青の魔法少女と水のヒーロー(旧:魔法少女と超英雄)   作:ジョン・N

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第85話 やむを得ない共闘

 

 

 

 ヒューニは肩に乗せた大鎌を下ろす。一見、攻撃の意志がないことを示すような動作だが、実際はいつケルベロスが攻撃してきても反撃できる構えになっている。

 

「ケルベロス、ここで戦うのは時間の無駄よ。大人しくしなさい」

「ガルルルルッ!」

 

 ヒューニの呼びかけを無視して、ケルベロスは『うるさい!』と反抗するように黒い炎を放ってきた。真っ直ぐ放たれる炎の放射に、ヒューニは動揺することなく静かに手をかざす。かざした手の先にはシールドのような黒い影の渦が見えた。

 黒い炎はヒューニが出した渦の中へと消えていく。ケルベロスが炎を放つのを止めると同時に、ヒューニの影の渦も消えた。

 

「やれやれね」

 

 即死の炎を何ともなかったかのように処理すると、ヒューニはわざとらしいため息をついた。これは、ケルベロスなど自分の相手ではないということを、目の前のケルベロスにというよりも、俺にアピールしているようだ。

 

「ハイドロード、あの犬を何とかしたいなら手を貸してあげる」

「なに?」

「聞こえなかったのかしら? この私が手を貸してあげるって言ったの」

 

 ヒューニは俺に背を向けたまま喋りかける。お前が連れて来たんだろうと言いたかったが、解き放った要因は俺にあるので俺はそこには触れず、スネークロッドを地面に突いてゆっくりと立ち上がった。

 

「だけど、条件があるわ」

 

 そう言って、ヒューニは空いている手の人差し指を立てる。条件と聞いて、何となく察しがついたが、俺は大人しく次の言葉を待った。

 

「モーメを返しなさい。そうすれば助けてあげる」

《ヒューニぃ!》

 

 俺の手の中にいるモーメの瞳が輝いた。

 

「……お前なら、あの犬を何とかできるのか?」

「えぇ、もちろん。私ならアイツの攻撃も無力化できるわ。見てなかったのかしら?」

「仮に何とかできたとして、その後はどうする?」

「さぁ。そこまで言う必要ないわね」

 

 俺は顔を上げてヒューニの背中を見る。ヒューニの顔は見えないが、俺には口角が得意げに上がっているように感じた。

 

「それで、どうする?」

 

 上から見下ろされるような態度は気に食わないが、それでも、俺を見殺しにせず協力の意志を見せてくれたのは個人的に嬉しい。

 モーメを逃がすのは癪だが、ここは彼女の提案に乗り、協力してケルベロスを倒すのが得策だろう…………。

 

 

 

 

 ……ま、これが映画や特撮だったらの話だけど。

 

「乗らねぇーよ」

「あらっ」

 

 俺が拒否すると、ヒューニはコテっとバランスを崩した。

 

「なんでよ!」

《なんでだよ!》

 

 ヒューニはモーメと声を揃え、ついにバッとこっちへ振り返った。語気が強まり、目をキ゚ッと吊り上げている。

 

「だから、前にも言ったけど俺達はテロリストと交渉しないんだよ」

「なっ!」

 

 呆気に取られたように口を大きく開けて動きを止める。

 

「貴方バカなの? ここは協力する流れでしょ?」

「そんなん知るか」

《このままだとお前、死んじまうかもしんねぇーんだぞ!》

「お前が逃げようとしなければ、もう少し生存率が上がるんだけどな」

「命を懸けてまでモーメを放さない理由なんて貴方には無いでしょ!」

「タダで返してやる理由もないな」

《このバカ野郎が!》

 

 声を荒げて言ってくる二人に、俺は淡々と返した。

 

「それに、アイツを何とかしたいのはお前も同じなんじゃないのか? アイツを捕獲するのに一人じゃ手間だから俺を利用したいんだろ?」

「うっ!」

 

 俺が問うと、眉間に皺を寄せたヒューニの顔が引きつった。

 

「別に俺を利用しようが、ついでに殺そうが勝手にすればいい。けど、コイツを解放することを条件に、俺からお前に協力を頼むことはないと思え」

「うぐぐっ!」

「それと……」

 

 俺は首を傾けて、ヒューニの背後に視線をやった。

 

「戦闘中は敵に背を向けるのはやめた方が良いぞ」

「えっ!」

 

 ヒューニは俺の視線を追って、後ろを振り向いた。

 

「ガルルルルッ!」

 

 視線の先では、ケルベロスが唸りながら、また口から黒い靄を漂わせている。3度目とあって、なんとなく攻撃のタイミングも掴めてきたが、もうすでに放射寸前だ。

 

「あっ、マズっ!」

 

 ヒューニが目を見開き、驚きの声をこぼす。

 しかし突如、緑色の円盤のようなものが物凄いスピードで飛んできた。まるで隕石のように迫りくるそれは、カーブを描いて狙ったようにケルベロスの体へ直撃した。その衝撃によって鈍く大きな音が響く。

 

「ガッ!」

 

 通常の生物なら首が飛んでもおかしくない威力とスピードだが、ケルベロスは顔をしかめて怯むだけだった。しかし、おかげで口の中にあった黒い炎は放射されることなく、周辺に広がって消失した。

 

「なに?」

 

 ケルベロスとヒューニが揃って、飛んできた円盤に意識を向ける。円盤のように見えたそれは、回転して飛んでいる亀形のライドドローン“風神”だった。

 ライドドローンは回転飛行を止め、頭の部分をケルベロスに向けて浮遊する。

 

「ガルルルルッ!」

 

 ケルベロスは煩わしそうに奥歯を噛んで唸ると、飛んでいるライドドローンに向かって黒い火を噴いた。

 濁流のような黒い炎が見下ろすように飛んでいるライドドローンを飲み込む。だが炎が通った後に現れたライドドローンは、機能を停止して落下することもなく、その装甲にも煤ひとつ突いていなかった。

 ケルベロスは自分の炎をものともしないライドドローンを腹立たしそうに睨みつけた。

 当然ドローンが威嚇された所で怯えるわけもないが、その反応に答えるように亀形の頭部がケルベロスへ向く。

 

「眩しッ!」

 

 すると、ドローンの亀の目が強い閃光を放った。ストロボのようなフラッシュに、ヒューニは手を上げて顔を背ける。

 

「キュゥゥゥ!」

 

 ケルベロスもガラスを引っ掻いたような悲鳴をあげて顔を伏せた。日中とはいえ俺やヒューニの角度でも軽く眼がチカチカするくらいには眩しい閃光だ。直視していたケルベロスの眼には相当堪えるだろう。

 ケルベロスは前足で目を押さえ、伏せた状態で動かなくなった。

 ライドドローンは頭をこちらに向け、こっちに近づいて来た。

 

『どうもヒューニ』

 

 ライドドローンに備え付けられているらしい通信機から松風さんの声が聞こえたと思ったら、甲羅の部分から微量な光が照射され、緑色の作務衣を着た松風さんのホログラムが現れた。

 

《そんな機能まであるのかよ、その亀》

 

 目の前のホログラムを見て、モーメが俺の気持ちを代弁してくれた。

 

『お初にお目にかかるの、ヒューニとやら。ワシはマスターワイズマンと呼ばれておる者じゃ』

「チッ、風見孝守!」

『ほっほっほ、やはり知っておったか』

 

 ヒューニの舌打ちを、松風さんは笑顔で返す。

 

『さて、ハイドロード。だいぶ苦戦しておるようじゃのう』

「えぇまぁ、片手がうまく動かせなくてねぇ」

『ソイツは災難じゃな』

 

 ホログラムの松風さんがモーメを掴んでいる俺の片手を一瞥し、流れるようにケルベロスへ目を向ける。

 

『先ほどガーディアンズの危険生物対応部隊を出動させた。もうすぐでこっちに着くじゃろう。それまで持ちこたえてくれ』

 

 俺は松風さんの横顔を見上げる。俺のマスクの通信機を介さずに言っているあたり、これは()()()()()()()()()()()()()らしい。

 

「……もうすぐって、どれくらいです?」

『あと二十分、いや十五分くらいかの』

「通常武器じゃ、ハデスやノーライフは倒せませんよ?」

『なに、まったく効果がないというわけではあるまい。それに殺せずとも捕獲はできるじゃろうて』

「部隊の装備は?」

『麻酔銃と粘着弾、特殊合金でできた檻、そして念のため通常装備に加え30口径機関銃と携帯誘導弾2発じゃ。可能であれば殺処分するように指示しておる』

「それはなんとも、デカい犬相手に随分と重装備なことで……」

 

 いま松風さんの言ったことが本当かどうか、かなり怪しいものだ。俺が思うに八二でプラフだろうが、その真偽を確認するすべはない。

 

「……チッ!」

 

 それは、ヒューニも同様だ。俺が訊き出した情報に、彼女は舌打ちする。

 どういう理由かは知らないが、どうしても彼女は目の前の犬をどこかへ連れていきたいらしい。それを見抜いて、松風さんはヒューニがこちらの思惑通り動くよう、けしかけているようだ。

 そんな松風さんの考えを察している俺は、ヒューニの様子を横目で見つつ彼女の前に立った。足を動かす度に血が滴り、激痛が走る。

 

「……ッ!」

 

 あまりの痛みに、うめき声が出そうになったが、俺は奥歯を噛みしめて飲み込んだ。スネークロッドを地面につきながら歩けてはいるが、俺が通った所には血の跡が残っていた。

 

「それじゃあ、部隊が来るまで時間稼ぎしますよ」

『どうした? 妙に動きが悪いのぅ』

 

 俺ののっそりした動きを見て松風さんが訊ねた。

 

「いや、さっきヤツに噛まれまして」

『なに、大丈夫か?』

「えぇ。血は出てますが、まだなんとかやれますよ」 

『いや、そうじゃなくて、ほら狂犬病とか』

「…………」

 

 松風さんの言葉に、一瞬にして血の気が引いた。

 

『……あとで空峰のヤツに連絡して、検査室を予約しとこうかの』

「お願いします」

 

 割と大きな不安をなんとか頭の隅へとやって、俺はケルベロスへ向き直りスネークロッドを構えた。

 

「……んーー、アァもう!」

 

 すると俺の背後で、ヒューニがイラついた声を出しながら強く足踏みをした。

 

「モーメ! ムカつくけど、しばらく大人しくしてなさい!」

《えっ!》

「ムカつくけど、貴方がハイドロードのトコにいるって分かったし、今回は預けることにするわ。ムカつくけど」

「ムカつく言い過ぎだろ」

 

 しかめっ面のヒューニは俺の隣に立って大鎌を構える。

 

《チッ、しょうがねぇーな》

 

 モーメは蛇の姿に変身して俺の腕に巻き付いた。ようやく両手が使えるようになった俺は、スネークロッドを持ち直してケルベロスと対峙する。

 

「グルルルルッ、ガゥ!」

 

 俺とヒューニが並び立って身構えたと同時に、目を眩ませていたケルベロスの様子も元に戻った。瞼をパチパチとさせ、すぐに俺達の姿を目で捉える。そして眼に怒気を宿らせ、頭部にある耳や尻尾は吊り上がっている。息づかいも荒々しい。

 先ほどよりも強いプレッシャーを感じるようになった。

 

「仕方なく協力してあげるけど、足引っ張んないでよ」

「無茶言うな」

 

 口から黒い靄を出し始めたケルベロスを見ながら、俺とヒューニはそれぞれの得物を持って身構える。

 その際、スネークロッドの先端の蛇の頭と大鎌の刃がキラリと光を反射させていた。

 

 

 

 

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