁ。

 

 まぁ視聴者がいいならいいや。

 

 早速キャンパスサイズを設定。昨日通りA4サイズの350dbi。ただ、今回は横向きにする。

 こっちのほうが画面いっぱいに表示されるから、ちょっとやりやすそうだと思ったのだ。

 とりあえず、ざくざくと描き進めていく。

 

 クリスタは他のユーザーが作った便利なペンをダウンロードして扱うことができる。ただ、いまいちよくわからないから標準のペンでやることにする。

 昨日触ってみた感じ、ラフにはミリペンを使用。範囲塗りには不透明水彩を使うことにした。

 これが正解ではないと思うが、ひとまずはこの設定だ。

 

 まずは何度も線を引いて、人の形を大まかに作っていく。

 これで最初にポーズのイメージを完成させるのだ。

 意識するのは頭と体のバランス。

 人の体は自分のイメージより意外と胴体が短い。そして足に当たる部分が長いのだ。

 これをしっかり意識できていないと足の短い、ちょっとデフォルメチックな絵になるのだ。

 かわいい絵ならば別にいいだろう。だが、俺のイメージはクールめな印象がある絵にしたい。

 だから、頭はちょっとばかり細めに。

 頬をあんまりふっくらとさせすぎずに、鼻を少し鮮明に。

 よし、イメージができた。

 

 『おっ、上手』

 『今まであんま絵を描いたことないにしては形が結構よい』

 『これは……ガチじゃな?』

 

 視聴者が俺を褒めている。やはり俺は天才なのかもしれない。

 

 『下手』

 

「ブロック、と」

 

 うるせぇ今は褒められたいんだよ。

 

 イメージができたから、とりあえず自分も同じポーズを撮って写真を撮った。

 動画でそうして参考にするものがあるといいと聞いたのだ。そのとおりにするべきだろう。

 料理でもそうだが、下手で右も左もわからない人間が下手にオリジナリティだのを出そうとするものじゃない。

 求められてるのはしっかり描くこと。

 レシピ通りにちゃんと作ることなのだ。

 

 写真を転送。画面に映す。

 

 『自撮りたすかる』

 『急にえっちなポーズするやん』

 『えっちか??』

 『真顔だからなぁ……』

 『こうしてみるとマジで顔綺麗っすね』

 『恵まれた顔に属性てんこ盛りの中身ってなんかもうんぁ』

 

 『半丁善悪:美女ですね』

 

 操作ミスった一瞬でこんな反応くるとかこいつら反応速度とタイピング速度早すぎじゃない?

 

「今の自撮りは気にするでない」

 

 とりあえず、これを参考にしながら描けばいいんだな。

 レイヤーを新しく作り、今の絵のラフの上から今度はちゃんと人の形だけではなくパーツを作っていく。

 

 目の配置をしっかり終了。

 全体をとにかくざっくりと描いていく。

 昨日教えてもらったとおりに、目の描き方を簡略化して終了。

 こうまで簡略化するとモブ的な感じも生まれてくるが、別にいいだろう。いまはこれでもいい。

 これもまたラフだ。

 この上にラフ清書してから色を塗る。

 そしてそのあとに今度こそ線画に入るのだ。

 できないなら、なるべく工程を積み重ねて完成させたほうがいいと考えた。

 

 だからこそ作業を細分化する。

 この発想は間違っていないはずだ。

 そう、間違っていない。この調子で描いていけばきっと完成したときにちゃんとしたものができるだろう。

 きっと間違ってはいない。

 

「かわいい」

 

 『かわいい』

 『ここまでは非常にいい』

 『これが一日目とかちょっと怖いわぁ……』

 『マジでハピコちゃん飲み込み早くない……?』

 『歌も歌えるし強い』

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった?」

 

 ラフまではよかったのになんでこうなった。

 めちゃくちゃのっぺりしているように見えるし、線画のミスはあとになって気づくし色塗りはなんかもうよくわからん。

 

 『知ってた』

 『線画むずいわぁ』

 『かわいいんだけどなぁ……』

 『バランス自体は間違ってないけど、なんかカクカクしてるね』

 

「なんでこうなったんだ……? わからん……」

 

 意外と自分のことはわからない。

 絵のミスとか見ればわかるだろうと思っていた自分を殴りたい。まったくわからないぞなんだこれ。

 

 『半丁善悪:特にぐっちゃり見えちゃったのはやっぱり線画だと思う。色塗りはそれぞれで見たら上手にできてるけど全体の印象が細かすぎて見てて目がちかちかしてる。あと線画がちょっと失敗しちゃった感あるね。俺は好きだけど。ちょっと細すぎるのかな? ペンの設定を見直してみるといいかも。あと途中結構苦労してたから手ブレ補正をちょっと強めてもいいと思う』

 

 『ガチアドバイスニキ』

 『もっと親のアドバイスしていけ』

 『ニキはパパだった……?』

 『それだとニキが涼くんの親族になるからNG』

 

「……」

 

 父親。

 ああ、父親か。

 ……少し嫌なことを思い出した。忘れよう。

 思い出してもいいことではない。

 別に悪いわけではない。嫌いなわけでもない。むしろ好きだった。

 ただ思い出したくないだけだ。

 

 遠い過去に封じ込めた記憶。俺が俺のために俺であることを決めたその記憶。俺があの家にいてはいけない理由。

 あの空間は、忘れようとしたことまで思い出してしまうから。

 

 家を飛び出してからはよかった。よかったのだ。考えることがなかったから。毎日生きることに必死で、先が見えなくて、何もする気にならなくて。だが今は違う。

 俺は恵まれた。救われた。先行き見えない場所から引っ張られた。

 

 でもそれがよかったことばかりかと言えばまた違う。欲求段階の話を昔した。今の俺は、着飾る余裕ができてしまっている。

 それがいいことなのか。俺にとっていいことなのか、わからない。わからないんだ、いつだって。

 

「お前が父親は嫌だな」

 

 『半丁善悪:これは夫ならいいっていう高度な……?』

 

 『ポジティブすぎるニキ嫌いじゃないし好きでもないよ』

 『ニキさぁ……』

 『そうして他の女にも言って回ってるんだろ。騙されんぞ』

 

「マジ? 不誠実の極みみたいなやつじゃん。刺されないの?」

 

 『半丁善悪:燃やされはしました』 

 

 『そらそうよ』

 『Vの界隈は結構怖いファンも多いからなぁ ニキが燃えるのも仕方ないわ』

 『燃やすやつってニキの動画見てんのかなぁ。ニキは直結厨じゃないでしょ。どっちかというと漫画とかに出てくる食えないタイプの強キャラ』

 『ニキはVであることにめちゃくちゃ誇り持ってるの滲み出てるからなぁ。沈下が早いのはそういうところもあるっしょ』

 

「俺実はこいつの炎上について全く知らないんだよなぁ」

 

 キャンバスをリセットしながら描く。さっきの絵はとりあえず保存しておいた。

 さっそく次に取り掛かろう。ざっくりとまた構図決めに取り掛かる。

 

 『ニキの炎上の歴史はすごいぞ 最初はソラちゃんとコラボしただけで燃えてたからな』

 『懐かしい……ニキがまだ人気じゃなかった時期……』

 『ソラちゃんは最初からめっちゃ人気だったしなぁ 男と話すなっていう層が一定以上いたんだよね地味に』

 

「なにそれきっしょ」

 

 『ハピコちゃんならそういうと思った』

 『ハピコちゃんはあれでしょ 面白ければどうでもいいタイプ』

 

「そら面白いやつが正義よ。次に自分の意見を持ってるやつは好きだ。あと恋愛沙汰に興味はない。

 他人が恋愛しようが何しようが当人の勝手だろ? なんで外野がいちいち首突っ込む必要があるんだ」

 

 『直結厨とかいろいろ事例もあったからね』

 『処女に価値があると信じてるやつらばっかなのよ というか非処女は無価値ってタイプのやつらばっか』

 

「馬鹿らしい。まぁ俺は経験ないけどさ」

 

 『半丁善悪:ちょっとお行儀が悪いですよ』

 

 『絶対喜んでるだろ』

 『まぁたしかに。健全なお絵かき配信だもんな。ごめん』

 

「こういうところ偉いよなぁ」

 

 噂話からいつ人叩きに移行するかわからないムードだったので、この軌道修正は助かった。

 偉い。

 

 だが、実際そういう人もいるのか。自撮りを転送しつつ考える。

 俺は恋愛なんかに興味がなかった。それが人を殺すと知っていたから。だから男のときでも、女になっても、誰かに焦がれることはなかった。

 これは偏った見方なのかもしれない。

 

 でも。

 でも、今更恋愛なんてしようにも無理だ。

 俺にはどうしようもない壁がある。

 

 今の俺は女だ。女の見た目に、男の心。

 そんなちぐはぐなハグレものが、今更どうして何ができよう?

 恋愛なんて絶対できない。俺にはどうしようもない。

 

 人が誰かを愛することを知らない。俺は誰も愛することができない。

 

 欠陥品。

 そう、欠陥品だ。狂っている。何がだろうか。歯車か。それとも俺自身か。社会か。わからない。別にいい。知らなくてもいい。教えてくれだなんて誰も頼んでいない。

 どうしようもない欠陥品だということを認めて、俺は俺でなくてはならない。

 

 ろくな死に方はしないだろう。でも、完璧な最期などもともと求めてはいない。

 適当に生きて、適当に死ぬ。

 そういうものだと思っていた。少なくともそれが俺の望みだ。

 

 生きている。死んでいない。その二つは決定的に違う。

 俺は後者だった。

 死んでいないだけのなにかだった。

 死ぬことが望みなら、どうして俺は今も死んでいないのだろう。

 

「やっぱりラフのときはかわいいんだけど」

 

 今度はちょっと趣向を変えて、先に色を塗ってから囲うように線画を作ることにした。

 ざっくりと塗っていく。さっきの反省を活かして、ざっくりと塗っていったほうがいいことにした。

 

 普通の人はわざわざ拡大なんてして見ないのだ。だから、ひと目での印象がよくなるようにすごく大まかに色を用意する。

 

「やっば、全体的に暗くなっちった」

 

 肌色はいい。間違いがない。ただ、服と髪の色が黒くて少し暗めな印象を覚える絵になってしまった。

 

 それはまるで俺の心の色だと突きつけられているような気分がして、あんまりいい心地ではなかった。




 絵を描くことについて『天才だからすごい』で終わらせたくなかったのでちょっと長引いてしまいました。すみません。
 ハジメちゃんと違って真面目に描くとき私はアナログの線画から始めます。

番外編をするとしたら

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  • 公式ライブ
  • なふだちゃんお家騒動
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