MCU『ブラック★ロックシューター』 作:おれちゃん
サノスのデシメーション、又は指パッチンから一年が経った。ナターシャの尽力により宇宙規模でのヒーロー達の通信手段が確立され、キャロル、ロケット、ネビュラ、ステラ、ローディ、そしてそれらを支援するワカンダを代表してオコエがこれに参加している。
そんなある日、アベンジャーズ・コンパウンドの庭でキャロルとステラが並んで何かをやっていた。キャロルが見守る中ステラがなんだか踏ん張っているのだ。
「ほら、体の内側にある力を解放するような感じで」
キャロルが手本のように体から輝きを放ち、空に浮き上がる。
そう言われて一旦力みをやめ深呼吸をしてから力を込めるが、左目からは轟々と青紫の炎が出るのみで何も起こらない。キャロルの提案でステラの訓練を行なっているのだ。内容はズバリ外部機器に頼らないでパワーを解放する事。
ステラの膨大なエネルギーをそのまま吐き出す事ができれば大きな力になるという予想から、あと急にそれが解放されれば危険が伴うと考えられたのでキャロルがマンツーマンで見てくれているものの、成果はゼロ。せめて素手でフォトンブラストのような事が出来ればだいぶ違うのだがステラは出来ずちょっと悲しそうである。
カノンランスにエネルギーを送ったり刀にエネルギーを纏わせる要領を自分の体で試してみたりしたがなんにも出ない。唯一グリーブにエネルギーを纏わせられたが、これはブラックブレードに行ったものと同じで結局は外部ツールである。
ステラがスーパーパワーを行使するのに外部ツールが基本必要なのは結構困った問題だ。とにかく場所を取る。先日のサノス討伐の際も腰の翼の都合でステラは立席をわざわざ用意する必要があった。重量で言えば最も重いのはウォーマシンだが一番場所を取るのはステラである。
トニーがブラックトライクに積む際にマーク43の機能を追加して遠隔から装着できるようにしたのは一つの最適解ではあった。が、キャロルのように宇宙を股にかけようとすると緊急時に対応できない事態が発生し得る。
キャロルとしては同じく宇宙を股にかける同士になってもらいたかったが、こうあっては仕方ない。
「だめそうね」
「ごめんなさい」
「謝る事じゃない、誰にでも得て不得手はあるものよ。それでもサノスに放った一撃を見ると少しもったいない気がしてしまっただけ」
サノス襲撃の際にステラが放った極大ビームを思い出す。キャロルが知る限り、宇宙最強クラスのエネルギー攻撃だろう。サノスだからこそあの程度で済んだが並の敵ではそのまま蒸発して跡形もなかったに違いない。見てはいたがキャロルも訓練前の組手でフルパワー真っ向勝負でフォトンブラストを押し返されるとは思いもしなかった。
伝聞で直接見てはいないがデシメーション阻止の戦いでは即座に昏倒させられてしまったのがキャロルは残念でならなかった。
「さて、訓練はおしまい。いくわよステラ」
「どこに?」
オーラを消して颯爽と歩き出すキャロルにステラが首を傾げながついていく。
「エステよ」
振り返ったキャロルが真剣な表情でそう告げた。ステラもそれを見て真剣な顔をしてうなづく。
「わかった。待ってて、準備してくる」
「ローディが送ってくれるからなるべく早くね」
キャロルが小綺麗な格好に着替えて待っていると、ステラがブラックブレードからカノンランス、ハンドガンにブースターウィングまでフル装備で現れた。
「お待たせ」
「なんで? 聞いてなかったの? エステに行くのよ?」
「えっ……ただのエステ?」
「そうよ?」
キャロルが困惑しているとクインジェットが飛来し、ハッチが開く。中からフル装備のウォーマシン、ローディが現れた。パカリと顔のところが開きローディが戦意に満ちた凛々しい顔を見せる。
「待たせたな。ステラとあんた二人で対処するような敵だ。俺も援護できるように最大火力の装備にしてきた」
「いや違うんだけれど」
「なに? エステに行く(隠語)じゃ無いのか?」
フル装備のステラが頷いた。ステラもそう思ったのである。
「違うわよ。エステに行く(隠語)じゃなくてエステに行く(直球)よ。活動範囲の都合で地球なんて滅多に来れないからせっかくだしエステに繰り出そうと思っただけ。あなた達私をなんだと思ってるの?」
ローディとステラが顔を見合わせる。初手サノスをぶっ殺しに行くという単独行動宣言からの私がいればサノスに勝ってた発言にソーのストームブレイカーにビビらない胆力そしてこの一年で見たその発言をするに足る実力。
「…………」
「…………」
それが真剣な顔でエステに行くと言い出せばなんか宇宙の平和を乱すエステティックフォースみたいなのが居て戦いに行くか、もしくはエステに行くくらいの軽いノリで戦いにいきましょうみたいなジョークかと二人が思うのも無理はなかった。
「あの、ごめんなさい」
「すまなかった」
「いいから着替えてきて?」
「「はい」」
謝られて逆に何とも言えない顔になるキャロル。
オコエやペッパーがエステに行こうと言ったらおそらく二人はそのまま受け取っていた。ナターシャに関しては怪しい。エステ(偵察)エステ(変装)の可能性が結構ある。ちなみにキャロルに店を紹介したのはナターシャである。
私服に着替えたあとニューヨークのエステで髪を整えてもらったりマッサージをされたりしながらステラは外の景色を眺める。どうにか復興せねばとがむしゃらに皆が動いていた頃に比べ活気は消えてしまった。消えてしまった人たちの慰霊碑もそろそろ完成すると聞いている。
ステラは髪を縛る前提で髪を切ってもらっている為下ろすと少し変になる。髪紐は変わらずロスコルに買ってもらったものだが、もう随分とボロボロになった。それでもまだ使えるのは良い物を買ってもらえた証拠でもある。髪を下ろして置かれた髪留めを見ながら少し潤んだ瞳をするステラに、エステティシャンもキャロルも何も言わず優しげに様子を見ていてくれた。
「今日はありがとうステラ、良い気晴らしにもなったわ」
エステを終えてコンパウンドに戻ってくると、キャロルはいつもの服を着ると艶々した顔で微笑んだ。
「ではまたいつか会いましょう。ステラ、ローディ、地球は任せたわよ。ナターシャにもよろしくね」
「うん任せて」
「ああ、しっかり伝えておくよ」
光を放つと空にふわりとキャロルが浮き上がり、ぐんぐんと速度を上げ見えなくなった。ローディとステラは見えなくなってもしばらく手を振って、コンパウンドを後にした。
「ただいま」
ロングアイランドの自宅に帰り家に入れば、誰もいなくても帰った挨拶をしてしまう。ロスコルのスマートフォンは充電器に置かれ、その脇に新たにWi-Fiとアベンジャーズ・コンパウンドに繋がるホログラフィックの通信装置が鎮座していた。この家の変化はそこぐらいだろう。
ロスコルが座っていたであろう椅子はずっと動かさずその場にある。日用品もロスコルの分まで買ってしまって余らせてしまう事が多い。変わったことといえばあまりハンバーガーを食べなくなったことだろうか、食べると思い出してしまって辛いのだ。
心が立ち上がって歩けるようになっても辛いものは辛い。消えてしまった人々と過ごした昔の生活形態や家を維持するのいうのは、この一年で家族や恋人を失った人々の多くに見られる事であり、ステラもまたその一人だった。
ロスコルの写真に、今日起きた出来事を報告してステラはその日はゆっくりと眠る。キャロルや他のみんなと同じく、明日からはまたヒーローとして活動する多忙な日々が待っているのだから。