「..............」
「..............」
森の中...........二人の剣士はただ無言で剣を交え続けていた
その二人の剣戟は早く、速く、疾かった。
そこに介在の余地はなく、他者が入り込もうものなら刹那のうちに斬り刻まれるだろう超高度な剣戟の応酬を二人は涼しい顔でこなし続ける
(...........目が慣れてきたか............剣技に関しては私と同等レベルにはあるか.........)
(...........こいつの太刀筋も慣れてきた...........仕掛ける.........)
ナハトが経験してきた中でも三本の指に入る剣の勝負
勿論一番の苦戦を強いられたのは魔人。そして二番目は先のサキョウさん。そして今のは三番目...........二人は正面から斬り結べる分まだやりやすいがジークの剣は正面からまともに受けられない。斬撃の起動を正確かつ迅速に読み切り捌かなくてはナハトは今頃体のどこかとサヨナラしているだろう。
幾度も魔術や剣技の応酬で辺りの木々は切り倒され、焼き尽くされ、塵と化した戦場でここでは先にナハトが仕掛ける
「《偽典の導・真為る贋作・此処に在り》!」
ナハトが僅かに間合いを取った瞬間、三対の干将莫邪を投影魔術で作り出したそれを瞬時に投擲し、円弧を描きながら空を翔ける。それは寸分たがわず同じタイミングでジークを襲う
(計6本..........死角に加え、回避と剣で捌けない巧妙なタイミング........面白い.........)
ナハトの卓越した投擲技術で物理的な対処を不可能にさせ魔術による対処を強制させる。敢えて全方位に魔術で防がせるように仕組んだのは間違いなくジークの視界を塞ぐため........魔術で広範囲をカバーするデメリットでもある視界不良を狙っての一手だ
ならばこそだ...........
「《破滅の極光よ・輝け》」
ジークはどうせ視界が塞がれるならばと、高威力且つ広範囲魔術を展開し強引に辺り一帯を破壊の閃光で薙ぎ払う
ジークの魔術の強みは触れれば必殺な点に加え、光と言う性質上速さが強みだ。僅か一瞬で数十メトラ一帯をカバー可能であるため、ナハトに回避を許さず消し飛ばさんとするが.........
「ッ!(効いていない?いや、弾かれている?)」
ナハトは【月鏡】による魔術防御に重ね、獄炎を纏った状態で躊躇なく破滅の輝きを割って斬り込む
そして、二人は再び券を交えるかと思えば.............
(透き通った............幻術か.........)
が、それは幻で剣が空を切った。よく見渡すと辺り一帯をナハトが囲んでいる。一目ではどれも本物に見えるために無視はできず、恐らくは魔術を使った隙に幻影を作り出して攪乱して隙をつく策なのだろう。
本物がわからない以上、流石に厄介............なわけもなく
(猪口才な...........)
ジークがさらに魔力を込め魔術の威力を高めると幻は悉く消え去る。ジークの破壊の光は魔術さえも対象だ。この状態で幻術など無意味である。
(そして...........)
また、光を強めた時に見えた僅かな影をジークは見逃していなかった。魔術を消し飛ばした時に見えた影.........それはすなわち、実体の所在を示す記号である
鋭く踏み込み剣を振り下ろす、が────
(何?範囲外だと?)
ジークが踏み込んで切り裂いたと思えばそこにはナハトは居らず、そのうえ自身も魔術の効果範囲から出ていた。
ジークが今発動した魔術は発動した時点を中心として一定範囲を閃光で包むものだが、ジークの移動によって中心が移動するわけではない。その為、移動すれば抜け出すことは出来るわけだがジークがそれをど忘れするわけがない。
(幻術?だが..........)
ナハトが狙ったのは効果範囲から自身を引っ張り出すために自身に幻術を掛けたのかと考えるが、魔術で破壊した筈の幻術の可能性は考えにくい。否、ありえるわけがないのだ。ともすれば...........
(むっ?体が動かない.......だと?)
不意に体の自由が利かなくなり、足が何故か地中に埋もれ始めた。
その瞬間、頭上から獄炎を纏う刃を振りかぶるナハトが現れる。正面からもナハトが複数現れる。だが、それを全く意にも介さず薄く笑みを浮かべ呟く
「............よもや、端から幻術とはな」
その瞬間、世界の色は消え崩れ去る...........
そして、パズルのように組み立てられて現れた世界は色を取り戻し、現実にジークを結び付かせる
「......チッ」
すると目の前には〝月のアルカナ〟を片手に舌打ちをするナハトがいた
「一杯食わされたぞ..........私が幻術を掛けられたのを見逃すとはな........」
「今ので決めたと思ったんだがな.........」
ナハトは相手に幻術にかけられたという認識を与えずに、幻術を掛けるという超が三つつくような高等技術を行使してなおジークはそれを看破する。
「だが、失敗したな小僧.......貴様はそれを使ったらしばらく魔術は使えない」
そう、ジークはナハトの最強幻術の最大の弱点である数十分間魔術行使ができないことを知っている。嘗てナハトはこれをジークにかけたが、その際ジークの魔術で解呪されてしまったせいである。その間隔は幻術の起動時間に左右はされるが確実にあと十分は魔術を使えない事を既に知られてしまっている。
「確かにその幻術は私も一度破ったことがあるからと油断があったのは事実.......だが、まだまだ甘い」
同じ手を使う可能性は低いと考えていた分、ジークに油断があったのは事実でナハトもそれを見越してはいたが確実にピンチである
「さて..........年季の差と言うものを教授してやる小僧」
「...........」
魔術の封殺........その圧倒的なビハインドを背負ったナハトの顔には薄ら寒い
*************************
『第二の課題だ..........そうだねぇ.............君は〝僕がいいと言うまで、絶対に警備官に捕まるな〟.......これだ』
フェジテの街中でグレンは次なる課題を指示されるのだが........
「はぁ!?テメェがこの状況作り出しといて何言いやがる!!」
『手段は問わない。何だったら警備員を殺すのも、市民を人質に取るのも構わない。とはいえだ..............流石の君にも報酬がないのはかわいそうだからいいことを教えてあげよう』
「こんな時に何だってんだ!?」
グレンは街中をかき分けるように走りながら苛立ち交じりに問いただす
『くっくっくっ..........たった今ゼト、ヴァイス、バークスの三名はナハトが差し違えた結果斃れたよ。いやぁ、僕もあんな倒し方をするとは思わなかったからねぇ........良いものを見せてもらった』
「何ッ!?」
『君も生徒である彼に負けないよう頑張りたまえ』
確かにグレンにとって間違えなく吉報だ。だが、それと同時に腹が立って仕方ない。何せジャティスは知っていて何もしなかったのだ。ナハトにあてがわれた戦力を考えれば負担のほどを考えると怒りがわいてくるのは自然だった
「テメェ!?知っててナハトに全部押し付けやがって!!オメェならあの三人ならやれただろうがッ!?」
『おやおや..........僕を評価してくれてるみたいで嬉しいよグレン?でも、僕が動いているのはバレるのは色々と拙いんだよ。それに君もわかってるだろ?ナハトなら問題ないってね?』
そう.........問題はない筈なのだ。確かにグレンが心配するのも烏滸がましいのかもしれない。が、それでも教師としてそれを受け入れられるかは別だ。
『まぁ、確かにいささか大物が出張ってきている分悪いとは思っているさ..........くくくく..........でも、ね?僕はナハトの事を君の次ぐらいに気に入っているんだ。もし君がこの世にいなければきっと僕は彼に君と同じことをしただろう!』
まるで興奮するかのようにそう語り始めるジャティス
『彼は僕と対極にある〝悪〟だ!自身が守りたい者だけにすべてを捧げ、それ以外を冷酷に切り捨てる..........だからこそ強く、だからこそ斃れない!けどね?君と同じで彼は
そう、ナハトは大切な者の為に戦う。それ以外をナハトは冷酷に切り捨てられる。
故に〝悪〟
グレンのようにすべてを救う〝正義〟でなく、ジャティスの様に悪の根絶に殉ずる〝正義〟とは明確に相反する存在だ
(相変わらず意味わかんねぇ.........ナハトが悪だ?ンなわけあるかよ..........アイツは──)
『.........おっと、僕としたことがつい興奮して我を忘れてしまった。さて、グレン?ナハトの踏ん張りを無駄にしないよう今一度健闘を祈るよ』
その言葉を最後にジャティスの通信は一旦途絶する。忌々しい状況だが、ジャティスの言う通りナハトの奮戦に応えなくてはいけない
「白猫ッ!聞いてたな!?しばらく警備官と鬼ごっこだ!!ナビ頼むぞ!!」
『は、はいっ!!』
グレンはシスティーナにナビを頼みつつ街を走駆するのであった
**********************
「《破滅の極光よ・
奇しくもナハトはグレンと同じく、ジーク相手に時間稼ぎの鬼ごっこをしていた。
魔術が再度使えるようになるまでの時間、ナハトは森の遮蔽物を巧みに使い逃げ回り、時間稼ぎを選択する。
(..........一度当たったらおしまいの無理ゲー..........理不尽だよな、ホント..........)
時より、放たれる必殺の極光を躱しつつ身軽な動きで駆けまわる。ナハトからすれば足場が豊富で三次元機動で奇襲もしやすい森は戦いやすいフィールドではあるが、当たればそこで負け確定と言うのはいささか理不尽だ
腰のポーチから幾つもの小道具を取り出してはあたりに罠を敷設したり、投擲を繰り返してまともに捉えられぬよう工夫を凝らしていく
(バーナードさんにワイヤーの使い方教えてもらっといて正解だったな...........)
ナハトは木の枝を足場に駆け回りながら仕込んだ硬質ワイヤーを思いっきり引っ張ると、ジークの頭上の太い枝を斬り落とし妨害を仕掛ける。
「フンッ!」
だが、そんな木々をジークは己で斬り刻み処理し、ナハトを追いかけると...........
ヒュンッ...........
「ッ!!...........ッ!?」
今度は艶消しされた黒塗りのナイフがどこからともなく飛来する。しかもその投げナイフはその一投目のナイフの影を利用して更にもう一投あり、艶消しされた故に僅かに対応に送れたジークの肌を浅く斬る。
(まるで
ここまでの技術のほとんどは《隠者》のバーナード仕込みの物である。
カツン........
(何か足に.........拙いッ!)
靴に何かあったと思うとすぐさま後ろ大きく飛ぶとその場で大爆発を起こす。
逃げつつも爆破
「ッく...........これは........」
すると今度はいかにも毒々しい紫色の煙が後方から広がってきていた。厄介なことに毒ガスの準備までしていたことに内心で毒づきつつも口を覆い毒を吸い込まないように移動する。
(幻術発動から5分は経ったか........地の利を生かした器用な戦いと言いこうも遮蔽物があると厄介だな)
ワイヤートラップに爆破トラップ、果ては毒ガスと一つ一つは魔術師であれば対処するのはそれほど難しくはない。だが、複数を組み合わせたうえ超技巧を持つ相手のそれは魔術にも劣らない攻撃力を誇る。魔術が使えない時間をあの手この手で稼ぐだけでなく、攻撃的にこちらの命を刈り取ろうと動き続けるナハトに対して、現状の分の悪さを認めざるおえなかった。
(それに........そろそろ奴を見失いそうだ...........奴の位置が把握できなくなるのは状況を鑑みても絶対に避けるべきだろう.......)
故に、これ以上時間を与えるのは好ましくない..........
「..........いいだろう。最大火力で更地にしてくれる」
狂気的で愉快な笑みを浮かべるとジークは立ち止まり、魔術の詠唱を開始する
「《破壊の権化たる余が告げる・余が望むは終焉・万物の終焉なり・世界よ命じる・余の望む破滅を此処に顕現せよ》!!!」
その瞬間、眩い程の白亜の塔が森から天に聳え立つと、それは範囲を瞬時に広げ、辺りの森のすべてを包み込む。
そして────
「くっくくくくく.............久しく見る景色だ。これこそ私が求める景色..........嗚呼、なんて美しいッ!」
恍惚とした表情でジークが見渡す世界は正真正銘『無』であった
森に生けとし生けるありとあらゆる生命は死滅し、鬱蒼としていた森は見る影もなくなっていた
これこそジークを
「
「ですが...........私としたことが失敗しましたね。どうせならあの小僧には苦痛に歪ませてから壊そうと考えていたのですが..............残念」
そう、技の範囲・速さ。どれをとっても回避は許さない一瞬で、万物の命を刈り取る大魔術。もう既に更地となったここら一帯の様にナハトもまた塵すらも残さず消滅して綺麗さっぱり壊れてしまったようだ。
「さて........一応小僧を殺したら街に向かえと言われてますし、仕方ないですが行くとしますか」
ジークにとって重要なのは〝壊す〟こと。壊れた者らに一抹の興味もなかった。
揺ぎ無い一歩を踏み出し、街へ足を向けるジーク
だが.................
──────────ドスッ!
「は.............?」
乾いた音がよく響く。何もないが故にその音はむなしい程によく響く。
ジークは視線を下げると、そこには黒い炎を纏った剣が心臓を差し穿っていた。
「...........チェックメイトだ。ジーク=へレス」
そして、その音を起こした人物の声もまた残酷なまでによく響く
「~~ッ!?ゴフッ........!?!?!?」
ジークは口から滝のように血を吐くと静かに地に伏した
ジークには何が起きたかわからなかった。悪い夢を見せられてる気分だった。
それだけジークにとってあの魔術は大きな存在であり、切り札でもあった。
「な............ぜ...............」
ジークは魔術を発動したあの瞬間、今度こそ幻術にかかっていたわけでもなければそもそもの話、
なのに何故、〝ナハト〟が自身を見下しているというのか?
「お前としたことがぬかったな?俺はあの時【幻月】を使っちゃいない。あの時アルカナを持ってたのはブラフだよ」
「!」
そう、あの時ナハトは確かにジークに幻術を掛けていた。それは紛う方なき事実だ。だが、事実としてナハトは一度も【幻月】を掛けたとは明言していない
「まぁ、幻術を掛けられた感覚もなく、それなりの規模の幻術を掛けられた直後に
そしてその上での逃げによる時間稼ぎとくれば魔術が使えないから対処のしようがないと判断させるには十分だった。
だが、それでも疑問が残る。ジークの魔術は確かにナハトを殺していた。破壊の光は確実受けていたはずだ。防ぐ方法などあるわけがない。
「あぁ、俺が生きてるのが不思議か?それこそ【
ジークとナハトにある差。それはお互いの魔術の有効範囲だ。ジークは万物を破壊できるが法則と世界の理は破壊できない。だが、ナハトの切り札である【奇術師の世界・幻月】は人も無機物も魔術だろうと何にでもかけることができる...........そう、〝世界〟にさえかけることは可能なのだ。
ナハトは世界の理に〝自身が
(この小僧...........狂っている..........ッ!?)
ジークはすべてを今際の際に察するとナハトに対してそんな感想を抱く。
当然と言えば当然だ。何せ、ナハトはこの作戦の通り自身が死ぬことを良しとしているからだ。成功はしたとはいえ、死ぬことを許容するなどどう考えても正気の沙汰ではない。
〝正しく、狂っている────〟
「貴..........様..........は.........正気.......じゃ.......な.............」
恐ろしいモノを見るようにそんなことを呟きながらジークは再び眠るのであった
そしてナハトはそれを見届けると────
「ゴフッ!!ガハッ!!!................はぁ........はぁ.......っくぅ.....」
ジークのすぐ横で激しく血を吐いて倒れ込む。
ナハトとていくら万能ともいえる【幻月】があったとはいえ、強引に世界の大原則ともいえる〝生と死〟の理を捻じ曲げたのだ。それによる消耗は想像を絶するもので、これまでにない程の虚脱感と不快感が襲う。ある意味、【黒天大壮】使用後よりも辛い
その上、分身が【
(最悪......霊魂.........エーテル体をセリカさんみたいにやってるかもな.........)
そんな状態での無茶を重ねるような魔術行使はナハトの体を文字通り削って行われたものだった。現に、あの魔刀に斬られたセリカほどではないが霊魂に僅かながら損傷がある。
セリカほどまで酷い状態にはならないだろうがそれでも無理をすればナハトの魔術師生命は確実に終わるのは確かだ
(流石に今動くのは..........拙い....か......先生............すいませ............ん)
ナハトは直ぐにでも動きたいのは山々だが、もう既に体の感覚はほぼなく、ただ意識が暗転していくのであった
〝──ったく.....しょうがねぇ奴だな
それと同じくして、ナハトの懐にある〝鍵〟が仄かに輝きを放つのであった
今回はここまでです。ナハトへの刺客との戦闘は終えましたが、フェジテ最悪の三日間はまだまだ始まったばかりです。グレンもシスティーナもこれから見せ場がある分頑張っていきたいと思います!そして主人公であるナハトはかなりの消耗をしていますが、まだまだ働きます。なのでナハトの活躍をカッコよく描写できるよう頑張るので本作をこれからもよろしくお願います!
では、今回もここまで読んでくださりありがとうございます!お気に入り登録、コメント、評価をしてくださりありがとうございます!
再計:システィーナのヒロイン追加について
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