ロクでなしとチート主人公   作:graphite

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不安定な戦車 

 

 

 

俺は三人少女が戯れるのを少しの間見届けた後に宿に戻った。と言っても帰ってすぐ寝ることはせず、先生やルミアたちが帰ってくることを確認のために屋上に腰かけ月を見上げていた。

 

 

(にしてもアイツ等はなんでルミアをあそこまで執拗に狙うんだ?)

 

俺はそれが当初から不思議で仕方ない。確かにルミアは元王女であるため非常に高度な政治カードになるかもしれないがそれにしたってアイツ等がそこまで必死に動くほどのものでもないと思う。なら自ずと異能関係かとは思うがそれにしたっておかしい。確かに異能は珍しいがいないわけではない。俺の異能はどの書籍にも記述されてないものだが、ルミアの感応増幅はそれなりにいる。それだけ見れば狙われるなら俺であるべきだ。

 

(ルミアには何か別のものがあるのか?)

 

そうなるとルミアには何か別の〝特別な何か〟があると考えるのが自然だ。だが一体それはなんだ?

 

俺はやつらの狙いを考察するがいくつかの推論が出てもそれを裏付けるだけのものがないので無駄かと思っているとしたから話声が聞こえた。自分としたことが考えに集中しすぎたなと思うとすぐに下を覗くとそこではリィエルと先生が何やら言い合いをしていた。俺は止めに入ろうと思い立ちあがるが少し遅くて.............

 

 

「うるさい!うるさい!うるさい!みんな......嫌い..............大っ嫌い!!」

 

リィエルが珍しく大きな声を上げそう言ってどこかに走り去っていった。俺はその場に立ち尽くす先生の隣に降りて話しかける。

 

「何言ったんですか先生?リィエルがあそこまでになるのは相当じゃないですか?」

 

「..........ナハト、か............あいつに俺をもう兄の代わりにするな、お前の意志で自分の幸せのために生きろって言ったらこうなっちまった」

 

「............先生は間違ったことは言ってないですよ。ただもう少し言い方はあったと思います。確かにリィエルは先生に依存してますがそれだけじゃないと思いますよ」

 

リィエルは先生に依存している。いや、もっとひどくてそれは執着ともいえるかもしれない。でも確かなのはリィエルは何もそれだけじゃないということだ。心のどこか深くで依存ではなくグレン先生だから大切だという思いがあると俺は思っている。

 

「.............そうだな。明日もう一回話してみるとするかね」

 

そう言って俺たちは今はリィエルを一人にしてあげたほうがいいと思い部屋に戻ることにした。

 

 

 

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次の日、研究所見学の日のため俺たちは舗装されていない山道を歩いていた。

 

白金魔術研究所は上質できれいな水が大量に必要なため森林の深くにある。そのため歩きにくい道を歩いて行かないといけないので体力のない女子生徒や男子生徒の一部は肩で息をしており、とてもしんどそうにしていた。なので軍属で現役の俺や田舎暮らしをしていたカッシュなどが生徒たちの荷物を手分けして持ったりしていた。

 

「二人とも大丈夫か?荷物預かろうか?」

 

俺はそうルミアとシスティーナに声をかける。

 

「えっと...........ごめん、頼めるかなナハト君」

 

「問題ないよ。システィーナは大丈夫か?」

 

「えぇ、私は大丈夫。無理そうならお願いするわね」

 

「了解。無理するなよ?」

 

俺はそう言ってルミアから預かった荷物を肩にかける。

 

「でもナハト君凄いね?やっぱり鍛えてるから?」

 

「まぁ、それなりには鍛えてるよ。俺は魔術よりも剣のほうが得意だしね」

 

俺は今でこそ魔術併用型の近接戦闘スタイルだが最初はそうはいかなかった。軍に入って初期のほうは魔術の技量はレベルが低く、基本剣での近接戦闘をしていた。大体軍に入った初期は姉さんと組んでの任務ばかりだったので俺が前に出て姉さんがそれを支援と言う形で魔術を使う機会自体が少なかった。それから少しして魔術のほうも徐々に腕が上がって一人での任務や別の人との任務も増えて言った感じだ。

 

「貴方魔術もできるじゃない............私、貴方見てると自信なくすわよ.......」

 

「そういうけど才能ならシスティーナのほうが俺より数段上だよ?システィーナは鍛えればそれこそ俺なんか魔術戦じゃかなわないレベルになれると思うよ?」

 

これは本当だ。彼女の才能は俺が見てきた魔術師の中でもトップクラスの原石だ。鍛えれば間違いなく大きく化ける。俺の中にはその予感があった。もしかしたら俺の使える眷属秘術の風版を開発できるかもしれないとすら思う。

 

「えっ!?そうなのナハト君?やっぱりすごいねシスティ!」

 

「な、なに言ってるのよナハト!?わ、私が貴方よりも才能があるなんて......」

 

「本当だぞ?冗談抜きでシスティーナは十分俺以上のものを持ってるよ」

 

俺がシスティーナより上であれるのは特殊な魔力特性による固有魔術に眷属秘術と実戦経験の差だ。通常の魔術戦なら俺を越えることなんてシスティーナなら十分に可能だ。

 

「まっ、今は自信ないかもだけど本当だから記憶の片隅にでもおいておいてよ」

 

俺はそう言ってまた辛そうな生徒を見かけたのでそっちに行くと伝え二人から離れていった。

 

「ふふ、よかったねシスティ褒められて?」

 

「うぅ~なんか納得できないけどそうね........」

 

そう話しているとふと思い出したかのようにシスティーナは話し始める。

 

「そいえばすごいと言えばリィエルもじゃない?」

 

そう言って二人は後ろを向くとナハト同様息一つ乱さず、汗もかいてない様子で淡々と歩くリィエルがいた。

 

「でも、リィエルが無事そうでよかった.......朝起きたらいなかったんだもん......」

 

「あんまり勝手なことしちゃだめよ?そんなことばかりしてるとグレン先生みたいな人になっちゃうんだから!」

 

「................」

 

その言葉に無言のリィエルに怪訝そうな表情を浮かべる二人。どうしたのだろうと考えていると..........

 

「......ッ!」

 

リィエルが舗装されていない道に足を取られ体制を崩す。リィエルにしては珍しいミスにルミアは自分が疲れているのも忘れ駆け寄る。だが...........

 

「リィエル!大「触らないで!!」.......えっ、..........り、リィエル?」

 

リィエルが大きな声で差し出したルミアの手を振り払い拒絶する。その様子に前日まで仲良かった三人なだけに周りのクラスメイトも驚いて足を止める。

 

「ち、ちょっと待ってリィエル。何があったのか知らないけど今のは酷くない?ルミアはリィエルを心配して.........」

 

システィーナが諭すようにリィエルにそう言う。だが...........

 

「うるさい........うるさいうるさいうるさい!」

 

「私にかかわらないで!!私は..........あなたたちが大っ嫌い!」

 

「えっ.....................まっ」

 

そう言ってリィエルは先に行ってしまった。システィーナは再度話しかけようとするもルミアに止められる。

 

「システィ待って!今はそっとしてあげよ。ね?」

 

システィーナはそうルミアに言われてリィエルを追いかけるのをやめた。だが二人はあまりにも突然なリィエルの拒絶にどうしてこうなったのだろうと考えていた。そして考えれば考えるほど悪い方向へ行きそうになっていると............

 

「すまねぇな............二人とも」

 

そう言って二人の後ろからグレン先生が声をかけた。その発言にシスティーナはまたあなたが余計なことをと思い、問い詰めよろうとしたがグレン先生の表情を見てとどまった。その時の表情は見たことないぐらい後悔の色をにじみだしていたからだ。

 

「まずは二人に礼が言いたい。.............よくここまでアイツの相手をしてくれて本当にありがとう」

 

そう言いグレン先生は先に行ってしまったリィエルを後悔した目で見ながら続ける。

 

「そしてもう一度..........謝らせてほしい。俺が不用意なことを言ったがためにこうなってしまったことを」

 

「あいつはな、まだ子供なんだよ。特殊すぎる生い立ちがゆえにまだ精神的には本当に小さい子供と同じくらいなんだ..............」

 

そこでいったんグレン先生は区切る。やや言葉を探すようにするがすぐに話始める。

 

「ただな...........できることならあいつに愛想をつかさないでほしい。俺も何とかしてみようと思うが俺だけじゃ無理かもしれない..........だから頼めるか?」

 

そう言ったグレン線背に二人は「「任せてください」」と言った。二人もリィエルと関わった時間は短いが心からリィエルを友人だと思っているからだ。その二人の返事にグレン先生は「ありがとうな」と感謝を伝えた。

 

 

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あれからしばらく歩くと遂に白金魔術研究所にたどり着いた。つかれた生徒たちは日陰に座り込んでだるそうに休んでいると研究所から一人の初老の男が歩いてきた。

 

「ようこそアルザーノ帝国魔術学院の皆様。遠路はるばるご苦労様です。」

 

「私はここの研究所所長を務めさせてもらっていますバークス=ブラウモンです。」

 

俺はこの男を見て何んともまぁ薄い仮面だと思った。いかにも好々爺としているが、俺からしてみれば隠しきれない薄汚い本性が見えるので吐き気すら催すように感じた。

 

(バークス=ブラウモン.........こいつは間違いなく黒だな........それに....)

 

バークスは先生とあいさつを終えるとちらりとルミアに視線を向けたのを俺は見逃さなかった。その時の視線はとても冷たく、この男は極度の異能嫌いだということがわかった。俺はルミアをさりげなく背にかばうように立ちばれないように睨みを利かす。

 

 

それから二組はバークスに研究所内を説明も受けながら回る。研究所内は確かにすごいもので俺も見入るものがあるが敵地でもあると思い警戒を怠らないようにして回っていた。生徒達も普段見ることのできない神秘的な光景に心奪われているようで当初は文句を言っていた生徒も満足そうにしている。

 

 

そんな中システィーナがつぶやいた『Project:Revive Life』についてグレン先生とバークスの解説や議論なども聞いたりした。確かにあの魔術は白金魔術の分野にあたるだろう。その時、俺のほうを一瞬だけ見たのでこいつは俺のことを知っているうえ『Project:Revive Life』の完成または運用が目的なのかとも思った。

 

 

それからもいろいろと案内され見学は終了した。俺たちは研究所から戻るとまた自由時間となり、みな複数のグループに分かれ行動を始めた。ルミアはその中で一人でいるリィエルに声を掛けるもまた拒絶されてしまった。それに見かねたグレン先生が叱ろうとする。だがリィエルはそれさえも跳ねのけて無言のままその場からどこかに走って行ってしまった。

 

 

「チッ!................あのバカ........すまないルミア」

 

「いえ気にしないでください先生。それよりもリィエルのこと追いかけてあげてください」

 

そうルミアはグレン先生に頼んだ。そしてそのままルミアは俺に向き直り........

 

「ナハト君も先生を手伝ってあげて。先生も一人じゃ大変だと思うから。いいかな?」

 

俺と先生はそれを引き受け手分けして探すことになった。

 

 

 

 

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厄介なことになった..................

 

俺は先生と手分けしてリィエルの捜索をしているわけだが森ではアルベルトさんがあのエレノア=シャーレットと交戦開始し、グレン先生もリィエルの発見に成功し今リィエルに何とか説得しようとしている。だがその近くに一人、天の智慧研究会のものがいる。

 

(............アルベルトさんなら大丈夫。なら、相手の実力がわからないうえ不安定なリィエルを抱えている先生のほうに向かうべきだな)

 

俺はアルベルトさんなら問題ないと判断し、すぐさまリィエルと先生がいる海に向かい走り出す。幸いそれほど距離もないから【疾風脚】でいけば数分とかからないだろう。なんにせよエレノア=シャーレットが動き出した以上ことが進んでいる証拠だ。

 

そして俺はすぐにたどり着く。だが......................

 

(なんでリィエルが剣を先生に構え.................まさか!?)

 

たどり着くと臨戦態勢に入って愚者のアルカナを掲げる先生。そして後ろには今にも剣を先生に向け振るおうとしているリィエルがいた。瞬時に俺はリィエルが理由までは分からないが寝返ったのだということを悟る。

 

(チッ!先生が気づいてない!クッソ!!間に合えぇぇ!)

 

「行くぞリィエル俺と....「先生!!」…は?」

 

俺が咄嗟に【疾風脚】で一気に距離を詰め先生を突き飛ばす。幸い【愚者の世界】の有効圏外だったから先生がさされる前に間に合う。だが、俺は自身は別だ。俺はギリギリのため急所を避けるのが限界でどうにか鳩尾に大剣がぶっ刺さるのは回避できたが...........

 

「グっ!?」

 

俺はリィエルの大剣により右胸を貫かれる。俺は激痛に耐えながらリィエルに蹴りを入れ距離を取らせる。右側の肺が貫かれ呼吸が苦しいうえあまりの激痛に気を失いそうだ。

 

「ナハト!?」

 

先生はすぐに何が起きたか理解し、俺の名を大きな声で叫ぶ。

 

「先生…ゴッフ。ここは一旦引きますよ」

 

俺は血を吐きながらそれだけ言うと閃光石を取り出し目くらましをする。先生は一応俺の意図を理解してくれたようで俺を抱え近くの茂みにすぐさま身をひそめる。そのまま俺たちは茂みからどこかに...........いや、十中八九ルミアのもとに向かっていった。先生はすぐにリィエルたちが離れていくのを確認すると.....

 

「おい!ナハト大丈夫か今すぐ治療を........」

 

先生は【愚者の世界】で治癒魔術が使えないことに慌てながらもとにかく止血の用意をしようとするだが........

 

「俺のことは....いいですから。...今すぐに宿に行きます..........ルミアが危ない..........」

 

俺はこの場においての次善の選択としてグレン先生をルミアのもとに向かわせようと考えそう伝える。

 

「馬鹿野郎!!今お前を放置したらお前が死ぬぞ!!」

 

「急所は外しました.........すぐに動けます。」

 

「つべこべうるせぇ!!ならお前を抱えていく!!気をしっかり持てよ!!」

 

「そんなことしたら遅く...............は~、わかりました..........頼みます」

 

 

俺はこのままじゃそれこそ時間の無駄だと思い先生にそう頼んで運んでもらうことにした。傷は深いがある程度治療すれば痛みを我慢すれば問題なく戦えるだろうと冷静に考える。自身の判断が甘かったことを内省するが今は反省よりも次の行動が重要だ。

 

俺は先生の背中で激痛に苛まれながらすぐさま次にとるべきことを考えることに集中するのであった。

 

 





今回はここまでです。次回は本来ならキスが入りますがそれはなしにする予定です。理由は二つあり、ここでシスティーナがグレンにせよナハトにせよキスしてはどちらかのヒロイン確定になってしまう気がするからです。もう少しそれは先延ばししたいので今回はその予定です。そしてこれが一番の理由なのですが、ナハトのファーストの相手はルミアであるべきと思っているのも大きいです。

今回もここまで読んでくださりありがとうございました!

再計:システィーナのヒロイン追加について

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