MCU『ブラック★ロックシューター』 作:おれちゃん
金属の木々や白い土煙を立て轟音を撒き散らしながらその二つは荒野を突き進んでいた。怒りに任せた乱打を叩き込み続けるハルクの一撃一撃を防ぎいなし受け流し初動を潰し的確に捌くアハズの表情に余裕はない。
的確に捌かなければ即座に流れを持っていかれる圧倒的なパワーがそこにはあった。しかし広く何もない平原の中央に来たところでアハズが反抗に転じる。
掴みかかるハルクの顎を打ち抜き、パンチに対してクロスカウンターを合わせ顔面を強打、脳を揺らす。振り抜いた腕を掴まれハルクが背負い投げのような形で投げ飛ばし、巨体が弾丸のように吹っ飛び地面に手足を刺して急制動、追撃してくるハルクの猛烈な振り下ろしを両腕で受けその場にクレーターが形成される。
ハルクが怒りに任せアーマメントを破壊しようとするがうまくいかない。アハズの操る四肢型のアーマメントは"リーダー版ハルクバスター"の趣きがある代物だが、トニー・スタークとバナーが共同制作した対ハルクシステム群ヴェロニカとはコンセプトが違う。
アハズアーマメントにあるのはひたすらの堅牢性と追従性。それでもシング・ラブが凝り性を発揮してヴィブラニウムを手に入れねばここまでの性能は無かっただろう。リーダーが唯一、代替金属で達成し得なかった性能を持ったアーマメントである。
そしてこの戦場を選んだのはアハズだ。
ハルクの強みを理解しレルムの中で最もハルクが戦いにくい場所での戦闘だ。何せここには
跳躍の足場にできる高層建築は無く、投げる車やつかむ街灯はない。ハルクが存分に暴れても問題ない場所はハルクにとって最も戦いの幅が狭くなる場所なのだ。
それでもハルクの全力は脅威だ。圧倒的パワーのゴリ押しほど恐ろしいものはない。アハズとて薄氷の上を歩いているに等しい。
現に最も不利な状況を作られているというのにハルクの勢いは衰えずアハズの額には緊張から汗が滴っている。だが怒りパワーが増すほどそれに合わせ攻撃は単調化していく。
暫くの間、平地で延々と拮抗した殴り合いが続く。
爆発のような派手な打撃音とくぐもった鈍い打撃音のデュエットが続いていき、ついにそれは起きた。
ハルクのアッパーがアハズのアーマメントの拳を弾きあげる。がら空きになった胴体の中心にはアハズ本人がいる。
「ハルクスマッシュ!」
ハルクが隙ありと全身全霊を掛けた一撃。ビル一つ容易く粉砕するその一撃を前にアハズは弾きあげられたフリをして待ち構えていたカウンターを打ち下ろした。
レルム全体が揺れるほどの轟音が響き渡る。
意識外からのハルク自身の破壊力を上乗せされた超威力のカウンターに徐々に体格を小さくしながらハルクがフラフラとたたらを踏む。
そのまま元の姿になって前のめりに倒れそうになるのをバナーが足を踏み出して堪えた。口と鼻からびちゃびちゃと血が滴り地面に染み込んでいく。
「ダメ、ダメだダメだ!」
バナーがふらつく頭を自分で殴り力む。
「起きろハルク!」
ここ数ヶ月以上変身していなかったバナーだが、心臓をつらぬかれ、瞬間的にとはいえ死んだ時にバナーとハルクの主導権が逆転したことを感じていた。ハルクになった際もわずかに意識が残り、今こうして変身が解けてもすぐさまバナー自身が意識を起こした事がその証左だった。
そこへゆっくりとアハズが近づく。
「諦めろ。お前に必要なのは穏やかな死だ」
「いや違うねそんなことはあり得ない。僕は死ぬために生まれたんじゃない。ハルクだってそうだ!」
無様に距離を取りながらもバナーは力を込め続ける。
「僕は世間では怪物扱いさ! 壊し屋破壊者暴れ馬化け物、僕を表す罵りなんて嫌というほど見たさ! でも僕には仲間がいる! 怪物なんて色眼鏡じゃなく僕たちに接してくれる仲間が! そんな仲間の為に戦えるのが怪物最後の矜恃じゃないのか!? だから起きろ! 起きて僕と一緒に戦うんだ! 起きろハルクうううううううぅぅぅ!!」
叫ぶバナーに止めと言わんばかりにアーマメントの豪腕が振り下ろされる。バナーなど紙のようにくしゃくしゃに潰れるはずが、その豪腕がピタリと止まる。
とっさに離れようとするアハズだが、動かない。
腕の影になっている部分からモリモリと緑色の筋肉が膨れ上がり、引こうとした腕ではなく、アーマメントの足が逆に滑る。
「ぅぅぅぅううううゔゔゔ……があああぁぁぁッ!!!」
再び変身したハルクが咆哮する。
アーマメントの腕を捕まえて振り回し、地面に叩きつけようとしたところで蹴りが入り、緩んですっぽ抜けた。吹っ飛びながらも体勢を立て直し、地面を破砕しながらブレーキをかけ着地し追撃を警戒したアハズの視界の先でハルクが両腕を限界まで広げ、全力ではたき合わせた。
ただのはたき合わせがあまりの衝撃で瞬間的に雲が発生しハルクの体で反射したものがアハズに降り注ぐ。一般人なら気圧差で鼓膜が破裂するような代物はアハズの周りが淡く発光し、アハズを保護するバリアの存在をあらわにした。
そのハルクの様子にアハズは違和感を覚える。怒りに満ち溢れた憤怒の形相、その中の二点、瞳だけが冷静で理知的な光を宿していた。
ハルクが間合いを詰め殴りかかってくる。派手な打撃音はしない。ただひたすらに重い一撃がアーマメントを揺らす。肘や手首などの関節を狙っている。
攻撃を受けて確信する。理性がある。アーマメントがヴィブラニウム製ということをバナーは知らないが、アハズの動きをトレースする人形の関係上関節構造の限界というものが当然存在する。それを的確に突いてくる。ただでさえパワーではハルクに分がある為それは明確な差として戦いに現れ出した。
パンチを頭を振って躱し、そのまま掴んで腕を折り曲げたのである。
そこにはステラによって半ばまで切られたという脆弱性が存在していたが、ハルクの戦い方では出来るものではない。アハズは確信した。
「そこに居るな、バナー博士」
ハルクは答えない。だがその内では必死でハルクの手綱を握るバナーがいた。バナーの持てる知識を総動員し、機械工学の観点からアハズのアーマメントの欠点を探ったのだ。下手に高度に考えず、人の動きをトレースする重機と考えれば自ずと弱点は分かり、それをハルクに伝えハルクがそれを実行する。ハルクの怒りは太陽のフレアの如く猛烈で、バナーの細い理性が焼き切れそうになるのをナターシャとステラを、アベンジャーズを思い堪える。
怒りと理性が手を取り合いただアハズを倒す為に動いていた。ハルクというメガトン級の大爆発にバナーが指向性を与えることで、全エネルギーが敵の撃破という一点に向けられた破壊力は計り知れない。形勢はすでにハルクのもので、覆す事は不可能だった。
地面を殴り地割れを起こし足場を不安定にさせ防戦すら間に合わない乱打を叩き込む。片腕になったアーマメントでは対処しきれずとうとう関節技を決められ、肘から逆向きにへし曲げられ両腕の機能が喪失した。
「「ハルクスマッシュ!」」
今度こそ放たれた一撃がバリアを突き破り中で磁界によって浮いていたアハズを捉え、殴り飛ばし操縦部から大地に吹っ飛び叩きつけられる。操縦者を失ったアーマメントが機能を停止し、大地に倒れ鈍い音を立てた。
それの前で咆哮をあげるハルクの内で、バナーの意識は気を失った。
アーマメントを暫く殴ったり踏みつけたりしまくって地面にめり込ませ埋めたハルクは、倒れたアハズには目もくれず随分と遠くに見える水晶の宮殿を見つめ、そちらに向け全力で走り出すのだった。