ナハトが強敵との戦闘を始める頃
リィエルもまた侵入者と会敵する........だが、そこにいたのは想定していた天の智慧研究会の者ではなく――
「なんで.......あなたが、ここに.......?」
「くっくっくっ......久しぶりだねぇ、リィエル=レイフォード....元気にしてたかい?」
その侵入者は小馬鹿にするように、低く、昏く、嗤う。
がしゃり、と。リィエルが大剣を深く低く構える音が、広間内に寒々しく響く。その極端な前傾姿勢はさながら獰猛な猛獣が獲物を狙う姿を想起させる
...........が、今だけはまるで野生の獣が追い込まれ最後の抵抗を試みるように見えてしまう
「おやおや随分と血の気が多い。僕は別に君と戦いに来たわけじゃないというのに.......」
リィエルから放たれる殺気、闘気などの凄まじいプレッシャーそれらをまるですべてがそよ風と言う様に意に介していない
「ここに..........何の用?」
「君の足りない脳でもそれくらいわかるだろう?........ルミア=ティンジェルだ。彼女の身柄を引き渡してもらいに来た」
「なら........斬るッ!!」
リィエルはさらに構えを深くする
「ルミアは渡さないッ!私が守るッ!」
彼我の戦力差はリィエルと彼では絶望的だ。ナハトがくれば逆転........いや、対等に持ち込めるだろう。だがあとどのくらいで来るかわからない以上、リィエルとて如何に無謀な事かわかっている。
だが、それでも引くわけにはいかない。今の彼女にとってここは........彼女たちは...........グレンと同じくらいかけがえのない物だから――
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
おどけている彼の敵に対して走駆を開始する。幾度となく左右にステップを踏みその姿を無数に残像させ肉薄していく。
そして、侵入者とぶつかる寸前。霞の如く彼女の姿は消え失せる
その刹那――
周囲の壁と天井を三度、四度解ける音が響き渡って........
不意に侵入者の死角、頭上後方からリィエルが弾丸のような速度で飛来し、侵入者に斬りかかる。
まるで冗談みたいなリィエルの三次元空間機動。通常なら瞬き一瞬のうちに死角である頭上後方から斬りかかられるなど予想も対応も不可能。必殺確定なのだが..........
「〝読んでいたよ〟」
「―――ッ!」
が、男はステッキに仕込まれた細剣を抜くとその剛剣を見もせずに受け流す。
そして..........
「......〝
男が細剣を収める。するとリィエルの体は人たちも受けていないはずなのにも関わらず、全身に無数の斬痕が走り、血霞が派手に上がる
「どう........して?私は貴方の剣を喰らっていない......はず」
リィエルは理解不能な現象が身を襲う。信じられないことだ.........が、損傷は間違いなく現実のもので脱力したからだがそのまま崩れかける
「計算ではこれで戦闘不能だ............お休みリィエル。いい夢を」
侵入者はそのまま屋敷の奥へ消えようとしていると........
「うっ........ぐぅううううう............ッ!させないッ...........!!」
だがリィエルは歯を食いしばり倒れることを拒絶。意識を保つことに成功すると、全身を震わせ最後の力を振り絞り、大剣を握りしめ振り上げる
斬り刻まれたその体からは血が舞い、無理を重ね傷が広がる。だが、それに構わず彼女は全力を振り絞り諦めない.........
だが、無情にもそれは風切り音と共に打ち砕かれた
「君は誇っていい」
リィエルの顎にすさまじい速さと威力のカウンターの飛び膝蹴りが叩き込まれ遂にリィエルの体は地に伏せる
「それは〝読めなかった〟」
その声を最後に、心の中で愛しい者たちに謝罪の言葉を呟くと数々の外道魔術師を葬った《戦車》は意識を失うのであった
****************
「ルミア、大丈夫?顔色よくないわよ?」
「あ、..........うん......」
思いつめたように俯くルミアを気遣うシスティーナだが、ルミアは上の空だ。だが、それも無理はない。ここに来たものの目的は間違いなく彼女......ルミアなのだから。
彼女ほどやさしく思慮深い者に責任を感じるなと言うのが無理な話だろう。どうにか気を持たせるために何と言葉をかけるべきか思案していると..........
「いつか.......こんな日が来るとじゃないかって............思ってた」
「ルミア?」
不意にルミアがポツリと呟く
「でも..........私はこの優しい世界が好きで、いつも守ってくれるナハト君やシスティ、リィエルや先生たちに甘えてあと少しだけって先延ばしにしてた......」
「ッ!!」
「私.......とても狡くて、嫌な子だ.........私がいたらいつかこうなるってわかってたのに..........ごめんね、システィ..........やっぱり私がここにいるべきじゃ.......」
「ルミアッ!!」
システィーナは彼女の手を握り、いつになく悲壮な彼女を 咤するように名前を呼ぶ。
ここに〝彼〟がいないのなら親友の彼女を守るのは〝私〟の役目なのだと言わんばかりに力を込めて語りかける
「そんなこと言わないで!その先を言わないで!悪いのは貴女じゃない!悪いのは貴女を狙う悪い人だけよ!ナハトだって先生だってリィエルだってそう思ってる!勿論、私もよ。だから、それを間違っては駄目よ!」
「で、でも..........」
「大丈夫!大丈夫よ!リィエルの強さは知ってるでしょ?すぐに敵を倒して戻ってきてくれるわ!それにナハトだってすぐに来てくれるわ!あの、ナハトが誰にも負けるわけがないもの!」
ルミアはその言葉をかけてくれる親友の手を見る。その手は震えており彼女も不安で一杯なのだと分かる。だからルミアは無理に笑みを浮かべながら相槌を打つ。
「そう.....だよね?きっとリィエルが上手くやってくれるはず.........だよね。それにすぐにナハト君だって........」
こっ..........
すると靴音が、食堂の扉の向こう側から、小さく聞こえてきた。
「り、リィエル.......!?リィエルよねッ!?」
だが.........返事はない
こっ.....こっ......こっ靴音は淡々と食堂に近づいてくる
「リィエルなんでしょッ!?お願いッ!返事をして........ッ!?」
こっ.....こっ......こっ靴音は靴音は次第に大きくなりながら近づいてくる
そして.........
「あ..........う、嘘.........でしょ?」
それに気が付いてしまったシスティーナは顔を青ざめる。それはリィエルの足音などではなかった。リィエルの足音は小動物のようにもっと軽いのだ。
彼女が裏切り逃げるなどありえない..........それすなわち彼女が.........
狼狽する。あのリィエルが負けたのだ。ナハトにも勝るとも劣らないほどの彼女が侵入者に敗れたのだ。蹲って蓋をして逃げ出してしまいたい
けど...........
『システィーナなら大丈夫だぞ?システィーナは俺よりすごい才能を持ってる。だから自身もちなよ..........な?』
ナハトいつか自分に言った言葉を思い出す。
彼は私を信じてくれている。彼は私なら大丈夫だと信用してくれている。
彼が必ず守ってくれる。
(きっと、この敵には私はかなわない.........私一人じゃ太刀打ちできない.........でも!ナハトはッ!ナハトならどんな相手でも絶対にあきらめない!!なら私だって!!彼の親友として恥じないようにできることをしなくちゃ!!)
震える膝はそのままに........彼女は恐怖を抱えながら立つ
「下がって..........ルミア」
ルミアを背にかばい彼女は聞き取られないように詠唱を始める
「《集え暴風・――》」
こっ...........こっ...........こっ食堂に近づいてくる足音を頼りに丁寧にタイミングを計る
何時かナハトも早朝の鍛錬で言っていた。ここぞというタイミングを逃すな、と。どんなに高度に極められた技術も最後は繰り出すタイミングがすべてだと。最適なタイミングをすべてを以って逃すな、と。
(大丈夫.......私ならできる.........私ならできるのよッ!!)
「《――・戦槌となりて・――》」
音をたてぬよう制御し、魔力を練る。ゆっくりと丁寧に........
こっ..........がちゃ
ほんの僅かに扉が開く瞬間、隙間が見えた瞬間に――
「《――・打ち据えよ》ッッッ!!」
システィーナは力強く、呪文を唱えきる。至近距離から放たれたそれはまるで大砲のような爆音とともに扉の向こう側の襲撃者もろとも捉えたかのように思えた。
だが............
「ッ!?(居ないッ!?)」
扉の破片が零れ落ち、その先にいるであろう侵入者の姿はなく――
「.......〝読んでたよ〟」
襲撃者は軽く破片の山の上に降り立つ。その侵入者はその場で一瞬で天井まで跳躍しそのシスティーナの攻撃をやり過ごしていたのだ
「やれやれ、君と言いリィエルと言い随分会挨拶じゃないか」
燭台の揺れる明かりでその侵入者の男の正体がわかるとシスティーナは震えた声をのどから零す
一見するとその男の見た目は理知的な紳士そのもの。だが、その瞳にはどす黒い狂気を宿している。人でありながら、その『在り方』を完全に外した『外れた存在』。
「久しぶりだね。システィーナ=フィーベル。君に会えて嬉しいよ」
「じゃ、ジャティス=ロウファン..........ッ!?」
全くの想定外も良いところの相手だった。天の智慧研究会ならわかる.....が、彼はその件の組織を目の敵にしているのだ。そんな彼がどんな目的でと思案するうちにシスティーナはあの時の再戦.......すなわち自分が目的なのかと考える。
だが.........
「安心しなよ。今日の目的は君やグレン、ナハトじゃないよ...........僕が用があるのは彼女、ルミア=ティンジェルだ。いや、エルミアナ=イェル=ケル=アルザーノ王女殿下..........身柄を預かりに来たよ」
(じゃ、じゃあナハトが襲撃されてるのは一体..........この人が天の智慧研究会と組むわけがないし.......でも、タイミングが出来すぎている.......)
システィーナは彼の登場とその目的でこの状況が混沌としてきているように思えた。それこそまるで複数の思惑が蠢いているようにすら思え、それらすべてがどこかで合致しているような不思議な感覚だ。
「ジャティスさんと、仰いましたよね?貴方の目的は.......一体何ですか?それにリィエルをどうしたんですか?............返答次第では........私、貴方を許しません」
凛然とそうルミアが問を投げる。その上あろうことか戦う魔術をほとんどしたない彼女が戦うための構えを見せたのだ
そんな、姿にジャティスは一瞬目を見張り.........
「くくく.........流石だね、ルミア=ティンジェル。........流石はあの方の血だ。いずれは根絶せねばならない、汚れた邪悪の血だが..........その気高さ、誇り高さには、敬意を表そう」
愉しそうに笑うと彼は居住まいを正して質問に返答する
「リィエル.......彼女には少し眠ってもらっている。彼女みたいに頭の足りない猪がいると話が進まない」
「.....ッ!?」
「それに目的は言ったよ、ルミア。僕と一緒に、来てもらう.........何、君に危害を加えるつもりはない......ただ君に協力してもらいたいことがあるんだ.......」
「協力........?」
彼の口から意外な言葉が出てルミアもシスティーナも硬直するしかなかった
「さぁ、来い、ルミア。君に拒否権は...........、..........おや?」
「.....させ........ないッ!ジャティス!!」
システィーナはルミアを庇う様に立ちふさがる
「ルミアは.......私が守るッ!!連れていかせるもんですかッ!!」
「し、システィ!だ、ダメだよ!」
「ルミアは下がってて!!!」
システィーナは恐怖と緊張に震えていた。その翠玉の瞳は今にも脆く崩れ落ちてしまいそうであった.........だが、大切な人を守ろうとする強い光が灯っていた
「............」
ジャティスはそんなシスティーナの瞳を、眩そうに見つめしばし黙り込むと.......
「くくく.........くははは...........はっはっはっ.......あっはははははははははは―――っ!」
やがて、肩を震わせ、嗤い始めた。
「何が.........おかしいのッ!?」
「いやぁ、何嬉しくってねぇ!?以前の君なら立ち向かうなんてできやしないナハトやグレンに縋りついて泣くだけのクソガキ同然だったろうにねッ!?成長したね、システィーナ=フィーベルッッッ!!!」
煽るようでいて心の底から賞賛と嬉しさを表すように笑みを浮かべるジャティス。その感情の高ぶり、またシスティーナもその歪んだ笑いと図星を突かれたように頭に血が上ったことで二人とも気が付かなかった。
〝彼〟の到着に...........
「うるさ「あぁ、彼女の成長が嬉しいのには同感だねクソッタレ」.........え?」
反論と共に詠唱しようと左手を掲げようとした直後、突如として聞こえた声。そしてその声の主はいきなり眼前に現れると神速の速さでジャティスとの間合いを詰める。ジャティスも冷静になりステッキの細剣を引き抜こうとするが........
パシッ!!
乾いた音共に遠く得弾き飛ばされると同時にジャティスの視界は急激に移り変わり、システィーナ達を見上げる視点へと変わる。すぐさま立ち上がろうとするが、頭を地面に押さえつけられ首元には剣があてがわれる。
「これは..........〝読めなかった〟」
「それは嬉しいね.......急いだかいがあるってものだ」
第三者の介入.........そう、彼は――
「「ナハト(君)ッ!?」
「二人とも待たせたね..........で、来てるのがまさかアンタだとは思いもしなかったよ」
ナハトが今にも下手なことをすれば問答無用で首をはねると言わんばかり眼光で睨みつける
「君もまた随分と成長したね...........少し前の君よりも飛躍的に速くなっている」
「お褒めにいただき光栄だ.......で?アンタは何でルミアの協力がいるんだ?あの組織相手なら別にアンタ一人でもどうこうできるだろう?」
「へぇ..........君は随分と僕の事を買ってくれてるみたいで先輩として嬉しいよ。でも君ならある程度は推測がついているんじゃないかい?」
「............ルミアの異能だな。恐らく何らかの大規模、或いは消耗の激しい魔術講師が前提になる事態が起きているってとこか?」
考えられるのはまずそれだけだ。もし仮にルミアをどうにかする気なら俺がいないときにどうこうしようなんてことをする奴じゃない。それこそルミアの生死をかけて殺試合をしようなどと提案するぐらいのことはするだろう。
そして何よりコイツは天の智慧研究会を毛嫌いしている。間違いなく奴らの思惑阻止に動くはずだ。そのためにルミアが必要と言うのならルミアの異能以外に目的は思いつかない。
「くくく.....流石はナハト。正解だ...........君にも協力を仰ぎたいところだが...........そう言うわけにはいかないだろ?何せいま君の本体は相当厄介な相手と戦闘中のようだし、今分身に割ける魔力は少ないだろうしね?」
「...........知ってるのか」
「あぁ、勿論。だが、戦闘を始めるのはもう少し後だと思っていたが........随分と派手に
「言っただろ?急いだ、と.........」
「くくく.......君は間違いなく帝国最速の男だよ。まぁ、でも流石に君も二人目は来れなかったみたいだねぇ?」
「そこまで知っているなら事前に誰か一人くらい相手してほしかったものだな............」
そう愚痴るナハトは少し前の事を思い出していた
*******************
フィーベル邸に辿り着く直前、フェジテへ続く街道の途中での出来事だった。
「どうやら相当俺をフェジテに入れたくないみたいだな」
フェジテが間近な街道の途中、そこに現れた三人の影とナハトの分身二人が相対する
「我が作品を愚弄した貴様は一生我が実験道具にさせてもらうぞッ!!」
「この拳で貴様を打ち砕く..........《破》ァッ!!!」
「今度こそ私の下僕の糧にしてあげますよッ!フレイ=モーネッ!!!」
(二人作っといてよかったぞマジで..........)
もしここで二人作っていなかったら、こんな手は使えなかっただろう.......
「悪いが任せたぞ」
分身の一人がそう言うとその姿が掻き消える。
ナハトには時空間魔術がある。最初に使わなかった理由は単純に距離がありすぎたためである。距離があればあるほど消費魔力は比例するように吊り上がる。本体が厄介な相手と戦闘を開始している以上魔力の消耗は避けたかったためにこうして街に近づくまで温存していたのだ。
(幻術で一気にと行きたいが.......ゼトがいる以上警戒されてるよな.........)
切り札たる【幻月】はこの状況下では魔力消費もそうだが、精神防御を必ず突破するという特性は併せ持たない為に失敗したらしばらく魔術が使用できなくなるリスクもあるためにどうにか正攻法で打倒するしかないようだ
「一人で相手するのは面倒だが仕方ない..........相手してやる亡者共」
魔力消費は抑え気味にと行きたいが.......三人も相手どらなくてはいかない事。そして、悪魔は基本三属性魔術は効かず、バークスは薬で再生能力があると来た。どれも一人一人なら突破は確実にできるうえ、対策もあるが三人もいると大変厄介なうえに面倒だ
(仕掛けてきてるのは十中八九急進派...........それもこの規模且つこの本気度と言い、相当大物あたりが動いてるとみていいだろうな)
だが、やることはいつもと変わらない。
敵を倒し、必ず尊き日常を守り抜く。
剣を握る手に自然と力がこもり、戦いの火蓋が落とされるのであった
[newpage]
ナハトには今回馬車馬の如く働いてもらいます。最近はどこかへっぽこ気味だったのでカッコいい主人公に戻ってもらいましょうw
あと10日もあればロクアカの画集vol.2が発売されますね。皆さんはご予約されましたか?自分は前回同様ゲーマーズの豪華版を既に予約済みですw今回のはイヴのタペストリーみたいなので楽しみです!
さて、今回もここまで読んでくださりありがとうございます!コメント、ブックマーク、いいねをしてくださりありがとうございます!
再計:システィーナのヒロイン追加について
-
賛成
-
反対