青の魔法少女と水のヒーロー(旧:魔法少女と超英雄)   作:ジョン・N

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第29話 ヒューニの策略

 

 

 

「ギャアあぁァァァーーーー!」

 

 光のない暗黒空間で、苦痛によって吐き出される断末魔の声が木霊していた。

 声の主は高宮町から逃げ帰ってきたメデューサだ。今、彼女は目の前にいる謎の影が放つ魔法に、苦しめられている。その魔法は発動者の魔力を雷のようなエネルギー波に変えてメデューサを襲い、彼女に惨い苦痛を与えていた。

 

「もっ、申し訳ございませんハデス様! 次こそ、次こそは必ずッ!」

 

 メデューサは全身に走る痛みに耐え抜いて、地に膝をつきながら頭を下げ、なんとか言葉を絞り出した。するとハデスと呼ばれた影は魔法の発動を止め、言葉になっていない声でメデューサに警告した後、空間に溶け込むように姿を消した。

 しばらくその場に沈黙が流れ、メデューサの荒々しい息遣いだけが響く。やがて、メデューサが壊れたブリキ人形のような動きで伏せていた頭を上げる。その顔には憎しみと怒りが張り付いていた。

 

「クソっ、キューティズめェ……次は必ず殺す!」

 

 そう言いながら、自身の主によってボロボロにされた身体に鞭を打ち、メデューサはなんとか立ち上がった。

 

(それに、あの水を操る男、アイツも絶対に殺す! 虫けらのように踏み潰してヤツ裂きにしてやるわ!)

 

 彼女の怒りの矛先は、キューティズだけでなくハイドロードの俺にも向けられる。メデューサの中では四人分の死体が出来上がっていた。しかしやがて、メデューサの脳裏にある疑問が過る。

 

(けど、どうして人間界にあんなヤツがいる! あそこは魔法なんて存在しない世界のはずでしょ! しかも、今回は邪魔が入らないように結界まで使ったのに、どうしてアイツがあそこにいたのよ!)

 

 メデューサの疑問は、ご尤もなものだろう。

 頭に血が上ってるのに、こんな思考ができる辺り、彼女もバカじゃないようだ。

 

(あの場所に偶然いた? そんな都合の良いことがあるわけない……けど、もし偶然でなかったとしたら、こちらの情報が漏れていたことになる。じゃあ、誰が……いや、ひとりしかいない!)

 

 メデューサは考えを巡らせ、ひとつの解を導きだした。

 

「作戦は失敗だったみたいね」

 

 ふと何者かの声がメデューサの背後から聴こえてきた。

 

(このメスガキだ!)

 

 そして次の瞬間、メデューサは振り替えると同時に間合いを詰め、背後に立っていた人物に自身の尾を絡め、いつでも攻撃できる体勢を取った。今の彼女がその気になれば、巻きついた尾は枯れ木のように体をへし折り、魔法攻撃によって肉片は消し炭へと変わるだろう。

 

「ヒューニぃぃ! 貴様ァ!」

「何よいきなり?」

 

 メデューサに殺気を向けられた人物……ヒューニは、まったく動じずに、まるでハエが飛んできた程度の煩わしそうな口調で返した。

 

「惚けるなッ! あの水を操る男をけしかけたのはお前だろ!」

「はっ! 自分が下手こいたからって私に変な言いがかりつけないでくれないかしら?」

「何をっ!」

「もし私が邪魔したって言うなら証拠を出しなさいよ証拠を。それでも、やるってんなら相手になるわよ?」

 

 くわえてヒューニは鼻で嗤い、メデューサを見下すように言った。何か勝算があるのか、やけに余裕ある態度で挑発している。

 メデューサは額に血管を浮かばせ、今にも魔法を撃たんとしていたが、頭の隅に残っていた理性が彼女を思い止まらせる。

 

「……チッ!」

 

 メデューサはゆっくりと巻きつけた尾を解いてヒューニと距離を取った。その際のメデューサの悔しげな表情に、ヒューにはニヤリと笑みを深める。

 

「まぁいいわ。それで、ラッキーベルは見つかったんでしょうね?」

「それについては、少し事情が変わったわ。あの辺りにラッキーベルはないわね」

「はぁ? 話が違うじゃない!」

「分かってる。だからもう少し探りを入れてみるわ」

 

 それだけ言い残して、ヒューには身を翻し、その空間から消えていった。

 

「……チッ、このメスガキがぁ!」

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 次の日、あんな事件があった後でも、いつも通り学校はある。今回の事件、規模はこれまでよりも大きかったけど、メディアに死者の数は報告されず、日頃からハデスやノーライフが出現する高宮町の住人にとっては、いつもの事件の延長線上の出来事のように処理されった。

 俺は昨日の疲労が抜けきれないまま、ベットから体を起こした。月曜日ってだけで、ただでさえ気が滅入るのに疲労も合わさってダルさ倍増だ。

 

 首や肩、腕を回すと筋肉痛が……いや、無いな。

 そういえば、この改造された身体は筋肉痛や疲労とは無縁だった。

 じゃあ、このダルさは精神的なもの……言い換えれば、俺の気のせいなんだろうなぁ。

 

 制服に着替えて朝の日課を済ませて家を出てからも、体は重りをつけたように鈍い、気がした。

 

「はぁぁ」

 

 ため息をつきながら俺は通学路をのろのろ歩く。

 

「おっはよーー!」

「痛っ!」

 

 肩を叩かれた衝撃で反射的に声が出たけど、実際にはそんなに痛みは無い。

 

「どうしたの優人、珍しく寝不足って感じじゃん?」

「あぁ、まぁーなぁ」

 

 お前は、すっかり元気だな、とは言えなかった。

 視線を横に向けると、制服姿の沙織が明るい表情で立っていた。

 

 昨日、あれから救護車で眠り30分ほどで目を覚ました後、そのまま帰ったとは聞いていたけど、どうやら後遺症もなく、まったく無事のようだ。とりあえず、良かった良かった。

 

「そういえば、今日提出の宿題やった?」

「やってない」

「そう、じゃあ見せて……って、えっ?」

「だから、やってない」

「えっ、えぇーー! なんで?」

「なんでって……?」

 

 土日は街に出てて、宿題やる暇なかったからな。

 

「じゃあ、私は誰に宿題を見せてもらえば良いのぉ?」

「さぁ……葉山とか?」

 

 綾辻さんと秋月もいるけど、二人は文系クラスだから出ている宿題も違うからな。

 

「再提出はイヤだぁーー!」

 

 ひどいな、おい……まぁ、尤もだけど。

 

 沙織はズーンと肩を落としてギャグ漫画みたいな泣き顔を浮かべる。

 けどそんな彼女を見ていると自然と柔らかい笑みがこみ上げてきた。

 

「ちょっとぉ、なに笑ってんの?」

「いや、別に……フフッ」

「笑うなぁ、宿題見せてぇぇ!」

「無茶言うな」

 

 そんなやり取りをしながら、俺達は学校へと向かった。

 学校に着いた時には、不思議とダルさが抜けて体が軽くなっていた……気がした。

 

 

 

 

 やがて時間はあっという間に過ぎていき、学校は昼休みとなった。

 それまでの授業は、いつもなら先生の話と板書に集中するところだけど、今日は頬杖をつく時間が多かった。宿題は授業まで間に合わず先生から再提出を命じられ、後日提出する羽目になった。俺はため息ひとつで済ませたけど、沙織は机に突っ伏して泣いていた。

 

 そして、俺は今、ここ最近ですっかり感じ慣れた“気配”が近くにいるのを察知して校舎の最上階にある階段をのぼっていた。その気配の主は、前回と同様、屋上に一人ポツンと待っている。

 階段を上がり切り、持参したペットボトルの水を使って屋上の扉を開ける。すると想像通りの光景があった。コンクリートでできた屋上の地面と白いフェンス、それと上方には綺麗な青空、その中心には黒衣の少女の姿があった。

 

「昨日あんなに暴れといて、よく顔出せたな」

「暴れたのは私じゃないわ。私がしたのは最後の化け猫への奇襲だけよ」

 

 化け猫て……ニャピーのことか?

 

「なぜヤツ等を狙った?」

「アイツ等が私の敵だったから。他に理由があると思う?」

「同じ魔法少女なのに、パートナーのマスコットが敵なのか?」

 

 俺がそう口にすると、黒衣の少女……ヒューニは振り返り、俺を睨んだ。その眼は、これまで何度か見たことのある怒りのこもった眼だった。

 

「今度、私を魔法少女扱いしたら、ただじゃおかないから」

 

 だって事実、同じなんだろ?

 

「何がそんなに気に食わないんだよ? ヤツ等に親でも殺されたか?」

「えぇ、家族が殺されたわ」

「……マジかよ」

 

 いや、身内の不幸って内容もそうだけど、答えてくれるとも思わなかった。

 

「えっなに、『僕と契約して魔法少女になってよ』とか言われたか?」

 

 突然、俺の顔面にパンチが飛んできた。俺は反射的に彼女の拳を手の平で受け止めたけど、受け止めた手の平はジンジンするほど痛かった。

 

「次また舐めた口きいたら、今度はマジに殺るから」

「こりゃ失敬」

 

 我ながら少しふざけ過ぎた言い回しだったと反省しながら、俺はブラブラと手を振って痛みを紛らした。

 この場でこれ以上踏み込んだ尋問はできないと感じて、俺は話題を変えることにした。

 

「……それで、何しに来た?」

「昨日の一件、裏でノーライフの別動隊があの辺りを探索していたけど、ラッキーベルは見つからなかった。どうやらあの一帯にラッキーベルは無いようね」

 

 やっぱり、そう思うか。

 

「当てが外れたのはムカつくけど、それならそれで、別の手段を取るまで」

「なんだ、別の手段って?」

「教えると思う?」

「まぁ、期待はしてない。けどそれを言うためにわざわざ来たのか?」

「フフッ、まさか」

 

 ヒューニは突然、その場で膝をついた。

 

「えっ何?」

 

 何の脈絡もない彼女の行動に、俺は思わず彼女と距離を取って身構えた。

 ヒューニはただ静かに地面を手で触る。すると彼女の影が一層濃くなり、その黒い影から何かの先端らしきものが生えてきた。彼女はその先端を握りしめ、立ち上がると同時に引き抜いていく。

 ヒューニが取り出したものは、彼女の得物である大鎌だった。

 すでに身構えていた俺だが、それを見て、より警戒を強める。しかし、対するヒューニは特に攻撃する仕草を見せず、出現させた大鎌を肩に乗せて持った。

 警戒する俺を見てクスクス笑いながら、ヒューニは大鎌の柄をクルクル回す。その回転に合わせて鎌の刃も彼女の後ろでクルクル回っていた。

 

「フフフッ」

 

 不敵な笑みを浮かべ、やがてヒューニは肩に背負っていた大鎌を持ち上げて先端の刃で地面を着いた。

 しばらくの間、俺とヒューニの視線がぶつかる時間が続いた。しかし、いくら警戒しながら様子を窺えど、ヒューニが攻撃してくることも無ければ、何かおかしなことを仕出かす様子もない。

 

「……何してる?」

 

 これまでのラフな口調でなく、ハイドロードとして戦っている時の少しのゆるみのない口調で俺は訊ねた。

 

「ラッキーベルを探す。これはその布石」

「大鎌を回すことがか? 探知機能でも付いてるのかソレ?」

「えぇ、そんなところね」

 

 は?

 

「ただし、探知するモノはラッキーベルでもなければ、私が探すわけでもないけれどね」

「何っ?」

 

 そう言って、俺が詳しいことを訊く暇も与えない内に、ヒューニの足元にあった影が濃くなり彼女の体を包んでいく。

 

「それじゃあ、せいぜい楽しんで」

 

 笑顔を浮かべて軽く手を振りながら、ヒューニは影の中へ消えていった。

 一人残された俺は、辺りを警戒しながら見回したけど、周辺に異変はない。

 

「……何だったんだ?」

 

 はったり、なわけないよな……。

 

 俺が首を傾げていると、ふと背後で物音がした。警戒していなければ聞き流していたほど微かにしか聴き取れない音だったけど、それは何者かが階段を駆け上がってくる音だった。

 

「……本当に、この先にハデスの魔力の反応が!」

 

 そして、俺が背後を振り返るのと同時に、屋上の扉が勢いよく開いた。

 塔屋から出てきたのは一人の女子生徒だった。黄色っぽい髪をなびかせ、彼女は屋上に一人いた俺を見ると、少し目を見開いた。

 

「水樹!」

「……秋月」

 

 驚き半分警戒半分といった感じの声で秋月麻里奈は、俺の名前を呼んだ。

 

 どうやら、俺の面倒ごとは続きそうだ。

 

 

 

 

 






第1章、完。

感想・評価の程、よろしくお願いします。


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