前半は調理小説かな?
ビーフシチュー食いたくなってきた。
「まずは………さて、どうしようか?」
俺はやって来たキッチンで
件の幼女のメイド育成計画を考えていた。
ノープランである。
まずはあの狂暴な獣を人間に戻さねばなるまい。
なら…………そうだな。
「まずは胃袋を掴む所からだな。
餌付けしてから落ち着かせて知識を与えよう」
この寒い地域で胃袋を掴むのに必要なのは、そう。
身体(と、ついでに心)を暖めるスープである。
シチューのようなものだ。
折角町に出て買い出しをしてきたのだ。
牛肉はまだ結構あった筈だし、
牛肉を使ってビーフシチューでもどうだろうか。
妹様も好物だし。
「よし、作るか」
時間は少し早いが、煮込むのにも時間をかけよう。
ほぐして柔らかくなった方が
ちゃんとした飯食ってなさそうな
彼女には丁度良いだろうしな。
買ってきた物の入った木箱から
タマネギ、じゃがいも、人参などの野菜を(洗い)、
倉庫から数人分の牛肉を取り、
まな板の上に並べてサッサと切っていく。
…………そういえば紅魔館には幼女が多いが、
何か縁でもあるのだろうか?
何気に美鈴、あの司書、俺は例外、
残った3人は全員幼女である。
「~♪」
演劇で聞いた曲を鼻歌にしながら、
コンロに火を入れ、調節。
フライパンに少し水を入れて、
そこに野菜を投入し、
蓋をして弱火で軽く1分ほど蒸す。
肉には塩を揉みこみ、軽く胡椒を振る。
そして別のフライパンに置いてバターを乗せる。
ちょっと焼き色がつくまで強火で焼く。
蒸していた野菜も火を中火に切り替え、
タマネギに色がつくまで肉と同時に炒める。
「………思えば料理の腕も板についてきたな」
雇われたのは10年前だっただろうか。
今の主であるレミリア・スカーレットに
元々は用心棒として腕を買われたのだった。
そしてこの屋敷で美鈴から様々なことを学んだ。
最初、家事は殆どがダメダメだったものだが、
さて、アイツはどうなのだろうか?
2つのフライパン作業を火を消して同時に置き、
次は鍋を棚から取り出す。
水を注ぎ、強火で沸騰させる。
沸騰してから赤ワインを投入し、
アクが出たのを見てからそれを取り、
野菜と肉を(じゃがいもを除いて)纏めて投入。
弱火に切り替え、ここから蓋をする。
フライパンはもう使わないので
蛇口を少し捻って水を出したシンクに放る。
「2時間は煮込むかね………さて、どうするか」
やることがない。
幼女はまだ寝ているだろうし、
美鈴は行ってもイラつかせるだけだろう。
…………ならば選択肢は2つ。
1.図書館に行って本を読む。
2.妹様の所で遊ぶ。
「……………妹様と遊んだら
時間に出られなさそうだな………なら図書館か」
結果は1に決定。
なんかすいません妹様。
というわけで図書館に行くことに。
もしかしたらメイド育成論とかあるかもしれん。
何でもあるらしいし。
「というワケで、失礼しますよ」
「失礼だと分かってるなら出ていきなさい」
「そんなんだから友達できねぇんだよ」
軽口を交わし、本の整理をする司書、
紫色の少女…パチュリー・ノーレッジを見つける。
魔法使いでもある彼女は
レミリア嬢の100年前からの友人だそうだ。
紅魔館の地下で図書館を持っており、
そこに自室も兼ねている。
つまりここは彼女の部屋でもあるのだ。
「うっさいわね………で?
今日は何の本を探しに来たのかしら」
「育児とメイド育成論」
「ふーん…………は?」
「なんだ、レミリア嬢から聞いてないのか?」
どうやら知らないようなので説明する。
立ち話もなんだ、と言って彼女は
魔法で椅子を出してくれた。
「助かる。娘っ子を拾ってきてな。
新しいメイドが必要だと思って」
「へぇ………正直予想外ね。
あの〝殺戮獣〟が育児だなんて」
「…………随分とまた、懐かしい渾名を出すもんだ」
「少し前までは有名だったわよ、
目にした生命を殺し尽くす無情の獣。
人間、妖怪ですら恐れた通り名を殺戮獣。
まさか半妖だなんて思わないでしょうけどね」
懐かしい話だ。
────俺は人間ではない。
いや、正確には半分人間、半分妖怪である。
半分妖怪の部分は〝神殺しの狼〟の末裔だとか。
いや別に興味もないのだが、
神話で語られる魔獣フェンリルの末裔らしい。
色々あって人間に滅ぼされたが。
フェンリルは神獣とされていたが、
今となっては妖怪まで神格が落ちている。
全く哀れである。
まぁ同胞を殺した人間は嫌いなので
めちゃめちゃにしてたらお嬢に眼をつけられ、
こうして紅魔館の執事に至る。
過程めっちゃ飛ばしたが。
「ふふ、レミィを死際まで追い詰めたのは
貴方が初めてじゃないかしら?」
「お前の不意打ちが無ければ勝ってたな」
「まぁ良いじゃないの。
ここでの生活も辛くはないでしょう?」
「俺はともかく、美鈴はキツそうだけど。
アイツ俺に仕事任せてサボってたツケだろ」
「言わないであげなさい。
乙女心が分からない男は嫌われるわよ」
「は?」
突然出てきた意味の分からない
『乙女心』という単語に俺は首を傾げる。
それを見て呆れたように乾いた笑いを溢す
パチュリーは魔法で2冊の本を浮かばせ、
こちらへと持ってくる。
「っと、サンキュー」
「中国も大変ね。色々と。
貴方も乙女心が理解できるよう精進なさい」
「俺男無理」
「諦めが早すぎるのよ。文章で喋りなさい」
こうして図書館から追い出された俺は
再びキッチンへ向かう。
そこで渡された二冊の本を見ながら、
ビーフシチューの完成を待つ。
煮込み終わりにデミグラスソース、
トマトソース、じゃがいもを入れてかき混ぜる。
それから再び30分ほど煮込んだら完成だ。
さて、感想はどうなるだろうか?
喜んでくれると良いが。