MCU『ブラック★ロックシューター』 作:おれちゃん
空間と力は互いを異物とは認識せず、反発する事なく調和し、一つに混ざり合う。ステラはその大きな奔流の荒波の中で木の葉のように振り回されていた。ステラは理解は出来ずともそれを徐々に認識し、掌握していく。嵐の如くであったそれは、いつの間にやら無風の湖面の如く。
ステラが指先で触れれば、その波紋が永遠に続く水平線の先へ姿を消し、それを巻き戻すように水面に青紫色の炎を溢れさせた。
気が付けば、目が開いて天井を見つめていた。見たことがある意匠の天井、完成前に何度か遊びにいったアベンジャーズ・コンパウンドの天井にそっくりだった。
かけられた布団を退かして左手を見る。すこし爪が伸びてしまっている手を眺め、一度、二度、握り込む。
体を起こして辺りを見渡せば、個室の病室だ。ベッドの端にAを使ったアベンジャーズのマークが入っている事からやはりアベンジャーズ・コンパウンドだとステラは確信した。
シング・ラブに勝利した後ここに担ぎ込まれたのだろう。病衣をめくれば腹に傷跡が残っている。傷痕がある事自体はステラにはどうでも良い事なのだが、ペッパーとナターシャに悲しまれそうでステラは溜息を吐いた。
起き上がるとすこしふらついたが、すぐにそれも治り、壁にかけてあったパーカーを手に取る。いつものパーカーのようだが、バックルが付いていたりと少し意匠が違う。トニーが用意してくれたものだろうかと思いながらそれを羽織ろうとして邪魔だった点滴を引っこ抜いた。引っこ抜いてから抜いてはダメでは? と思ったがもう遅い。怒られる事を覚悟しつつ置いていく。
病室の扉を開ければやはりそこはアベンジャーズ・コンパウンドだった。ステラは頭の中でコンパウンドの構造を思い出しつつ廊下を歩いていく。
皆に謝らないといけない。仲間を傷つけられた怒りに飲まれて仲間に知らせずにステラ一人で先走りシング・ラブと戦った事を。
お礼を言わないといけない。ナターシャやバナーが助けに来てくれたことを。
医療区画を抜けたステラは違和感を感じた。活気がない。人が居ない。ラウンジにステラは歩いていく。
「ヴィジョン、ローディ。おはよう」
「……! ステラ」
「おはようステラ」
ラウンジでチェスをしているヴィジョンとローディはステラを見て安堵と、それから苦しそうな表情を僅かににじませた。
「みんなは?」
「……ここにはいません」
「みんな何処かで戦ってるの? ローディも怪我してるし私も手伝わないと……トニーは居るの?」
アベンジャーズ・コンパウンドがここまで静かになる程の戦いが起きているならステラは加勢しないといけないと思った。ローディが足のギプスを見つめてから意を決したように口を開こうとしたのを、ヴィジョンが手を翳して阻む。
「いえ……戦いは終わりました。……ですが私の口からではなく、スターク氏から聞いた方がいいでしょう。彼は自分の仕事場に居るはずです」
「わかった、トニーに聞いてみるね」
ステラが立ち去った後ローディがヴィジョンを見ながらコマを進めた。
「アイツは間違えてないさ」
「ええ、間違えていません。ですが正しいかは、私達では決められない事です」
ステラがトニーの仕事場に向かっていると、書類を抱えた金髪の女性に遭遇した。それを見たステラは飛びつく。
「シズ!」
「わっステラ!? 良かった目が覚めたのね!」
飛びつかれたシズがそのままステラを抱えて廊下でくるくると回る。以前のシズでは無理だったが、今のシズなら余裕でできる腕力がある。
「あら、ステラ目の色が……、まあ私も髪の色明るくなったしそういう事もあるわね!」
ステラの頭にすりすりと頬擦りをしてステラを下ろすと携帯電話を取り出した。
「ロスコルの奴タイミングが悪いわね、いつもおなじ時間に見舞いに来るんだけどもう来た後なのよ」
「私、そんなに眠ってたの?」
「そうね、結構寝てたわよ。あ、ロスコル? ステラ起きたわよ? ちょっと大丈夫事故起こさないでよ?」
電話越しに急ブレーキの音が聞こえたのでシズが顔を顰めてステラに電話を差し出す。
「ロスコル、おはよう」
『ステラ、本当に良かった! 急いで行くからな何を食べたい? ハンバーガーか!?』
「うん、ハンバーガーが食べたい」
『わかったいっぱい買っていくぞ! 待っててな!』
電話越しにドリフトしてるみたいな音がしていたがステラは気にせず通話の切れた電話機をシズに返した。
ステラがロスコルが来る前にトニーに会いにいくと言うとこれまた微妙な顔をしたが、頷いて見送ってくれた。
みんなの様子がおかしいことがわかっているのだが何があったのかの情報が全くない。ヴィジョンが"戦いは終わった"と言っていた。まさかと最悪の想像がよぎるが頭を振った。
ステラがトニーの仕事場に入っていくとトニーは手紙を集中して読んでいる所だった。ステラは黙ってトニーが読み終わるのを待った。手紙を置いたトニーが箱の中から取り出した携帯電話を見つめている。
「…………」
『ボス、眠り姫が後ろでお目覚めです
びくりとしたトニーがステラの方を見て、電話に一瞬出て即切りした。
「やあステラおはよう」
「おはようトニー、みんないないけれど何かあったの?」
「ああ……それなら、まず協定の事から……全部話さないといけないな」
トニーは協定に至るまでの経緯を、協定に至ってからの顛末を、ステラを勝手に協定に登録した事を、私怨に走った事を、スティーブとの別離を、手紙の事を全てを話した。
ステラはそれを黙って聞いていた。トニーが全てを話し終え、暗澹とした気持ちを隠すように肩を竦め、無理やり口角を上げて笑みのようなものを作ってみたがうまくいかず、顔を伏せてしまう。
「大丈夫だよ。ありがとうトニー、守ってくれて」
トニーがその言葉に顔を上げ、ステラの顔を見て努めて平静を装って能面のような表情になった。
ステラは表情が乏しいが、素直に顔に出る。そのステラが酷く悲しそうに、トニーと同じくそれを誤魔化すように口角だけ上げようとしていた。トニーは自分の頭をかち割ってやりたい衝動に駆られた。
「トニーは、間違ってないよ」
こんな表情をさせたくないからソコヴィア協定に賛成した。世間から、悪意からアベンジャーズのみんなを守りたかったのだ。それが、こうなった。絶対にありえないとはわかっているが、いっそステラがトニー自身を罵ってくれた方がよほど気が楽だったかもしれないと思ってしまい余計に自己を嫌悪した。
「大丈夫、わたし達がここを守ろう? またみんな……スティーブにバナーにナターシャにバートンにソーだって、仲間なんだからみんな生きていれば、また集まれる。ほらトニー昔にも言ったみたいに……わたしは信じてるから……トニーも……信じて?」
泣きそうな顔をしているステラに、トニーは悟った。ステラはひとつ知らないことがある。でも告げねばならない、当事者のナターシャが不在の今それが自分の役目であると。
「ステラ……話さないといけないことがある」
「何? 大丈夫! 協定ならしっかり守るよ! 内容もちゃんと覚えて守るから」
「バナーは……死んだ」
「……………え?」
ステラが言葉を認識できずに首を傾げた。そうして少し固まってから、その言葉を理解した。協定の話にバナーは一切出てこなかった。つまり死んだのはそれより前ステラを助けた時だと。
「わた……わたしのせ」
「違う! 君じゃない悪いのは敵だ!」
「でも、わ……わたしが勝手をしなければ」
「いいや、あの時は僕たちも襲われていた、遅かれ早かれステラはおなじ目にあった。ならバナーは絶対に助けた、だからステラのせいじゃない」
ボロボロと大粒の涙を流し崩れ落ちるステラをトニーが咄嗟に支え、ステラがトニーの胸の中で泣いた。強い力で掴まれてもトニーは痛くなかった。それよりも心が痛かった。
ステラの泣き声が静まり返ったコンパウンドに響いていた。
ロス長官の危険度認定ベストスリー
一位ソー「所在のわからない核弾頭。どうにかしろ」
二位ステラ「独断で動いて世界遺産傷つけたり、特にソーと並んでアベンジャーズでも随一の大火力を保有しているのでやばい、意識不明? 知らんがな先手必勝で拘束しておきたい」
三位ハルク「経歴に傷つけた暴走野郎正直死んでせいせいしてるが死んでるとも思えない」
ステラの目覚めるタイミングは
シビルウォー後
インフィニティウォー中
エンドゲーム冒頭
のどれかでずっと悩んでいましたがトニーのメンタルに一番ダメージが入る代わりにステラが持ち直せるまでの時間があると思いシビルウォー後にしました。