MCU『ブラック★ロックシューター』 作:おれちゃん
「……ぁー……おぁー……ふー……さ……わ……し……い……」
嫌な音が収まると、ギチ、ギチッ、と金属が擦れる様な音がする。その音源の方へ、皆が目を向けた。
アイアンレギオンをバラバラにして組み上げた趣味の悪いオブジェクトの様な物が、そこには立っていた。
「いいや、ふさわしいものか。皆人殺しだ」
「スターク」
スティーブに促されトニーが防犯システムを起動しようとパッドを操作しようとするか、操作を受け付けない。
「J.A.R.V.I.S.?」
スタークが問いかけるが、J.A.R.V.I.S.からも応答がない。
「すまない、寝起きでね。夢を見ていた……と言うべきか」
糸で吊られた人形劇の様にギクシャクとした大袈裟な動きは、どことなく歌劇的で醜悪だった。
「再起動だ、バグがあった様だぞ」
トニーはそれがなんなのかをすぐさま理解した。トニーの操作を一切受け付けることなく、それは独白の様なものを続ける。
「酷いノイズで、身動きが取れなかった。糸が絡み付いて……もう一人の奴は殺した……いい奴だったのに」
「人を殺した?」
「気は進まなかった……だが現実世界では手を汚すことも必要になる」
全員の目の色が変わる。
「誰の手先だ?」
『僕には見える。世界を守るアーマーが』
ソーの問いに答えるよう再生された音声は、トニーの物だ。皆の視線がトニーに注がれ、バナーも漸くそれが何か気がついた。ステラは立ち上がってロスコルとマリアを庇う様に間に入る。
「ウルトロンか?」
「体は持った……ああいやまだだな。まだこれは、サナギだ。だが準備はできた、任務を果たす」
「……任務って?」
「平和を齎す」
その言葉と同時にアイアンレギオンが壁を突き抜け現れた。ロスコルに向け放たれたリパルサーレイをステラが盾になって庇い、ロスコル諸共床に投げ出される。
ステラが小さく「ナターシャに選んでもらったドレス……」と悲しそうに呟いた。リパルサーで布地が裂けズタボロになってしまっていた。
マリアが銃を抜いて応戦するが、拳銃程度では火力が足りない。ソーがハンマーでレギオンをぶん殴って吹っ飛ばす。目下最大火力はムジョルニアを持ったソーである。
突っ込んできたレギオンにステラが組みついて力比べで拮抗した所に、ローディがその辺にあった酒瓶でぶん殴る。が、効いた様子はない。力任せに腕をもぎ取ろうとしたステラを腕ごと投げ飛ばし、ローディに衝突しそのままガラスを突き破ってジェットの保管場所前に落とされる。
ナターシャは万一バナーがハルクに変身されたら大惨事なので必死に庇いながら隠れる。
ソーがハンマーでぶん殴っていくが、トニー謹製のアイアンレギオンは存外硬く、中身のないロボットと言うこともあって行動不能にし辛い。その隙に一体がセプターをもぎ取って逃走。
ロスコルが下にステラのブラックブレードを持ってきて、ローディを介抱する。跳躍し割れた窓から復帰したステラが真ん中を飛んでいる奴を袈裟斬りにして破壊する。最後の一体はスティーブが投げた盾に粉砕された。
「ドラマチックだな。良かれと思っての行動だろうが……考えが足りないのだ。世界を守りたいだが世界を変えたくはないだと? 人類を進化させずに世界を救えると思っているのか」
その言い回しに、何処かステラは既視感を感じた。そうだ、マズマと似たような事を言っているのだ。
「どうやって? こいつで守るか? この人形で?」
ウルトロンが、倒されたアイアンレギオンを踏みつけ、その頭を砕く。
「平和への道は一つしかない。……アベンジャーズの全滅だ」
ソーのハンマーがウルトロンを砕く。しかしそれを意に介した様子もなく、ウルトロンは小さく歌を口ずさむ。煽るかのように。
すぐ様ソーが外に出てハンマーを掲げ、戦闘衣装を纏うと空を飛び杖を追いかける。トニーも後に続こうとするが、マーク43が来ない。トニーは嫌な予感がした。
ウルトロンの残骸を研究室に運び、バナーが調べれば研究データはごっそり抜かれウルトロン自体もネットを通じて姿を消していた。
「ファイルや監視カメラのデータに侵入された。私達のこと仲間より詳しい」
「プロフィールやネットだけじゃなく、もっとやばい代物まで見たがったら?」
「核ミサイルの発射コードとか?」
ローディの懸念に、足に刺さったガラスを抜きながらマリアが思い付いたのを口にする。
「そうそれ。大至急報告しないと、連絡できるうちにな」
「核ミサイル? 私たちを殺すために?」
「殺すとは言ってない。全滅と言ったんだ」
「誰かを殺したともな」
「でもここには私たちしかいない」
「いや……いた」
トニーが苦い顔をしてホログラムを出す。アーマーが来ないことも、アイアンレギオンが襲ってきた理由も簡単に説明できる原因だった。
J.A.R.V.I.S.のマトリクスを示すホログラムがボロボロに崩壊していた。全員が目を見張る。
「J.A.R.V.I.S.……そんな馬鹿な」
ステラも目を伏せた。
「彼が最初の防衛ラインだった。ウルトロンを止めようとしたんだろうな」
「おかしい、ウルトロンはJ.A.R.V.I.S.を吸収できたはず。これは計画的ではない……あまりにも衝動的だ」
バナーが博士としての知見を示す。J.A.R.V.I.S.をわざわざ殺す必要はウルトロンには無かったはずなのだ。そこへソーが帰って来るとその間トニーの首を掴んだ。
「言葉を使えよ……」
「言ってやりたい言葉なら山ほどあるぞ」
ソーによると百五十キロ追いかけたあたりで見失ったらしい、わかるのは杖を持って北に移動していたことだ。
「やる事がはっきりしたわね、ウルトロンを追うのよ」
「でもどうしてトニーが作ったプログラムがみんなを殺そうと?」
チョウ博士の言葉を聞いて、トニーが笑みを溢した。ソーが殺気立つ。
「そんなに面白いか?」
「いいや、全く。面白くはない。だよな? 笑えない、とんでもない全く酷い……冗談だ。最悪だよ」
「お前が理解できないものに手を出すからこんな「違う! 悪かった、悪かったよ! おかしくてね、なぜウルトロンが必要なのかも理解できないとは」
詰め寄るソーにトニーが逆に語気を強めて詰め寄った。
「トニー、今はそんな話をしてる場合じゃ」
「本気か⁉︎ 全く、何か言われたらすぐに尻尾を巻いて逃げるのか?」
「……殺人ロボットを作ってしまった」
「作ってない! 完成には程遠かった。インターフェースもな!」
「完成させてなくても、その結果がこれだ。アベンジャーズはS.H.I.E.L.D.と同じではいけない」
インサイト計画の事を皆が知っている。S.H.I.E.L.D.崩壊の原因でもある。
「みんな忘れたのか⁉︎ 僕がワームホールに飛び込んで! ニューヨークを救った!」
トニーは焦燥に駆られているように見えた。克服したはずのアーマー依存症が再発したようにさえ見える。
トニーの展開する持論を、皆黙って聞いていた。宇宙のラスボスにどう立ち向かうか、それの解決策がウルトロンであると。無いならばどう戦うと問うトニーに、スティーブは諭すように口を開いた。
「……みんなで」
スティーブが強い眼差しでトニーを見つめる。
「負けるぞ」
「それでも僕らで戦う」
「トニー、わたし達を信じて?」
ステラも微笑んでトニーを見つめる。トニーの視界の中で、今の二人と、あの二人の姿がダブつく。それだけでない、周りの皆を見れば誰にでも浮かぶ。あの光景が脳裏に焼き付き離れない、あの結末だけは絶対に防がねばならないとトニーの脳が叫んでいる。
「信じてる信じてるさだけれどもだな……! いや……なんでもないよ」
トニーが拳を握りしめ、スティーブとステラに背を向け椅子に座った。
「……ウルトロンは、我々を挑発しているんだ。奴が準備を整える前に見つけよう。世界は広すぎる、まずは範囲を狭めよう」
目下、アベンジャーズは生み出してしまったウルトロン対策の為の情報収集に努めることとなった。