夜空の下で
「..........いや、流石になぁ」
とある家のリビング。そこは学生が一人暮らしするにはいささか広すぎるきらいがあるその家のリビングにしつらえられた机に置かれたあるものと睨めっこするナハト=リュンヌがいた。
時間は7月6日の夜23時。かれこれナハトは一時間ぐらいリビングでそれを眺めては唸っていた。
「今からは.........でも、一番を誰かに譲るのは.....嫌だ.....けど........」
恐らく察しのいい方々は気が付いているだろうがもう数時間すれば彼女.........そう、ナハトが好意を寄せている彼女、ルミア=ティンジェルの誕生日だ。
そしてナハトが何をそんなに迷っているのか.............もちろんプレゼントと言うわけではない。プレゼントに関してはこの男一か月前から備えていたのだ。今悩んでる理由それは――
「今から家に行くのは......どうよ?.........でもそれ俺普通にヤバい奴なんじゃ...........」
そう、悩んでいるのは渡すタイミングだ。明日はクラスメイト達とサプライズで誕生日会をする予定なのでそこで渡すのも一択なのだが........正直恥ずかしい。好きだと自覚してしまうと何故か無性に恥ずかしいのだ。そして何より誰よりも先に祝いたいとかいう意味のわからない意地みたいなものが生まれていた
(流石にシスティーナ達より早くってのは無理があるとしてもそれ以外では俺が........いやいや、普通に引かれないか?こんな夜中に行ったら引かれないか?)
*因みに当然だが二人とも〝まだ〟付き合っていない。重要なのでもう一度言うが〝まだ〟付き合っていない。
(でも、普通に今行ったら理由聞かれるよなぁ............ルミアって俺が嘘とか誤魔化そうとするとなぜかすぐに見破られるし..........成り行きで告るのは///////)
ナハトが告れば100%成功するのは明白だ。両片想いなので当然である。だが、いくら何でもムードに欠ける。それこそあの舞踏会の時の様な...........
(.............いや、待て!?俺なんであの舞踏会のこと思い出してるの!?アレは何かの気の迷い.......いや勿論したいと言えばそれは............って、そんなことは今どうでもいいんだよ!!)
いつかキス未遂の事を思い出し更にパニックになるナハト。こと戦闘においては帝国最強格なナハトは恋愛に関しては糞雑魚だ。それはもうスライムレベルで雑魚だ。
「どうすりゃいいんだよぉ.............」
広い家にそんな無様な帝国最強格(笑)の何とも情けない声が響くのであった
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(明日......ナハト君は誕生日祝ってくれるかな?)
場所は変わってフィーベル邸。ベットの中で明日の誕生日に想い人がどんな言葉を、どんなプレゼントをくれるだろうかと胸を躍らす一人の恋する乙女がいた。
そう、ルミア=ティンジェル本人だ。彼女もまた明日のナハトの事に期待を寄せていた。
ルミアは最近ナハトが少し変わったことに気が付いていた。具体的にはルミアが少し距離を詰めると緊張している様子を見せるのだ。まるで照れているよう...........いや、きっと照れているのだとルミアは半ば確信に近いものを感じていた。
時期はあの舞踏会の時だ。あの時から少しルミア達の中でお互いに対する認識が変わったように思える。ルミアは勿論あの時からずっと慕っていたがもしかしたらナハトも.......なんて考えることが増えてきた。
(ナハト君..........)
ルミアはいつも夜になると思い出すあの日の記憶。至近距離から見た彼の顔。たとえその姿が偽りだったとしても彼の心が私にむいているなら何でもいい...........そんな思いを抱いてしまうくらいに強烈で鮮烈な記憶だ。
(あぁ........私って本当にナハト君が好きなんだなぁ.....///////)
彼に見て欲しい。彼に隣にいて欲しい。
叶うなら、彼にずっと守って欲しい..............
ルミアはナハトの事が本当に好きでたまらない。でも...........
(私がいるとナハト君はまた傷つくんだよね.........)
何時もナハトは何でもないという様に戦う。学院にテロリストが襲ってきたときも遠征学修の時も..........
そして、相手がどんな格上.......あの、魔人相手でも変わらなかった。
アール=カーンの時、ルミアは本当に怖かった。ナハトが戦う理由は約束と私たち皆を守るため。彼が本気で戦うのは守るためなのだ。
でも、それが怖いのだ。私を守ってくれる、私の味方でいてくれることがルミアにとって何よりも嬉しい事でもあり、同時に恐ろしい事でもあった。
ルミアを狙って何度も執拗にこれからも危険は迫ってくるだろう。それを何度も何度も彼はこれからも跳ねのけていく確信がある........けど、彼は怪我をするかもしれない。
ナハトは強い。ルミアにとってナハトはあの
でも、彼も人間だ。アール=カーンとのことでそれを突きつけられた気がした。彼が........あの彼が血だまりの中倒れていたのだ。虫の息と言うにふさわしい姿で倒れていた。彼だって死ぬときは死ぬ.......何でそんな当たり前のことに気が付くことができなかったんだろうと思い知った。
(ナハト君が好き.............でも、この想いを持ち続けたら彼は.......嫌だなぁ........彼がいなくなってしまうのだけは嫌だ...........私がたとえどうなろうとナハト君が居なくなったりするのだけは嫌だ........)
もしもまた魔人のような強大な敵が訪れたとき彼はきっと臆せず立ち向かうだろう。彼に見捨てるという選択肢はもとよりないのだと分かってしまう。たとえその結果自身の命を捨てることになろうとも.............
想えば想うほど矛盾して彼と結ばれることやこのままでいるのが怖くて仕方ない。いっそ消えてしまったほうがずっといいのかもしれないと考えてしまう。
(でも......いや......だなぁ。ナハト君と離れ離れになるのは......いやだなぁ............私は悪い子だ)
でもナハトに会いたい、ナハトといたいという想いは消えることはない。寧ろ、日に日に強まっていってる気すらするのだ。決まってこういう事を考えているとどうしてもルミアはナハトに会いたくなり、ナハトに甘えたくなるのだ。
だからルミアはそんな自分に自己嫌悪するのだ。なんて嫌な子なんだろう、と。
ルミアは嫌な方向に行ってしまう思考を切り替えるようにもう寝ようと意識していると...........
コンコンコン..........
(窓に何かぶつかったのかな?)
突如子気味いい音が聞こえる。何かが窓を叩いた音だというのはわかったが何か風に飛ばされてきたのだろうとルミアは考える。だが..........
コンコンコン...........
(やっぱり気のせいじゃないよね?)
やはりまた子気味いい音が聞こえ、尚且つよく注意してみれば人の気配を感じるため窓の外から誰かがコンタクトを取ろうとしているいるだと理解する。悪意に敏感なリィエルが反応していない様子を見るに害意のある者ではないだろうが夜中と言うこともあり警戒する。
警戒しながら耳を澄ませていると途切れ途切れではあるが予想外な人物の声が聞こえてくる
「........寝てる........流石に......てか、見方に.........は普通に犯罪......いや住居に入ってる........アウトじゃね?」
(え?今の声って..........)
耳を澄ました状態でいると小さい声だがよく知った声が聞こえてきたことに内心驚く。わざわざこんな時間に彼が一体どうして?と言う疑問を抱きつつカーテンを開けるとそこには..........
「な、ナハト君?」
「あ........えっとこんばんわルミア」
自ら訪ねて来たというのに目を見開いているナハトがそこにいた
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ルミアは上着を羽織るとナハトがいるバルコニーに戻った。それからまずナハトに訪問の理由を聞くことにした
「えっと......こんばんわナハト君。でも、こんな時間にどうしたの?」
当然の質問なだけに直ぐ答えは返ってくるだろうと思った。だが、予想に反しナハトは少し何と言えばいいかと言う様に悩んでいるようだった
「あ~..........んっと........まぁ、なに?ルミアに会いたかっ........まぁ、うん。少しな?」
「私に会いたかった?」
「うぐっ///.........いやそうなんだけどなんて言うかな~」
そう思ってくれることは嬉しいが何かあったのか少し心配になる。続けて尋ねようとしたところでナハトは意を決したように口を開く
「ふぅ~...........ごめん。こんな夜中に迷惑だってわかってる。けど、やっぱり一番に祝いたくてな」
そう言ってナハトは持っていたラッピングされた箱をルミアに差し出す。ルミアも最初から何だろうと思っていたので何のことだろうかと考えているとナハトは訪問の目的である言葉をルミアに贈る
「誕生日おめでとうルミア。これ誕生日プレゼントなんだが......受け取ってくれると嬉しい」
「え......?」
確かにもう日をまたいでルミアの誕生日である7日だ。だが、まさか日が変わった直後に彼が直接その言葉を誰よりも早く伝えてくれるなんて思ってすらいないことで嬉しさと驚きで頭がいっぱいになる。
「あ、ありがとう////凄く嬉しいな。えっと.........開けてもいいかな?」
「どういたしまして。でも、それ手作りだからあんまできよくないかもだけど.........」
ナハトは少し恥ずかしそうにしながらそう返す。ルミアは手作りと言う言葉になんだろうと未だに整理できない感情に更にワクワクも加わった状態できれいに包装を解くと中から現れたのは..........
「綺麗.......これってハーバリウム?」
丸型の可愛らしいボトルに赤い薔薇やそれを引き立たせるようにビーズなんかもちりばめられておりとてもて素人が手作りしたとは思えないほどに綺麗だった。
「あぁ、何を贈ろうか悩んでな。どうせなら手造りでもしてみようかと思って.............まぁ、その手のプロに比べれば出来はあれだけどな」
知り合いの手芸店の人に注文すればよかったものを自分で教えてもらいながら作ったのだ。自作した理由はきっと大きな意味はない.........ただナハトがそうしたいと思ったからだ
(赤い薔薇.......もしかしてこれって........)
ルミアは嬉しい反面胸がうるさいくらいに早鐘をうつのがわかる。流石に赤い薔薇の花言葉を知らないルミアではない。ナハトだって当然知っているはず..........
ルミアは少し悩んで意を決して尋ねることにした。
「........ナハト君。その、ね?///////.....私にまだ言いたい事って.........ある?」
「............」
ルミアは〝その〟言葉が欲しいと思ってしまっていることに先の事もあって自己嫌悪する。だが、やはり感情なんてものはそう簡単に制せるものではなくどうしようもなく期待してしまう。
そして、ナハトはと言うと黙り込んで頬を赤くして期待するように見るルミアから視線を少し逸らす。
「..........まだ、言えない」
「え?」
そのまま照れているのを必死に隠そうとする子供のようにしながらナハトは続ける
「.........もう少しだけ待ってくれ。もう少ししたら..........必ず話す」
そう言うと後ろを向いて完全に顔をそらしてしまった。今のナハトの顔が見れないことに少し残念な気持ちになるルミア。だが、ルミアの目はナハトの真っ赤になった耳を見逃していなかった。ある意味それは答えともいえるものでルミアにはそれで十分だった。
「.....そっか。なら、待ってるからね?だからちゃんとナハト君から言ってね?」
ルミアは自分からは言わない。もう彼の心はわかった.............彼がそれをちゃんと伝えたいと思っていることもわかった。
後ろを向いて照れている姿を見せまいとしているナハトの背中にルミアはそっと抱き着く
その背中は本来の大きさ以上に大きく頼もしく感じた。本当に..........本当に大きくて暖かい背中だ。この背中がいつも私を守ってくれる。そう、思うと嬉しくもあり申し訳なくもあった。
そんな事を考えていると前に回されたルミアの手の上にそっとナハトが手を重ねる
「あぁ.........ちゃんと言う..........だから、ルミアも勝手にいなくならないでくれ」
まるで少し前の自分の考えを見透かされているようでドキッとする。どう答えるべきか........ルミアは悩んだ末に――
「.......うん。私はそばにいるよナハト君」
その言葉がルミア自身にも嘘か真かはわからない.........でも、今だけは間違いなく嘘ではない
少しの間二人はそのまま........
夜の静けさのなかお互いの存在を確かめるように重なり合っているのであった
ルミアの誕生日回です!!原作だとアルベルトの勘違いでギャグ回みたいな感じですが少し湿っぽいような内容になりました。時系列なんかは結構無視気味ですがお話の通り近々二人の関係は大きく進む予定なので楽しみにしてもらえると幸いです。ナハトと違い察しのいい読者の方々はおおよそどのタイミングで動くのかなんて察しがついてしまうでしょうがベタベタな展開が大好きな自分に付き合って楽しんでいただけると嬉しいです。
今回もここまで読んでくださり本当にありがとうございます。お気に入り登録、コメント、評価をしてくださり本当にありがとうございます!!
再計:システィーナのヒロイン追加について
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