MCU『ブラック★ロックシューター』 作:おれちゃん
「バートン、大丈夫?」
「キスでもしてやれ飛び起きるぞ」
「やめろ俺にそういう趣味はないぞ」
「おい汚いっぽい言葉を使うなキャプテンが怒るぞ〜?」
ジェット中央でバートンの応急処置を終えたスティーブが安堵の息を吐いた。バートン自体もソーの軽口に返す様子は結構大丈夫そうでステラも安心した。
ナターシャが音楽を聴くバナーの下に歩み寄った。近頃バナーはハルクに変身した後は音楽を聴いて心を落ち着かせるのが習慣になっているのだ。
「子守唄、効果覿面ね」
「僕が変身するべき状況じゃなかったんじゃないか?」
子守唄はステラとハルクがハイタッチしている様子を見て行われた条件付けである。ナターシャがこれに志願し、ハルクがバナーに戻る起点として使われているのだ。
「もし貴方がいなかったら被害は倍になってた。私の親友も思い出の中の人になってた」
「はっきり言ってくれて良いんだよたとえ耳に痛い言葉でもね」
ナターシャが小さくため息を吐いた。
「まだ私を信じてないの?」
「信じてないわけじゃない」
「ソー、状況はどう?」
セプターを見つめていたソーが笑みを浮かべ、パンと手を叩いた。
「ハルクが倒した連中が地獄の門で叫んだ」
ドヤ顔で言うソーの後ろでオイオイと言った顔をスティーブがしている。ナターシャも嘘でしょって顔をしてバナーは頭を抱えた。
「いや死の叫びじゃないぞあーほら怪我人の叫びとかそんな感じの」
「もういいわ。ステラ! 状況は?」
「ハルクは優しいよ。おかげで怪我しなかった」
ナターシャがそう! ソレ! と言わんばかりである。だがバナーは違う方に反応した。
「ハルクが優しいだって?」
「ハルク、仲間思いで優しいよ? バナーと一緒」
「僕とハルクが一緒? 冗談はよしてくれ……」
運転するトニーが見かねたのか割って入る。
「なあバナー、チョウ博士がソウルから来る。君のラボを使わせていいか?」
「あぁ、使い方も知ってるはずだ」
「よし、バートンの治療の準備をよろしくと伝えろ」
『ハイ、トニー様』
J.A.R.V.I.S.に操縦を任せたトニーがセプターの方にやってくる。その脇でナターシャとステラがバナーを慰めている様子につい笑みを浮かべてしまう。
「両手に花だなバナー」
「あぁありがたいことだよ……」
バナーはそんな感じであった。
「一安心だな。S.H.I.E.L.D.崩壊以来ずっと探してたもんな。ま、宝探しも面白かったが」
「これでやっと終わりにできる」
「これにはまだ秘めた力があるはずだ、ただの武器じゃない。ストラッカーは強化人間を作れるようになった」
怪しく輝く穂先の青い宝石が、三人の顔をうっすらと照らしている。
「……アスガルドに返す前に僕とバナーで調べる。構わないか? ほんの二、三日だ。そのあとお別れパーティー」
「ああ勿論だ。勝利の宴を開かないとな」
「ああ、宴会は最高。キャプテン?」
「これでチタウリやヒドラとの戦いも終わるしな……良いだろう宴会だ」
「シャワルマ?」
ステラがそう言うとトニーとナターシャとソーとバナーが微妙な顔をした。
「あー……アレは僕が言い出しっぺだったとはいえ闇に葬られるべき歴史だ。なかったことにしたい」
「僕はアレで一生分のシャワルマを食べたと思うよ」
「私はノーコメント」
「まあ、美味かったが……あれは宴というよりは……なんだろうな?」
「ソレよりもだステラ」
トニーがステラを指差す。どちらかというと格好の方に。ロスコルの努力が実り戦闘時もパーカーの下側だけは閉めてくれるようになっていた。
「どうしたのトニー?」
「無礼講とはいえパーティだからな。パーカー羽織ってきちゃダメだぞドレスコードってものが……しっかりある。こういう時は僕たち野郎よりもナターシャの方が詳しいからな、しっかり頼むぞ」
「ハイハイ。ステラ、帰ったらショッピングよ」
「それなら私が運て「タクシーでいきましょう。ブラックトライクは無しよ」
機内が笑いに包まれた。
アベンジャーズタワーに帰還するとバートンをチョウ博士に任せる。
「おいバートン遺言言っておけ? ナターシャとステラが出かけるぞ」
「そうだな……俺は不滅の男だぜ」
「男の子は何言ってんだか……ゆっくり休みなさいね。ステラ、女の子の時間よ」
「あいるびーばっく」
「まあそうね?」
「せっかくだ、ステラのドレス選びにペッパーも呼ぼうかJ.A.R.V.I.S.?」
『少々お待ちください…………伝言を預かりました。"血涙が出そう"だそうです』
「ペッパーは来れないらしい」
トニーは肩を竦めて、改めてバナー博士を研究室に呼ぶ。ウルトロン計画のために。
三日後の夜。
ジャケットを着たロスコルと共にステラはアベンジャーズタワーのパーティ会場にやってきていた。無地の黒ワンピースのドレスにペッパーの言いつけを守って手入れを続けた髪をナターシャにまとめ上げてもらっていた。派手さは無いが素材の味を活かした清楚な雰囲気を纏い、首にいつも付けているP.S.S.のドッグタグがペンダントとしていい味を出していた。
「おっ、ちゃんとした格好できたな? 流石はナターシャ。ペッパーが悔しがるぞ」
「苦労したわよ。普段のイメージのせいでカラフルだと途端に似合わないんだもの」
ナターシャもご満悦の出来である。
ステラが並べられているグラスを取ったのでバーテンダーがそこにオレンジジュースを注いでくれた。隣でワインをくるくる回しているおじいちゃんの真似をしてステラもグラスをくるくる回していると隣のおじいちゃんが微笑んでグラスを差し出してきて乾杯した。
「ブラックロックシューターがこんなに可愛い子とは、孫娘と変わらんぞ。というか孫がでっかいバイクに乗りたいって騒いでてのう、何かいいアドバイスない?」
「ヘルメットはしっかり」
「まあそれはそうだな! 今度全米バイク安全キャンペーンビデオに出てみない?」
「構わない。けど、わたしは付けないことがあるから……ダメな気がする」
「誠意があるなぁ」
ステラは老人達と話をしたり。
「ビリヤードやったことない?」
「ならまずはナインボールからやるべきだろう。ルールがシンプルで良い。持ち方はこうだ」
「こう?」
「そう、そのまま白いのを突いて、あそこの三番をポケットに落とすんだ」
「わかった」
「オイオイ強すぎ強すぎ、あっ入った」
サミュエルとスティーブにビリヤードを教わったり。
「ハァイステラ。やっぱり女の子は良いわねぇ。女気がなくて嫌になっちゃうわ、ペッパーもジェーンも来てないんだもの」
「ペッパーにも見せてあげたかった」
「じゃ三人で写真撮りましょう? ナターシャ、三人で写真撮るわよ! ほらホークアイ、自慢の目でベストな瞬間を撮りなさい」
「ねえマリア、酔ってるでしょ」
マリアとナターシャと一緒に記念写真を撮ったりなどして過ごした。
暫くしてパーティが終わると、アベンジャーズのメンバーだけでの小さな二次会が行われることとなった。目下の話題はソーのハンマーである。
「仕掛けがあるんだろう?」
「いや、そんな子供騙しじゃない」
「相応しき物がこのハンマーの力を授かる! 絶対に仕掛けがあるはずだ」
バートンが変な声でテーブルの上に置かれたムジョルニアを讃えるようなポーズを取った。
「じゃ、どうぞ? 試してみろ」
「あ。それわたもが「ステーイ! ステラステーイ!」
ロスコルがステラの部屋に飾られた写真のハンマーとソーのムジョルニアが同一物だと今更気付いた。
皆がステラとロスコルの方を見る中ロスコルが戯けた。
「全くステラそれはオレンジジュースをじゃなくて似てるお酒だから飲んじゃダメだぞぉ」
「あら、ステラもお酒が飲みたいお年頃?」
「ティーンエイジャーには酒は飲ませられないなぁ、アベンジャーズ、飲酒違反で逮捕! なんて見出し面白すぎる。というかステラ何歳だ?」
「トニー、女に年齢を聞く物じゃないわよ?」
「そりゃ悪かった」
因みに発見された当時2009年からずっと十六歳位の外見をしているが、年齢換算で行けばもう二十一歳くらいなので飲んでも問題ないはずであるが、外見が全く変わっていないので酒に酔う面々は失念していた。なんなら髪のキューティクルが良くなりより幼く見えるまである。
「じゃ改めて、やらせてもらうか」
「クリント、大怪我の後だ失敗しても落ち込むな?」
「ステラ、自分の番が来ても持ち上がらないフリをするんだぞ。持ち上がっちゃうとソーが悲しむ」
ロスコルがバートンがウンウン呻いている間にステラにそっと吹き込む。ステラもソーをじっと見てからコクリとうなづいた。
「なんでこれが持ち上がるんだ?」
ソーが鼻で笑ってる中煽られたトニーが物理学だのなんだの言いながら持ち上げようと足掻く。ちょっと席を外してアーマーでズルしてみたりローディと一緒にやってみたりするがダメである。
バナーもやってみるがダメである。一発芸もみんななんと言えない微笑みで見ていた。
「スティーブ、気楽に行けよ」
「おっと本命」
「いけキャプテン」
スティーブが引っ張ると、傍目には分からないほど微妙に動いた。そしてソーの顔が真顔になる。持ち上がらないのを見て笑顔になるソーの様子を見て、ステラは持ち上げるのは良くないと実感した。
「次は?」
「大本命、ステラか」
「わかった」
ステラが立ち、引っ張るフリをするが、露骨に最初に動いた。スティーブに比べ演技が下手くそであるが、それを見てギャラリーが盛り上がる。
「おっ行けるか? ステラ、持ち上がったら一夫多妻制を復活させてくれ」
「ステラが持ち上げてもあなた地球人でしょ」
「だめ、持ち上がらない」
ステラが手を離すとソーが深く息を吐いてハッハッハと笑う。
バナーが次はと言わんばかりに両掌をナターシャに向ける。
「遠慮しておく、私は試されたくないの」
「ソーには悪いが、絶対何か仕掛けがあるだろ」
「クソみたいなね」
「あっスティーブ、今悪い言葉使った」
マリアがグラスを持ってケラケラ笑いながら指摘するとスティーブが苦笑する。
「ヒルにも言ったのか?」
「実は人工知能持ちなんだろ? ハンマー好みの奴、つまりソーだけ持ち上げられるとか。ステラもちょっと好みだったなこのハンマー」
「成る程、それは実に面白い考え方だが、答えは簡単」
ソーがムジョルニアの柄を持つと、たやすく、それこそ空のボトルかのように容易く持ち上がった。
「皆ふさわしくない」
ちょっと変な声で言ったソーに皆が笑う。ではお開きか、というところで、突如部屋にスピーカーのハウリング音の様な高音が響くのだった。