MCU『ブラック★ロックシューター』 作:おれちゃん
『またね、バナー』
電話を切り、バナーが一度首を回した。
「ステラ、何時ごろ着くって?」
「夕方ぐらいだってさ。ディナーはしっかり作らないとね」
「二か月ぶりだものハンバーガーでも構わないわよ」
「おや、ステラに甘くなったかなナターシャ。さっきも電話の先でハンバーガー食べてたよ」
ナターシャがじっとりとした目で何もない空間を見つめ笑みを作った。
「やっぱりやめましょう。あの子ったらお昼いつもハンバーガーなのよ?」
「おっと僕が告げ口したのは内緒にしてくれよ」
「それはディナーの出来によるかしら?」
「任せてくれよ」
バナーがポン、とエプロンを付けた胸を叩いて笑みを作る。ここ数か月の間、バナーはナターシャと共に穏やかな生活をしていた。もちろんアベンジャーズへの貢献を忘れないよう、地下には最新鋭とは言い難いがそれなりの研究設備……ナターシャのスパイ道具も満載されていて物騒なことになっている、が設置されていた。
今主に行っているのは機械工学でアベンジャーズやその周囲のサポートをする人々の装備に関する研究だ。トニーともメールでのやり取りは欠かせない。
私生活では、トラクターを手に入れた。畑仕事をして心拍数が上がるのはまずいのではと考え、安く手に入れたスクラップ同然のトラクターをナターシャと共に復活させたのである。小さなことではあるのだが、パートナーと共に成し遂げたことは代えがたい喜びをバナーにもたらす。
ふと、不安になることもある、こんな普通に生活をしていいのかと。以前言った、手に入れられないと言った穏やかな生活だ。答えは出ない。
庭の手入れをナターシャと共にして、二人で射撃の練習を楽しみ、バートンにコツを教えてもらったDIYの続きを作ったりし、頃合いとなったので料理の準備を始めることにした。ナターシャはバラック小屋で自作の本棚の色塗りをしていた。
少し日が傾いた頃。コンコン、と玄関のドアが叩かれた。
「ナターシャ? どうかしたかい?」
料理の準備をしながら声をかける。普段来客予定など無く、ステラが到着するにはまだ早い時間だと思ったからだが、その予想は裏切られた。
「こんにちは」
その声の主がステラだったからだ。バイクの音がしなかったがどうかしたのだろうかとバナーは火を止めて玄関の方へ行く。
そこには見知った顔のステラがいつも通りの無表情で立っていた。
「やあいらっしゃいステラ、思ったより早く着いたね。ブラックトライクはどうしたんだい?」
「途中で動かなくなったから、歩いてきた」
「また無茶をしたのかい? トニーが"自己修復機能の搭載を真面目に検討してる"ってメールでぼやいてたぞ」
「水の上走った」
「良く沈まなかったね? 今日は泊まっていくだろう? 明日トラクターを持っていってここに運んでこよう、応急処置くらいはできるはずだ」
「ありがとう」
笑いながら家の中に案内すると、バナーが手を広げて笑顔を見せながらテーブルと椅子を見せびらかす。
「どうだい? 僕がナターシャと一緒に作ってみたんだ」
「素朴な木の素材を使ってて温かみがあって、いい」
ステラが珍しくまともな感想を言っている。珍感想をちょっと期待していたバナーは少し拍子抜けしたが、二ヶ月会わなければそういう事もあるだろうと流した。
「ま、座って座って、まだ料理が途中だからね。何が食べたい?」
「バナーが作る物ならなんでも美味しいよ」
「……? じゃあステラ、ハンバーガーにしようか」
「ありがとう
決定的な違和感をバナーは感じた。一度それを感じると何もかもに違和感を感じ出してしまう。ステラはああいう風に椅子に座るか? ステラの微笑みはあんなだったか? と。
「まあ腕によりをかけて作るからね。待っててステ」
違和感を感じていることを隠し、バレないようナターシャに連絡しようと台所にバナーが向かおうとした。
瞬間、バナーの胸から、鎌の切っ先が生えた。いや違う。引き抜かれ支えを失いながら振り向けば巨大な鎌を携えたステラが、白く変色していく。上から下まで全て白に、青空のように透き通った瞳は狂気を感じさせるピンク色に。
「成る程、容姿で油断させ変身前に心臓を貫けば心拍数はゼロ、変身を阻止できるという博士の仮説は正しかった訳だ。しかしもっと悲劇的に、衝撃的に刺したかったのだが芸術点が低いな、何故気づいたんだ?」
浮かべる微笑はステラと同じ顔をしているのに、全く違う。慈しみや喜びなどはない。ただ顔の筋肉が稼働し口角を持ち上げているだけのえみだ。朦朧とする中、バナーは答えた。
「ステラはハンバーガーが大好きな女の子だからね……それに彼女は僕の事バナーってずっと呼ぶんだ。初めて会った頃……キャプテンがバナー博士って呼んでたから……かな……」
食器をひっくり返してバナーが倒れる。
「成る程、私の失態だな。このゲーム、百点を狙ったんだが赤点寸前だ。覚えておくといい、君を殺したのはシングラブだ。大丈夫、次はステラをそちらに送るだろうから寂しくは無い」
動かなくなったバナーを一瞥して背伸びをシングラブがした。
ドスリ、とシングの背にナイフが深々と突き刺さる。ナターシャが異変に気付き急行したのだ。鎌を床に落としシングラブが膝をつく。ナターシャが慌ててバナーを抱き抱えるが、息がない。
「まあ私も刺したんだ。一回刺されるのはおあいことしておこう」
「なっ」
何事もなかったかのように立ち上がったシングラブが刺さったナイフを抜き床に放り捨てる。
拳銃を撃つナターシャを意にも介した様子はない。
「もうこのゲームは終わり。私は暇が嫌いだがポリシーもあってね、余計な事をして採点を悪くしたくないんだ、いかに油断させて心臓を貫くかだが、今のところ四十点だ。減点はしたくない」
弾切れになってもなお引き金を引くナターシャを見てシングラブは優しげな笑みを浮かべると「ではごきげんよう」と軽く手を振ってその場から消えた。しばらくして脱力しバナーを抱えたナターシャの耳へバイクの音が聞こえてくる。
「……ナターシャ?」
玄関を開けて駆け込んできたのは、いつの間にか雨が降っていたのかずぶ濡れになったステラだ。
「バナー……バナー! バナー!!」
ステラがバナーに縋り付く。その時ゴホリ、とバナーが血を吐いた。
ステラとナターシャは目を見開いた。止まっていた息が吹き返している。苦しそうな顔をするバナーの首のあたりから緑色に肌が変色し始めている。
ナターシャとステラが顔を見合わせる。そこに宿るのは奇跡を信じた、希望だ。
大慌てでナターシャが担いでステラが傘を持って外に出る。大雨の中、バナーはハルクに変身した。
ハルクは大きく咆哮をあげる。天を衝くような方向はその名の通り雨を止ませた。
そのままぐったりと力尽きるように倒れかけ、ステラがそれを支える。元に戻った時バナーは全裸になっていたが、息を吹き返した。家のベッドに運び調べれば、心臓が蘇っている。貫かれた怪我は残っているが、心臓だけは元に戻っていたのだ。
ナターシャはバナーを抱きしめハルクに感謝した。ステラもバナーを抱きしめた。
アベンジャーズ・コンパウンドから医療チームが派遣され治療をバナーは受けたが、ハルクの特性上病院に置いておくことはできない為、移送はされず自宅でナターシャが付きっきりで看護する事になった。
幸いにも、致命傷ではなくなった為問題は無かったが、複数人が護衛につくこととなった。ステラはナターシャにバナーが助けを求めた時にこれをと、パンサーからもらった玉を渡した。
そしてステラがバナーを襲った相手の情報を調べていると、一枚のメールが届く。それはストーンヘンジと共に映り込んだシングラブの姿。手掛かりになるかもしれない物だった。
「許さない」
ステラの左目から、青い炎がちらついていた。