学園の聖天使ルミアがナハトとペアになった後日。二人はコンペに備えて練習するために中庭に訪れていた。
「ねぇ、ナハト。大丈夫だとは思うけど今回のダンスはシルフ・ワルツよ?凄く自信一杯なみたいだけど...........」
どこか歯切れの悪さを感じるシスティーナがナハトに詰め寄る。システィーナが言うシルフ・ワルツはとある遊牧民族の伝統的な戦舞踏を元にされたものでそれを宮廷用に優雅さが出るよう改変を加えたものなのだが一般的にこれはかなり難易度高いダンスなのだ。
「あ~それならぶっちゃけなんも問題ないよ?昔しこたま教え込まれたから............」
「え、えっと.........そうなの?」
突然ナハトが遠い目をするのでシスティーナは呆気に取られていた
「あぁ、セラねぇにそれはもう振り回されたよ...............」
「セラ先生に?」
ルミアは小鳥のように首をかしげる
「そ、元々シルフ・ワルツってのはセラねぇのところの部族の古来より伝えてきた戦舞踏でな。それで偶々舞踏会に潜入する任務があってその時にグレン先生と当時これでもかと言うほどに教え込まれたから学生レベルならまず負けない自信はあるぞ」
あの時の練習は本当に苦しかった。グレン先生と変わりばんこでひたすらに振り回され気持ち悪くなるまで酔うことの繰り返す生き地獄を味わったあの練習は過去一キツイ修練と言えるだろう。そもそもセラねぇの三半規管が異常だと俺は思う。
「そっかセラ先生は南原出身の方だったんだ」
「あぁ、だから原点から仕込まれた俺や先生からすればシルフ・ワルツなら大して問題ない。だから必要なのは俺とルミアの呼吸を合わせることだけだな」
「そうなんだ..........私ナハト君の足引っ張らないように頑張るね?」
「まぁ、正直俺とルミアならそれほど息が合わないってことはないと思うから気楽にやろう。どうせなら楽しくやろうぜ?」
昨日はルミアも戸惑いがあったがなんだかんだで笑みを浮かべてナハトと頑張ろうとしている姿を見ているシスティーナは少し複雑な気分だった。
そもそもシスティーナは本当にナハトのダンスの技量を心配していたわけではなかった。ナハトの戦闘をそばで見てきたシスティーナからすれば彼の踊るように剣を振るう姿を見ればダンスができないわけがないのは分かっていた。
ではなぜついてきたのか?それはシスティーナもわからなかった。ただ何故かルミアとナハトの様子を見てると胸がざわつく気がしてならなく気がつけばついてきていたのだった
(むぅ~何よ私だってダンスはそれなりに.............って私はなんで張り合おうとして.......)
内心で葛藤するシスティーナによく知る一人の小柄な少女の姿を思い浮かべる。
(........アレ?彼女ならもしかして.............そうよ!その手があったわ!)
システィーナは何やら思いつくと二人に声を掛けてある人物を探しに駆け出して行った。
まさか、この時点で彼女たちが最大の障壁になるとはナハトは思いもしてなかった
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その深夜、グレンとナハトは夜の街を歩いていた。理由は単純で作戦についての概要を伝えるためにイヴが二人を呼び出し、その集合地に向かうためであるからだ。
「なぁ、ナハト」
「?どうしたんですか先生?そんな申し訳なそうにして」
グレンが声に申し訳なさを含ませて話を切り出し始める
「あの時.......イヴが俺に作戦を言いに来た時お前に酷いこと言ってすまんかった。俺もなんだ............お前と似たような境遇とまで言わんがセリカと..........まぁ、白犬に置き換えてみればお前と同じことを選んでたと思う」
グレンにとって唯一と言える家族であるセリカ、かけがえのないセラと言う存在はそれぞれナハトではイヴとルミアに置き換えられる。それを思えば自分はなんてひどいことを自分よりも年下の子供相手に言ったのだろうとアルベルトに気づかされてから後悔していた。
「あははは、先生そんなこと気にしてたんですか?」
「笑うな!てかそんなことなんて.........」
「いいんです。先生が言ったのは間違いじゃない。俺は二人のためだけに多くの命を賭けるんです。それを外道と言わずなんて言いますか?」
「だが........ッ!」
「それにですよ先生............俺は微塵も失敗するつもりはないです。完璧に..........いえ、それ以上の結果で教え込んでやりますよ」
「お前..........」
そう言うナハトからは一切の圧力は感じ取れなかった。だがそれはまるで深く深海の如く研ぎ澄まされた怒りのようでグレンは背筋が凍るような感覚を抱く
「...............さっ、早くいきましょう。姉さんを待たせたら怒られますよ?」
ナハトが一瞬で普段の状態になったのをグレンが感じ取る。その一瞬の切り替えに年下の子供に恐怖すら感じるのであった。
グレンたちがしばらく歩いていくと倉庫街についた。二人は指定された倉庫内を進むと複数の気配を感じ取る。そこにいた者たちとは..............
「よう!グレ坊、ナー坊!」
そんな陽気な声で迎え入れたのは好々爺とした大柄の男だった。大柄の筋骨隆々の男は老人でありながらその顔からは若々しい精気を感じさせる。
「ひっさしぶりじゃのう!ナー坊はこの間ぶりじゃが...........グレ坊は元気にしとったかの?ん?」
「この前ぶりですねバーナードさん」
「..........じじぃ......《隠者》のバーナードアンタは相変わらずそうだな......」
グレンは気まずそうに対応するそのものは特務分室執行官No,9《隠者》のバーナード=ジェスター。特務分室古参の魔導士であり三流のグレンを鍛え上げたものでありナハトの祖父のような存在だ。
「この前ぶりだねナハト。それと、ご健勝のようで何よりですグレン先輩」
木箱に座り薄く笑いかける少年は大人びているがその実ナハトとほぼ同世代である。そしてその少年は執行官No,5《法皇》のクリストフ=フラウル。結界系魔術では帝国内で並ぶ者はいないとされるほどでナハトともよく組むことは多く二人でかなり大暴れして裏の世界では名を轟かせたりしていた
「クリストフ...........お前も来てたのか」
「この間ぶりクリストフ。そっちは元気にしてたか?」
「うん、それなりにやってるよ。入院してたって聞いたけど体のほうは大丈夫?」
「もう大丈夫だぜ。作戦には支障はないさ」
2人とも同世代なだけあってかなり仲が良くこうしてフランクに語り合えるほどの間柄だった。
「........グレン遅い」
「フン........」
床に座るはじゃじゃ馬な《戦車》のリィエル。そして不機嫌そうに鼻を鳴らすは特務分室のエースが一人《星》のアルベルト。誰をとってもグレンとは浅からぬ縁のある者たちばかりでグレンは先程と同様に気まずくてならなかった。
「............先輩、今回の一件本当にすいません。ナハトも不快な思いをさせてすまない」
「あぁ、すまん、グレ坊、ナー坊。あんな無茶な作戦が上から降りてくるとはなんて.........わしらも信じられんくらいじゃ。ホント、軍上層部は何を考えているのやら.........」
2人は話し終えると申し訳なさそうに二人に謝る
「謝ることないですよ。俺も軍の人間なんですよ?なら作戦は遂行はしなくてはいけない。不快だろうとやり遂げるしかないんです」
「ナハト...........でも流石に先輩は別ですよ。もう軍を退役しているのに特例条項で引っ張り出すなんて.......」
「じゃが、今は人手不足すぎてのぅ.............グレ坊すまんが儂らに今回ばかりは手を貸してくれんかの?」
「先生俺からも............軍の問題にまた巻き込んでしまってすいません。でもこうなった以上は先生の力もきっと必要になると思います。都合がいいですがどうかお願いします」
ナハトも今度はバーナードたちのほうに回りグレンに頭を下げる
「........あんたらは.....勝手に軍を抜けた俺を、怒ってないのか?」
グレンは驚いた表情を浮かべるとそれだけ尋ねる
「.........まぁ、そのことに関してはしっかりアル坊が儂らの分までしっかり落とし前付けてくれたようだしのう?」
バーナードはにやりと笑いながら自分の顎を拳でトントンと叩いていた
「強いて言わせてもらうなら.......確かに辛いことがあって、まだ若いお前さんには仕方ないこともあったじゃろうが............一人で抱えてつぶれる前に、一言愚痴ってほしかったわい。それは皆が思ってるさ」
「他の特務分室のメンバーはいまだに先輩のことを悪く言う人がいます。正直に言えば、僕も先輩に対して物申したいことが、ないわけではありません。ですが先輩は.........僕らと一緒に数々の修羅場を潜り続けた仲間ですから。誰かを守るため、誰よりも身を粉にしていた........あの先輩を信じています」
「俺も二人とほとんど同じです。先生はずっと俺が尊敬してきたままですよ。軍にいたときも今もそれは同じです。俺はこの中でも若くまだ拙いから先生やみんなの背中を誰よりも見てきました。そんな俺が言うんですからこの場でそのことを責める人はいませんよ」
「お前ら............そう、か..........その........なんだ.......本当にすまなかった」
グレンは何も言わず去った最低なことをしたことに改めて罪悪感を感じた。あんなことがあっても自分のことを仲間だと尊敬していると言ってくれる三人の言葉をかみしめてると...........
「旧友を温めるのはそのくらいにして本題に入りましょうか」
奥のほうに座って一部始終を見ていたイヴがそう声を掛ける
「まず今回の任務概要の確認から。端的に言えば、今回の任務内容は、明後日に行われるアルザーノ帝国魔術学院の社交舞踏会に乗じて、王女の暗殺を狙う敵組織の企てを阻止し、逆に連中の首謀者を生け捕りにする――以上よ」
ナハトは無茶な作戦だと思う。そして同時にいくら何でもらしくないとも思う。確かにこれはあの家がゴリ押そうとした作戦かもしれないが何かが欠けている気がした。
「待て、相手がなりふり構わず自爆テロなり特攻なりしたらどうする?流石に守り切れんだろ」
グレンが食い下がる。だがその可能性はないと言える。
「先生、たぶん今回に限ってそういうことはしてこないと思います。今回の敵組織は一部の急進派が出張ってくるからです」
「えぇ、ナハトの言う通りよ。今回は一部の急進派の先走り.........下手人が明らかになってしまう手段は選べば急進派全体が組織の方針を無視したことになり粛清されるでしょうから今回は暗殺にこだわってくると確信できるわ」
だからこそのこの作戦。遠慮なく学院を釣り堀にして無関係な人々を手を出せないことをいい事に作戦ができるということだが敵だってそれは承知のはず。一体、敵はどんな手段を用いるのだろうか............
「敵戦力数と情報は?」
「私が入手した情報では、4人よ。
数的優位は明らかに上。更にこちらが今回投入する戦力は帝国トップクラスと言っても過言ではない。
「続けるけど今回最も警戒しなくてはいけないのは当然
「マジかいな...........あの《魔の右手》相手とは........やれやれ、厄介じゃのう」
「確かに今回のケースで暗殺となれば出張るだろうと思ってましたけど厄介ですね.........」
バーナードやナハトそれぞれがその相手に同じように厄介だという印象を抱く。そしてナハトが今回のケースで出張ってくると予想していた理由はその特徴的な暗殺スタイルにある。
「そう、《魔の右手》が得意とするのは多人数が集まる場での暗殺よ。誰にも気づかれず何度も繰り返してきたうえ殺害方法もバラバラ。そして一番厄介なのはどうして誰も気づかずに暗殺できているかわからないことだわ」
イヴが如何に相手が厄介な存在化を確かめるように説明する。こちらの戦力は過剰ともいえるかもしれない。だが、得体のしれない相手に不安が残る。
だが、ナハトやイヴには暗殺に対して絶対的なカードがあるからかイヴは自信ありげに続ける
「
本当に可能なのかと疑問を感じる作戦だが、それができることをグレンやアルベルト達、そして何よりナハトが可能であることを知っている。
イヴがこの魔術で幾度も暗殺を防いできた事実とナハトも同じことができるからこそ勝算のある作戦だと理解する。だがナハトには先程からどこかかけているこの情報に不安が募る
(まるで姉さんの独り相撲みたいな作戦...........どう考えてもイグナイト家の功績優先の作戦指示に思える。それになぜ俺にも万が一の備えとして【イーラの炎】を伏せさせないんだ?)
【イーラの炎】の展開して感知することに意識を割く必要があるのは事実でもナハトにだってイヴにも負けないくらいの技量はあるためダンスしながらでも索敵に限れば十分に可能だ。ナハトは当日万全を期すためのある魔術の準備をしているが、その指示が出ることを予想していたためおかしいと感じていた
そんな風にナハトはイヴが様々な場合の対策と命令を告げていくのを聞きながら考え続けるのであった
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ナハトはルミアとダンスの練習とある魔術の準備をしているとあっという間に当日が来た
(何とか魔術は間に合ったけどまだ魔力効率がな......コレ維持すんのしんどいな..........)
ナハトは更衣室からスーツを着込み出てくると内心魔力がごっそり持っていかれえている魔術の行使にしんどさを感じて出てくると丁度グレンがナハトと同様にスーツを着て立っていた
「どうです先生、怪しい人いました?」
「ん?ナハトか..........いや、こうも人がいると分かんねぇ」
「まぁ、そうですよね.....................」
そう返してナハトもグレンの隣に並ぶとグレンはナハトの方を急にまじまじと見始める
「なんですか先生?まさかと話思いますがそっちの気が?」
「あるか!!そうじゃなくてお前意外と似合ってんだなそれ」
「そうですか?まぁ、それはどうもです。てっきり先生にそっちの気があるのか心配したじゃないですか~」
「やめてよ!?俺の変な噂がまた広がるじゃん!?」
2人は普段のコントじみたやり取りをするとどちらも合図なく真面目なく表情に変わる
「.......アルベルトさんたちの準備は大丈夫みたいですよ」
「そうか.........アイツがいることの安心感はあるが本当に大丈夫なのか?」
「一応俺も個人で仕込みはしてますが何とも.........ただ考えて分かったのはのは姉さんが........いや、イグナイト家が功績を欲しっていることくらいですかね」
「お前らの家か........いったいどうしてそこまで功績にこだわる?十分に大家じゃないか.........」
(イグナイト家は帝国内で最近力を伸ばし続けてる。まるでクーデターでも目論んでるみたいだ..........)
「家のことはあまりいうわさを聞きませんね..........でも姉さんは本来こんなことしなくてよかった」
ナハトはその目に悔しさと怒りを感じさせるように会場の天井を見上げる
「俺はイグナイト家の次期当主候補として驚異的な
「万象の支配・創造.........黒い炎か..........」
異質な異能と神の如く
「はい..........それから家は相当揉めたみたいです。俺と言う存在を秘匿し家の利益を求めるか、はたまたなかったものとして消し去るか。そしてそんな大人たちのやり取りを...........揉めあいをイヴ姉さんとリディア姉さんは偶々知ってしまった。自分が魔術を教えたことが切っ掛けだったとイヴ姉さんは後悔していました。それからは俺は処分されることが決定し、その前にイヴ姉さんにリディア姉さんとバーナードさんの助けもあって死んだことにして失踪しました」
「................」
「そしてリディア姉さんが家を継ぐことが確定したのですがまたも悲劇が起こりました。ある事件でリディア姉さんは魔術能力を完全に失いそのまま行方知れずになりました。そしてその時になって俺が生きていればと言う話も上がったそうですが最後にはイヴ姉さんが家を継ぐために厳しく育てられました」
グレンはその複雑な事情をただ黙って聞いた。少し知っていることもあったがそれでもここまで詳しく知ることは今回が初めてだった。
「姉さんにこんなこと言ってるのバレたら怒られますが..........二人の姉がこんなにも苦しむことになったのは俺の責任です。..............俺が無力なガキだったから姉さんだけじゃなく先生やセラねぇまでも苦しめた」
「お前........だが、俺もセラもそんなこと.........」
グレンはナハトにそんなことないと言おうとした。だがそれをナハトはさえぎった。
「事実なんですよ。..............けど先生、いくら俺がどれだけの迷惑をかけてきて、方々から恨まれるべき存在でも...........もう俺はイグナイト家を生家とも思えないし.............許せない」
そこまで言い切るとナハトはグレンの前に出る
「長くなりましたが言いたいことは1つです。...........姉さんの事見捨てないで上げてください。先生からすればいけ好かないかもしれないですが本当はすごく優しいんです。自慢の姉なんです」
そこまで言いきるナハトはグレンに笑いかける。その笑みには様々な意味が込められてる気がした。
「..........まぁ、普段世話になってるシスコンなお前の頼みだ。少しは聞いてやるよ」
お互い笑みを浮かべ交わすとそのまま二人は歩き始めた
「あと先生一ついいですか?」
「あん?なんだよ?」
「俺はルミアを守る事。そして姉さんを苦しめないことが最優先です。でもね先生.........俺はだからと言ってそれ以外を捨てる気は毛頭ないです。絶対に誰の犠牲もなく切り抜けますよ。なので頼りにしています先生」
「はん!当然だ!気張れよナハト」
2人は決意を新たにこの無茶な作戦に臨むのであった
今回は作戦入る直前までです。次回はできればアルベルト達が戦闘に入るところくらいまでは書きたいと思います。ナハトの仕込んだ作戦も次回判明させる予定です。ぶっちゃけそこまで派手なものではなくシンプルだけれども脅威になるというのをテーマにしています。次回以降も楽しみにしてもらえると嬉しいです。
そして今回もここまで読んでくださりありがとうございました!また、お気に入り登録、コメント、評価をしてくださり本当にありがとうございます!
再計:システィーナのヒロイン追加について
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