青の魔法少女と水のヒーロー(旧:魔法少女と超英雄)   作:ジョン・N

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第9話 侵入者発見!夜の学校で戦闘開始

 

 

 

 体育館の中は、校舎と同様、静かだった。けど周りがガラス窓のおかげで月明かりが射し込み、床のラインがはっきり見える程度には明るい。

 入口から見た限りでは、校舎の中で見た影らしき姿は見当たらなかった。

 

「……誰もいないねぇ」

「油断しちゃダメよ」

 

 三人は警戒しながら、体育館の中へ入る。中央から奥にあるステージや隅にある体育倉庫、設置されたバスケットコートなどを見ても、特に異常は見当たらなかった。

 しかしふと、三人のそばにいたマー達が何かを感じ取ったように顔を上げ、出入口の扉の方を振り向いた。

 

《あっ!》

《っ! 来るよ!》

《みんな気をつけてぇ!》

「「「えっ!」」」

 

 ニャピーたちの声を聞いて、三人が目を向けた先では“黒い渦”が現れていた。

 そしてその渦がある程度大きくなると、中から蛇と人間を合わせたような姿をした生物が現れた。

 

「あーらあらあらあらぁ」

 

 その生物は下半身は蛇、上半身は人間の女性の形をしており、全身が黒い鱗で覆われている。眼球の色は黒、瞳の色は赤。いかにも冥府の世界から来た怪物といった感じだ。

 

「ちょっとぉ、せっかく小娘たちの巣に忍び込んで罠に仕掛けようと思ったのに、計画がバレてるじゃなーい! “ヒューニ”のヤツ、しくじりやがったなッ!」

 

 その怪物は口から出た細い舌をチロチロと動かしながら、目の前にいる沙織たちを睨む。

 

「出たわね、ノーライフ!」

「ハッ、私をあんな奴らと一緒にしないでくれないかしら!」

 

 秋月の言葉に、怪物は心底不快そうに返した。

 

「私は《メデューサ》! ノーライフ共を従えるハデスの幹部よ!」

「「幹部ぅ!」」

 

 綾辻さんと沙織が声を揃えて驚く。

 メデューサの言った通り、ハデスの幹部とはシクルキのようなノーライフを生み出し、従えている存在だ。彼らとは桁違いのパワーを持っていて、ノーライフを高宮町に送り付ける、諸悪の根源といってもいい。

 

《三人とも気をつけて!》

《ハデスの幹部っていったら、ただモノじゃないよ!》

《あの蛇のヒト、すごい魔力ねぇ》

 

 ニャピーたちに注意を促され、沙織たちは変身アイテムである“宝玉”を取り出した。

 

「まぁでも、計画がバレてるっていうなら、ここで長居することもないわねぇ……それじゃあ、サヨナラ」

 

 そう言うとメデューサは身をひるがえして、また黒い渦の中に入る。

 

「あっ待て!」

「ダメ千春!」

 

 撤退するメデューサを追おうと、綾辻さんが前に出ようとしたが、秋月によって止められた。

 瞬間、メデューサと入れ替わるように渦の中から何かの影が飛び出してくる。

 

「《スレイブアント》、小娘たちを始末なさい!」

 

 その影の輪郭はあやふやな形をしていたが、それもそのはずで、その現れた何かは数十体の群れで構成された軍団だった。一体の大きさは、三十センチ程度。蟻の外見に頑丈そうな鎧を身につけ、それぞれ剣、盾、槍、弓といった武器を装備している。

 

「なにこれぇ!」

「うわっ、デカっ、怖っ!」

「マー、コイツ等……!」

《えぇ、ノーライフよぉ!》

 

 蟻のノーライフ《スレイブアント》の群れは持っている武器ごとに分かれて隊列を組み、綾辻さんたちの前に出る。

 対して、彼女達三人は手にしていた“宝玉”をグッと握りしめた。

 

「麻里奈ちゃん、沙織ちゃん、変身だよ!」

「うん!」

「えぇ!」

 

 三人の意志に反応するように、綾辻さんの持っているピンク色の宝玉と、沙織の持っている青色の宝玉、秋月の持っている黄色の宝玉がキラリと光る。

 

「「「マジックハーツ、エグゼキューション !」」」

 

 その言葉がキーとなって、宝玉から発せられた神聖な光が3人を包む。

 三色の光の中に3人分のスレンダーなシルエットが浮き上がり、弾けるようにフラッシュした。

 徐々に閃光が消えていくと、そこにはマジック少女戦士のコスチュームを着た綾辻さんと沙織と秋月の三人、改め“キューティ・スプリング”と“キューティ・サマー”と“キューティ・オータム”の三人の姿があった。

 

「変身完了っと……ねぇ、やっぱり名乗り口上考えない?」

沙織(サマー)またソレ? 遊びでやってんじゃないのよ!」

麻里奈ちゃん(オータム)の言う通り、名乗ってる間に敵が待ってくれるわけもないからね!」

 

 瞬間、弓矢を構えていたスレイブアントが一斉に発射した。

 それが開戦の合図となり、マジック少女戦士キューティズ3人と蟻のノーライフ軍団の戦いが始まる。

 

「ウィンドガンナー」

「シャインロッド」

「メイプルブレード」

 

 三人は武器を出現させ、飛んできた弓矢を慣れた身のこなしで躱し、軍団と距離を取った。

 ピンクの“銃”、ブルーの“杖”、イエローの“剣”。それぞれの武器を構え、三人はノーライフと向かい合う。

 

「スプリング・ブレット!」

 

 スプリングが魔力で風を凝縮した弾丸を撃つ。ウィンドガンナーから放たれた風の弾丸は、途中で散弾となってノーライフに飛んだ。

 弾丸はノーライフに直撃する。それによって一時爆煙が舞ってノーライフの姿が隠れたが、すぐに煙は晴れ、ノーライフの軍団が再度顔を出した。

 

「あっ防がれた!」

 

 直撃したと思っていた弾丸は、盾を持ったスレイブアントによって防いでいた。

 

「ヤァァ!」

「ハァァ!」

 

 息つく暇も与えないといった感じで、続けてサマーとオータムがロッドとブレードを振って攻め掛かるが、今度は槍と剣を持っていたスレイブアントが前に出て、二人の攻撃を防いだ。

 

「えっ!」

「くっ!」

 

 攻撃を受け流してそのままスレイブアントが槍と剣で反撃してきたが、二人は距離を取って攻撃をよける。

 しかし、スレイブアントの部隊は二人を追うように前へ出て、一気に追撃してきた。

 

 スレイブアントの部隊の連携はかなり強かった。言葉や鳴き声を発していないにもかかわらず、反撃に出て早々、見事に三人をかく乱し始めた。

 サマーとオータムが相手している槍の部隊と剣の部隊は、ひたすら攻撃と後退を繰り返すことで、攻撃回数が多く反撃を受けずらい動きをしている。

 少し離れたところにいる弓の部隊は、盾の部隊に守られながらスプリングの援護射撃を妨害している。

 それぞれの威力は弱いが、スレイブアントの戦法に、三人は劣勢に立たされていた。

 ただ幸いにも、どうやら単体の強さはそうでもないようで、攻撃の合間で三人の反撃を受けたスレイブアントは一撃でやられ、影に溶け込むように静かに爆ぜて消滅していった。

 だが百体ほどいるスレイブアントのうち、交戦を始めてからキューティズが倒せたのは2、3体だけだ。

 

「スプリングぅ、ちょっと助けてぇーー!」

「ごめん、サマー! 私もいま余裕ないのぉ!」

 

 シャインロッドでスレイブアントの槍を受け流しながらサマーはスプリングに助けを求めるが、スプリングは飛んでくる弓矢を避けながら否定の返事をかえした。盾で守りを固めているスレイブアントと違い、障害物のない体育館の中でスプリングが弓矢を避けるには、的にならないよう動き続けるしかない。

 体操選手のように飛び回りながら、スプリングはスレイブアントを狙い撃っていく。射線が通っているときは、サマーとオータムが相手しているスレイブアントも狙撃する。

 しかし何故か、スプリングの弾丸は当たることはなかった。

 

「……コイツら」

 

 メイプルブレードを使ってスレイブアントの攻撃をかわしながら、オータムはノーライフの強力な連携を、ひとり不自然に感じていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「すいませーん!」

 

 キューティズが体育館でスレイブアントと戦っている頃、俺は屋上から体育館の屋根に飛び移り、外から中の様子を伺っていた“何者か”に職務質問をかけた。一応、ハイドロードを含め、ガーディアンズのエージェントたちには警察と同様、不審者や参考人などの対象に質問を行う権限がある。

 その何者かは、秋月達に追われて渡り廊下の入口から体育館の中へ入った後、すぐに“影のゲート”のようなものを通ってその場に現れた。そして当たり前のように空中を浮遊し、無表情でキューティズの戦いを見ていたのだ。

 

 俺が声をかけると彼女はこっちを見て、徐々に口の端を吊り上がらせる。

 月明かりの中にある、ニヤリとした怪しい笑み。顔立ちが良いせいで魅力的に見えなくもないが、その真っ黒な瞳からは全く感情が感じられない。年齢はおそらく俺と同じか少し上、無感情の瞳に合わせて目の下には不眠症のようなクマ、夜の闇よりも深い色をした長い黒髪、黒のドレスと……まるでキューティズの誰かを闇落ちさせてパワーアップさせたような格好だ。

 

「あらぁ、こんな夜の学校でいったい何してるのかしらぁ。下校時間はとっくに過ぎてるわよぉ」

 

 目の前の彼女は冗談めかした口調で言う。その声色はアルトで女性の声にしては低く、ダークな雰囲気があって聴いたものに恐怖を誘うような声だったが、同時にどことない色気もあった。

 

「ただいま見回り中でしてね……あなた、ここで何してるんですか?」

「フフっ。さぁ何だと思う?」

 

 質問を質問で返すなよ……まぁ、正直に答えるわけもない か。

 見るからに何か暗躍してますって感じだし。

 

「あなたの名前は?」

「“ヒューニ”よ。よろしくねぇ“ハイドロード”さん」

 

 あ、ちなみに俺いま、ハイドロードのコスチュームを装着してます。

 さすがに高校生の姿を晒して職務質問や怪しい人の目の前に出るわけにはいかないので。

 

 てか、俺が誰か分かってて、そんなに平然としてたのか……。

 

「ヒューニさん、ね……身分証とか、見せてもらえます?」

「あいにく免許証も学生証も持ってないの。フフフフっ!」

 

 けっこうノリが良い人だな……。

 こっちのペースに持ち込むため少しボケてみたけど、すんなり流された。

 

 何かを暗躍している最中に、ヒーローが現れたら少しくらい取り乱しそうなものだけど、彼女の話し方には緊張や動揺は一切見られない……もし敵側としたら、なかなか厄介そうだ。

 

「そうですか……実は今この下で魔法少女が悪い奴らとドンパチしてるんですけど、あなた何か知ってます? 見た感じあなた、『魔法少女(亜種)』って感じの服装ですけど……」

 

 俺がそう言うと、ヒューニの目の端が、一瞬ピクリと揺れた。

 

「あらあら、私をあんなお子様たちと一緒にしないでくれないかしら」

 

 『お子様』の部分で微かに言葉が強くなったように感じたけど、それ以外に、ヒューニの表情や言動に変化はない。

 

「ついでに言っておくと、私はハデスでもノーライフでもないから……フフフフっ」

 

 えっ、違うの?

 

「……ふーん」

 

 顔には出さなかったが、その言葉に俺は不意を突かれた感覚を覚えた。

 

「じゃあ、あなたは何者なんですか?」

「なにって、ただの通りすがりの“魔法使い”よぉ」

 

 “魔法使い”って。やっぱり『魔法少女(亜種)』じゃん。

 いや、まぁ、“少女”って年齢じゃないのかもしれないけども……。

 

「そうですか……」

 

 彼女の言う“魔法使い”というのが何なのかは分からないけど、魔法少女やハデスについて知ってることから、何かしらの関係者であることは間違いないだろう。

 

「とりあえずガーディアンズの基地まで任意同行願えます?」

「フフっ、私を連れ帰って何をする気かしら?」

「心配しなくても、いくつか事情聴取するだけですよ」

 

 魔法使いって何なのかとか、どこから来たのかとか、敵なのか味方なのかとか。訊くべきことはたくさんある。

 あとは長官殿のお考え次第かな。

 

「ちなみに拒否された場合、無理矢理にでも連れてかなきゃいけないんで」

 

 そう言いながら、俺は隠し持っていた水の入ったペットボトルを背後に忍ばせ、片手でキャップを回す。

 

「あらあら、正義のヒーローが何も関係のない人間を誘拐する気かしら?」

「ただの一般人ならまだしも、流石に魔法使い相手ですとねぇ」

「それって差別じゃない?」

 

 いいえ、判別した上での当然の対応です。

 普通の人だったら、そもそも職務質問なんてしませんよ?

 

「……フフっ、まぁいいわ」

 

 ヒューニは身をひるがえした。

 

「おい待て!」

 

 まぁ期待なんてしていなかったけど、その反応を見てヒューニが同行してくれる気がないと判断した俺は、忍ばせていたペットボトルを投げて、飛び出た水を操り、それで彼女を拘束するように仕掛けた。

 

 しかし、俺が操作した縄状の水は、ヒューニの身体をすり抜けて飛散した。

 

 そのとき何が起きたのか分からず、俺は思わず目を見開いた。

 

「じゃあね。また会いましょう、ハイドロード」

 

 そんな言葉を残して、ヒューニは黒い靄のようなものに包まれ、夜の闇に溶けるように姿を消した。

 

 

 

 

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