青の魔法少女と水のヒーロー(旧:魔法少女と超英雄)   作:ジョン・N

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第21話 放課後キャロル

 

 

 

 本日最後に聴くであろうチャイムが鳴る。

 帰りのホームルームも終わり、クラスメイト達は席を立って、それぞれ放課後の活動に移っていった。

 

「じゃあ優人、お先にぃ!」

「おぉー」

「また明日な」

「おぉ、葉山も部活がんばれよぉ」

 

 いつもなら俺も、部活に向かうか沙織達と帰るところだけど、今日は珍しくサボり魔の葉山が部活に顔を出すとあって、一緒に帰る友達やクラスメイトが誰もいなかった。加えて今日はガーディアンズからの任務もない。

 よって、俺は一人でのんびり帰路につく。

 

 平日の放課後。ヒーローとして気を張るでもなく、沙織や葉山達とわいわい過ごすわけでもない。良い言い方をすれば、穏やか、悪い言い方をすれば、ぼっち。

 こんな一人の放課後も、健全な生活を送るには必要な時間だ。

 

 家に帰ったら何をしようか。

 とりあえず、今日出された宿題を片付けて、昨日買った少年誌でも読もうか。

 

 そんな極々普通の男子高校生のような放課後の過ごし方を考えながら、俺は校舎を出た。

 

 昼休みに良からぬ訪問者が来たが、ショッピングモールの件以来ノーライフは現れず、比較的今日も高宮町は平和そのものだ。

 

 そう思っていたんだけど、次の一声で、俺のほのぼのとした気分は消し飛んだ。

 

「水樹くーん!」

 

 ふと誰かに呼ばれ、俺は反射的に前を向く。聴いたことのある声だったけど、学校終わりの直後とあって気が抜けていた俺は、一瞬それが誰の声なのか理解できなかった。

 

「なッ!」

 

 そして声を掛けた本人の姿を見て、俺は目を大きく見開く。

 俺が目を向けた先には、なんとヒューニが平然と立っていたのだ。

 

「一緒に帰ろぉ、なんてね」

「お、おまえ……!」

 

 歩み寄ってきたヒューニに、俺は一歩後退りして距離を取る。

 いつも通りの黒を基調とした格好。およそ学校にくる格好としてそぐわない服装のはずだが、周りで下校する生徒の誰も彼女に目を向ける者はいない。

 

「どうしたの?」

「いや、どうしたって……!」

 

 いつもならすぐにでも戦闘態勢を取るところだけど、周りの眼もあるため、俺はなんとか動揺と警戒を表に出さぬように平静を装った。

 

「なにしに来た?」

「貴方を勧誘しに」

「その話は断っただろう?」

「何度でも来るわよ。貴方が首を縦に振るまでね」

 

 だからって、勧誘に来るスパン短過ぎだろ。

 この昼休みから放課後まで、およそ4時間しか経ってねぇぞ。

 せめて日を跨いでから来いよ。

 

「しつこい、帰れ」

「そう言わないで、とりあえず一緒に歩きましょう」

 

 ヒューニはクスリと笑って、俺に付いてくるように促しながら身を翻した。

 

 付いて良くべきだろうか。

 通学鞄の中にペットボトルの水が入っているが、人目の多いところで能力を使うと正体がバレる恐れがある。下手に抵抗できない。

 かといって、このまま見逃すのもなぁ……。

 

「ほら、早く来なさいよ」

 

 ヒューニに急かされ、少し迷いつつも俺は彼女の後を追った。

 

 

 

 

 校門を抜けると、ヒューニは歩くスピードを落として俺の隣に並んだ。

 しばらく会話のないまま俺たちは適当に道を歩く。時折、ヒューニは俺の顔をチラチラ見ては、何がそんなにおかしいのか、ニヤニヤ笑っていた。

 こんな目立つコスチュームを着た少女が歩いていたら、本人だけでなく隣にいる俺にも注目が集まりそうなものだが、反対側の歩道を歩くお爺さんやおばさん、公道を走る車の運転手など、誰も彼女に興味を向けることはなかった。おまけに、前方から来た通行人の何人かは、俺やヒューニを避けて何事もなくすれ違っていく。

 どうやらヒューニの姿が見えないわけではないようだ。

 そうこうしてヒューニと周りの様子を窺いながら歩くこと十数分、やがて、俺達は最寄りの駅前へとやってきた。人通りの多い駅前であるが、ここでもヒューニの格好を気にする者は誰一人いなかった。

 

「おい、なんで周りの人達はあんなにお前に無関心なんだよ。おかしいだろ?」

「魔法で誤魔化してるからねぇ。貴方以外の周りの一般人には、私は普通の生徒にしか見えてないのよ」

 

 また魔法か。相変わらず便利だなぁ魔法。

 

「そんな手間のかかることしてまで、何がしたいんだよ」

「だから言ったでしょう。貴方に私と手を組むように依頼しに来たのよ」

「だーかーらー、その話は断ったろうが!」

「あっ、なにアレ?」

「聞けよ!」

 

 俺の話も聞かず、ヒューニはとある店の前へ駆け寄った。

 ヒューニが見ている置き看板には、手書きと思われるパフェの絵とイチ押しメニューの名前がいくつか載っている。

 店の名前は『CAROL(キャロル)』。俺や沙織達もよく使っている個人経営の喫茶店だ。

 

「なかなか良い雰囲気の店ね。立地のわりに落ちついてて、メニューは……ぜんぶ甘ったるそうだけど」

「確かに甘いけど、マズいわけじゃないんだぞ。それにその分、コーヒーは絶品だぞ」

「ふーん」

 

 するとヒューニはおもむろに店の扉を開けて中に入っていった。

 

「ちょっ、おい!」

 

 慌てて俺も後を追い中に入る。扉を抜けると、この喫茶店特有のコーヒーの匂いが俺の鼻腔をくすぐった。

 

「いらっしゃ……あぁ水樹君!」

 

 扉の内側に取り付けられたベルを聴いて、カウンターに立っていた初老の男性が俺の名前を呼んだ。

 この男性の名前は内海さん。白髪交じりの頭髪と落ち着いた仕草、白いシャツに黒いベスト、それに蝶ネクタイ、エプロンと、いかにもって感じの格好をしている、この喫茶店のマスターだ。

 俺や葉山、それに沙織達三人もここをよく利用するため、マスターとはお互いすっかり顔見知りだ。彼の穏和な印象と流れるような接客は店内の空気とよくマッチしている。良い意味で、あまりお客に存在感を感じさせないマスターだ。

 

「その子は、新しい友達かい?」

「えぇ、そんなとこです」

「そうかい。まぁ適当に座って」

 

 初対面のヒューニをチラリと見ながら、マスターはいつも通りの優しい声色で言った。

 そのマスターの言葉を聞いてか聞かずか、店内を興味深そうに見ていたヒューニは、そのまま店の奥のテーブル席に座った。俺もヒューニと向かい合うように座席に座る。

 

「店の人と随分親しげね。ここにはよく来るのかしら?」

「あぁ、なにかとな」

 

 他にもお客さんはいるけど、幸い、俺たちの席の周りのテーブルには誰もいない。店内には邪魔にならない程度の音楽も流れているので話し声もあまり目立たない。意識して耳を傾けない限り、俺たちの話し声が聞かれることも無いだろう。

 俺達が席に着いて間もなく、マスターがお冷を出しに来てくれた。

 

「水樹君はいつも通りコーヒーで良いかい?」

「えぇ、お願いします」

「かしこまりました。じゃあ他に注文が決まったら声かけてね」

 

 慣れた言葉を交わし、マスターは奥へと戻っていった。

 その間、ヒューニはテーブルに置かれたメニュー表を黙々と眺めていた。

 俺はそんな彼女を眺めつつ、お冷をちびりちびり口にする。

 

 まるで友達と寄り道するような流れでお店に入ってしまったけど、大丈夫かな……。

 一体コイツが何を考えているのか、さっぱり分からない。

 

「すみませーん」

 

 ヒューニがジト目でメニュー表を眺めること2、3分、彼女はカウンターで作業していたマスターを呼んだ。呼ばれたマスターは俺たちのテーブルに来ると「先に水樹君のブレンドコーヒーね」と俺がいつも頼むコーヒーを出してくれた。

 

「ご注文は?」

「3種のチョコレートケーキとブレンドコーヒー」

「かしこまりました」

 

 軽く頭を下げて一礼するとマスターは再度奥へと戻っていき、ヒューニはメニュー表をテーブルの隅に置いた。

 ヒューニがコーヒーと一緒に頼んだ3種のチョコレートケーキとは、ミルクチョコとダークチョコのスポンジ、チョコ味のクッキー生地を使ったチョコレートケーキだ。手の込んでる分、普通のケーキよりも値段が高い。

 

「素朴な疑問なんだけど、お前、日本のお金持ってるの?」

「持ってないわよ」

「は?」

「フフッ、ご馳走様」

 

 えっ、てことは俺が奢らなきゃいけないの?

 てかコイツ、最初からそのつもりで店に入ったのか。

 しかも、その辺を分かってて、そこそこ高いもの注文したのか。

 

 そんな彼女の小賢しい図々しさにムカついた気持ちが表情に出たのか、俺の顔を見てヒューニはうっすらと笑う。

 

「まぁまぁ、奢ってくれたら“良いこと”教えてあ、げ、る!」

 

 うざッ!

 もう“良いこと”とかどうでもいい程に、うっざッッ!

 

 彼女の誘惑的かつ作為的な言い方に、俺は嫌悪感を強めた。そしてそんな俺の負の感情が増えるのと同じように、ヒューニはさらに笑みを深くした。

 

 

 

 

 しばらく時間が経ち、ヒューニの注文したメニューが出された。

 

「ふーん、味はまぁまぁね」

 

 三色のチョコが使われたケーキと俺と同じコーヒーを口にして、ヒューニはまんざらでもなさそうな感想を述べた。すぐに二口目を食べている辺り、美味しいとは思っているみたいだ。

 奢ってもらってるんだから、もう少し美味しそうに食えと思わないでもないけどな。

 

「それで、良いことって何だ?」

 

 残り少なくなったコーヒーを口にしながら、俺はヒューニに訊ねる。

 

「メデューサが動いてる。多分近いうちに、ハデスの一団がこれまでにないほどの大規模でこっちに攻めてくるわ」

 

 まるで世間話でもするかのような口調でヒューニは言った。

 正直、期待してなかったが、その思わぬ情報に、俺のカップをソーサーに戻そうとしていた手が止まった。

 大規模って言うのがどれくらいの規模なのかは分からないけど、わざわざ言うってことは相当なものなのだろう。

 

「目的は何だ。市民を恐怖させることか、ラッキーベルとやらの捜索か?」

「両方ね。今までの襲撃で人間の負のパワーがある程度集まったから、ここに来て一気にそのエネルギーを使って、こっちの世界に侵攻して、さらに多くのエネルギーの収集とラッキーベルの捜索を行おうとしてるみたいよ。うまくラッキーベルを破壊できたら、そのまま日本中や世界中へ侵攻することも計画に入れてる。あと当然、あの小娘達を殺すこともね」

 

 ホントに本腰いれてるな。これはガーディアンズとしても放ってはおけない。

 まぁ、報告は後でするとして……。

 

「その情報が真偽が気になるが、とりあえず本当だと仮定して、なんで敵である俺に教える?」

「そうね……手を組むのには、それなりの信用が必要だからってとこかしら」

 

 つまりは俺と手を組むための前払金か。筋としては通っているが……。

 

「味方の情報を売るヤツを俺が信用するとでも?」

「勘違いしてるようだけど、私はわけあってハデスに手を貸してるだけでアイツらの仲間ってわけじゃないから」

「なに?」

 

 コーヒーを口にするヒューニを見ていた俺の眼の端がピクリと動いた。

 

「私の目的を達成するには、アイツらに手を貸した方が都合が良いってだけ。人間の恐怖とか正直どうでも良いわ」

「そのわりに奴らと同じく随分と魔法少女を毛嫌いしてるようだけど?」

「別に、アイツ等が嫌おうがどう思ってようが関係ない……ただ目障りなのよ。あの小娘達」

 

 八つ当たりするようにヒューニはケーキにフォークを突き刺した。

 

「どうしてそんなに?」

「…………ふん!」

 

 俺の質問を無視して、ヒューニは残りのチョコレートケーキを一気に食べきった。ムスッとした態度のわりに、綺麗に食べきっていた。

 その魔法少女への嫌悪の原因も彼女の目的に関係するのか、話す気は無いようだ。

 

「お前の目的とやらが何か知らないけど、そもそもなんで俺なんだ? ハデスと手を組んでるなら、今でも十分なんじゃないのか?」

「アイツ等の頭にあるのは、嘲笑いながら世界を壊すことだけよ。“手段”としては使えるけど、“制御”はできないわ」

「俺なら制御できるってのか?」

「フフッ。まぁ、そんな所ね」

 

 改めて言うこともないのだろうが、ヒューニは人をイラつかせて楽しむ癖がある。

 今回のも、多分わざとだろう。

 分かってはいるけど、俺は彼女の期待通り少しイラっとした。

 

「他のガーディアンズのエージェントじゃダメなのか?」

「下っ端のエージェント程度じゃ力不足よ。それに、利権が絡んでくる組織に属してる奴等は嫌いなの」

 

 およそ魔法を使うヤツが言いそうにない言葉だな。

 

「どんな利権があるってんだよ。てか、一応俺もその組織の人間なんだけど?」

「貴方個人になら利権もくそもないから大丈夫よ。それに、貴方はガーディアンズになって間もないから、いろいろと都合が良いのよ」

「……じゃあ、ファングは?」

「まぁ、あの人は単純そうだし。そもそも雪井に手を貸してた私の言うことなんて聞かないわよ」

 

 ……確かに。

 もし二人が顔を合わせたらどうなるか考えてみたけど、ヒューニに突っかかっていく悠希の様がすぐに想像できた。

 水と油というか、立場的にも性格的にも相性が最悪そうな二人だ。

 

「そういえば、気になってたんだけど」

「ん?」

 

 俺は口につけていたカップを傾けると、唐突にヒューニは何かを思い出したような顔をした。

 

「貴方とファングって付き合ってるの?」

「っぶ!」

 

 口内のコーヒーが出ていきそうになるのをなんとか耐えて飲み込み、俺はガチャリと音を鳴らしてカップを置いた。

 

「またかよ。異性の話をすれば、すぐに付き合ってるだとか訊きやがって。小学生かお前は!」

「フフッ、女はゴシップが好きなものよ」

 

 嘘つけ、俺の弱みを握りたいだけだろ。

 人の反応見てニヤニヤしやがって。趣味が悪い。

 

「アイツとはただの同僚だ。勘違いするな」

「ふーん、あっそ」

 

 俺が否定するとヒューニは笑顔を消して、つまらなそうな顔でテーブルに頬杖をつき、残ったコーヒーを飲み干した。

 

 

 やがて、話すべきことはすべて話したとでもいう感じで、ヒューニは静かに息を吐いた。

 

「ふぅ……じゃあ、今日はこれで帰るわ」

「あっおい!」

 

 彼女の切り替えの早さについていけず、俺はワンテンポ遅れて席を立った。

 

「またねぇ、水樹君」

 

 ヒューニはそのまま何の迷いもなく店を出たが、俺はというと、そういうわけにもいかない。

 

「ちょっ、待っ……あっ内海さん、お金ここに置いておきますね!」

 

 顔なじみの店とはいえ、無銭飲食をするわけにはいかない。

 俺はレジに置いてあるコイントレーに財布にあったお札全部と会計伝票を置いて、急いで彼女の後を追った。

 ヒューニが店を出てから俺が続いて出るまで、時間にして30秒ほどだっただろうか。魔法を使って逃げたのか、周辺を見回しても帰宅ラッシュの雑踏が流れていくだけで、すでに彼女の姿はなかった。

 

「水樹君、お釣りお釣り!」

「あ、あぁ、どうも……」

 

 マスターが気を使ってお釣りを持ってきてくれたが、俺はその場に立ち尽くし、生返事を返すしかできなかった。

 

「……また逃げられた」

「えっ?」

「あぁ、いや何でも……」

 

 

 

 

 

 






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