MCU『ブラック★ロックシューター』 作:おれちゃん
その男は狂気に侵されていた。
失った命は戻らないという原則が抜け落ちてしまうほどに。求められた全ての知識を倫理観のタガもなく開示してしまうほどに。彼に必要だったのは設備。その為ならばどんなことでもした。娘に会いたいという一心で。
彼らの信条に興味はない。利用するだけ。だからこそ博士は自身が利用されているという事に気付いて居なかった。
幾度とない失敗。その末に生まれた愛娘が目を覚ます。
これ以上ない喜び、狂乱、狂喜、それらを狂愛が押しつぶし、何時もの、そうあの日常の一日のように、彼は彼女を呼んだ。
「ステラ、朝だよ。起きて」
目蓋が震え、目醒めがやってくる。優しげな笑みに染まっていた博士の顔が、まぶたの下から現れた瞳を見て恐慌に染まる。その瞳は澄んだ青。
「そんな、そんな馬鹿な、馬鹿な馬鹿な⁉︎」
「わたしは……ステラ?」
「私は、私はなんてことを⁉︎ 馬鹿な馬鹿な‼︎」
博士は狂気から
「どうしたの?」
「やめ、やめてくれ」
首を傾げるステラの青い瞳が、博士の背後に失敗作達の幻影を見せつけていた。そしてその幻影を生み出す原因となった、ギブソン自身の悪魔のような顔も。
その蒼い瞳は今敵を定めロックキャノンの引き金を引く。砲口から太いビームが放たれ着弾点に爆発を起こす。互いの射撃を回避し合いながら距離がつまり大剣とブラックブレードがかち合うと大剣から放出された炎を避け足払いでマズマの態勢を崩しながら後退、追撃にに襲いかかる炎を、ステラは跳躍と足運びを合わせて腰のウィングスラスターを用いた三次元軌道で回避し、ロックキャノンの一撃で炎を四散させる。
「これは千日手かな?」
「違う。わたしは諦めないからわたしが勝つ」
『S.H.I.E.L.D.から既に攻撃機が飛んでる! というかお嬢さん顔燃えてるんだけれど⁉︎』
「これは大丈夫」
ロスコルによると爆装したクインジェットがこちらに向け飛んでいるとの事らしい。
「全く、知っているデータと違うと言うのはなかなかに困ったことだ。いや、実験動物と言ったのは君への侮辱になってしまったか。私が君の血を元に進化したようにステラ君もまた新人類ではあるのだろう」
「違う。わたしはわたし、ロスコルやフォボスの仲間。ただそれだけ」
「そうか……いまだ旧人類と肩を並べるというのか。ならば‼︎」
マズマが空へ飛び上がる。そして全身から炎を放出し空全体が炎に覆われ、それが全て一点に凝縮する。上空には第二の太陽が出現した。
「防がねば仲間が死ぬぞ」
「させない、誰ももう殺させない!」
ステラがブラックブレードを地面に突き刺し両腕でロックキャノンを上空に構えた。
放たれゆっくりと接近する第二の太陽にロックキャノンから放たれた光条が突き刺さる。その背後にいるマズマに届くことなく太陽は解れながら迫ってくる。
「行け。プロミネンス・フレア」
『お嬢さん逃げろ! 俺たちは大丈夫だ! P.S.S.コール! 全員最下層まで退避!!』
ステラの機動性なら逃げることは容易い。だがそれは分の悪い賭けだ。マズマは既にフォボスを殺した。あの火球の威力がそんな生半可に終わる保証などない。
「やだ!」
左目から吹き出す蒼い炎が火柱の如く猛る。その輝きは第二の太陽に劣らない。この場にある物を知る人間がいたならばその光とある物の類似性を感じたかもしれない。
「わたしは‼︎ 逃げない‼︎」
光条が途切れる。代わりにその名の通り岩の如く巨大なエネルギーの塊が砲口から放たれた。ロックキャノン基部が青く光り猛スピードで回転を始め、砲口から放たれる砲撃の数が増えていく。
「なっ」
解けた熱量が地面を擦り一部をガラスに変化させる。
砲の発射速度は今や秒間十発に至り、迫る太陽の進行が停止し拮抗する。反動で地面にめり込みかけるのを腰のスラスターで押し返す。
ロックキャノンが限界稼働し砲口の部分が灼熱化し赤く染まる。その発射速度は秒間二十発に至り火球を押し返す処かその中心を貫きマズマの大剣を真っ二つに破壊。
制御を失った太陽が裂けマズマの至近で大爆発を起こした。衝撃波と共に熱された空気が爆風となって地上を蹂躙し、西側の地面を覆っていた偽装さえも弾き飛ばし隠されていたクレーターを露わにした。
ステラもロックキャノンを地面に刺しブラックブレードと共に支えにしてスラスターを吹かし耐える。
爆風が終わればそこはもう空に雲ひとつない青空が広がっていた。爆風で全てが吹き飛ばされたのだ。
空から、それに比べればちっぽけな小さな影が落ちてくる。
それは半身を焼き焦がし消し飛ばされたマズマだ。
「マズマ……」
「……何故悲しそうな顔をする? ……お前はただ敵を打ち払っただけだ」
「それ以外のことができたかもしれない」
「……覚えておけ、ねじ伏せる力もなくそれ以外の選択肢など……傲慢だ。いやしかし……これも新人類たる者の美徳なのかもしれないな……ならば所詮私も力を得ただけの旧人類か」
マズマが自重するように苦笑する。
「だが、私は奴らとは違う。真に人類の事を考えてるならば……必要なのは……変革……なのだ……」
拳を天に突き上げ握りしめ、力を失い落下した。
その顔に冷酷な笑みを浮かべたまま、マズマは息絶えた。
緊張の糸が切れたように左目に浮かんだ火は消えロックキャノンもブラックブレードも放り捨ててどさりと尻餅をついた。
エレベーターシャフトから這い出てきたロスコルがステラの元へ駆け寄り、近づいて来た所でゆっくりと歩き微笑む。
「お嬢さん? 泣いてる?」
「涙は出ていない……」
「困ったな……そんなお嬢さんに良い知らせと、めちゃくちゃ良い知らせがあるんだけどどっちから聞きたい?」
続々とエレベーターシャフトからP.S.S.メンバー達が出てくる。誰もが笑顔を浮かべていた。
「良い知らせ」
「そうだな良い知らせだ。さっきの攻撃をお嬢さんが防いでくれたお陰で負傷者は……あーあっちでズタズタになったブラックトライク前で泣いてる奴の精神以外無しだ」
指差した先では爆風で吹っ飛ばされ転がり瓦礫に埋れかけたブラックトライクに向けシャオミンがさめざめと男泣きしている。なんか敬礼まで始めた。
「で、めちゃくちゃ良い知らせだ!」
ロスコルがエレベーターシャフトの方を指差す。何人かのメンバーがシャフトから下を覗き込んでいる。そして誰かが手を伸ばしそれを下から来た人物が掴む。
アハズに肩を貸してもらいながら現れたのは、フォボスだ。
「フォボス!」
「悪いなお嬢ちゃん。死にそびれたぜ」
「重要な臓器に傷はない。本来なら出血死してる所だが……傷が焼かれてそれもギリギリ免れた。重症には違いないが」
全員が笑みを浮かべたままのマズマを見た。ロスコルがその顔に手を置き、目を閉じてやる。
「おわっお嬢さん⁉︎」
ダバっと表情は変わらないのに滝のようにステラの目から涙が溢れた。
「……悲しくないのに」
涙をゴシゴシと拭うステラの様子にP.S.S.メンバー達の顔に優しげな笑顔が宿る。
ロスコルが膝をついてステラに目線を合わせて頭を撫でた。
「知らなかったのかいステラ。涙は嬉しい時にも出るもんなんだ」
「……今知った」
「よし、良いこと知れたな!」
『P.S.S.コール。爆装クインジェットにはフォボスと介助に何人かを乗せたまえ。そのままニューヨークの医療施設で緊急治療だ。速く飛ぶために爆弾は予定通り落っことしていくとの事なので皆はその場から退避だ』
「おい司令、今いい雰囲気なんだからやめるんだ」
『なんだアハズ。そんなこと言うと帰りの車を用意してやらんぞ』
「すみませんでした」
「ぴーえすえすこーる。フランク、みんな無事」
『そうか。よくやったステラ君。帰ったらパーティと行こう何を食べたい?』
「……ハンバーガーとイタリアンスパゲッティ」
『……えらく変な組み合わせだな?』
ロスコルが吹き出し大笑いし出したのにつられ、メンバーに笑いが伝播する。
「フフ」
「あっお嬢さんが笑ったぞ‼︎」
「まじか」「本当に⁉︎」「見たい!」「おいやめろ怪我人担いでんの忘れんな」
騒がしいメンバー達の上にはどこまでも青い悠久の空が広がっていた。