青の魔法少女と水のヒーロー(旧:魔法少女と超英雄)   作:ジョン・N

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第28話 ハイドロードの敵

 

 

 

 

 戦いは終わり、その後、すぐに玲さんがガーディアンズのチームを引き連れて現場にやってきた。

 今はガーディアンズの整備班や救護班が周辺の後始末を行っている。といっても破壊された建物や道などはキューティズの魔法で修復されているため、作業としては周辺の立ち入り制限や避難していた市民の誘導、情報の統制などがほとんどだ。

 

 そして、キューティズの二人、サマーとオータム……いや、もう沙織と秋月と言うべきか……とにかく、直前に気を失い変身が解けた二人はガーディアンズの救護車に運ばれた。検査の結果、二人に外傷はなく呼吸や心拍数などにも特に問題は見られなかった。

 

 玲さんが綾辻さんから、そして綾辻さんがマー達から聞いた話では、どうやら魔力の消耗によって一時的に気を失っただけらしい。

 なんでも、すでにシクルキを倒すのに使った大技や街を修復するのに使った魔法で、かなりの魔力を消耗して魔力切れ寸前だったのに、最後にヒューニへ攻撃魔法を使ったせいでいよいよゼロになったらしい。

 

 俗に言う、『MPが切れて戦闘不能』というヤツだ。命に別状はなく、しばらく休めば無事に目を覚ますらしい。

 その報告を聞いて、とりあえず俺は一安心した。

 

 今、沙織と秋月は救護車の中に備え付けられたベッドで眠っている。

 

「そういえば、どうして千春ちゃんは倒れなかったの?」

 

 バックドアの開いた救護車の後方から眠っている二人を見ながら、玲さんは事情聴取がてら綾辻さんに訊ねた。

 

「私は二人よりも持ってる魔力が多いみたいで、多分そのおかげで魔力が切れなかったんだと思います」

「ふーん。同じ魔法少女でも色々違いがあるのね」

 

 その後、綾辻さん曰く、持っている魔力量の大きさは、綾辻さん、沙織、秋月の順に高いらしい。中でも、綾辻さんは飛び抜けて魔力量が高く、秋月はめっぽう低いらしい。沙織は、時々によって高かったり低かったりと変動が激しいらしい。

 まったく、どんな仕組みなんだか……。

 

「まぁ、いいわ。じゃあ私は仕事があるから、千春ちゃんは二人のそばにいてあげて。何かあったらその辺の作業員に声かけてくれれば良いから」

「はい、分かりました……あっ!」

 

 綾辻さんは何かを思い出したような声を出して、また玲さんに目を向ける。

 

「あの、ハイドロードさんは?」

「ん? あぁ、彼ならとっくに帰還したわ」

「そうですか。じゃあ、その、御礼を伝えておいてくれませんか? 今日は、ハイドロードさんにいっぱい助けてもらいましたので」

「えぇ、分かったわ」

 

 そう言って、玲さんはどこかへと足を進め、綾辻さん達から離れていった。そして、ある程度距離を取ったところで、彼女は耳につけた通信機へ意識を向ける。

 

「……だってよ。ハイドロードさん」

『えぇ、全部聞こえてましたよ』

 

 通信先である俺は、通信を通して玲さんに返事をした。

 

「とりあえず、お疲れ様。街を吹っ飛ばす爆弾の報告を聞いた時は焦ったけど、無事でなにより」

『……全部が全部、無事ってわけでもないですけどね』

 

 俺は少しトーンが落ちた声で返す。それを聞いて、玲さんは何かを察したのか、少しの間、声を掛けるのを止めた。

 

「……そういえば、問題の変化人間についてだけど」

 

 ヒューニのことだな。

 

「報告で彼女、あの子達のマスコットを狙ってきたってことだけど、理由わかる?」

『いいえ。てか、分かってたら報告してますよ』

「でしょうね。一応確認してみただけよ」

 

 ハデスを利用したり、俺と手を組もうと交渉してきたり、そして今回、魔法少女のマスコットを狙ったり、アイツが何を考えて動いてるのか、さっぱり分からないのは今に始まったことじゃない。

 沙織達と同じ魔法少女なのに、魔法少女と扱われるのに相当な嫌悪してるのも謎だ。

 まぁ、確かに、少女(ガキ)って呼ばれる、扱われるのがイヤっていうのは分からなくはない。けど、あの嫌悪の様は普通じゃない。

 余程の理由があるんだろう。

 

「彼女達の魔法で現場が綺麗さっぱり元通りになったのは良いことだけど、ヤツ等が何をしていたのか痕跡や証拠もまっさらに消えてるのよねぇ。整備班の班長がげんなりしてたわ」

『あぁぁーー』

 

 俺は納得と同情と悔いの混じった声を洩らす。

 

「よってヒューニがラッキーベルを探し当てたのか、あるいは他の目的を果たしたのか、全くの不明」

『手に入れてたら撤退してないでしょ』

 

 裏で何かコソコソ動いていた可能性はあるけど……。

 

『けど今回の件で、そもそもラッキーベルはこの辺りには無いんじゃないかって俺は思いましたよ』

「へぇ、その根拠は?」

『もし有ったら、三人があんなに落ち着いてないでしょう』

「……そうね」

 

 もしラッキーベルがこの辺りにあったなら、三人はそれを守ることを第一に動いたはずだ。けど実際には、ハデスが攻めてきた直後は、メデューサのいる場所へ駆け付けているだけだし、その後はメデューサやシクルキ達を倒すことだけに集中している。戦いの終わった今も、ラッキーベルを心配しているような素振りはない。

 これはラッキーベルがこの辺りに無い証左だろう。

 

 ヒューニも気づいたかもな……。

 

「とりあえずは様子見ね……それで、貴方は今、何してるのかしら?」

『疲れたんで、家に帰ってる途中ですけど?』

「嘘ね」

『えぇまぁ、嘘なんですけども。見抜くの早過ぎません?』

「だって貴方、いま目の前にいるもの」

『えっ?』

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 横へ視線を向けると、そこには通信機の通信を切る玲さんがいた。

 

「いるなら普通に話しかけてくださいよ。メリーさんですか貴女は?」

「何してるのよ」

 

 スルーですか、そうですか。

 お道化て取り繕ってみたけど、視線を戻すとイヤでも現実に引き戻され、シリアスな気持ちが戻ってきた。

 

「……別に、なにも」

 

 何しているのかと聞かれると、俺自身何をしているのか、分からない。

 

 これは後始末か、追悼か、あるいは気休めか……。

 

 俺の目の前には、膨らみのある遺体収納袋が置かれている。

 数にして3つ。綺麗に並ぶように置かれた、その真っ黒な袋はノーライフの侵攻にまき込まれ、命を落とした犠牲者が収められていた。

 

「まさか魔法少女の戦いで死人が出るなんてねぇ」

「現実はアニメじゃないですからね。クレーム入れて解決できるものでもないですし……」

 

 この人たちは間もなくガーディアンズ本部の霊安室へ運ばれ、その後、ガーディアンズ側で密かに埋葬される。通夜や葬式などは執り行われず、世間には一切公表されない。

 何故死んだのか、何故死んだことを秘密にされなければならないのか、必要とあれば遺族に伝えられることもあるけど、ほとんどは機密として処理される。

 これには当然、事情を知らされた遺族からの反発もある。その大概は話し合いで治めたり、最悪、金で黙らせたりもするらしいけど、ひどい場合は死因を偽装する。

 まぁけど幸い、過去に偽装するまでに至ったケースは無いらしい。俺が知らされていないだけかもしれないけど……。

 

 俺は膝をついて、遺体に向かって両手を合わせる。

 こうやって、まっすぐ救えなかった命と向き合うのは、正直、辛い。ガーディアンズに入った当初なんかは一日罪悪感が纏わりつき寝込んだりもした。

 今もできれば目を逸らしたい気持ちはある。けど、何故か、こうしなければならないと体が駆り立てられる。

 

 俺は眼を閉じて、しばらく心の中で自分の気持ちと向き合う。

 

 今、俺の心にあるのは、悲嘆と謝罪、後悔、恐怖、苦痛。それらの感情を自ら慰めながら受け入れていき、次へ向けて心を決める。

 

 それらの気持ちが一巡して、やがて俺は眼を開けた。言葉にしてしまえば実に簡単なものだけど、この心の整理には結構気力がいる。

 

「戦いの終わりが一番辛いのも、現実だからなんですかね?」

 

 俺は合わせていた両手を下ろして、遺体収納袋に視点を定めた。

 

「割り切りなさい。私たちは正義の味方じゃない、ただのセーフティーネット。この仕事じゃ、こんなの日常茶飯事よ。いちいち“敵”にまわしてたら切りがないわ」

「そうですね……でも、沙織達がハデスと戦っているように、きっとこれが俺にとっての“敵”なんですよ」

 

 この“敵”を言葉として表すならば、【犠牲】や【代償】、【理不尽】、【無情】、【不幸】……そんな感じだろう。

 

 もし特撮や映画の企画で敵がこんなんなら、その作品は即お蔵入りだろうな。

 

 けど、現実の“敵”というのは大概こういうものだ。分かりやすい悪役が現れて倒して『はい、おしまい。皆ハッピー、めでたしめでたし!』となることは、極稀である。

 そして厄介なことに、これ等は概念ゆえ決して倒すことができないし、無くならない。人間が生きている限り永久的に付いて回る。自然の仕組みとして受け入れるしかないのだ。けど、この被害者、ないし市民やマスコミは、その被害を無くせなかったのかと理想論と同情を盾に叩いてくる。

 

 まったく、どうしろってんだか……。

 

 こんなんを相手にするくらいなら、ハデスや雪井彰人のような【悪】を相手にする【正義の味方】の方が万倍マシだ。

 

「あなた一人じゃ力不足でしょーに……」

「えぇ、そうですね」

 

 玲さんは呆れたようにため息をつき、身を翻してどこかへ歩いて行った。

 

 確かに、これは水を操る能力を持つ人間だけじゃ、どうにもならない。

 

「……けど、一人でもやりますよ。俺は」

 

 それから俺は一人、遺体を作業員が回収していくまで、しばらく物思いにふけっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 






次で第1章、完結です。
感想・評価の程、よろしくお願いします。


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