ロクでなしとチート主人公   作:graphite

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特務分室vs天の智慧研究会

 

「.............何故三人もいるのかしらナハト」

 

「何でって...........何となく増えてみた?」

 

ナハトがアルベルトら三人の前で決意を新たにしているとその場に会場内を担当しているイヴが訪れた。そしてそのイヴは目の前にいる弟が何故か三人もいることに頭を抱えていた。

 

(何となくってこの子は.........いつも突拍子ないことを平然と............)

 

 

自身の弟の異常さに呆れながらも今はそれどころではないと切り替える

 

「はぁ~クリストフ..........そろそろじゃなくて?」

 

イヴがクリストフにそう尋ねる。すると.................

 

「え?........あっ、はい!今来ました!結界に反応があります!」

 

「............おおっとぉう、ついにわしらの出番かいな!?」

 

「...............」

 

三人+αの間の空気は重く張り詰めたものに変わる

 

「敵影、三。座標などの敵に関する情報は――ここに」

 

クリストフが握りしめていた魔晶石を親指ではじき、他の者に渡す。

結界から得られた情報が記録されており、それらをナハトらはすぐさま表層意識野に高速展開するとすぐさま状況を把握する

 

「さて、私が差配してあげるわ。《星》は北の敵を、《隠者》は西の敵を、《法皇》は東の敵をそれぞれ対処しなさい。当然三人の《月》は各戦場に分かれなさい。貴方たちならやれるわよね?」

 

イヴの指示を受けるとそれぞれが立ち上がり戦場へ向かおうとする

 

「はぁ~せめて敵が美人の女の子じゃと良いんだが.............」

 

「バーナードさん.........どうせ倒すんですからそんなこと言わないでまじめにやりましょ?」

 

「ふん!ナー坊は今頃アリシアちゃんの娘とキャッキャしてるからいいだろうが儂は寂しんじゃ!」

 

バーナードがナハトに食い掛るが、それでも顔だけは真剣そのものだ

 

「........死ぬなよ」

 

アルベルトが一瞥もせずそう言うのが合図だったかのようにそれぞれが指示通りの場所に移動を開始した

 

 

 

 

 

 

 

アルザーノ魔術学院敷地内、東の薬草園付近。

 

クリストフとナハトの最高の盾と最高の剣が戦うフィールド

 

そこに現れたのは肉感的なドレスに身を包んだ少女が楽しげに散歩をするように学院会館のほうへ歩みを進めてきていた。彼女はかなり高揚しているのと対照に彼女の周囲の気温は異様に低い。口からは白い息が零れ、歩くときに踏まれた薬草が一瞬にして凍り付いたりとどこか不思議だった。

 

 

「あら.........可愛い坊や達の登場みたい」

 

「ここから先は僕らが通しません」

 

「そういうことなんでさっさとやられてくれません?」

 

クリストフとナハトが凛とした表情で少女を見据える

 

「おいでませ《法皇》さん♪《月》さん♪今宵は貴方がたがダンスの相手を務めてくれるのね!あぁ、素敵、最高だわ!」

 

そう言って少女が妖しく微笑むとクリストフやナハトの周囲の気温が異様なほど下がる。そして、彼女の周囲に吹雪が渦巻き、地面をぱきぱきと凍らせつつある。だが――

 

 

ゴウッ!!

 

 

黒い炎が一瞬でその場の気温を上げ吹雪すらも焼き消す

 

 

 

「氷ね..............運ないねアンタ。俺たちにアンタは絶対に勝てない。まぁ、それでも俺達を凍らせられるもんならやってみるといいさ..........その代わり、俺が悉くを焼き尽くしてやる」

 

ナハトは剣の切っ先を向けると剣から黒い炎を迸らせながらそう告げる

 

「えぇ、貴方に万に一つの勝機はない。天の智慧研究会第一団(ポータルス)(オーダー)》.........《冬の女王》グレイシア」

 

そしてクリストフも同様に堂々としたたずまいで早々に勝利宣言する

 

「ッ!.........これはこれは手厳しいですわ♪でも........私があなたたちのすべてを氷漬けにして一生目で愛でてあげるわ♪」

 

 

こうして、剣と盾の圧倒的有利な戦闘が始まろうとしていた

 

 

 

 

 

 

 

「だぁああああああああああああああああ―――ッ!」

 

 

「うるさいですよバーナードさん!もうさっさと立ち直ってくださいよ」

 

バーナードが頭を掻きむしりながら大声で吠えるのをナハトが止めようとするは学院敷地内、西の庭園。

 

「なぁんで、儂の相手はおまえみたいなやつなんじゃあぁぁぁああああああああ!!!」

 

「うるさいですってばホント!いい加減にしてくださいって!」

 

「だってぇぇぇぇ!東なら見た目だけは可愛いギャルとたたかえたのにぃぃぃぃぃぃ!なんで儂はお前みたいなガチ無知相手しなくちゃならんのじゃあああああああ!!」

 

ナハトがいい加減呆れてきたがこれでも世話になった恩人であり戦いを教えてくれた人でもあるわけで内心微妙な気持ちを抱きながらもとりあえず自分だけは相手を見据える

 

(姉さんがバーナードさんをこっちに寄越したってことはクリストフじゃ相性が悪いってことか)

 

「.......我は貴様らと相見えることができて僥倖だ《隠者》のバーナード............いや、元帝国宮廷魔導師団特務分室執行官No , 8《剛毅》のバーナード。そして万能と謳われる〝無貌の月〟あるいは〝完全なる奇術師(パーフェクト・イリュージョン)〟.........執行官No,18《月》のフレイ」

 

「.........ったく、いつの話じゃ、それ..........」

 

「............」

 

ナハトは無貌の月の他に剣技と魔術によるオールレンジで戦える万能さとありとあらゆる戦闘スタイルの外道魔術師を翻弄するその戦いぶりに完全なる奇術師(パーフェクト・イリュージョン)と呼ばれ恐れられていた。

 

そしてバーナード。かつてのコードネーム《剛毅》と言うワードが出た瞬間苦々しい表情を浮かべる

 

「貴様の魔闘術(ブラック・アーツ)を極限まで極めたという伝説.............そして《月》の恐ろしさ、それは裏の世界で知らぬ者はいない」

 

魔闘術(ブラック・アーツ)。拳や脚に魔術をのせインパクト時に相手の体内でその魔力を直接爆発させるという魔術と格闘術を組み合わせた異色の近接戦闘術。

 

「........さて、どう戦いますバーナードさん?多分アイツ魔闘術(ブラック・アーツ)使いですよ」

 

「ご明察.........ここであったが百年目だ。伝説に名高き貴様の魔闘術(ブラック・アーツ)。そして音に名高き《月》のフレイ。貴様らには我が求道の糧になってもらう!《破》ァッ!」

 

そう言うと目の前の敵は短い呪文とともに拳に刻まれたルーンが輝きだすと電撃が迸る

 

「....うげぇ.......その様じゃの、さて......どうしたものかの~」

 

「天の智慧研究会、第一団(ポータルス)(オーダー)》............《咆哮》のゼト――参るッ!」

 

「.......バーナードさん俺が出ます」

 

「ん、任せたぞ~儂は大人しく見物でもしとくわい」

 

そう言うとナハトは前に出ると双剣を構える

 

「........《月》のフレイ。アンタを切り倒してやるよ.....《付呪(エンチャント)獄炎(ヘルブレイズ)絶対氷結(アブソリュート・フリーズ)》」

 

ナハトは右手に獄炎左手には白銀に輝く冷気を纏わせる

 

ナハトの得意属性は炎、雷そして.........冷気。セラに仕込まれた風、そして基本的にどの属性も不得手はないナハトだが特にその三属性がとりわけ強力無比だ。

 

更に、一見相性が悪そうである獄炎と氷の相性はナハトが使う中でも最も相性がよく攻撃的だ

 

獄炎はすべてを焼き尽くす特性に加え熱エネルギーを高め、氷は周囲の熱をとめどなく奪いすべてを凍り尽くそうと白銀の輝きを強める。お互いがお互いを高めあうその力は術者すらも危険にさらすほどなのだ

 

その証拠にナハトの礼装の左肩から下が白く凍り付くようになり、礼装の右肩から下は焼け焦げ素肌がさらされていた

 

自身にもダメージすらあるものの【黒天大壮】を除けばナハトの超攻撃特化スタイル。ナハトはそれを使うべき相手だと判断を下した

 

 

 

そして、雷光の纏った拳と万象焼き尽くす獄炎と絶対零度の冷気纏う双剣がぶつかり合うのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くくくっ........貴方達はアルベルト=フレイザーさん、フレイ=モーネさん....ですね?」

 

鬱蒼と生い茂る森の中。

 

アルベルトとナハト(フレイ)の前に現れた青年は慇懃に一礼した。

 

「初めまして。私の名前はヴァイス=サーナス。天の智慧研究会第一団(ポータルス)(オーダー)》です。以後お見知りおきを............と言っても貴方がたには最後になるわけですがね」

 

(........なんか決めてるとこ悪いけど俺分身体だから死んだとこで本体になんも影響ないんだよなコレ)

 

ナハトは空気を読んでその発言だけはしないもののアルベルトとナハトの目の前でそう言う相手はよっぽどの馬鹿か..............もしくは――

 

「いやぁ、貴方がたの噂と武勇はかねがね聞いておりますよ。実に光栄です、貴方がたのような帝国の二大エースともいえる英傑に、直にお目にかかれるなんて...........」

 

だが対するアルベルトは無言でたかのように鋭い双眸でヴァイスと名乗った青年ではなくその隣に佇むものに注がれている。それはナハトも同様だ

 

「おや?これが気になりますか?」

 

ヴァイスの隣に佇む化け物

 

見た目は人型だが背丈も肩幅も優に人の二、三倍はある。全身筋骨隆々で、肌の色は漆黒。頭にはひねくれた角が生えており、背中には異形の翼が生えていた。

 

「ふふ、これは『悪魔』ですよ」

 

「.........貴様、悪魔召喚士か」

 

「ご名答。こいつは私が召喚した『悪魔』、上級の悪魔なんですよ」

 

悪魔

 

人の共通深層意識下で広く認知・共有された強大な概念存在の中でも、疫病・自然災害・負の感情といった人の様々な忌避や禁忌、恐怖が宗教や信仰と結びついて擬人化し概念を得たもの。人の『意識の帳』の向こう側にある『ここではない、どこでもない場所』『魔界』に住む。造形には多種多様な所説や解釈がある。

 

人間の手では倒せない強大な存在として定義され、現世の理に依る物理的な攻撃や魔術はほぼ通じないという律法が存在するが、より上位の概念には逆らえないという律法もまた存在する。

 

そのため、悪魔召喚術者は悪魔祓い対策として真名を隠すのが基本。強力な悪魔を召喚・維持するためには多くの人間の魂を生贄として捧げる必要があるが、感応する【適合者】の魂を使うことで生贄の数を減らすことができる。

 

「あっはははは!さて、《星》のアルベルトさん、《月》のフレイさん、噂によるとお二人は随分とお強いようだ............人間を相手するならね?だが、人間が忌避する恐怖の具現...........悪魔が相手ならどうでしょうかね?くっくくくくくっ!」

 

結論から言えば敵うわけがないのだ

 

最初から人の敵わない脅威として『悪魔』は定義されている

 

「...《狂騒伯爵》ナルキス」

 

ナハトはぼそりと呟くようにそう言う

 

「その悪魔の真名は三十六悪魔将の一翼《狂騒伯爵》ナルキス。六魔王の1柱《黒剣の魔王》メイヴィスの黒剣死騎士団を率いる軍団長――その分霊。主君たるメイヴィス名の下に、終末の戦場を首なし馬の戦車で駆けては狂騒のラッパを吹き、この世全てを屍山血河の戦闘地獄に塗り替える、戦いの狂奔を司る悪魔」

 

ナハトが真名を看破すると、続いてアルベルトがその悪魔の詳細を言い当てる

 

「へぇ?貴方がたは魔術師の癖に随分と神学に詳しいんですね?いえ、この場合は悪魔学とでもいうべきでしょうか?とにかく、悪魔にはその造形に多種多様な諸説と解釈が存在するのにも拘らず、私の悪魔の真名を一目で看破したのは貴方がたが初めてですよ」

 

「だが、無意味です!悪魔の真名は完全に私が掌握している!貴方がたごときに勝てるわけ...........」

 

だがその時アルベルトは斬りつける様な眼差しで、アルベルトは淡々と問を投げる。

 

「..........何人、犠牲にした?」

 

「はい?」

 

「その上級悪魔をこの世界に受肉させるには大量の人魂が必要な筈だ。俺達はそのために何人犠牲にしてるか聞いてるんだよ外道が」

 

ナハトは怒気を隠さずにそう言い放つ。それはアルベルトも同じで邪悪に対する激しい憎悪を向ける。

 

「悪魔召喚士と言うだけで、俺が貴様にかける慈悲はない。かかってこい、外道。戦闘と言うものを教えてやる」

 

そのアルベルトの物言い、そしてナハトの向ける殺気に

 

「あっはははは!まさかアルベルトさんは冗談もうまかったとわ!」

 

そしてそんなヴァイスの頬を雷閃と漆黒の熱線が掠める

 

「殺してあげますよ、《星》のアルベルトさん、《月》のフレイさん!」

 

こうして、人間VS悪魔の戦いが始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に勝敗が決しようとしていたのはやはりと言うべきかナハト、クリストフの戦場だった

 

 

台地は凍り付き、吹雪を荒ぶり、幾つもの氷柱が天に向かってそびえたつ。そんな氷結地獄――――

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて状況には一ミリもなっていなかった

 

「ッ!《冬の悪魔が振るう剣よ》!」

 

「フッ!」

 

グレイシアは氷の剣を作り出しナハトに向けて放つ。だが、ナハトにはそれをノーダメージで獄炎纏わせた剣で叩き落していく

 

グレイシアは戦いが始まってからと言うもの終始押され続けていた。

 

それも当然で、ナハトの獄炎による完璧な氷結対策に加えクリストフの防御が加わりグレイシアにはナハトらに対して有効な打点がないのだ

 

 

彼女の全身には『死の冬の刻印』という魔導刻印が施されており魔力を疾走させることで彼女の周囲の気温は際限なく下がり続けるというものなのだが...............

 

(私の冬が効かない!?)

 

グレイシアの攻撃は有効な打点にならず、対してナハトの攻撃は彼女の攻撃もろとも彼女自身を焼き消しかねない程だった。そのためグレイシアの体にはいくつもの火傷ができていた

 

「ふん.........あんたの冬なんて大したことないな。所詮はかなり狭い領域でしか猛威は振るわない。もっともその狭い領域でも俺の獄炎には勝てないようだが」

 

ナハトは全くの無傷の様子で淡々とそこにある事実を突きつける

 

これはナハトがひたすらに獄炎をまき散らす戦い方、そしてナハトを援護する裏でクリストフが張った解析結界から得られた結論。

 

ナハトとクリストフが強力なコンビである理由は剣と盾どちらも最高と謳われるほどの技量を持っているからだけではない。クリストフが相手の攻撃を防ぐだけでなく相手戦力を正確に解析し、その得られた結果をもとに最高の結果をたたき出すことができるナハトがいるからなのだ。

 

「それにあなたの攻撃はフレイの獄炎で半減..........もしくはもっと落ちているため僕の防御結界で防ぐのも容易。それに貴方の冷却スピードはフレイが使う本物の冷気には及ばない」

 

ナハトの魔力特性(パーソナリティ)上あらゆるパラメータ操作に関してはお手の物。分子の運動を完全に支配することのできるナハトによる絶対氷結(アブソリュート・フリーズ)》は一瞬で分子の運動を0にする。

 

「..............」

 

グレイシアはもう絶句するほかなかった。そもそもの話イヴがこちらにナハトをよこした時点でグレイシアに1ミリたりとも勝機はなかったのだ

 

「さて.............もうあなたは用済みだ《獄炎竜よ・万象焼き焦がし・その咆哮を轟かせろ》」

 

ナハトが呪文を詠唱すると固有魔術【ドラゴニック・インフェルノ】がうなりを上げてグレイシアに迫る。そして...............

 

 

「これで制圧完了........お疲れフレイ」

 

クリストフがグレイシアの反応がなくなったのを確認するとフレイに労いの言葉をかける

 

「そっちこそクリストフがいると守りを意識しなくていいから戦いやすくて助かるよ」

 

グレイシアを塵一つ残さず消し去ったナハトはそう言ってお互いを称えあうのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

ドカンッ!!ドカンッ!!ドカンッ!!

 

 

別の戦場では激しい轟音を起こしながら二人のエースが戦っていた

 

 

「《紅蓮の竜よ・猛き咆哮以って・蹂躙せよ》!」

 

ナハトの極太の熱線がヴァイスに向け放たれる。普通の敵ならばこれをまともに正面から受ければ確実に焼き消すことができるだろう。だが............

 

「そんなもの効かない効かない効かないぃぃぃぃぃ!」

 

ヴァイスは叫び声は森の中に木霊する。

悪魔を盾にすることで、ナハトの攻撃を防ぎ一直線に突っ込む。

 

「.......《雷光の戦神よ・其は猛き憤怒と槌を振るい・遍くすべてを滅ぼさん》」

 

アルベルトはそれを読んでいたためヴァイスの頭上を取ると上から悪魔ごと飲み込むように【プラズマ・カノン】を叩き込む

 

だが................

 

「ひゃはははははははははは!」

 

だが悪魔相手には効果なく、アルベルトのほうに向け跳ね返る

 

「《第二術式・起動開始》」

 

その間にナハトは躍り出たかと思うとナハトは月鏡を起動させ【ライトニング・カノン】の支配権を無理やり奪い極太の雷撃を無数の針状に変え降り注がせる。

 

数の暴力で攻め立てるも悪魔はそれらを防ぎ続ける

 

悪魔には『炎熱』『電撃』『冷気』と言った基本の三属性エネルギーは効かない。概念的なものの悪魔には通用しない為それらが得意なアルベルトには相性が良くない。

 

そう〝アルベルト〟にはだ

 

「これでわかったでしょう!?私と貴方たちでは格が違うんですよぉぉ!」

 

アルベルトやナハトは先の攻撃から森の奥へと移動をしていた

 

ヴァイスもそれを追い森の奥へ二人がいるであろう場所に移動を開始する

 

そして――

 

 

「おや?おやおや?遂に観念しましたか!アルベルト=フレイザー、フレイ=リュンヌ!」

 

ヴァイスの目の前にいるのは、これまでの戦闘の余波で広く十字架型に焼け焦げた場所の中心に腕を組んで待っているアルベルトとその隣に立つナハトがいた。

 

「貴方たちでは悪魔に勝てないこと........ようやくわかったのですね!」

 

「そうだな。〝俺では〟貴様の悪魔を殺しきる手段はない」

 

アルベルトは淡々と〝自分には〟と告げる

 

「あっはははははは!そうでしょう!私の悪魔は最強なんですよ!」

 

そしてそんなアルベルトと対照的にヴァイス勝ちを確信したように笑う

 

「じゃあ、貴方の魂をいただきましょうか!いやぁ、楽しみだなぁ!貴方がたほどの魂を喰らえば私の悪魔はどれほど強くなれるのかなぁ!?」

 

 

 

「やれッ!汝が主、ヴァイス=ザーナスが真名を持って命ずるッ!《狂騒伯爵》ナルキス!その二人の魂を喰らえ!!」

 

そう命じられた悪魔は猛然と二人に襲い掛かる。その速さは彼の魔人には及ばなくても十分に驚異的な速さだった。だが、アルベルトとナハトの二人は無言のまま避ける素振りを見せずただそこに悠然とたたずむ

 

「今の俺にはその悪魔を殺しきるすべはない........だから虎の威を借りることにした」

 

2人めがけて振り下ろされようとする悪魔の拳

 

しかし、それは二人に触れる寸前でぴたりと止まった

 

「な、何をやっているッ!?殺せ!ナルキス!汝が主の真名を以って命ずる!《狂騒伯爵》ナルキス!奴を殺せ!」

 

「ふん!悪魔召喚士の癖に、悪魔学に疎いと見える。.............俺たちが今立っている場所をよく見てみろ」

 

アルベルトにそう告げられようやく理解するヴァイス

 

「十字架に焼き焦げた.......いや、まさか!?」

 

焼き焦げた十字架は東西南北にそれぞれの方向に大きく伸びていた。

 

「上空から見れば『極北を指す《黒い剣》』に見えるだろうな。これが何を意味するくらいはわかるだろう?」

 

「こ..........《黒剣の魔王》メイヴぇスのシンボル!?《狂騒伯爵》ナルキスの真なる主君の........?!」

 

「確かに物理的な攻撃や魔術は概念存在である『悪魔』にほとんど通じない........だが、概念はより強い概念に敗れ去る............それがルールだ」

 

『黒い剣』の中心に立つとは真なる主君の名代を意味する。下僕が主君の名代を害すことは不可能。そして..............

 

「さて.........最後にもう一つだけ教えてやろう。確かに原則『悪魔』を殺す手段は限られる。だが、不可能ではない(・・・・・・・)

 

「何を言って..........」

 

そう、アルベルトには悪魔を殺しきる手段はない。

 

だが、ナハトには――

 

「時間稼ぎありがとうございます。完成しましたよ........〝悪魔殺しの魔術〟が」

 

「.............は?」

 

ヴァイスはナハトが言った言葉の意味が理解できなかった。〝悪魔を殺す〟そんなこと不可能と信じて疑わなかったからだ

 

「《我が剣は聖なる刃・邪悪を滅す聖剣なり・我が聖なる剣閃以って魔を払わん》」

 

 

ナハトが呪文を唱えるとナハトの握った双剣は眩い輝きを放ち悪魔の身の丈以上の刃を作り出す。そしてナハトは両の剣合わせると頭上に掲げそのまま悪魔に叩き込む。そして...............

 

 

「なん..........だと.......ッ!悪魔が〝殺された〟..........だと!?」

 

 

悪魔は光の刃に切り裂かれるとその存在を光の粒子に変えそのまま天に向かって登っていった

 

 

固有魔術(オリジナル)【破魔の聖剣】。ナハトが即席で作り上げた固有魔術。ナハトは戦闘開始時点で『悪魔』を殺す手段がない。ならばどうすればいいか...........その結論はいたってシンプル。〝悪魔を殺せる独自(・・)の法則を生み出せばいい〟と言う結論に至った。そのためナハトは戦いながら新たな固有魔術を作り上げていた。

 

ナハトの魔力特性(パーソナリティ).........万象の支配・創造があるからこそできる『なければ作ればいい』という常軌を逸した力業

 

「さて、アンタの下僕とやらは品切れか?まぁ、いくら出そうが結果は同じだがそろそろ報いを受けてもらおうか」

 

そう、もういくら悪魔を出そうと悪魔殺しの魔術を完成した目の前のナハトがいる以上勝機はゼロ。通常の魔術戦で二人にかなうわけもない

 

「クッ!《我・希うは―――》」

 

ヴァイスは往生際悪くその目に憎悪をたぎらせ魔術の呪文の詠唱に入るが―――

 

「―――遅い」

 

だが、その刹那アルベルトの左手の指が霞むように旋回。

 

予唱呪文(ストック・スペル)時間差起動(ディレイ・ブースト)され、その指先から鼻垂れた雷閃が暗闇を一閃する。

 

その神速の一閃はヴァイスの脳天を貫き刹那のうちに絶命させる

 

「状況終了...........ですね」

 

「あぁ、お前が居なかったらもう少し時間がかかっただろう」

 

(ナハトが居なければもう少し手古摺っただろう..........悪魔召喚士か)

 

アルベルトは倒れ伏したヴァイスの死体を勘定のない視線で一瞥しそんなことを考えていた

 

(ナハトがいなければ所詮はその程度か........ダメだな.........この程度の力では足りない。あの男に届くはずがあるまい.........)

 

アルベルトの胸中は状況終了の達成感などではない。激しい憎悪と力への渇望

 

僧服姿の初老の男に対する憎悪を意識しながらもすぐに切り替えるとアルベルトはナハトと共に踵を返し歩き始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアァァァァァッ!!!」

 

「シッ!!」

 

大きな雄叫びを上げるゼトに対しナハトは鋭く気合の籠った言葉を漏らすとゼトの強力な拳を持ち前の剣技でいなし絶対氷結の刃を叩き込もうとする

 

「! フッ!」

 

それをゼトがすかさず距離を取り回避する。だが、白銀の一閃は簡単には回避を許さない。絶対零度の冷気がゼトの体に細く縦一文字に凍り付いたように凍らせる。

 

かれこれ戦闘が始まってからというものナハトの強力な冷気と熱によりゼトの体には凍傷や火傷などが至る所にできていた。今もナハトが攻撃をいなした際に拳に火傷が増えていた。

 

(攻撃をするこちら側が自傷覚悟というわけか............)

 

この状態のナハトに対しての近接攻撃は常に自身の命の危機をさらすもの。ゼトは攻めきれずに歯噛みする

 

(動きは見切れたし、撤退されるのも面倒だしもっと攻めに出るか)

 

ナハト基本的に緊急を要さず、一対一の場合はなるべく相手の手札を引き出してから攻めに転じるのだ。だからこそここまでほぼカウンターによった受けの戦いをしてきたが撤退されては後が面倒と考え攻めに移る

 

「!クッ.....!」

 

ナハトは一気に距離を詰めると怒涛の勢いで双剣を振るう。ゼトは先程までとは違うナハトの剣戟に面を喰らいつつも辛くも捌き続ける

 

獄炎と白銀の冷気が織りなす黒き剣閃と白銀の剣閃は美しさすらある。だが、美しい花には棘があるというもの............一撃一撃がどれも死をもたらす剣閃。

 

悉く焼き尽くす炎と悉くを凍り漬かせる氷、相いれない二つのはずのそれは異常な相性を顕わし、死の淵まで相手を追い込む

 

ゼトはそれを腕を盾にし防ぎ、拳で攻撃しどうにか完全に防戦にならないように立ちまわるも明らかにギアを上げたナハトの連撃スピードのじわりじわりと遅れを見せていた

 

(ここまでの技量とは....ッ!魔術士だからと侮ったかッ!)

 

ナハトの止まることのない高速連撃にゼトは相手の力量を見誤ったと己の判断に恥じていた。だが、ゼトとてこうもやられてるわけにはいかないとどうにか一撃いれればまだ勝機があると信じ防ぎ続ける。

 

 

だが、それはナハトも想定内で―――

 

 

 

 

(! ここだッ!)

 

ナハトがわずかに距離を開けたところでゼトはすぐに腕を引き絞り強力な一撃を決めるの備えをする。ナハトの高速攻撃の肝は絶妙な間合いコントロールでゼトが攻撃に転じにくし自身の持ち味を最大限発揮することにある。だからこそ一瞬、ほんの一瞬でも間合いがわずかにでも空けばゼトにチャンスがある。

 

 

だが、ゼトは防戦に回りナハトに圧倒されたことでそれがナハトの罠と気づくのが遅れた

 

「かかったな」ボソッ

 

(ッ!しまったッ!)

 

ナハトはゼト同様に間合いをわずか開けた隙に技の構えを取っていた。ナハトはあえて間合いを取り相手に大技を出させるようにし、その隙に自身も強力な技を叩き込む腹積もりでいたのだ

 

そして、何よりこの場において〝速さ〟でナハトが負けるわけがない

 

 

「氷魔・神千斬り!」

 

 

絶対氷結の刃と万象焼き尽くす獄炎の刃がゼトに向け放たれる。

 

白銀と漆黒の刃が放たれ轟音と共にゼトが吹き飛ばされると獄炎と氷がそのゼトを追うように後引き黒い炎と白銀に輝く氷があたり熱気と冷気が同時に周囲を支配する

 

「お!決まったかのフー坊よ」

 

すると本当に大人しく観戦していたバーナードが声を上げ確認する

 

だが................

 

 

 

「...........ダメですね、咄嗟に腕一本犠牲に回避されたみたいです」

 

ナハトが技を放つ瞬間、ゼトは放とうとしていた一撃をナハト本人ではなくナハトの剣に合わせることで致命傷をギリギリのところで回避し、腕一本を犠牲に派手に獄炎と氷が広がる隙に撤退したようだった。

 

そのため煙が晴れた先には獄炎と氷がゼトのものと思しき腕を囲っていた

 

「脳筋野郎だと思っていましたが存外頭が回るようですね..............これは油断しましたね」

 

ナハトは確実に仕留めらると踏んでいた。といううのも相手の見た目と言うわけではないがあのタイプの手合いは戦いで果てるなら本望といった人種と考えていたためあの場で離脱される可能性は低いと感じていた

 

絶対氷結(アブソリュート・フリーズ)まで使って仕留められなかったことがないからって驕ってしまうとは自分もまだまだですね」

 

ナハトの獄炎と絶対氷結の組み合わせを前に生き延びられたものはこれが初めてだった。片方だけならまだしも両方使って逃げられるというのは今までになかったため慢心があったと言わざる負えない

 

「まぁ、どちらにせよ病み上がりの戦闘と考えれば流石なもんじゃよ」

 

バーナードはそんなナハトにそう声尾をかけ背中を叩くと一足先に歩き出す

 

(失敗は許されない任務でこの様とは........自分に呆れる。もっと強くならないとな)

 

 

 

ナハトは自身のミスを恥じる。だが今はその事よりもルミアの無事とイヴの心を守ることが優先だ。やってしまったものは仕方ない。ならばそれに即した最善を尽くそうと切り替えるナハトだった

 

 

 

 

 




今回は特務分室の面々と天の智慧研究会の衝突ですが................うん、ナハト強すぎ。ほとんどどこもナハトの力の誇示になってしまった。最初はもう少し連携を考えてたのにナハトが前で過ぎになってしまった........で、でもまだ特務分室の出る話は沢山あるし大丈夫!.........なはずです。個人的に特務分室の面々は好きなので活躍させていきたいと思うので頑張ります!また、先日ダンまちのssも始めたので予定は交互に投稿するかこちらが二話更新したら向こう一話更新くらいに考えています。勿論今までと変わらずこちらの作品も全力で取り組むのでよろしくお願いします。ありふれの方はやめるつもりはないですがもうしばらく練りこんでから投稿します。



また今回もここまで読んでくださりありがとうございます!いつもコメント、お気に入り登録、評価をしてくださりありがとうございます!

再計:システィーナのヒロイン追加について

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