青の魔法少女と水のヒーロー(旧:魔法少女と超英雄)   作:ジョン・N

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第42話 麻里奈の迷い、わからないなら誰かに訊こう!

 

 

 

 

 時間は少しさかのぼり、俺とオータムがヒューニを追って街中を跳んだり走ったりしていた頃。

 

 沙織達三人はパートナーのニャピー三匹と共に、駅前の喫茶店キャロルにいた。店内の隅にあるテーブルに座った彼女達は教科書とノートを広げて黙々と試験勉強していた。

 勉強道具の他には、注文したドリンクのグラスが三つ。飲み物の残量からそこそこ長い時間、三人がその場にいることが見て取れる。

 

「In my life, I have known a lot of weird characters.……ウィヤードって何だっけ?」

「異なる2つの実数解を持つように、判別式Ⅾをゼロより小さく、ん? 大きく? どっちだっけ……んうぅぅ」

「…………はぁぁ」

 

 綾辻さんは英語、沙織は数学、秋月は日本史を勉強しているが、勉強している教科がバラバラなのと同じように、三人の様子もバラバラだ。一人は順調に、一人は悩み苦しみながら、そして一人は心ここにあらずな様子だ。

 対照的にパートナーのニャピー三匹、マーとミーとムーは揃って、空いている一人分の席に川の字になって昼寝をしていた。ペット入店不可のこの店に猫のような生き物が寝ているのは些か問題があるが、一般人にはニャピーの姿は見えないので、マスターの内海さんや店内にいる他のお客数人には、四人掛けのテーブルに三人が座っているようにしか見えていない。

 

「うぅぅ……ねぇ、千春この問題ってどうやって解くか分かる?」

「んー? ごめん、ちょっと分からないかなぁ」

「うぇーん、もうヤだぁぁ」

 

 綾辻さんに苦笑いで返され、沙織はテーブルに顔を伏せる。それなりに勉強のできる綾辻さんだが、文系と理系では範囲も違うので、分からないのも仕方がない。

 

「あぁぁ、もう数学とかやりたくなーい。意味わかんない」

「あははぁ。じゃあ、なんで理系選択したの?」

「別に数学がやりたくて理系に選んだんじゃないもん」

 

 子供が拗ねたように言う沙織に、綾辻さんはまた苦笑いする。

 

「はぁぁ、しょうがない。あとで優人に訊こぉ。あーあぁ、なにかラクして問題解く方法ないかなぁ……ん?」

 

 いつもであれば、ここでツッコミのひとつでも飛んでくるのに、と沙織は不思議に思い秋月を見る。

 

「麻里奈?」

 

 秋月は頬杖をついて喫茶店の外へ顔を向けていた。しかしその視点は定まっておらず何もない虚空を見つめてボーっとしていた。

 

「麻里奈ちゃん?」

「えっ、なに?」

 

 綾辻さんに声を掛けられ、秋月は目を見開いて顔を向ける。その反応から、直前の沙織の文句を聞いていた様子はない。

 

「麻里奈ちゃん、何かあったの?」

「えっ?」

「なんだか最近ずっと悩んでるみたいだから」

 

 ここ数日、秋月の様子がおかしいのは綾辻さんも感じ取っていた。授業中や休み時間にも今みたいにボーっとしていることあったが、同じクラスとあって綾辻さんはその様子を何度も目にしていた。

 

「私達で良ければ、話を聞くよ?」

「そうそう、友達なんだから! 役に立てるかは分かんないけど」

 

 綾辻さんと沙織は明るく優しいトーンで言う。

 秋月は顔を俯かせ、話すかどうか迷ったようだが、やがてゆっくりと口を開いた。

 

「実はこの前……えーっと、色々と複雑で話すのが難しんだけど、そのぉ……」

 

 先日の件を話そうとした秋月は言葉を濁す。そしてとりあえず、俺やファングについては伏せておこうと考えた。ヒーローファンの沙織が聞けば話の腰を折ると思った上での配慮だろう。

 

「ある人が『他人を傷つけて平気でいられるような人間は、もう普通じゃない』って言ってて、私も、どうなんだろうって……」

「どうって?」

 

 綾辻さんに訊ねられ、秋月は自分の中にある言葉を整理するように、少し間を置いた。

 

「ハデスやノーライフと戦い始めて2カ月以上経ったけど、最初の時に比べて、なんだか戦いの中での私の心のありようも変わってきている気がしてるの。前はノーライフをブレードで斬るときの“感触”がなんだか嫌だった。でもこんなことに一々気にしていたら、この先戦っていけないと思って、ずっと気にしないようにしてた」

 

 秋月は淡々と言葉をこぼす。それを二人は静かに見守りながら聞いた。

 綾辻さん(スプリング)の銃や沙織(サマー)の杖と違い、秋月(オータム)の武器はノーライフを倒す感覚を実感しやすい。

 いくら人々を守るため、かつノーライフに生命が宿ってないといえど、普通の女子高生だった人間が剣を握るのは気持ちの良いものではなかっただろう。

 

「そしてあの人の言葉を聞いて気がついたの。人の皆を守るためとはいっても、私はいつの間にかノーライフを倒すことにすっかり慣れちゃってた。何かを斬る、あの“感触”を全く嫌に思わなくなってた。そんな自分が、なんだか怖くなっちゃって……そしてこの怖さも、いずれ慣れちゃうんだと考えると、なんだか自分が自分じゃなくなるように思えて、どうしたら良いんだろうって……ここ最近、ずっと悩んでたの」

 

 利き手を撫でながら、秋月は迷いの含んだ眼で見る。

 彼女の内にある漠然と生まれる恐怖や苦悩は、ハデスの力となるかもしれない。そうならないために何とか解を得ようとしたが、何度考えても彼女は解を出せないでいた。

 

「そっか」

「うぅー-ん」

 

 秋月の話を聞き終えて、綾辻さんは頷き、沙織は腕を組んで考え込んだ。

 

「……どうかな、私変かしら?」

「ううん、全然変じゃないよ。ただ……」

 

 綾辻さんはノートを閉じて秋月を見る。

 

「「ごめん、よく分からない」」

 

 綾辻さんと沙織の気の抜けた答えに、秋月は「あらら」と体を傾ける。

 

「あははぁ。ごめん、変なこと訊いたわね。忘れて」

「あーいやいや、全然変じゃないよ!」

 

 引き下がる秋月に、綾辻さんは慌てて手を振り否定する。

 

「でもきっと、麻里奈ちゃんは優しいし賢いから、色々考え過ぎちゃってるだけなんだと思う」

「そう?」

「うん。少なくとも私には、今の麻里奈ちゃんが何か変わちゃったようには見えないよ」

 

 綾辻さんの言葉に同意するように沙織はコクコクと頷いた。

 

「ね、だから大丈夫!」

「…………そうね!」

 

 その大丈夫には、綾辻さんへの信頼以上の保証はない。

 だが彼女に気を使ってか、秋月は笑って返した。

 

「そーそー。だいたい私達が相手にしてるのは人じゃなくて、ハデスじゃん。ノーライフは人っていうより大きい虫だし、そんなに思い詰めることもないって。害虫退治と変わらないよ」

「それは極論過ぎると思う、かなぁ?」

「そお?」

「ノーライフはそうでも、メデューサやヒューニは人とそう変わらないから……」

 

 だから彼女達と対峙したとき、秋月の中の答えが出ると、綾辻さんは感じ取った。

 しかし、そんな綾辻さんの言葉の意味が理解できず、沙織は首を傾げる。秋月の不安を理解して綾辻さんとは反対に、沙織は本当に分かってないらしい。

 

 あまり考え過ぎないでいるのも、ある種の才能だ。

 

 ふと、寝ていた三匹のニャピーの耳が何かを感じ取ったようにピクリと動く。

 

《むぅぅ……うんっ?》

《ん?》

《ふぁ?》

 

 目を覚ました三匹は寝ぼけ眼を擦りながらテーブルの上に立ち、感じ取ったものを確かめるように神経を研ぎ澄ます。

 

「マーちゃん? どうしたの?」

《ハデスだよ千春ちゃん!》

「「えぇ!」」

「……まぁ仕方ないわね。行こう!」

 

 声を揃えて驚く綾辻さんと沙織に対して、秋月がため息をつきながら席を立った。二人も遅れて席を立つが、三人のカバンやノートはテーブルに置かれたままだ。

 

「あっ、ちょっと君たち、カバンは?」

「あとで取りに来まーーす!」

 

 急いで出て行った三人の後ろ姿を見ながらマスターの内海さんは「やれやれ」と首を振っていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 喫茶店キャロルを飛び出て道行く人や建物を縫うように走り、ニャピーに導かれる形で三人がたどり着いたのは、立体駐車場だ。

 

《あそこだよ!》

《あの建物から、ハデスの邪悪な魔力を感じる!》

《あらあらぁ……けど、なにか変ねぇ?》

 

 マーとミーと一緒に並んで浮遊しながら、ミーが頬に手を当てて違和感を抱く。

 

「変? 変って何が?」

《はっきりとは分からないわぁ。確かにハデスの気配はするんだけど、なんだかいつもの感じと違う気がするのよねぇ》

 

 他の二匹も《言われてみれば》とミーに同感して立体駐車場のフロアを見上げる。

 するとその瞬間、大きな爆発する音が鳴って、同時に3階のフロアから黒い煙が上がった。

 

「わぁ!」

「えっ! なになに、何なの!」

「とにかく行きましょう!」

 

 三人は急いで駐車場の中へと入り、爆発のした階へ駆けあがった。

 

 

 

 

 

 

 

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