青の魔法少女と水のヒーロー(旧:魔法少女と超英雄)   作:ジョン・N

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今回、短めです


第53話 戦うとはこういうことだ!ファングさん、戦いの心得!④

 

 

 

 

「目の前の敵を傷つけることを怖がっていたら、勝てる敵にも勝てねぇーよ」

 

 自分の心を見透かされ、秋月はドキッとした。ズバリと言い当てられ、彼女に返せる否定の言葉は無い。

 

「……ファングさんは、怖くないんですか?」

「ん?」

 

 代わりに、彼女の口から出てきたのは、ファングへの問いだった。

 

「ファングさん、前に言いましたよね? 『他人を傷つけて平気でいられるような人間は、もう普通じゃない』って」

「あぁ、言ったな」

 

 ファングは模擬剣をおろして、短く答えた。

 そんなファングを目の前に、秋月は教えを乞うような眼で見る。

 

「私も、前まではノーライフを斬るとき、手から伝わってくる“感触”が嫌でした。でもこんなことを気にしていたらダメだと思って、ずっと気にしないようにしてきたんです。でも、ファングさんの言葉を聞いて、今の私は、あの“感触”を別に嫌とも思わなくなってるって気がついたんです。そんな自分が怖くて……そしてこの怖さも、このまま戦っているといずれ消えて無くなっちゃうのかもしれないって考えると、なんだか自分が自分じゃなくなるように思えて、怖いんです」

「……なるほどな」

 

 昨日、綾辻さんと沙織に話した内容を秋月はファングに話した。二人が見せた反応とは異なり、話を聞いたファングは事情を心得たように頷いた。

 

「人間は環境に適応する生き物だ。殴る感触が嫌でも無理矢理にでも殴り続ければ、いずれ慣れる。戦うってのはそういうことだ」

「でも、それじゃあ」

「つまり、良くも悪くも人は変われる」

 

 秋月の言葉を遮って、更にファングは続けた。

 

「ある時自分を振り替えって、自分が他人を傷つけて何も感じなくなっているって気づいた時は、オレだって怖かった」

「……ファングさんも?」

 

 意外に思え、秋月は眼を大きくした。

 

「それに、自分がなりたくない人間になってしまうことを怖がるのも当然だ。でも、自分がどう変わろうと、それで終わるわけじゃない。生きてる限り、絶えず人は変わる……」

 

 ふと、ファングは手に力が入っていたのに気づいた。マスクが無ければ、秋月に顔をしかめていたのを気づかれていただろう。

 

 “感触”を取り戻したのは事実だが、代わりに“変異者となった親友を代償にしてしまったこと”は彼女の心に大きな傷跡として残っていた。

 

 ファングは、ゆっくりと静かに息を吐いて、力を抜くと共に心を落ち着かせる。

 

「たとえ他人を傷つけるのに慣れてしまっても、その“感触”は治せる」

「そんなこと、できるんですか?」

「できるさ。帰る場所さえあればな。これはオレの経験則だ」

 

 ファングの言葉に、秋月は思案顔を浮かべた。

 

「それに、まだお前は“軽症”だ。だからそんなに心配することもないと思うぞ」

「えっ!」

 

 やがて、ファングが模擬剣を片付けようと身をひるがえすと、突然、防護壁の外側で地響きのような音と何かが噴き出したような音が轟いた。

 

「えっ! な、なに?」

《何かしらぁ?》

「なんだ? 訓練終了」

 

 音声コマンドが実行され、防護壁が床の中へ格納されていく。壁が無くなると視界が開け、元の開放的なトレーニングルームに戻った。すると、囲まれた防護壁の外側にいた二人の姿が見えるようになった。

 

「何やってんだ、お前ら?」

「あ、あはははぁ」

「ちょーっと魔法の発動ミスっちゃって」

 

 ファングが訊ねると、変身した綾辻さんと沙織……スプリングとサマーは気まずそうに笑みを浮かべる。ファングが疑問に思ったのも無理はなく、二人の周辺はブールの水を全てぶちまけたのかと思えるほど水浸しになっており、本人達もずぶ濡れになっていた。

 

「ミスったって……あーあぁ、一面水たまりにだらけじゃねぇーか」

 

 気が付けばファングの足元の方にも水が広がってきていた。水を掛けたところでこの部屋の設備に異常が出るわけではないが、この惨状がバレた時に自分が小言を言われるのかと思うとファングは気が重くなった。

 

「はぁぁ」

「「ごめんなさーい!」」

 

 頭を掻きながらため息をつくファングに、二人は揃って頭を下げた。端から見ると、コミカル的でほのぼのとした光景だ。

 

「……ふふっ」

 

 そんな光景に、自然と秋月は頬を緩ませた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 同時刻、トレーニングルームで沙織達がそんなことをしているとは露知らず、俺、水樹優人は一人、ガーディアンズ本部のとあるフロアに来ていた。

 ここには何度か訪れたことがあるため、俺の足取りに迷いはない。だが、その薄暗く入り組んだ廊下を初めて歩いたときは、かなり緊張したことを覚えている。真っ白な壁や床、天井は無機質過ぎて、清潔感を通り越して威圧感さえ感じる。たまに目にできる別の色といえば、部分的に設置された消火栓の赤色や非常口の緑色くらいだろう。

 そんな廊下を右へ左へと曲がりながら進み、やがて俺は奥にあるスライド式の扉の前で足を止める。俺が扉の隅にある機械の穴に人差し指を突っ込むと、静脈認証によって扉のロックが解除された。

 本部に入る時もそうだったが、ここのフロアはそれよりセキュリティが厳重になっている。

 

「お邪魔しまーす」

 

 中に入ると、薬品の匂いが鼻孔をくすぐる。

 何度経験しても嗅ぎ慣れない匂いに、思わず足を止めて顔をしかめていると、俺の背後で開いていた扉が静かに閉まった。

 

 

 

 

 

 

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