青の魔法少女と水のヒーロー(旧:魔法少女と超英雄)   作:ジョン・N

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念のための前書き:
この物語はフィクションです。
実際の人物、団体組織などとは一切関係ありません。





第70話 敵は去って競合が現れる

 

 

 

 

「きゃ!」

 

 魔法を放った瞬間、すぐ隣で生じた大きな音と衝撃に、スプリングは反射的に身を縮めた。それによって射線がズレて、魔法は狙ったところより少し外れた所に着弾した。よって、ビッグスタッグ・ビーストルも地面に伸びたままだ。

 しかしそんなことよりも、綾辻さんはすぐ横に視線を移す。そこには振り払われようとしたビーストルのデカいツノをスネークロッドで受け止めたハイドロード……つまり、俺が立っていた。

 俺はスネークロッドにずっしりと掛かる力になんとか抗っていた。ビーストルの力は凄まじく、まるでスネークロッドがバーベル300キロ……いや、それ以上の重量に感じられた。おかげで支えている腕や脚の筋肉が悲鳴をあげる。俺が足をつけているアスファルトも音を鳴らしながら割れていった。

 

「ぐぬぃぃ! このっ!」

 

 このままずっと力比べをするのは不利と判断した俺は歯を食いしばり、スネークロッドを傾けてビーストルのツノを受け流す。更に体を回転させ、ロッドを振り抜いてビーストルを殴り払った。

 

「むっ!」

 

 振ったロッドは敵の頭部にヒットしたが、硬い装甲のせいでこれと言った手応えはない。しかし、ビーストルは飛んでいき、ある程度は俺達と間合いができたので、とりあえず狙い通りの結果となった。

 飛んでいったビーストルは身体が地面に擦れる前に、羽を広げて宙に浮く。

 

「見事!」

 

 ビーストルは声を張って俺に言う。その眼はまっすぐこちらを見ていた。

 俺はスネークロッドを回して構えを直す。

 

「力、速さ、技術、そしてその観察眼と判断力。実に見事だ。その実力と我らの慢心を認め、この場は退却するとしよう」

「は?」

 

 そのビーストルの言葉に、俺は眉を歪めた。直後、次元の裂け目のようなものがビーストルの背後に現れる。裂け目の先には入った光も逃がさないような暗黒空間が広がっている。

 

「あっ。待って!」

《こらーーっ! 逃げるなぁーー!》

 

 スプリングが慌てて手を伸ばし、いつの間にか彼女のそばに来ていたマーが両手を上げて大声をあげる。

 ビーストルは後退して裂け目の中に入ると、空間に溶けていくように姿を消していった。ビーストルが姿を消すと空間の裂け目は消えてなくなる。よく見ると、一緒にいたビッグスタッグ・ビーストルの姿もなくなっていた。

 俺は警戒と構えを解いて、スネークロッドの先端を地に着ける。

 倒せはしなかってが、とりあえず危機は去った。

 

「こちらハイドロード。ノーライフは撤退し、戦闘は終了。整備班をお願いします」

《こちら本部。了解。至急、向かわせる》

 

 俺の報告と申請に対して通信機から承認の言葉が返ってきた。

 

「逃がしちゃったね」

「そういう時もあるだろ。次に仕留めれば良い」

 

 敵を逃がしたことに、スプリングは肩を落とした。俺は彼女の肩を軽く叩きながら励ました後、周辺に目を向けた。ノーライフのせいで建物や道路は荒れているが、幸いにも死者や負傷者は見当たらない。しかし、破壊された痕跡から察するに、ヤツ等が現れたのは俺達のいた場所とは目と鼻の先。果たして、これは偶然か?

 もしかして、今回の襲撃はいつものような市民の恐怖を煽ることではなく、俺達の足止めだった、とか?

 しかし、そうだとするとビーストルの態度や簡単に撤退したのにも疑問が残るな……。

 

「貴方達、無事?」

 

 俺がビーストル達の目的を考えていると、玲さんが転がってる車をよけたり乗り越えたりして俺達の元にやって来た。

 

「怪我は?」

「はい、大丈夫です」

「俺もです」

 

 俺達の返事に、玲さんは「そう」と小さく安堵する。

 

「お疲れ様。じゃあ早速で悪いけど、この場は整備班に任せて私達は本部に向かいましょ。周辺に人が戻ってきてる。人目が増える前に、さっさと離れた方が良いわ」

 

 玲さんの指示を聞いて遠方へ眼を凝らすと、避難していた市民達が徐々に現場に戻ってきているのが見えた。

 ノーライフがいなくなったせいか、あるいはそれより前に野次馬根性から見に来たのか。中には転がっている車の持ち主もいるのだろうが、理由はどうあれ、その大半はスマホを手にとって荒れた様子を撮影している。

 まだそんなに時間が経っていないにも関わらず、無警戒に戻ってきた市民に、玲さんと同じく俺は少し呆れた。

 

「分かりました。俺達はその辺の陰で変身を解いてきます。スプリング、行こう」

「う、うん。わかった」

「私は車を回してくるわ。ここから西側三つ目の角、3530号線で落ち合いましょう」

 

 俺は頷くと玲さんと別れ、スプリングと共にすぐ近くの裏道に入った。そこは左右をマンションや雑居ビルに囲まれ、日中でも光の当たらない暗い小道だ。幅も車一台分歩かないかだ。その道に人目や監視カメラが無いことを確認した後、俺とスプリングは変身を解く。

 だが変身は解けても、俺のスネークロッドは手に持ったままだ。俺はロッドを肩に乗せて、すぐに玲さんとの合流地点に向かおうとしたが、ここでふと、制服姿に戻った綾辻さんがこっちをじーっと見ていることに気が付いた。

 

「なに?」

「あっ。ううん、何でもない」

 

 俺が声を掛けると、そこで本人も自分が黙って見ていること気づいたようで、綾辻さんは慌てて手を振って否定した。

 

「でも、さっきは助けてくれて、ありがとう」

「気にすんな。仕事だからな」

《ふふっ。沙織ちゃんが知ったら嫉妬しちゃうかもね》

「……それより、さっさと玲さんと合流しよう」

 

 すると突然、ぐぅぅぅっという音が響く。とても小さい音だったが、残念ながら周りが静かだったため、普通よりもよく聴こえた。

 音がした方に俺とマーが目を向けると、そのおなかの音を鳴らした本人である綾辻さんは顔を赤くして俯いた。

 そういえば、今日は昼飯まだだったな。

 

《千春ちゃん、おなか空いたの?》

「うぅぅぅ」

「俺も腹減ったし、昼飯はあとで玲さんに頼んでみよう。それよりも今は合流だ」

「……う、うん」

 

 恥ずかしそうにする綾辻さんを励まして、俺達は玲さんの指示した地点へと走った。

 そして合流した玲さんの車に乗って俺達はガーディアンズ本部に向かうのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 およそ三時間後、俺達の乗った車はガーディアンズ本部の地下駐車場へと入った。

 昼食は高速道路のサービスエリアで買ってもらったパンだった。ここへ来る途中、玲さんに頼んで寄ってもらった。綾辻さんは奢られることに最初は遠慮していたが、「貴女達の修復魔法のおかげで浮いた経費に比べたら微々たるものよ。良いから食べなさい」と玲さんが言うと、礼を言って食べていた。

 運転手の玲さんが食べなかったのも、遠慮した理由のひとつだろう。ガーディアンズのエージェントは三日食事をしなくても問題なく動けるように訓練を受けているので、一食抜いたところでどうってことないのだが、一人だけ食べるのは気が引けたらしい。隣で俺がパンを口にし始めるのを見て、ようやく食べ始めていた。膝の上にいたマーは遠慮なくモグモグ食べていたけど……。

 そんなこんなあって、俺達は長時間の車移動の後、品川のガーディアンズ本部に辿り着いた。玲さんは地下駐車場に入ると適当な空きスペースを見つけて車を止めた。

 こうして車でガーディアンズ本部に来るのは、俺と綾辻さんも初めてではないので、ここからの流れは理解している。

 

「綾辻のゲストパスを取ってくるわ。少し待ってて」

 

 そう言って、玲さんは俺達を車内に残して、一人で出入口の近くにある警備ルームへと向かった。一般人の綾辻さんが本部に入るには、そこでゲストパスを受け取らなければならない。

 しかし、ふと車の前に立った玲さんが何かを見つけて、俺にアイコンタクトを送ってきた。一瞬の仕草だったが、いつもと違う行動だったので俺はすぐに気づくことができた。

 

「ん?」

 

 何だろう思い、俺も玲さんの見ていた方向を見るとそのアイコンタクトの意味を察した。

 玲さんの視線の先にはスーツを着た男が二人。二人とも特に特徴のない風貌をしており、雰囲気はその辺にいるサラリーマンと大して変わりない。強いて言えば、一人は面長な顔、もう一人は堀が深い顔をしている。

 その男達を見て一瞬立ち止まった玲さんだが、すぐに何事も無かったように自然な振る舞いで警備ルームに向かって歩き出した。

 

「綾辻さん、少し頭を下げて」

「えっ?」

 

 俺は座席の陰に隠れるよう綾辻さんに言う。綾辻さんは何を言っているか分からないようであったが、素直に俺と同じく頭を下げた。

 そして俺の視線を追って、車の前を通る男達から身を隠しているのだと綾辻さんは理解した。

 

「あの人たちがどうかしたの?」

「公安だ」

「公安?」

 

 綾辻さんは膝に乗せたマーと一緒に首を傾げた。

 男達は斜向かいに止めてあるシルバーのセダン車に乗り込んだ。

 

「公安って、確か警察の人だよね?」

「いや、あの人たちは調査庁の方」

「えっ?」

「……まぁ、警察の方を知ってるならそっちの理解でも良い」

 

 口をポカンとして瞬きする綾辻を見て、俺は歯がゆくなると共に「普通はそうだよなぁ」と同情した。

 

「ガーディアンズは国の機関じゃないからな。たまに国の人間があーやって調査に来るんだと」

「へぇー。でも、国の人ってことは良い人達なんでしょ? なんで隠れなきゃいけないの?」

 

 綾辻さんは綺麗な眼のまま俺を見る。なんだか最近、彼女のこの眼を向けられるのが苦手になってきた……気がする。

 

「……あーいう人達は総じて勘が良いからな。ガーディアンズに高校生が出入りしてる所なんて見られたら、変な疑いを掛けられる。綾辻さんも、警察とはいえ知らない男に尾行されるようになるのはイヤだろ?」

「それは……まぁ、ちょっと困るけど」

 

 ちょっとだけですか。そうですか。

 

「でも私達が何か悪いことしてるわけじゃないんだし、隠れる必要もないんじゃないの?」

「…………はぁぁ」

 

 俺は顔を逸らし、ため息をついた。

 悪いことはしてないけど、“弱味”ではあるんだよ。

 

「良いか綾辻さん、この際だから言っておくけど」

 

 俺達がそんなやり取りをしている内に、男二人は車のエンジンをかけて駐車場から出て行った。俺は車が出て行ったのを確認して姿勢を正す。

 

「あまり肩書きで人間の善悪を決めない方が良い。いつか痛い目見るぞ?」

「えっ?」

 

 綾辻さんはキョトンとした。

 ここで、戻ってきた玲さんが車の前に立ち、指をクイクイとやって俺達に車から出てくるように合図するのが見えた。

 綾辻さんはまだ何か訊きたそうだったが、俺が車を出たことでこの会話は中断される。俺に続いて綾辻さんも車を出た。

 

「行くわよ」

 

 玲さんはゲストパスを綾辻に渡して身をひるがえす。

 俺と綾辻さんは玲さんの後に続き、ガーディアンズ本部へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

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