今回はゼファー・コールレイン視点で殺されるまでなので短いですが、次回から遡る形で書きますのでよろしくお願いいたします。
あたり一面に広がる裁剣天秤所属隊員の死体、煌々と燃え盛る炎の中、ゼファーは最後の相手と切り結ぶ。
互いに言葉はない。説得ができる範囲を通り越したのはお互い理解の内であり、互いに交わすのは剣戟のみである。
方や裁剣天秤副隊長にして離反者たるゼファー・コールレイン元少佐。
もう片方は裁剣天秤第1小隊長、リュウセイ・コノエ少佐。
双方とも死力を尽くして切り結んでいるが、地力の差は如何ともし難く、趨勢はゼファーに傾きつつあった。
剣戟の合間、勝ち目は薄いと悟ったのか、リュウセイは恨み言をつぶやいていく。
「ゼファー。俺はな、お前に憧れてたんだ」
純粋な、それ故残酷な言葉が、ゼファーの心を抉る。
「皆だってそうだ。お前のようになりたい。その一心で努力して、頑張ってきたんだよ」
やめろ、そんな言葉は聞きたくないとばかりに、ゼファーの攻撃は激しさを増すが、死を覚悟したのかリュウセイの言葉は止まらなかった。
「それで、たった一人の少女のために裁剣天秤裏切って皆殺しにしますとは、ずいぶんと立派じゃないか。まるでおとぎ話の英雄みたいだ」
「家族を殺した俺なんかとは違うんだろうな、お前は」
戦いの趨勢は決した、あとはリュウセイの刀を弾いて心臓に増幅振を叩き込めば決着だが、二人は延々と切り結んでいる。
「親友だと思ってたんだ。憧れた男と轡を並べられるなんて光栄だったし、お前と友になれた事は俺の人生の誇りだったんだ。なのに、どうして!」
リュウセイは目に涙さえ浮かべながら、剣戟の音に負けずに叫ぶ。
「どうして何も言わないんだよ! 友達だっただろ? どうしてどいつもこいつも何も言わずに行動するんだ。言ってくれてもいいじゃないか、俺だってつらかったんだって、お前らの期待は重荷でしかなかったんだって。酒飲んで馬鹿騒ぎしたときみたいに言えばいいじゃないか! なのに、なのに」
体力の限界か、リュウセイの剣技は精細を欠いていく。
「この、大馬鹿野郎が!」
「ッ!」
これ以上、友の慟哭は聞いて居たくないと、心臓に刃を突き立てる。これで終わりだ。もう終わったんだと、あったかもしれない共に離反するという選択肢に蓋をして、このまま去ってしまおうと、ゼファーはリュウセイに背を向ける。
このまま追ってくる奴らも皆殺しにして、現実なんかには蓋をしてしまおう。
「
瞬間、振り向いたゼファーに火薬の爆裂音が鳴り響く。
仲間として、
衝撃増幅能力。それがリュウセイの星辰光である。
発生した衝撃に干渉してそれを増幅するという、ごく単純な星辰光。単純故汎用性に富み、衝撃という属性がありふれている戦場にはもってこいの星光である。
しかし、この攻撃はリュウセイが発砲した物ではない。その程度の攻撃は星辰奏者同士の戦闘では脅威足りえない。間違いなくリュウセイが得手とする剣技によるものだ。
ムラサメ崩れの子という、新西暦において剣術を知る者であれば一度は耳にする一族の末裔。崩れとはいえその技を継いでいる星辰奏者である。当然、星辰光と剣術の融合を行っていた。
そう、この攻撃はリュウセイが
狂っている、頭がおかしい。自爆技なんて何の役に立つのかとその技の内容を聞いたときはゼファーはリュウセイの任務への献身に畏敬の念を払っただけだったが、奇しくも仲間としての記憶が、裏切り者になった今になって役に立った。
攻撃をすんでの所で左に反らし、左脇の間を通過させることで防ごうとする。
「ガッ!」
しかし、成人男性が超高速で飛翔してくるという狂った攻撃は当然それだけで防げるはずもない。その証拠にゼファーの左胸の肉は深々と抉れ、傷口から大量の血が噴き出す。少しズレれば心臓を射抜かれていたのは間違いなかった。
だがそれだけだった、決死の攻撃は反らされ、推進力の代償としてリュウセイの体は砕け散り、肉塊となって四散した。
それがゼファー・コールレインにとっての、リュウセイ・コノエの最後であった。