ダンデァ......!(フルフルニィ   作:ねここ

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二人のカタチ

「『やるか』じゃないんだよお前」

 

 不意にぺしっと脳天に垂直チョップを食らって思わず「ぐぇ」と妙な声が喉から零れてしまった。涙目で見やると下手人のキバナがいつも以上に呆れた視線を寄越していた。

 

「何すんだてめぇ、人がせっかくカッコつけてるとこに水差すなよ」

「こりゃ各方面に迷惑を散々かけたお前に対する、いうなれば正義の鉄槌よ鉄槌。ここ数ヶ月も突然安否連絡が断たれりゃ誰だって心配するわ。主にルリナとかソニアあたりが」

「えっ、連絡取り合ってたのかお前達。俺にはなにもなかったんだが」

「話がややこしくなるからお前は後回しなダンデ」

 

 割とショックを受けて固まっているダンデを横目に私は事の経緯を釈明がてら話すことにした。そのことに関してはかなり申し訳ないし、全面的に私が悪かったし。

 

「アローラっていう未開の島国に入ってたんだよ、そのとき。船は出入りしてはいるし、現地民もまぁいるんだが、如何せんまだインフラが整ってないような場所でな。連絡取ろうにも取れなかった、すまん」

「アローラって南のアローラか。Z技とかいう未知の技を使う部族がいるっていう」

「よう知ってんな、流石論文マニア」

 

 ダンデの言う通り、風の噂でZワザっていう通常のポケモンが扱う技としては考えられない高火力高出力の技が伝承されているという話を聞きつけて、あわよくば習得できないものかと考えて私はアローラに現地入りした。

 実際のところ噂話というのはかなり誇張されて飛び回るものだと思っていたので大して期待はしていなかったが、しまキングとかいうガラルでいうジムリーダーのようなポジションにいる偉い人から現物を拝ませてもらったところ認識を改めさせられた。

 或いはダイマックスしたポケモンの技以上の火力は、確かに普及すれば現時点でのバトル環境を激変させるであろうことは間違いないだろう。

 問題があったとすれば一つ。

 

「ということはキキョウは手に入れたんだなZワザの秘密を」

「いや無理だった」

 

 思わずといった調子で歩いてもいないのにずっこけるダンデ。

 そう、問題はZワザを扱うにあたっての敷居の高さ。現地の守護神と呼ばれる伝説のポケモンに認められることがZワザの習得に不可欠だったということだ。厳密に言えば彼らから貰えるらしいZリングというアイテムの存在が。

 私はそれを手に入れることはできなかった。守護神さまのお眼鏡には叶わなかったらしい。それがあくまで島外の余所者だったからなのか、それとも適正がなかったのかは分からないが。

 そんなこんなでアローラでの収穫はほぼゼロに近かったわけだ。

 

「あれば嬉しいなって気分で立ち寄っただけだし、Zワザの有無くらいで今更私の戦術には特に影響しない。まあ見てな、あっと驚くような手土産は他にも沢山仕入れてきたからさ」

「あっ、そうだお前。土産はどうした。3年もほっつき歩いてたんだから現地の土産の一つや二つ持って帰ってないようならガラルの敷居は跨がせねぇぞ」

「慌てなさんな。このキキョウ様がちゃーんと選りすぐってきたわ。とりあえず、お前にはこれな」

 

 そう言って背にしょったボストンバッグからキバナ用に買っておいたとっておきをひょいと渡す。思っていたより大きなブツにキバナは一瞬たじろいだ。

 

「えっ、何コレ」

「アローラで仕入れてきた『ふしぎなおきもの』だ。現地の職人さんが丹精込めてお前の為だけに作ってくれた。ありがたく受け取れ」

「お、おう。ありがとう」

 

 渡された意味不明極まるブツを前に固まるキバナ。わざわざ買ってきてもらった手前文句を言えずにいる様子に内心ニヤニヤする。こういう変なところで真面目だからキバナは弄りやすい。

 まあこれはフェイクでちゃんとした土産は買ってきているので後で渡そう。

 

「それで、いつまでしょげた面晒してるんだダンデ」

 

 いつまでも無視できないので構ってやる。余程出先で連絡取ろうとしなかったのが堪えたのかな。だって仕方ないじゃん。こちとらお前を倒すための特訓やらなんやらしてたんだから、わざわざ進捗を報告するわけがない。まあ、安否確認くらいはしといた方が良かったかもだけど。

 ただ、ヤツがそんな有り様になっていたのは別の理由だったらしい。

 

「いや、そうだな。チャンピオンじゃなくなった俺に何か言うことはないのかなと.........」

 

 あー、そっちかと思った。正直な話、思うところは沢山ある。チャンピオンの座からコイツを引きずり下ろすのは私だと思っていたし、百歩譲ってキバナだと思っていた。それが何処の馬の骨とも知れん奴に負けたと知ったときはかなりショックだったのは覚えている。

 でも、この件で一番悪い奴がいるとすればそれは私だ。いくらでもチャンスがあったはずなのに、負けることはないだろうとダンデに勝手に甘えてズルズル引き伸ばしたのは私に他ならない。だから私にダンデを責める権利は全くない。

 

 それに、だ。

 

「おい、キバナお前はなんて言ったんだ」

「え? 別になんも言ってないけど」

「なにかしらあるだろ、思い出せ」

「そんなこと言われてもなぁ」

 

 頭を悩ませるキバナに若干ムカッときた。私と同じ目標を持っていたコイツのことだから同じこと思ってるもんだと思ってたけどアテが外れたかな。

 そんなことを考えてると思い出したように「あっ」とキバナが声を出した。

 

「あーでもインタビュー受けた時にユウリの奴からチャンピオンの座を奪う気があるのかって質問がきた時に、先ずはダンデを倒してからだとか言ったっけなあ」

「なんでそんなこと言ったんだ」

「そりゃお前、チャンピオンだろうとなかろうと俺のライバルはダンデ一人だからだよ。こんなこと本人の前で言わさないで欲しかったなー」

 

 恥ずかしげに視線を逸らすキバナに私は内心で100点満点をつけた。

 

「つまりまあそういうことだ。私が倒したいのは他の誰でもなくお前なんだよ。ダンデ」

 

 これが私達の本心だ。

 チャンピオンだから倒したかったんじゃない。ダンデだからだ。あのとき、セミファイナルの一回戦で私を負かしたダンデだからこそ私は倒したいのだ。それ以外の理由なんてない。

 例えコイツがどこの誰に負けて、ただの1トレーナーに成り下がろうと、私には何の関係もない。先を越された悔しさはあるがね。

 

「チャンピオンっていう副賞がなくなったのは惜しいがそいつは後回しだ。それに、お前を倒したチャンピオンに挑むなら先ずは、お前を負かさにゃお話にならんだろうしな」

「はっ、言ってくれるな。一つ言っておくが俺達は前よりも格段に強いぜ、キキョウ!」

「上等だ。言い訳できないくらいコテンパンにしてやる」

 

 口角をあげ、いつもの調子を取り戻したダンデを見て自然と私も気分があがった。久々の軽口の応酬に舌が弾む。

 

「それはそれとして何処で戦うか。急な帰国だったからスタジアムの予約はしてないんだが」

「別に私はその辺でも構わんが」

「いや、それだとダイマックスが使えない。何より俺のテンションも上がらない」

 

 どこでやるか、っていうのは別に私自身こだわりが無いのでダンデの意向を優先する。まあ私としても屋内であれば上等だ。ダイマックスの有無というのも勿論重要だが、それ以上に、わざわざこの日を選んで帰ってきた理由がある。

 とはいえ、どうしたものか。私から提案できることはないのでうんうん唸るダンデを無言で眺めていると、キバナが助け舟を出してくれた。

 

「じゃあナックルの貸してやるよ。こんなことだろうと思って空けといた」

 

 流石モテる男キバナだ、と内心拍手した。気が利く男は嫌いじゃない。普通にめちゃくちゃ助かる。

 しかしながら「だがまぁ」とキバナはロトムフォンの画面を私達に突き付けながら続けた。

 

「今日はやめた方がいいかもな。外はあいにくの雨だ、天蓋開けられないし。それでもいいなら止めないけど」

 

 そう。ナックル上空は夏場の豪雨に見舞われている。コートが濡れるので今は天井を締め切っているらしいが、まあ普通は派手に空を開けながらやりたいものだろう。その辺の判断はダンデに任せることにする。

 とうのダンデはキバナの話を受けて頷きながら自分に言い聞かせるように呟いた。

 

「そうだな、日を改めた方がいいか。うん。うん。確かに。そっちの方がいい。俺もそう思_____やっぱ無理だ。今すぐしたくてウズウズしてて抑えがきかなそうだ!」

「なら話は決まりだな」

 

 ニヤリと思わず口角があがる。即日決行上等。それを見越して手持ちも私も万全の準備と心構えをしてきている。むしろ今日じゃなかったらどうしようと思っていたほどだ。

 

 断る理由もなく、そういうことになった。

 

 

 

 

「ユウリは顔見せに行かなくてよかったのか?」

 

 話が纏まった風なダンデ達を遠目に見遣りながら、ホップが隣のユウリに声をかける。待ってる間中自分が知っているキキョウのことを、主にバトルの話だったが、随分聞かれたし、少しくらい話させてやりたかったのだが。

 

「うーん、別にいいかな。私よりもダンデさん達の方が積もる話もあるだろうし、後ででいいよ」

 

 ぶっちゃけ、興味はすごくある。キキョウの実力はトップジムリーダーのキバナと肩を並べるほどだと言うし、実際に手合わせもしてみたいと思う気持ちはとても強い。

 だけれど今日は自分の手番ではない。それをユウリは分かっていた。

 

「にしても、ちょっと羨ましいなぁダンデさん。あんなに想われて。ちょっと妬いちゃうかも」

 

 目を細めて熱い吐息を零す。そんな普段の彼女からは考えられないような妖艶な雰囲気を一瞬漂わせたユウリの姿に少しドキっとしたホップだったが、呟きの内容に少し表情を曇らせた。

 唐突にポケモン博士を目指すと宣言したホップをユウリはあのとき応援してくれたが、内心ではどう思っていたのだろうと咄嗟に考えが過ってしまったからだ。

 ユウリをこの道に誘ったのはホップに他ならない。そのホップが、彼女より先に別の道へ抜けていった。置いてきてしまった。そのことが突然気掛かりになってしまった。

 

 そんなホップの苦心のことなぞ露知らず、ユウリは表情を一転させて手を叩いた。

 

「さて、ナックルジムの方だっけ? 楽しみだね二人のバトル!」

「お前、もしかして見に行くのか? チャンピオン業を更にほっぽって?」

「もちのろんでーす」

 

 相変わらず、天真爛漫という言葉が似合うユウリ。チャンピオンの彼女には本来やらなければならない業務が山ほどあるはずだが、あの真面目なダンデも仕事を放ったらかしにしてきている。

 彼女だけダメだというのも妙な話だろうと、ホップは何も言わないことにした。

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