ロクでなしとチート主人公   作:graphite

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正義と英雄

 

『おい。起きろ~』ペチペチ

 

頬に衝撃を感じる。どこかで聞いたことのある声にナハトは自分がいつの間にか意識を失っていたことに気が付かされる。それと同時に──

 

「ハッ!早く街に...........ってアレ?ここって..........」

 

何故意識を失っていたのかと、自分のすべきことを思い出し、飛び起きる。だがそこは先程ジークとの戦ってできた更地ではなく〝夜〟と話した謎の空間だった

 

『よう?よく寝れたか?』

 

「夜............なんか用か?何となくだがお前ならもう今の状況わかってるんだろ?俺は........」

 

すると見下ろすようにするのは案の定仮面をつけた夜がいた。赤い髪と言い何と言うか既視感を感じさせられる。ただ、今回は直ぐにここから出せと言わんばかりに俺はおざなりに返すと............

 

『まぁ、待て。ここの時間の流れは少し変えてあるから向こうだとまだ(お前)が意識を失ってから10分程度しかたってない。ここではもう3時間くらいは過ぎてるけどな』

 

「..........つまりお前がどういうわけかこっちに呼んだおかげで時間のロスは最小限ってわけか」

 

『そう言う事。ついでに(お前)の魔力と馬鹿な魔術行使で損傷した霊魂はこっちで治療しておいてやった。魔力の方はまだ全快まではしてないが7割くらいは戻ってるはずだ』

 

「助かる。直ぐ、フェジテに飛ぶつもりだったからさ」

 

『どういたしまして。さて、さっそく戻してやると言いたいところだが.........その前に(お前)に聞かないといけないことがある』

 

そう言うと先程までの雰囲気から剣呑な雰囲気になる。それはまるで立ち合いの様でナハトは後方に飛び、腰にある愛剣に手を這わせる。

 

元々、ナハトはこの〝夜〟に対して当然警戒心がない訳じゃなかった。まるでどこか自身と似た雰囲気を感じるせいか気味が悪く、それでいて穏やかな物腰ではあるが自身よりもやり手であろう感じがしていた。だからかすぐにでも戦闘を考慮した姿勢を取ると............

 

『おい待て待て!戦うつもりなんてないって!確かに多少殺気は出したが俺の事警戒しすぎだろ?』

 

(まぁ、戦って勝てる相手じゃないだろうしな...........少し過敏に反応しすぎたか)

 

ここは相手の領域な上、恐らく正面切って戦っても勝てないのはナハトの魔術師として培われた勘が告げている。もう一度夜の前まで移動する

 

「ったく..........誤解するようなことするなよな?」

 

『はいはい........まぁ、聞きたい事っていてもそう堅苦しくはないさ。ただ.......』

 

夜は仮面をつけてるため表情はわからない。だが、数多の死線で培われてきたナハトの観察眼が夜が悲しみ、懐かしむような寂寥感を感じさせる雰囲気を感じ取る

 

(お前)は彼女の.........ルミアの為に死ねる(・・・)か?』

 

「は?いきなり何言ってるのお前?」

 

殺気を出してまでのその問いにも拘らず、重要性をまるで理解できずナハトは頭にはてなを浮かべ夜に真意を問う

 

『...........(お前)は遠くない未来..................世界を救うという使命(・・)に殉じなくてはならない。.......その過程で(お前)は自身の存在と大切な全て(ルミア達)を天秤にかけることになる...............その時、(お前)が自身を賭せば(お前)が守りたいものは守れるだろう。だが、代償として(お前)は確実に死ぬ(・・).......................いや、誰の記憶も記録からも抹消され、世界からも(お前)は排斥される。用はこの世に何一つ残さずお前は世界から消える。ただ一つの例外を除いて、な?』

 

「例外、ね............それがお前はルミアだと言いたいのか?ルミアだけがそうなったとしても俺を覚えていると?」

 

余りの真剣さに何故かナハトは納得し、そうなるのだろうと思ってしまった。

 

『あぁ...........彼女は.........いや、彼女()(お前)を必ず忘れない。他のみんなは忘れても彼女だけは覚えている。彼女だけは深い悲しみを.........心に傷を負うことになる。それが世界の仕組みだとしても彼女を傷つけるは(お前)だ。確かに(お前)が死ねば彼女は物理的な意味ならば救えるだろう。だが、彼女の心だけは決して救えない...........(お前)ならどうする?』

 

「...........」

 

ナハトはかつて魔人との戦いまでは自分が死んでも必ず助けると考えていた。今もきっとそうだというのは否定はしない。彼女は優しいからその事で傷つくなんて言われなくてもわかっている。

 

だが、否定はしない(・・・・・・)が、今は確実にそれが一番だとは思っていないし、〝今〟のナハトは───

 

「なら、俺の答えはこうだ。ルミアの為に(・・)世界()救ってやる。そこに俺の犠牲なんてなく、完全無欠のハッピーエンドにしてやる。それが俺の答えだ」

 

(お前).........意味わかってて言ってるのか?天秤にかけなくてはいけないと俺は言った。どっちかしか──「知るかよそんなもん」......何?』

 

ナハトは馬鹿なやつをたしなめるように言う夜に割って答える

 

「俺の魔力特性(パーソナリティ)は『万象の支配・創造』。俺の在り方がこれだ。なら、俺がそんな天秤..........いや、世界の仕組みなんて悉く支配(・・)して、俺が望むままに結末を創造(・・)してやる。ルミアを悲しませない為なら理想を理想のままに世界だろうと何だろうと救ってやる」

 

魔力特性(パーソナリティ)はその人の在り方を示す。なら、ナハトはそうあるべきであり、ナハト自身そうありたいと望んでいる。

 

ナハトの自惚れでなければきっとルミアは自分が死ねばとても悲しむだろう.........そうでなければかなり傷つくとかいうのが多分にあるのは事実だが間違っていないと思っている。それはあの魔人との戦闘で分かった

 

だから、理想を理想のままに...........ルミアが幸せになれるならその夢想を現実にする。ナハトにとってそれが自身の役割。惚れた相手を悲しませたくない一人の男の意地である。

 

勿論そこにナハト自身のエゴがあるわけだが..............

 

『聞くまでもなかった、か..........何となくそうじゃないかとは思っていた(お前)は馬鹿だからな........』

 

「俺はグレン先生の様に〝正義〟を張れる男じゃない。ジャティスの歪んだ〝正義〟の様にこの世すべての悪を根絶しようだなんてのも思わない...........俺は、『正義の味方(・・・・・)』には絶対になれない」

 

そう、ナハトは『正義の味方(・・・・・)』にだけは絶対になれなない。

 

『正義の味方』は公正なのだ。僅かな偏りもなく、平等に人々を救い、悪を決して許さない

 

だが、ナハトは公平に人を助けるかと言われればそうではない。

 

確かに、宮廷魔導士(仕事)として多くの人を救っているのは事実かもしれない。だが、それはあくまでイヴの為(・・・・)である。唯一の肉親にして最愛の姉であるイブの助けになりたいからと必死に仕事をこなしている。

 

この時点ですでに偏りが発生している。そして、それは今もだ。ナハトが今戦うのはイヴの為...........そして一人の女性として恋をしたルミアの為。更には親友であるシスティーナやリィエル、クラスメイト。そして恩師のグレンやセラなどの大切にしたいと思った存在の為

 

『正義の味方』だけにはなれない。けど────

 

「だが、惚れた相手の為に英雄(ヒーロー)くらいにはなってやる。彼女の英雄(ヒーロー)としてついでに世界を救ってやる」

 

英雄(ヒーロー)』は普通では到底できないような偉業を為す存在。『正義の味方』はイコール『英雄(ヒーロー)』でなければ逆も然り。

 

だが、偉業を起こすことで望む者すべて守れるならナハトはそれを為すだろう。現にナハトの特務分室での功績はイヴの役に立ちたいという想いが大部分だ。

 

だから、ナハトは『正義の味方』にはなれないが『英雄(ヒーロー)』のはなれるし、必要とあらば偉業を為すために尽くすだろう。

 

まさに傲岸不遜.........餓鬼の夢物語だ

 

どれほどの力がいるかなんてわかったものじゃない

 

でも、それでいい。何も行動しないで無理だと決めつけるのは〝賢者〟のすることだ。合理的に判断して行動する〝賢者〟になんてなろうとは思はない。

 

『ふっふふふふ..........あっはははははは!!ホトン馬鹿だ........(お前)は.........違うな、〝お前(・・)〟は大馬鹿だよ.........でも、そうか.........あぁ、大いに納得だよ..................そうだなお前はなれるだろうさ英雄(ヒーロー)に』

 

満足そうに、憑き物が剥がれたかのように笑い勝手に一人で納得する夜。正直ナハトからすればウザいが........まぁ、口に出したことで意思も堅くなったわけで悪いことではなかった..........と思う。

 

『俺が聞きたかったことは聞けた。ほら行ってこい』

 

「言われるまでもない」

 

するとすぐにナハトはその世界から消えた

 

 

ナハトは決して正義の味方だけにはなれない。でも、ナハトは────

 

 

 

同じ(・・)癖に.........俺と〝お前〟はこうも違うのか.......ふっ..........だから、か........だから、有り得ない(・・・・・)存在である〝お前〟が存在しているのかもな』

 

苦笑を零す夜。その背中は清々しさを感じさせるのであった。

 

 

**************

 

 

グレンはひたすら逃げる。フェジテの街を【フィジカル・ブースト】や持てる技術とシスティーナのナビを頼りにひたすらかける

 

「ちょっと、殺意高すぎだろおおおおぉぉぉぉぉ───ッ!」

 

グレンを追う警備官らは躊躇いなく細剣を振るい、グレンを切り殺そうとしてくるのに対し絶叫しながら躱し、タックルなどを使って道をこじ開けまたひたすら駆けるを繰り返していく

 

だが、その先には──

 

「構え!!」

 

「げぇ!?」

 

視線の先には数名の警備官が隊伍を組み、銃を構えているのを確認する。

 

パーカッション式回転弾倉拳銃(リボルバー)。グレンが扱う魔銃ペネトレイターよりは小型で小口径だが、人間相手なら殺傷性は十分。

 

それに加え遮蔽物はなく、狭い路地とくれば..........

 

「撃てぇ──ッ!!!」

 

号令と共に並んだ縦列が一斉に火を噴く。グレンに殺到する無数の火線。

 

「ちっくしょぉおおおおおお──っ!!」

 

グレンは咄嗟に飛び、左の壁を蹴って跳躍し、更に右の壁をけることでさらに高く跳躍を繰り返し、華麗な三角飛びで建物の屋上に乗り移りさらに逃げる

 

ただ、一流の魔術師なら銃など唯の玩具に過ぎない。勿論使い方によるところはあるが魔術師なら飛び道具に対してはほぼ無敵とさえいえるほどには対策のバリエーションはある。だが、グレンにとっては魔術師以上に唯の銃........それも数をそろえて構えられるのは非常に厄介なのだ

 

(先行きが見えない状況で、限られた魔力を無駄遣いするのは自殺行為だ.........俺にも白猫やナハト位の魔力容量(キャパシティ)があればなぁ..........)

 

ない物ねだりしても仕方ないためグレンは必至に頭を回転させる。

 

だが、それこそグレンと言う魔術師の真髄。足りない武力を補う頭脳、頭の回転スピードとここぞというときに効く起点の良さ。グレンは普段はロクでなしだがそこだけはナハトやセリカにだって劣らないどころか勝るとさえいえる《愚者》最大の武器だ。

 

だからこそグレンはある事に気が付く

 

〝やけに統率が取れすぎている、やけに指示が的確過ぎる〟という事だ

 

グレンは今バーナード仕込みの手管を利用して追跡を巻こうとしているのにも拘らず、警備官は不気味なほどの統率感でグレンに追いすがる。それこそ一つの生物の様で明らかに異常である。

 

(..........おかしい。こうも統率が取れてるのはおかしすぎやしねぇか?)

 

ここで仮に相手が『通常』の場合ならと、次の予想包囲網を割り出す。その結果──

 

(.......あの通りを右折した先は、白猫のナビ通り確かにクリアな筈だ.......)

 

普通ならばそれを疑う余地はない。だが.........

 

「白猫。お前さっきあの道を右折したら二区まで逃げ切れるって言ったよな?」

 

『え?あ、はい。誰もいないことは遠見の魔術で確認しました』

 

「もう一度、その先の状況を確かめてくれ。多分駄目だろうが..........」

 

『えっ?』

 

システィーナはその言葉に戸惑いながら確認すると.......

 

『せ、先生.......おっしゃる通りいつの間にか回り込まれています.......っ!あれ?でも、なんで?さっきまで確かに誰もいなかったはずなのに.........』

 

システィーナが慌てて別ルートを探すというのを聞き、グレンはやはりなと考えていた。

 

いくらグレンの情報があっても余りに統率が取れすぎている現状にある可能性が頭をよぎり、嫌な予感を覚えると........

 

『やぁ、グレン?苦戦しているみたいだね?』

 

ねっとりとまとわりつくような嫌な声。グレンはジャティスの声に再び顔を怒りにゆがめる。

 

『おやおや、情けないなぁ...........まぁ、確かに君からすればああいう連中を相手にするのは難しいだろうが............』

 

ジャティスだってグレンが苦手とする状況だというのは百も承知である。だが、別に苦手と言うだけでグレンが突破できないかどうかと言えばそうじゃない。

 

『君がその気(・・・)になれば.........勝るのは間違いなく君だ..........ほら、見知らぬ警備員の一人や二人ルミアの為にやってしまえばいい。遠慮する必要だがどこにある?邪魔ものは排除してしまえばいい.............さぁ........さぁ!............さぁッ!』

 

そう、確かにグレンがその気(・・・)になれば容易とは言わないが突破するのは十二分に可能だ。いくら苦手とする状況とはいえ、グレンにはそれだけの能力はある。

 

悪魔の誑かすその囁きにグレンは────

 

 

 

「黙れえええええええええぇぇぇぇ──っ!!!!」

 

 

 

僅かにも揺すぶられることなく、グレンはそれを突っぱねる

 

「誰がテメェ如きの思惑通りになるかよッ!?ごっちゃごちゃがっちゃがちゃ、うるっせぇっ!!!何度も言わせんな、黙ってろッ!!」

 

そうしてグレンは駆けながら、凄絶に笑い言った

 

「俺は堂々と胸を張って、ルミア(お姫様)悪魔(テメェ)の魔の手から救うんだよッ!ナハトがいねぇ今俺がアイツの大事なもんを全力で守るんだよッ!!あぁ、もうナハトがいなかったらルミア俺にベタぼれだったろうな!!ナハトにもルミアにももちろん白猫にも後ろ暗いもん背負わせることは死んでもできるかってんだよッ!!」

 

以前のジャティスの襲撃時や、社交舞踏会の時の轍は踏むまいと..........ナハトにグレンは笑ってこっち側()で胸を張っていて欲しいという願いがグレンをひたすら突き動かす

 

『────ッ!?』

 

「それよりもテメェは自分の心配しとけッ!テメェはこの俺が...........いや!ナハトと俺で直々にぶちのめして、泣かす!覚悟しろッッ!!」

 

暫くの間

 

言葉を失ったような雰囲気を通信魔導器越しに伝わる.........

 

『それでこそ君だ!!』

 

すると昇天したかのような歓喜の声が上がる

 

『やはり、僕の目に狂いはなかったッ!!そうだよッッ!!君はそうじゃないといけないんだッッ!!どんな困難を前にも君はそうじゃなくてはいけない!本当にすまない、君を試すような真似をしてしまって!あーはっははははは!』

 

「........もう、マジで何なのお前?死ねよ」

 

もう怒りなんて通り越して呆れるしかできないグレンがそうぼやくと、今度はシスティーナの逼迫した声が上がる

 

『せ、先生!大変です!いつの間にか囲まれてます!!』

 

「何だとッ!?」

 

『今、先生が居る場所に続く道すべてに警備官が先回りしてきています!』

 

「.......他には?続けて、俺を囲む警備官の配置を片っ端から教えてくれ」

 

システィーナはその言葉に答えるように必死に配置を告げている中、グレンはそれを脳内の地図にイメージしていく。そして疑念は確信へと変わる。

 

(どんなに指揮に優れたやつでも、埋められないタイムラグはある。.........それはイヴだって同じだ。警備員を見る限り自由意思のない傀儡......上層部の指揮官が部下に暗示を魔術をかけて追ってきてるってことか?ナハトかよ.........きつすぎね..........?)

 

特務分室で事暗示や幻術と言えばナハトが一番に上がる。それは勿論固有魔術もあるが掛ける方法やタイミングなどのそれが戦闘に特化されている上、当然ながらそのような手法を思いつく知識面でもそう言う分野では帝国でも群を抜いていると言えるだろう。

 

そしてそのナハトが相手に幻術にかけられた自覚なしにでもかけられることや、ある程度の規模で無意識化の意思統一も可能だと言っていたこともあり、考察に関しても疑う余地はない

 

『さて、それでは課題も佳境だ。君の啖呵に違いがないことを心から期待しているよ。じゃあね』

 

そうしてジャティスの通信が切れる。すると今度はシスティーナの焦燥と落胆の声が聞こえてくる

 

『せ、先生.........どうしよう..........このままじゃ.......』

 

「そうだな.........接敵は約三分後。その後は、後続になし崩し的に追いつかれ逮捕..........いや、逮捕で済めばいいが」

 

『ご、ごめんなさい.........私の力が足りないばかりに.........』

 

だが..........

 

「まだまだだな白猫」

 

グレンはにやりと笑みを浮かべそう言う

 

「この程度のピンチでもう音を上げるのか?ナハトならこの程度じゃ絶対に上げねぇぞ?それに、こんなの軍時代の俺からすればピンチのうちにも入らねぇぜ?」

 

『で、でも........遠見の魔術で何度も辺りを見渡しても逃げ場はもう..........それに、その辺りには隠れられるような場所も、下水道もありませんし.......』

 

「まぁ、ねぇわな」

 

さも当然だと言うようにグレンは答える。

狼狽しているシスティーナだが、グレンはどこまでも普段通りの様子で言う。

 

「なぁ、白猫。今から俺が言うものがこの一帯にあるか見てくれないか?まずは.......歩道橋に不自然に真新しい石畳がないか?特に交差点あたりに」

 

『石畳........?真新しい..........?』

 

「他には長方形の石で細長く舗装されてる道路とか赤くて丸い看板が残っている建物とか.............多分どれかは高確率であるはずなんだが..........あったら位置を教えてくれ」

 

『.......え、えっと?何ですか......ソレ?』

 

システィーナは困惑しながらもその指示に従い、グレンの言われた通りの物を探していく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何!?グレン=レーダスを見失っただとッ!?」

 

フェジテ西地区某所。

人気のない住宅街で驚愕に震えた声が上がる。

 

その声を上げた人物はフェジテ警邏庁警備官、ユアン=ベリス警邏正でありグレンの制圧を指示していた本人であった。

 

何にそこまで驚愕したかと言えば、部下からの報告である。グレンを追跡していた部下が、逃げ場もなくなるよう完璧に包囲した中から忽然と姿を消したという報告が上がったのだ。

 

そして、そんなユアンは急いで地図を広げて自身の指示した配置に抜け穴がないか探る。万が一にもあの状況で取り逃がすなど想像もできない為、ユアンの理解が追い付かない。

 

「くっ............!ならば地下だ!《命令(オーダー)》だ!今すぐ周辺の下水道設備の入り口を徹底的に封鎖して────」

 

『し、しかし周囲には下水道に通じる入り口はありません!』

 

「なッ.......!?........チッ、ならばくまなく探せッ!!」

 

通信機越しに激を飛ばすような指示を入れて通信を切る

 

「.......クソ、隠形を重視して指揮に徹し、表立って動かなかったのが裏目に出たか?だが、しかし一体奴はどこへ..........?」

 

成功を信じて疑わなかった分狼狽しながらどこでミスをしたかと家庭を脳内で精査していると.......

 

かつん............

 

かつん.......かつん...........

 

昏い路地裏に靴音が響く

その音は確実に近づいており、ユアンは振り返る

 

「こんにちわ。ようやく見つけたよ、ユアン=べリス警邏正」

 

そこには山高帽とフロックコートを纏った奇妙な青年が姿を現した

 

「な、何者だ貴様ッ!?」

 

「フェジテ警邏庁に組織の内通者がいることはつかんでいたが.......その内通者が、暗示魔術で警邏庁の半数以上支配しつつあったことも」

 

青年はユアンを無視して続ける

 

「だが、誰が内通者かはつかめなかった..........君の暗示魔術と隠形は完璧すぎた........僕にそれを掴ませなかった手腕は称賛に値する」

 

「だが..........」

 

その青年は狂気的な笑みで顔をゆがませる

 

「驕ったな、ユアン。君は愚かにも暗示魔術を使い指示を出した(・・・・・・・・・・・・・).........それをやれば必ず警備隊の動きに不自然な動きが生まれる。なら、指揮系統を洗えば必ず支配元に辿り着ける........そう言う意味では君は《月》の恐ろしいまでの改竄力には遠く及ばない。こうなることは読んでいたよ(・・・・・・)天の智慧研究会ぃ......はは、はははは」

 

低く響く壊れた嗤い声。

その異様な圧力は暴力的なまでにユアンを殴りつける。

 

この男だけは拙いと第二団(アデプタス)地位(オーダー)》であるユアンをして、そう思わせる闇が、その青年から滲み出していた。

 

「何の事だ.....?天の智慧研究会?私は、警邏庁の.......」

 

「御託はいいよ、屑が。ただ、死ね。ゴミの様に」

 

ゆるりと左手を振りかざす青年───ジャティス。

 

「チッ........」

 

それを警戒して後ろに飛び、距離を取りつつ攻性呪文(アサルトスペル)を唱えようとしたユアン。しかし──

 

「ぎゃああああぁぁ」

 

突如、空間に盛大に咲いた血華。

ユアンの後方から隊伍を組んで飛んできた無数の天使たちが、その手に持つ槍でユアンの両腕両足を串刺しにし、地面に張り倒していた。そして、その槍には赤い稲妻が滾り、それが伝わってユアンの体を戒める

 

「ぎゃああぁぁぁぁ!なんだッ!?体が動かない.......ッ!?」

 

昆虫の標本の如く、地面に縫い付けられたユアンは悲鳴を上げる

 

「くっくっくっ.......人口精霊(タルパ)彼女の御使い(ハーズ・エンジェル)・磔刑》.......その槍に貫かれた気味の行動は魔術的に封殺された」

 

そしてジャティスは仕込みステッキから細剣を抜くと、冷酷にそれをユアンの眉間に突きつけ構える

 

「ひ、ひぃぃぃ!?た、助けてくれえぇぇぇ!い、命だけは..........」

 

「おや?なら、君は自分の罪を認め、懺悔し、悪事から足を洗うと..........誓えるかい?」

 

「ち、誓う!だから、命だけは.........!」

 

するとまたジャティスは笑い.........

 

「なら、僕の質問に正直に答えてくれたら救ってあげるよ」

 

「ほ、本当か!?」

 

「あぁ、では問おうか........二個目の『マナ活性供給式(ブーストサプライヤー)はどこだい?』

 

「──ッ!?」

 

ユアンの表情は真っ青になる。

 

「ここの区画は君だろ?いやぁ、参ったよ..........《月》がいてくれればまだやりようはあったんだけど........君の隠形は完璧すぎでねぇ............一個目は簡単だったんだけど二個目は中々見つからなくて」

 

「な........まさか貴様がッ!?」

 

するとざくり、とユアンの左目をジャティスの細剣が突き刺す

 

「ひぎゃああああああ!!!」

 

「早く答えてくれないかい?僕.......忙しいんだけど?」

 

 

 

 

「リントン公園の東側の藪の中に隠蔽をかけて隠してある.........そうだろ?」

 

 

 

ジャティスが尋問をしていると第三者の声が聞こえる。ジャティスとルミアが振り返るとそこには........

 

「へぇ............思ったよりも早く着いたね?ナハト」

「ナハト君!」

 

ナハトが音もたてずにそこには立っており、ジャティスはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべルミアはどこか安堵したようにナハトの名前を呼ぶ。

 

「事前にルミアに【飛雷神】のマーキングをしてたからな...........そいつの記憶を【幻月】を改変して記憶を読み取ったから間違いない」

 

ナハトは魔術で瞬間移動をした後、直ぐに【幻月】を限定的に使いデメリットが発動しないように記憶を読み取った。ジャティスは言うまでこのまま嬲るだろうことは想像できたため、ナハトはルミアにそう言う場面を見せるのを嫌い合理性には欠けるかもしれないが魔術を行使することを選択した。

 

「くっくく.......君の幻術ならば違いないだろうねぇ。いやはや、君なら手間もかからず情報が引き出せるから助かるよ」

 

「それはどうも.........それよりあまりルミアにこういうものを見せないでくれないか?貴方ならもっとやりようはあるだろ?」

 

「君も変わったねぇ?昔なら...........いや、辞めておこう。君の尊厳の為にも、ね?」

 

ジャティスが言わんことはわからないわけがない。恐らく昔の俺なら魔術を使わずに同じことをしたかもしれない。いや.........確実にしていただろう。

 

「はぁ..........この男は後で身柄はこっちで預かる。労力に見合う大した情報は得られないだろうが.........胸糞悪い光景を見せるよりはるかにマシだ」

 

「くくくく..........さて、ナハト。君には戻って来て早々だがまたもう一度今回はグレンと共に強敵の相手を頼みたい。グレンなら大丈夫だとは思うが相手が相手だからねぇ」

 

「..........わかった。誰が来てるかは知らんが倒さないと拙いんだろ?ルミアは悪いけどもうしばらくはこの人と行動してくれ.............ホントは俺が連れていきたいところだが...........」

 

恐らくは相手は相当な手練れだと予想できる。グレン先生は大物相手に強いが..........基本的には弱い。その上、相手が【Project : Revive Life】によって甦らされた相手ならば初見殺しの不意打ちを得意とするグレン先生を警戒していて当然だ。格上との戦闘も考慮するとルミアを強引に連れていくよりもまだジャティスといてもらう方が安心なのが理解はできるが納得はしがたいもがある。

 

「うんうん..........私は大丈夫だから。グレン先生を助けてあげて」

 

そしてルミアも今ナハトについていくのは自身が足手まといになることが想像できる。その為、ナハトを送り出す。

 

「さて、今回の件もこれから佳境だ.............気張ってくれよ?ナハト」

 

「言われるまでもない..........だが、あとで覚えとけよ?それとわかってるとは思うがもし、ルミアに何かあったらその時がお前の破滅だと思え」

 

「くっくく........まぁ、安心したまえ。ルミアには誓って手を出したりなどしない.........最も君がそれを許すわけがない。そうだろ?」

 

ナハトは調子よく言うジャティスをひと睨みするともう一度ルミアに声をかける。

 

「ルミアの事も先生もシスティーナ達も俺が守る。だからもう少しだけ待っててくれ........不安にさせてすまないな」

 

「平気だよ。私はナハト君の事を誰よりも信じてる..........だから頑張ってね?」

 

ナハトはルミアの言葉に笑みを零し、いつもの癖の様にルミアの頭に手を伸ばしたと思いきや、不意にとめる

 

(..........俺今までこれ素でやってたのか?馬鹿だろ?)

 

現在ナハトはルミアに対して恋心を自覚したせいか途端に今までの事が恥ずかしくなり、その行為を止める。そしてそのままばつが悪くなり自身の頬を掻こうと手を引っ込めようとすると..........

 

「る、ルミア?」

 

ルミアが引っ込めようとした手をグイっと引っ張るとそのまま自身の頭にのせる。ナハトはそのことに驚き戸惑う。

 

「撫でてくれていいんだよ?」

 

「........そ、そうか.........まぁ、アレだ......ルミアが不安にならないようにな?他意は..........ない」

 

「うん♪」

 

まるで見透かされたようなルミアの態度がこそばゆくなりながらもナハトは少しの間そうして今度こそ立ち去っていく。脇目で見たジャティスの顔がウザかったのでこの件の終わりにはその顔面に全力の拳を叩き込もうと心に決めるのであった。

 

 

こうしてまたこの事件.............ひいては舞台に立つ役者たちの運命の歯車は確かに動き続けていくのであった

 

 

 





今回はここまでです!ちょっと遅くなってすいません!これから大学も始まる上バイトも時間がの似てくるのでまたスローペースになりますが頑張って更新していく所存なのでよろしくお願いします!

さて今回もここまで読んでくださりありがとうございます!お気に入り登録、コメント、評価をしてくださりありがとうございます!

再計:システィーナのヒロイン追加について

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