MCU『ブラック★ロックシューター』 作:おれちゃん
「ナターシャ、バナーに子守唄を」
ウルトロンを破壊しトニーが空中を疾走する。
『ナターシャは無理だ。子守唄も無理だぞ。全員やられちまった』
「ステラは……無事だったらそもそも止めてるな、バートン、みんなの回収よろしく頼む。ベロニカを出すぞ」
トニーがバナーの協力で開発した対ハルク用システム群を呼び出す。
「ニュースを検索。キーワードは、ハルク」
J.A.R.V.I.S.無しではシステムは未熟だ。初期のbot型検索エンジンのように手当たり次第に表示されたデータをトニー自身が取捨選択し捌いていく。
「進路決定。ベロニカ、道に迷うんじゃないぞ」
トニーの進行方向の空から圧縮断熱で灼熱した大気圏突入シールドを破棄し接近してくるものがある。アレこそがベロニカだ。ポッドの中から複数の部品を射出し、それが組み合わさりトニーの纏うマーク43を覆っていく。
上空からハルクの姿が目に入った。好き勝手に大暴れしている様子はないが、警官隊の車両を蹴り飛ばし誰も近寄らせまいと獣がテリトリーを主張するかのような動きをしている。
「なんで自転車を抱えてるんだ? バナーは自転車好きだったか? もしくはそんなに嫌いだったか?」
ベロニカのシステム群よりミサイルのように棒状のものが複数射出される。ハルクを閉じ込める為の檻だ。それがハルクの遥か頭上に到着すると一斉に落下、ハルクの周囲に突き刺さり拘束しようとする。
しかし上空を見上げたハルクのパンチで跳ね返され、後続の檻と共に地面に破損しながら落着して檻として意味を成していない。
「オイオイ勘弁してくれ、これなら少なくとも檻に閉じ込められるって話だったろう」
ハルクより少し離れたところに着地した時、トニーは既にハルクより一回り大きいアーマー、ハルクバスターに包まれていた。
「よーし、みんな退いてろよ!」
ハルクを包囲していた警官隊たちが避難していく。鋼の巨人と緑の超人が相対する。
「聞こえてるかバナー、あの魔女に頭を弄られたんだ。あんなのより君はもっと冷静で聡明なはずだ戻ってこいブルース・バナー!」
トニーの言葉にハルクが自転車を庇うように抱えながら吠えた。
「まあ悪かったブルースの話はやめよう。自転車なら帰ったらいくらでも良いの買いに行こうじゃないか、だから落ち着けほら?」
ハルクは聞く耳持たず近くに立っていた標識を片腕で引き抜くと体を弓なりにしならせる全力投擲。トニーがそれを弾き、ビームを撃ちながらハルクに接近する。
ハルクの拳とハルクバスターの拳が衝突し、ハルクバスターの腕が肘関節からへし折れ遥か遠くのビルの壁面に突き刺さる。
『ーーーーーー』
「なんだ何が起きたデータを出せ? いやまぁ見ればわかるか腕がもげた。ベロニカ、拘束用アーム用意」
ハルクが自転車を大事に抱えて片腕で戦っているにも関わらずその破壊力は侮れない。バナーとおこなったハルクバスターの想定強度を遥かに上回るパワーが出ているようであった。ただ自転車のおかげで下手に暴れまわらないので街への被害は、言ってはなんだが幸いにも最小限である。
空に浮くベロニカからいったんハルクバスターのもげた肘の先二の腕までがパージされ、そこへ射出されたパーツが飛来して合体。新たな腕となる。
「ほれもう一丁!」
再び突進し、拳がぶつかり合った瞬間、ハルクバスターの腕が花が咲いたかのようにチェーンの集合体としてばらけ、ハルクの腕まわりに絡みついてそれぞれが再接続し合い固定する。
「ハイハイ、ギブス付けた怪我人はよそに行きましょうね。ワイヤーミサイル射出」
固定された腕を動かそうとするハルクに膝蹴りを入れ下に滑り込みユニ・ビームを発射。複数のアークリアクター直結の強力なユニ・ビームはステラのロックキャノンの一射の八割に相当する威力を持ちハルクの巨体を空高くへ打ち上げる。そこへベロニカから発射された四発のミサイルに連結されたワイヤーがネットを形成し、ハルクを包んで都市外へと運んでいく。
ハルクが固定を粉砕し自由になった手でワイヤーを引きちぎろうと掴むが、その掴んだ場所だけが意図的にちぎれ、別部分と再接続しなかなか抜け出すことができない。試作された際にステラが普通にちぎって脱出されてバナーとトニーが真顔になり改良に改良を重ねた特殊ワイヤーがその真価を発揮していた。
そのまわりをトニーが飛びながら新たに砲撃型の腕を接続しビームを撃ちまくってハルクの気をそらす。自転車を狙えばハルクはそれを庇って大きな隙となり都市外に運ぶ時間が稼げる。
ハルクが片腕で自分の胸を全力で叩いた。その衝撃でネットは弾き切れミサイルは爆散する。衝撃が伝播し近隣のビルのガラスが割れた。
「おっともうちょっといこうな」
ビームを打ち込んで空中で体勢を崩したハルクにトニーがパンチを見舞って叩き落とすと、町からギリギリ外れた位置に墜落した。路面にクレーターを作ったハルクは変わらず自転車を庇うようにわざわざ背から落ちたのだ。
「そんなに大切? 自転車」
だがおかげで御し易いとトニーは疑問は無視してハルクを気絶させにかかる。
特殊な腕を装着しハルクを引き倒し顔面にパンチを連打。気絶させにかかる。しかしハルクの蹴りがハルクバスターの胸をぶち抜き、中のマーク43を弾き出した。
「オイオイ嘘だろマトリョーシカじゃないんだぞ。緊急拘束」
コア部分を失ったハルクバスターが自律しハルクを掴んだまま裏返しになるようにハルクの全身を覆っていく。
「ベロニカ、内部集中起爆。リアクター全機オーバーロード」
ハルクが破壊する前にすぐさま拘束から残った檻を周りに刺して周辺環境への盾にし爆発させた。ハルクバスター全身に仕込まれたリアクター全てをエネルギー源とした大爆発が炸裂、爆発のあまりの威力に落下時に生まれたクレーターがより深く掘り返される。
土煙が晴れた時、その中央にはハルクが倒れていた。それでも起き上がりながら、手にした自転車を見て怪訝な顔をする。自転車は爆発の衝撃にほとんど耐えられずバラバラになっていた。
辺りを見回して、自分の前にいるアイアンマンに気がついたハルクが起き上がろうとする。
「正気に戻ったかハルク? とりあえず眠ってくれ」
上から降ってきたベロニカに押しつぶされ今度こそ気絶し、その変身が解けていく。トニーは元に戻って気絶しているバナーを抱えてクインジェットへ急いだ。
クインジェットへ到着するとバートンが皆を中に収容したところであった。
「何があった? スーパーガールがここまでになるなんて」
真ん中の座席を退けて以前バートンがされたようにステラが寝かされている。顔には乾いた血の跡が残っており、体にも包帯や絆創膏が巻かれていた。既にスティーブとバートンにより応急処置はされているが、彼女だけ一向に目覚める様子がない。
「怪我自体は命に別状は無いが、恐らく僕たちと同様にワンダ・マキシモフに頭を弄られた可能性が高い。ダメージと合わせてまだ眠っているんだろう」
「とりあえずクインジェットを出すぞ。長居は無用だ」
バートンがクインジェットを離陸させた衝撃でバナーが目を覚ます。そして寝かせられたステラを見て全てを察した。
「やったのは僕だな……」
「違う、やったのは魔女だバナー、君のせいじゃ無い」
「いいや僕だとも……彼女を殴った感覚が、拳にこびりついている。怒りに任せ正常な判断を失った僕が、ね……」
バナーの記憶に残るのは自分の前に立ちはだかったウルトロンのようなもの。アレこそがステラだったのだ。
「……成る程……僕はハルクだ。僕自身が……怪物そのものなんだな……すまないステラ」
ステラの髪をひと撫でし、バナーは座席で自分を抱きしめるように丸まってしまった。それを慰めることができるナターシャとステラの二人は、今とてもでは無いがそれができる状況でなかった。