MCU『ブラック★ロックシューター』 作:おれちゃん
ステラはブラックトライクをロスコルの待っているであろう自宅へ向けて走っていた。
ここにまでに多くの混乱が起きた。あらゆる地域の身分、所得、人種、性別あらゆる一切を無視して半分の人間が消えたのだ。それによって生じた多くの人々の苦難を助け、手伝った。だがステラの本音は少しでも家に帰るのを遅らせる為に、物事を確定させたくはないが為に。
電話にロスコルが出ないのはきっと通信基地局がパニックになっているせいだ。スタークインダストリーもきっと大忙しでステラの電話に出るどころでは無いのだろう。きっとそうである。アベンジャーズ・コンパウンドに押し寄せた難民のような状態の人々を皆で守り、国家権力が崩壊した事で現れたアウトロー達を
シズが無事生きていて、スティーブのカリスマと共にヒーローとして指揮を取ってくれたことも大きな要因だった。
そうして激動の数日を終えたステラが、相変わらず家に帰ることなくコンパウンドにのソファーに座っているとスティーブがやってきたのだ。
「ステラ、ここはもういい、一旦家に帰って……家族の安否を確認してやってくれ」
辛くとも、見なければいけない。暗にスティーブはそう言っていることはわかるが、どうしても不安で逃げたくなってしまう。ピエトロもワンダもヴィジョンも消えた。トニーだっていない。
「……だ、大丈夫。私まだ頑張れるよ。今は人が必要な時だからだから」
「ステラ」
スティーブがステラの肩を掴んで見つめた。ステラの顔に疲労が浮かんでいる。ここ数日まともに寝られていなかったのだ。
「せめて休んでくれ、君だって疲れてる」
「……わかった」
ステラは目を伏せてコンパウンドから出ていった。道中は事故を起こした車は今だに放置されているが、どうにか脇に避けて道は確保された状態になっているところをブラックトライクでかけていく。市内を抜けロングアイランド島に辿り着けばこの付近は比較的混乱がなかったようで、それでも至るところに探し人の張り紙がはりつけられている。
車庫を開けてブラックトライクをしまおうと思えば、家の電気がついている。中からテレビの音もする。ステラが目を見開いて玄関を開ける。
「ただいま!」
返事はない。
「……ただいま! ……ただいま!! ……ただいま!!!」
玄関から喉が切れそうなほどの大声を出しても、帰ってくるのはテレビの緊急番組の音だけだ。わかっていても認めたくはない。ロスコルがいるならばブラックトライクの音が聞こえてきただけで家から飛び出してきていたはずだと言うことを。
「お父さん! ただいまお父さん! どこにいるの? 仕事に行ってるの?」
リビングにやってくると、そこに先ほどまで誰かが座っていたかのように、冷めてカビの生えたコーヒーカップが置いてある。
「……お父さん?」
コツン、と足先に当たったものを見る。ロスコルの携帯電話だ。先月新モデルが出たとか言って買ってきたのがステラが広報をやらされている時にコラボさせられたブラック★ロックシューターカラーなる代物で、黒地に白い星の意匠が添えられたものだ。傷一つなかったそれが画面がひび割れてしまっている。
画面をつければ暗証番号を要求されるが、ステラは教えられていたので問題なく開く。録音の画面がついていて、数日前に上限の三時間の録音がされたものがあった。
再生ボタンを押す。
『ステラ、俺はいつだってそばにいるか……』
ロスコルの声が途切れ、ガタンと床に落ちる音がした後は延々とテレビや外の喧騒の音が続いていた。
「う……うう……ぁ……お父さん……! お父さん……ぅぁ……ロスコル……!」
ステラは携帯電話を胸に抱いて泣いた。お別れすら言えていない。ただ突如理不尽な力で消えてしまったのだ。ステラは自身の無力を呪った。自分が許せなかった。トニーに信じてと言った自分はこんなにも弱かったのだと。
しばらく泣き続けた後ステラはもう一度録音を再生した。
『ステラ、俺はいつだってそばにいるか……』
いつだってそばにいてくれる。とロスコルは言った。だからステラは立ち上がった。涙はまだ止まらない、それでも立ち止まるわけにはいかないのだ。そばで見ていてくれるロスコルを心配させてしまうのだから。コーヒーカップを片付け、ロスコルの携帯電話をテーブルの上に置いてステラはシャワーを浴びた。少しケアを怠っていただけで跳ね回る髪の毛に苦笑しながらペッパーに教えられてからずっと変わらず続けているケアをしっかり行って髪を整えると自室のベッドに入り、ロスコルの写真におやすみなさいと呟いてから眠りについた。
翌日コンパウンドに戻ってきたステラを皆が心配そうに見ている。ステラは儚げながらも笑顔を浮かべた。
「わたしは、自分が許せない、サノスに勝てなかった自分が」
「誰だってそうだ」
「ああそうさ僕だって、ハルクだって、みんなそうさ」
「でもだから……下を向いて止まるわけにはいかない。お父さんが側で見ていてくれる。一人じゃないから私達は困難に立ち向かっていけるって……だからまだ終わりじゃない」
「ああそうだとも、サノスは必ず倒す」
皆が皆誰かの喪失を抱えながらも前に進むしかないことをわかっていた。皆が意気込む中、ソーは目を伏せたまま心ここにあらずという様子だった。
意気込んだバナーとロケットが必死でサノスの位置を特定しようと試みているが、うまくいっていない。衛星、宇宙観測機、あらゆるものを使ってもだ。サノスの痕跡は観測可能な領域に一切存在しなかった。
数日がたったある日ニック・フューリーの落とし物が発見された。一見ヘンテコな古臭いポケベルだ。しかし高度な技術が使われているらしくバナーが研究室に安置していた。集合しバナーからの説明を受けた面々が難しい顔をする。
「……これをどうしろと?」
「フューリーの持ち物だ。何かしらの鍵を握ってるかもしれない」
「そうは言われても……」
「フューリーはどこ?」
突然後ろからかけられた声に皆が驚き振り返る。ステラとローディは武装をそちらに向けた。そこにいたのはヒーロースーツといった風情のものに身を包んだ美女だった。
「あなただれ?」
「私のことはどうでもいい、もう一度聞くけど、フューリーはどこ?」
不遜な態度を崩さない美女に、一同は顔を見合わせるのだった。