青の魔法少女と水のヒーロー(旧:魔法少女と超英雄)   作:ジョン・N

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第81話 メンドーな誤解、沙織はご機嫌ナナメ!

 

 

 

 

 ビーストル達が姿を消した直後、現場は不思議と静寂に包まれたように感じられた。だが、そんな気がしたのも束の間、すぐに倒壊した建物から瓦礫が崩れる音が鳴る。それをきっかけに、半ば茫然としていたサマー達の意識は、目の前の現実へと戻ってきた。

 

「あぁもう! 逃げられた!」

 

 不満の残る結果に、サマーが地面を踏んだ。そんな彼女を一瞥しつつ、俺は警戒を解いた。

 

「こちらハイドロード。状況終了、敵は逃亡しました」

『了解』

 

 俺が報告すると通信先の玲さんの声が返ってくる。

 

『被害は?』

「確認できる範囲でなら怪我人はゼロ。周辺の道路と建物に損壊あり」

『そう。それなら後はいつも通りね』

「ですね。結果だけ見ればですけど」

『……何かあった?』

 

 俺の口ぶりから何か察したのか、玲さんが訊ねてきた。

 

「少し気になることが。詳しくは後で報告します」

『わかった。じゃあ私は一度現場を確認して引き上げるわ』

「了解。俺も適当に撤退します」

 

 通信が切れ、俺はキューティズの三人へ顔を向ける。

 するとちょうど、スプリングがサマーへ向けて声を掛けていた。

 

「サマー、大丈夫だった?」

「……う、うん、まぁね」

 

 スプリングが身を案じるが、サマーは顔を逸らして拗ねたように口を尖らせる。敵を逃したことの悔しさか、あるいは“別の理由”か、いつもの明るい声とは違い、こもったように低い。スプリングは続けて声を掛けようとしたが、なんと言えば良いか分からず、やがて気まずそうに俯いた。

 二人の微妙な空気に、オータムは首を傾げた。

 

《みんなぁ》

《お疲れ様ぁ!》

 

 そんな三人の様子など露知らず、隠れていたニャピー達が宙に浮きながら寄ってきた。

 

「ミー達、壊れた建物とか直してくれる」

《うん、分かったよ》

 

 サマーにお願いされ、ミーが大きく頷いた。ニャピー達は顔を見合わせると、円陣を組むように向かい合って魔力を収束させる。

 

《聖域に住まう精霊王よ、我らニャピーとの契約に従い、災厄の傷跡を癒したまえ。輝け、キューティーパワー!》

 

 ニャピー達の魔法によって、辺りが虹色の光に包まれる。オーロラのような光は壊れた建物や道路を修復していく。光が晴れると、元通りの街並みが広がった。

 相変わらず便利な魔法だ。

 結果はどうあれ、敵はいなくなり街は元通りになった。

 戦いが終わったことを確認して、三人は変身を解く。マジック・クリスタの光に包まれ、スプリングは綾辻さんの姿、サマーは沙織の姿、オータムは秋月の姿へと戻り、それぞれ変身前の制服姿になった。

 

「はぁぁ」

 

 複雑な気持ちを取り繕うように、沙織は背筋を伸ばして大きく息を吐いた。

 

「沙織ちゃん?」

「あっ、ハイドロードさーん!」

 

 無意識か、あるいは故意なのか、綾辻さんの呼びかけを無視して沙織は俺の元へ駆け寄ってきた。そんな沙織の背後で綾辻さんの顔が曇ったのが、俺には見えた。

 

「助けてくれて、ありがとうございました!」

「あぁ、気にするな」

「いやぁ、いつもだったらもっと戦えるんですけど、今日はなんか調子悪くって!」

「そうか。まぁ、そういう時もあるさ」

「あはははぁ。あっでも、ハイドロードさんは流石ですよね。こう、サッと動いて、ダッて戦って、水でシュルルーっと捕まえて、カッコ良かったです!」

「あれはサマーの魔法があってこそだ。こちらとしても助かった」

「いやぁ、あはははぁ!」

 

 沙織は笑顔を向けるが、その表情は明らかに空元気によるもので、仮面のように虚ろに見える。そんな沙織を見て胸をえぐられる思いを秘めつつ、俺は相槌を打った。

 俺達がそんなやり取りをしている横で、秋月は綾辻さんに近づいた。

 

「ねぇ千春、沙織と何かあったの?」

「う、うん。ちょっとね」

《ちょっと? ちょっと、どうしたのさ?》

《あらぁ、気になるわねぇ?》

《まぁまぁ、二人とも》

 

 意味深な返事をする綾辻さんに、ミーとムーが顔を寄せるが、それをマーは遮った。

 

《んぅ?》

 

 そんなやり取りをしている時、ふとムーが違和感をおぼえ、じーっと俺を見る。

 

《どうしたのミー?》

《いやねぇ、今一瞬ハイドロードさんに変な魔力を感じたのだけれどぉ》

《っ!》

 

 ムーの言葉にミーも俺へ目を向け、マーはピクッと反応して冷や汗をかいた。

 そのやり取りを耳にして、俺は彼女達からモーメがいる腕を隠すように体を動かす。正確には俺が動いたのではなく、(モーメ)が勝手に動いたのだが、はたから見たらそう見えただろう。

 

《んーー、気のせいじゃない?》

《……えぇ、多分気のせいねぇ》

 

 そのおかげかは分からないが、ミーとムーはそれ以上、俺の様子を窺うことはなかった。

 

「さて、俺はこの辺で失礼するよ。じゃあな」

「あっはい、ハイドロードさん! またぁ!」

 

 俺が逃げるように現場を去ると、沙織はその後ろ姿へブンブンと大きく手を振った。

 

「……」

 

 そして俺の姿が見えなくなると、沙織は作り笑いを止め、無表情になって手を下ろす。急に彼女の活気がなくなったのは、後ろから見ていた綾辻さんと秋月にもすぐに分かった。

 

「……沙織ちゃん?」

「さ、私達も帰ろうか」

 

 綾辻さんが声を掛けたが、また沙織は無視して歩き出す。秋月が沙織の表情を覗こうと顔を傾けたが、俯く沙織の顔は髪の毛の影に隠れ、見ることはできなかった。

 沙織の雰囲気に、綾辻さん達はただ黙って見つめることしかできなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 翌朝、家を出た俺は、朝の爽やかな空気とは正反対の陰鬱な重いため息を何度もついていた。心なしか制服に袖を通してから回数が増した気がする。

 

「はぁぁ」

 

 この後のことを考えると、嫌でも憂鬱になる。おまけに、また夜に何度も脱走を繰り返すモーメのせいで今日も寝不足だ。そのモーメは蛇の姿になって俺の腕に巻き付いて呑気に寝ている。

 まったく、妬ましい。

 

「あっ!」

「ん?」

 

 そんな浮かない気分で通学路を歩いていると、信号待ちをしている沙織とばったり会った。俺の顔を見た瞬間、沙織は不機嫌そうに顔を逸らした

 俺はできるだけいつも通りを意識して、沙織に声をかける。

 

「おぅ、おはよう」

「……お、おはよう」

「どうした、元気ないじゃん」

「別に。気のせいじゃない?」

 

 気のせいなんかではない。長い付き合いだ。今の沙織がご機嫌斜めなことは例え事情を知らなくても分かる。

 だが、今の俺にはどうにも沙織の機嫌を直すすべがない。

 

 

 昨日の一件。沙織がキューティ・サマーの姿の時に、俺と綾辻さんが二人でいるのを見られた件だが、あの時のサマーのリアクションからして、沙織(サマー)は要らぬ勘違いをしている。

 俺と綾辻さんがあの場に二人で現れたせいで、沙織は俺達が自分に黙って付き合っていたと思って怒っているのだろう。直前に俺がデートと冗談を言って遊ぶのを断ったのもあるかもしれない。

 けど別に、俺と綾辻さんは付き合っていないし、綾辻さんも俺に特別な感情を持ち合わせてるわけじゃない。だから普通であれば、沙織に俺と綾辻さんがその旨を説明して、誤解を解けば良いのだが、しかし今回の場合、事の解決法はそれほど単純には行かない。

 というのも、既知と秘匿の関係が面倒だ。俺は沙織と綾辻さんがキューティズであることを知っているし、綾辻さんは俺がハイドロードであることを知っている。けど当の沙織は、俺がハイドロードだということは知らないし、綾辻さんがそれを既に知っていることも知らない。くわえて、俺と綾辻さんは自分達の事情についてお互いが知っているということを、沙織に知られてはならない。

 まぁ、なんともややこしい三角関係だ。

 この条件で、沙織の誤解を解くように振る舞うのは、相当骨が折れる。

 はてさて、どうすれば良いものやら……。

 

 

 俺は少し間を置き、信号が青になると共に歩みを進めて口を開いた。

 

「なに、テストの結果でおばさんに怒られでもした?」

「違う」

「じゃあ、美佳ちゃんに取っておいたおやつでも食べられたとか?」

「違うってば!」

 

 沙織は語気を強めて否定した。その大きな声にすれ違いのサラリーマンや小学生が吃驚してこっちを見たが、俺はさらに続ける。

 

「違うときの言い方じゃないだろ。何があったんだよ?」

「うるさい! ほっといて!」

 

 そう言うと沙織は早歩きになって俺から離れるように教室へと向かった。

 

「……はぁぁ」

 

 大股で歩いていく沙織の後ろ姿を見ながら、俺は足を止めてため息をつく。

 間違っていると分かっていても言わなければならないのは、なんとも歯がゆいものだ。

 

 

 

 

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